◆修行その8「コトコト……ひたすらコトコト」◆ (監督:中澤祥次郎 脚本:荒川稔久)
「良かったじゃない、マガ。さあ、理央様のために、トドメ刺しちゃいなさい」
「いや、俺の全てはソリサの為にあるからなぁ」
メレ様、特大の愛のブーメランが脳天に直撃。
男の強さを見せてサソリの心を射止めたカエルは、二人の愛の祝杯を優先して臨獣殿に帰ってしまい、絶体絶命の危機を脱するゲキレンジャー。
格上の相手と戦う過程で課題を乗り越える、というのが今作ここまでの基本的構造の為、どうしても追い詰められて辛うじて生き延びる展開が続く、という問題があるのですが、蠍×蛙カップルをメレ様と繋げる事で、臨獣獣の体現する「邪悪」とは「利己的な我欲」である(それ故にいずれ悪は足を取られる)という形で理由付け。
「マガの奴……自身持つといきなり調子に乗るタイプ? 男としちゃ、一番嫌な奴の部類よね」
怒り心頭で毒づくメレ様だが、瞑想中の理央様に気付くと抜き足差し足忍び足。
「あ! 隙あり♪ 理央様の渇きを癒やしてさしあげなきゃ」
背後からグサッと刺そうとするという難しい愛を表現しようとするメレだったが、理央がよく寝ているのに気付くと投げキッスだけ飛ばして退場し……その一連のやり取りを、扉の隙間から見つめるコブラは勿論嫉妬の炎を燃やしていた。
(理央様の愛の為に生き、理央様の愛の為に戦うのは貴様一人ではないのだ、メレよ……!)
……あれ? 違う?
一方スクラッチでは、ジャンの事が気に入ったらしいなつめが豚の角煮で餌付けしており、小学生?で得意料理が豚の角煮って渋い。
そこへ美希が、ガマの防御を破る為の装備として、3人の激気を重ね合わせて強化放出する為の武装、ゲキバズーカを持ってやってくる。
「儂等が、若い頃は、竹筒で、やったもんじゃがのぅ」
というマスターの台詞が過去と現在の連綿たる繋がりを見せて師弟ものとして妙に好きなのですが、第8話にして登場する合体武器の理屈は、水鉄砲と同じ。
「でも……一つだけ問題があるの」
現在のトライアングルの実力では、バズーカ発射に必要な激気のチャージにかかる時間はなんと2分。その間、3人の内の1人が時間を稼ぐ為の盾にならざるを得ず、美希は一番頑丈なジャンをサンドバッグ役に指名。だがバズーカも撃ってみたいし要するに黙って2分間殴られているとか絶対嫌だ、と基本的人権の主張を覚えたジャンは駄々をこね、しかし美希はマスタースキル《特殊な説得法》を使用した!
「アンブレイカブル・ボディ、一番打たれ強いあなたしかいないからよ」
「そっか! 俺やる!」
…………強敵を打ち破る為の新兵器 → しかし現在の3人では実力不足 → それを埋める為の鍵はジャン、と力と技のバランスを取ってパワープレイになる事を慎重に避けつつ、今作らしく課題の克服に繋げていく流れはスムーズなのですが、さすがに、この転がされ方は気の毒(笑)
基本、褒めて伸ばして長所で壁を乗り越える、のが今作のテーゼにしても、頑丈だから2分間殴られてろ! は酷すぎると思います美希さん!!
……美希さん若い頃、「あなたなら出来てよ」とか言いながら周囲の男どもを次々と死線に叩き込んでいたのでは疑惑が急浮上する中、ジャンのゾワゾワセンサーが反応し、出撃するゲキレンジャー。
だが出たとこまかせの一発本番では何もかも上手く行かず、サンドバッグ役にストレスの溜まった赤はカエルに突撃して返り討ち、青と黄もうまくバズーカにエネルギーを込める事ができず、3人はまたも完敗。今度こそ全滅かと思われるが……なんだか日曜朝にはふさわしくない雰囲気に盛り上がりだしたカエルとサソリ、飛びつきからのお姫様だっこ更に回転というコンボを決め、マスター介入を禁じ手として一時退場の理由付けに苦労する中、スーツアクターの身体能力で強行突破するという力技は正直面白かったです(笑)
勝ちたいが我慢してサンドバッグは御免被る、と苦悩するジャンはなつめから角煮の調理風景を見せられ、美味しい料理(勝利)を得る為には時に仲間を信じて待つ事も大切であると学習、そしてランとレツもピアノ特訓を通して繊細な激気のコントロール法を身につけていく。
猫を苦しめる音階を、猫が安らげるレベルで繊細に弾きこなす、という特訓でマスターさえ実験台にするビーストアーツの暗黒面が垣間見えますが、マスターの苦しみ方が少々わざとらしすぎて、何もかも茶番劇に見えなくもありません。
ジャンの短所を短所と指摘した上で克服を目指し、その間にジャンのみならずランとレツの成長の機会も描く、という展開そのものは良いのですが、2ヶ月経過でハッキリと見えてきた今作の問題点は、
クンフーバトルの工夫は面白い一方で、修行シーンは特に面白くない事。
尺の都合もあってどうしても促成栽培になってしまう為、いくら修行を描いても修行による成長の説得力が弱い事。
そしてこの両者が重なる事で、課題の克服が映像よりも理屈優先になってしまい、“物語”というより“参考書”のようになってしまっている事。
ジョーカーの扱い、パワープレイの回避、長所と短所の釣り合いを取った描写、などなど……過去作の失敗を踏まえて練られたと思われる基本設計は嫌いではないですし、主人公の描き方、作品として明確なロジックなどは好印象なのですが、どうも見ていてふっと集中が途切れてしまう事があるのは、参考書の解説部分を劇的なダイナミズムに置き換えられていない為に、物語の没入感を削いでしまっているからという気がします(第1話は、これが出来ていたのですが)。
メレ様はすっかり酒に溺れるバカップル脅して出撃させ、それぞれ学び成長したゲキレンジャーはゲキバズーカの発射に成功、オイルバリアーを破られたカエルは、豚の角煮砲の直撃で即死。巨大化したサソリは無数の小型サソリを飛ばす秘拳を用い、前回−今回と忘れられていた毒要素が最後に拾われたのは良かったです。ゲキトージャは群がるサソリをスピンで吹き飛ばすと、カウンターの連続回転キックで勝利を収め、ここに五毒拳は残すところあと一人になるのであった!
「見つけた……理央の弱点」
そして最後の一人となったコブラは理央様観察日記を完成させて密やかに嗤い、次回――本当のラブ・ウォリアーにふさわしいのはどちらだ?!