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『仮面ライダービルド』感想・第27話

◆第27話「逆襲のヒーロー」◆ (監督:田崎竜太 脚本:武藤将吾
歯車弟を倒したグリスに続き、二連勝で代表戦に決着を付けようと拳を固める万丈の前に姿を見せたのは難波重工の秘密兵器、カイザーシステムの最終形態・パーフェクト歯車ことヘルブロス。劇場版との絡みのようですが、白と黒の大槻ケンジが合体するという、絵が面白すぎて困ります。
「ヘルブロス、参上」
「今の俺は、負ける気がしねぇ!!」
これでOP明けにいきなり負けてたら面白いな……と思ったのですが、さすがにそんな事はなかった。
劇場版の前提が無いと、そもそもぽっと出の歯車兄弟の強さにも首をひねっていた所に、よくわからないけど合体(といっても変身は1人でするのでますます首をひねるのですが……)したらもっと強くなりました、と出てきたヘルブロスにクローズ銀が一方的にやられる展開に目が点になるのですが、苦戦するクローズ銀はニンジンを生でかじる猿渡とのやり取りを思い出す。
「おまえもアイツと一緒か。自分以外の誰かの為に戦ってる」
「……おまえは違うのか」
「俺は……自分が信じた奴だったり、俺を信じてくれた奴の為にしか戦えない」
2人を絡めてそれぞれの“戦う理由”を炙り出した所から戦兎への想いに繋げたのは良かったのですが、
「いつかパンクしちまうんじゃねぇか」
「そうなる前に俺が戦争を終わらせる。あいつが今の俺を作ってくれたからな」
というのが、マスター−戦兎と全く同じ関係性になっていて、ちょっと怖いぞ万丈。
自分の戦う理由を掴み、強敵ヘルブロス相手に奮戦する万丈だっが、「負けると弟が殺される」という囁き戦術に動揺し敗北、というのは負けがわかった試合で万丈の性格の良い面を描いて、悪くないやり方でした。かくして代表戦は1勝1敗で第3戦を迎え、激突するビルドとローグ。
「兵器と兵器がぶつかりあい、互いの能力を競い合う。おまえが望んでいた事だな、葛城」
愛が重い。
「ライダーシステムは兵器じゃない。――変身」
初手からスプラッシュのビルドはドリル&コミックの二刀流でローグと接近戦。
「本当に兵器じゃないと言い切れるのか」
「?!」
「葛城は、そう思ってなかったぞ」
愛が重い。
「氷室さん。科学の発展によって人類は絶えず進化してきました。たとえ、ぼくらの歩みが戦いの歴史であったとしても、それが、未来の礎になるなら、僕は、悪魔に魂を売ってでも科学に全身全霊をささげます」
回想シーンの葛城は子供のような笑みを浮かべ……愛が重い。
「戦争に荷担したい科学者なんて、一人もいない! 人々の幸せを願って、平和利用の為に力を尽くしてるんだ!」
フィクションの主人公として、人が好いのも理想主義なのも良いのですが、戦兎の希望的観測は、葛城が実際にした事も、現在進行形で戦争に荷担している知り合いである内海の事も、無視して語るのが非常に困った所。また前半からずっと、どんな危ないものを作っても「平和利用」と唱えていればOKというスタンスが一緒で、戦争に触れた経験が戦兎の中で糧になっているように見えず、なんの為のここ数ヶ月だったのか疑問を覚えます。
ままならない現実を乗り越えて理想を目指してこそのヒーローですが、戦兎の場合、ままならない現実など存在していない事にして理想論を語り続けるというのが、個人的に凄くボタンの掛け違いとなって、2クール目入ってからの戦兎の言葉が響いてこない要因が集約された感。
「じゃあ、ハザードトリガーはどう説明する」
前半のバトルから、スポットライトを効果的に使ってキャラクターを明暗の中で描いていたのですが、ここで、照明の落ちた舞台でローグが幻徳の姿(イメージ)となって痛烈な問いを突きつける、というのは格好良かったです。
「自我を失い、破壊兵器と化すあんなものを、どう平和利用しようっていうんだ」
「あれは禁断のアイテムだ」
えーーー(笑)
理想論にこだわるならこだわり抜けばまだ芯になるのですが、痛いところを突かれると、い、いや、あれは特例だからさ……と逃げを打ってしまうのも大変困った部分。「人々の幸せを願って、平和利用の為に力を尽くしてるんだ!」と言い切るのならば、「ハザードトリガーはこんな平和利用の可能性があるんだよ!」とぐらい理想主義を貫いてほしいものです。
「本当は作っちゃいけないとわかってて……」
「なら何故作った! そのせいで多くの人間が傷つく事は容易に想像できた筈だ!」
ローグの正論マグナムがクリティカルヒット! ビルドは吹き飛んだ!
