◆Space.38「おっタマげ!危機9連発!」◆ (監督:加藤弘之 脚本:毛利亘宏)
ええ?! ラッキー、白ジャケット継続なの?!
……あ、元に戻った。
王としては白ジャケット、キュウレンジャーとしてはいつものジャケット、と衣装をラッキーが役割を使い分ける象徴――出自の判明による新たな「自己認識」の構築――として紐付けしたのは良かったのですが、白ジャケットにそこまでのドラマが乗っていないのが勿体なかったところ。
多少強引になっても、王家伝来の獅子のジャケット(を爺がこの日の為に大事に保管していたと引っ張り出す)とかでも良かったような。
というかそうしないと、王の象徴がツルギ発案スティンガーハンドメイドという、お仕着せの傀儡政権の象徴みたいになってしまうわけですが、政治の世界には、真っ暗で底の見えない川が流れています。
惑星サザンクロスの結界を破る為、3つのキュータマを求めるキュウレンジャーはパーティを二分割。ケフェウス座系に向かった龍・鳳・桃・緑・青・銀は九林寺九房に挑もうとするが、そこで待ち受けていた金太郎家老により、宇宙幕府9つの試練に挑戦する事に……。
100人組み手・腹筋・料理・だるまさんが転んだ・ダンス・風呂・にらめっこ・クレー射撃、と半分以上がギャグに寄った、バラエティ対決をコスプレを交えて展開し、ツルギは2回脱ぎました。上半身裸に赤と黒のモールを首から巻いて踊るのは恐らく元大統領の忘年会での持ち芸だったと思われますが、父さん母さん、政治の世界には、真っ暗で底の見えない川が流れています。
こういったバラエティ回は、ある種戦隊のお約束とはいえますが、怪人の特殊能力などで半強制的にギャグに引きずり込むなどのクッションを置かず、コンセプトであるハードな世界観を気にしない形でそのまま緩い対決を持ち込んでしまう、というのが今作のどうもノリにくいところ。これはこれで有りとしても、そこへ持ち込む流れにもう一工夫は欲しかったです。
ショウ司令は度重なる腰痛により雑魚戦でもダンスでもほとんど役に立たず……実際のところ、バトルオリオン登場後、ろくに変身して戦った記憶が無いのですが、やはり、約300年の冷凍睡眠は、覿面に腰に悪かったのか。
加えて老眼も来ているのか、得意の筈の射撃ですらかすりもせず、お荷物扱いのショウ司令は意気消沈。
「みんなも今や、立派な救世主になったよね。ラッキーに至っては、堂々たる王様だ。ツルギくんは大統領クラスのリーダーシップで、みんなを引っ張っていく」
「なんたって俺様は、伝説の男だからな」
「……自称救世主の引退の時は、近いかもしれないねぇ」
「あんたを見てるとクエルボを思い出す」
たとえ戦闘力に劣っても優れた頭脳で数々の危機を救ってくれた亡き戦友を引き合いに出し、盟友への想いを考えるとツルギとしては悪意は全くないのでしょうが、ツルギ視点だと司令は、割とデキない子扱いだった、というのはけっこう衝撃(笑)
「司令だって捨てたもんじゃない。宇宙に輝く強烈な星たちを、一つに繋ぎ合わせてるんだから」
ツルギの性格がまた微妙に変わっている気もしますが、おじさん同士が二人きりだから出来る男と男の本音の会話、だと思えばまあ許容範囲か。真っ暗で底の見えない川が流れる政界で培った寝業の香りもそこはかとなく漂いつつ、ツルギがツルギなりに司令の存在を評価しているというのは良かったのですが、前回に続いてここに来て、毛利さんの中の“理想のキュウレンジャー”が突然ワープして差し込まれる感じなのが、引っかかる所(^^;
一見軽薄で素っ頓狂なようでいて、実は司令こそが救世主達を繋ぎ合わせてキュウレンジャーという一つの星座にする潤滑油なのだというのは、キュウレンジャーを原色の個性派集団として捉えた時に納得できる位置づけですし、これまでの積み重ねもあるのですが、一方で「宇宙に輝く強烈な星たち」を納得いくレベルで描けているかというとそうは思えないので、途中の計算式がすっ飛んで解答だけ書かれているような形に。