「おまえはわかっていたんだよ。こうなる事を」
「戦争は……悲しみを生むだけだ。……もし葛城が……記憶をなくす前の俺が、本当に悪魔の科学者だったとしたら……この戦争を引き起こす原因を作ったんだとしたら……今の俺がそれを終わらせる!」
再び立ち上がり二丁拳銃で薔薇の花びらを打ち込むビルド(二刀流→二丁拳銃、という対ローグの戦闘は工夫があって良かったです)だが、ローグアッパーを食らいまたもダウン。
「スパークリングは、もう通用しない。……何をしても無駄だ。おまえは――葛城に勝てない」
愛が重い。
「……最悪だ。こんな時に思い出しちまうなんて」
大の字になって床に転がるビルドは、戦いを見守る万丈と美空の姿に、かつて万丈にかけられた言葉を思い出す……
――「葛城巧でも、佐藤太郎でもねぇ! 桐生戦兎だけだろうが!」
「筋肉馬鹿に言われたあの言葉が、今の俺を作った。あいつだけじゃない。みんなの想いを受けて……俺は桐生戦兎として、正義の為にライダーシステムを使ってきたんだ。俺は俺のやり方で、葛城巧を超えてみせる!」
ビルドは再び立ち上がり、正義のヒーローである自らを、みんなの想いを受けた理想主義の象徴として定義付け、「桐生戦兎」として過去(葛城巧)を乗り越えるのですが、正直、随分遠回りしたな、という印象。
そして最大の問題が、「みんなの想い」の所で……一応戦兎の中では、「筋肉馬鹿に言われたあの言葉が、今の俺を作った」そうなので、第14話の「俺の中で石動惣一は死んだ」でマスターに作られた桐生戦兎は既に廃棄済みというつもりなのかもしれませんが、その後のあれやこれやで戦兎がマスターの掌中から全く抜け出していない事は明示されており、ここでもまた戦兎は、肝心な点――明らかにビルドがマスターの思惑に動かされてきた事――を無視してしまっています。
そもそもハザードトリガー自体がマスターからのプレゼントだったわけですが、それを使った事を全く省みないまま、「正義の為にライダーシステムを使ってきた」から、結果的に禁断のアイテムで破壊活動してしまってもOKなのか。
まあ、マスターの洗脳が完璧だからこそ、未だ自覚が無いという事なのかもしれませんが、とすれば、逆襲のヒーローの見せ場の筈なのに、その実態は道化芝居というのはいかがなものか。
のちのち破裂予定の爆弾だとは思いたいですが、とにかく戦兎が、肝心な部分には逃げを打つか無視をしながら正義と理想を語るのが、どうしても随所で引っかかってしまいます。
「そう言って、なお葛城の道具に頼るのか」
ハザードトリガーを装着したビルドは続けて噂の新アイテムを取り出すと、某バースのガチャガチャベルトの効果音「ぽきゅっ」以来レベルの、戦闘中に気の抜ける効果音でバトンを振る……すると、どこからともなく現れたウサギが真紅のアーマーとなって漆黒のビルドの外部装甲になる! という聖闘士方式により、ラビットラビットが誕生。
玩具的に装着変身の原点回帰という感のあるラビットラビットですが、背中に垂れたうさ耳パーツが、マフラーにもマントにも見える、というのは格好いいし秀逸。全体的な印象はなんとなく、U電王になりましたが。
「この強さは、自我を失った状態と同じ。なのに、どうして意識が」
「俺はもう、自分を見失ったりはしない。この力は、完全に俺のものだ!」
凄まじいスピードで動くラビットラビットは、連続うさぎさんパンチの手数でローグを圧倒。
「どこまで強くなる……」
「これが正義の力。桐生戦兎の力だ!」