頭数が多いからこそまとめ役としての司令の存在に重みが出ると描きながら、頭数が多いがゆえに個々の掘り下げが甘いため、強烈な筈の星の輝きが弱いのでそれを繋ぎ合わせる線の意味も軽い、となってしまう今作の構造的問題が例の如く岩礁となり、やりたい事とやれている事の間に横たわる、埋まらぬギャップを感じてしまいます。
最後の試練に辿り着いたツルギと司令の前に現れた金太郎家老が手にした円盤を投げると、そこから別行動だった青桃緑銀が出現。4人を操り人形に……というのは嘘で足軽兵の変装だったが、仲間を攻撃できずにツルギと司令は一方的な攻撃を受けてしまう。
「待ってくれ! この通りだ! ツルギくんはどうなってもいいから、僕ちんの命だけは助けてくれ〜」
「おーーーい!! しれーーーい?!」
割と素で叫ぶツルギは面白かったです(笑)
男同士の腹を割った話し合いと相互理解が一瞬で台無しになりそうになるが、それは戦闘中に気付いた違和感を確認する為の司令の策であり、偽キュウレンジャーを撃破した司令は、円盤の中に閉じ込められていた本物の4人を救出。
昔の偉い人は言いました。
「敵を欺くにはまず味方から」
「にゃははー。罠を破ったからといって、いい気になるんじゃないアル」
「いい気になって何が悪い。龍の道に生き、龍の道を行く。私がやらねば誰がやる。私は究極の救世主の司令官、ショウ・ロンポー。行くぞみんな!」
腰痛と老眼を乗り越え、司令官としていつもの調子を取り戻したショウの号令で変身から揃い踏みし、「いい気になって何が悪い」は司令らしくて、好きな台詞。
形意拳での戦闘を挟み、司令に拳法勝負で敗北した金太郎は巨大化。今回の家老はデザイン的には割とまとまっていて面白いけれど拳法対決するのなっらもっと動きやすそうな造りで良かったのでは……と思っていたら、ロボット戦になってから側転と後ろ回し蹴りを決めてきてビックリ(笑)
軽快な動きを見せる金太郎家老に対し、次々と両腕を交換した龍帝王は最後はギガント鳳凰のブースターを装備したブースト龍帝王となり、クリスマス商戦に向けてブーストドラゴンキックでフィニッシュ。金太郎によって円盤に封印されていた大僧正を解放した事により、ケフェウスキュータマを入手するのであった!
一方その頃、ペルセウス座系に辿り着いた赤・黒・黄・橙・空の前には、マシンパーツで継ぎ接ぎされ、左腕にはガトリングガンを装備したメタルタコが出現していた。コラボ時空に置き去りにされたと思ったら、その後時計の星では副将軍の投げたタコ足から復活したりで、もはや超生命体すぎていつ死んだのか同じ個体といっていいのか死とはいったいなんなのか、という領域に到達していますが、再生する度に人格がチェンジするのは、“そうでなくては正気を保てない生命形態”なのだろうなぁと思うと、一抹の悲しさも漂います。
タコが“博士”から預かった謎のスイッチを押すとチャンプが突如暴走し、「相棒ーーーーー!!」で、つづく。
夏の総集編以来となる、パーティー分割+ラッキー実質不在のエピソード。過去と現在ほどの断絶と必然性が無い事を考えるとかなり思い切った構成で、ツルギと司令の立ち位置を示す話としてはスッキリした造りになっており、これは毛利さんが是が非でも書きたい要素だったのかな、と。
ハードな世界観と相性の悪い対決内容に関しては、その味付けを調整する為の調味料が用いられずに生のまま出されてしまった感じがありますが、次回更なるコスプレ回という事は、放映時期的には今年のハロウィンネタという要因もあったのでしょうか。