ここで戦兎は、仮に葛城巧が悪魔の科学者であり、ハザードトリガーが禁断のアイテムだとしても、使う者の正義の意志でそれを平和の為の力に変える事ができる――それをするのが桐生戦兎である――と示し、ラビットアーマーが、黒ビルドを上から覆って書き換えるシステムなのもそれを裏打ちしているのですが……それならば何故、
「戦争に荷担したい科学者なんて、一人もいない! 人々の幸せを願って、平和利用の為に力を尽くしてるんだ!」
と言わせてしまったのか。
ラビットラビットの劇的なロジックは、戦兎が悪い科学者の存在を肯定し、その上で自分の道を示してこそ成り立つのですが、悪い科学者なんて居ないよ → でもハザードトリガーは禁断のアイテム → ハザード修正システムはこの会話以前から制作 と、大変ちぐはぐ。このロジックを成立させる為には、フルバトン開発中から、葛城が(そして自分が)間違った形で科学を使用していた事を、戦兎が認めていなければなりません。
劇構造的にいうと、
〔理想を語る戦兎 → ローグの理屈に言い負かされる → 周囲の人々の言葉を思い出して再起 → 今度こそ自分の道を見つけ出して悪の理屈を乗り越える(ここでヒーローが現実をブレイクスルーする) → 超パワーアップ〕
という想定だったのでしょうが(この流れが劇的な強化に必要な段取りだったと思うと、戦兎がなかなか新アイテムを使わなかった事にも納得がいきます)、思想的(一時)敗北の一週間前から新アイテムを制作していたという今作における「強化」=「新装備開発」という特性が、致命的な齟齬を生んでしまいました。
大型銃を取り出したビルドは、スーパーうさぎさん砲をローグナックルに相殺されると、続けてうさぱん砲を放って受け止められるが、うさぱんたか砲で遂にぶっ飛ばし、動きの止まった相手にひたすら砲撃を放ち続けるという姿に、正義の力とは何か考えさせられます。
倒れたローグにヨガフィニッシュキックが炸裂し、リングアウト。連戦連敗の恨みを晴らすべく、正義の力でトドメを刺そうと迫るラビットラビットだが、ローグには内海からラビットラビット攻略データが送られるのであった……。
一方その頃、難波会長にフルバトンのデータを渡す直前の紗羽から、何事か連絡を受けた猿渡が不審な行動を取っており……前回今回、戦兎と紗羽が「かずみん」呼びでやたら唐突に距離感が縮まっているのですが、これはまた、特典映像で明かされたりする販促ネタの布石だったりするのでしょうか、でつづく。
第2部入ってから長い間、同じトラックをぐるぐるぐるぐる周回していた戦兎がようやく突破口を見つけて次の舞台へ向けて走り出したのですが、戦兎の感じる「戦争責任に関する罪」を強調するあまり、戦兎の様々な行動に関して途中途中で誰かが殴らずに甘やかし続けてきたツケが、折り返し地点における戦兎の語るヒーロー像の集約において、ボタンの掛け違いとしてまとめて出たという印象。
戦兎に関しては、スクラッシュドライバー作った時点で誰かが一発殴り飛ばしておくべきだったと未だに思うのですが、それをしないまま突き進んできた結果、戦兎自身が「個人として反省すべき点」を全て「大局的な罪の意識や科学者論」にすり替えてしまっているのが、非常に引っかかります。
それら全てひっくるめて、「桐生戦兎」が完成するのはまだこれから、という狙いなのかもしれませんが……そろそろ現状に一区切りつきそうなので、次の新展開でつついてくれるのを期待したいところ。