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『仮面ライダービルド』感想・第29話

週一ペースだと追いつきようがないのでさくさくめに感想書こうと思っていたのですが、なんか今回も長くなってしまい、反省。まあでも今回、現在『ビルド』に感じている不満点のコアが掴めた気がします。
◆第29話「開幕のベルが鳴る」◆ (監督:上堀内佳寿也 脚本:武藤将吾
パンドラボックスに近づくスタークが無言でパネルにフルボトルを填めていき、その振り上げた手が指揮棒を振るう仕草と被さると、西都首相(難波会長)がオーケストラを指揮する姿と陰謀のマエストロ・ブラッドスタークの姿が重ねられ、《歓喜の歌》(個人的にはここはドヴォルザークの《新世界より》第4楽章とか聞きたかった)を背景に東都に難波ガーディアンズが迫る中、突如、スカイウォールが変形! 周辺の市街地を押し潰し、三国の境界が重なる一点に、新たなスカイウォールによる円形の空間が誕生するのだった――と、新展開スタートで、上堀内監督がまた気合いの入った演出。
「スカイウォールの惨劇から10年、世界を滅ぼす、強大な力が秘められた、パンドラボックスを開ける為、新たな戦い幕を開けた――」
OPナレーション変更、箱に向けて伸ばされる複数の手……というスタートに始まり、OP映像マイナーチェンジの遅い今作にしては珍しく、新章開幕に合わせて新規映像が多めに盛り込まれ、特に猿渡の愛嬌が大幅UP。
そして遂に、マスターがぴょんぴょんから消えた!
更についでに、スプラッシュの存在が消えた……!(涙)
ある意味、ハザードトリガーの被害者といえるスプラッシュ、デザイン的には格好いいし、一度はスタークを打ち破る戦兎自身のフォームという意味づけも割と好きだったのですが、フォーム弱体化は世の常にしても、中盤における“ハザードが時間切れになった時に仕方なく使うフォーム”という扱いはあまりにもイメージ悪く、もうひとつまみぐらいの愛が欲しかったところです。
「我々は負けてなどいない」
「何を言ってる? 東都が勝っただろ!」
侵略を正当化する西都首相の堂々たる物言いに、思わず、うちの子が勝っただろ! レベルの反応を返してしまう東都首相。そろそろ世の中、パンドラ光線を浴びていない身には論理展開についていくのが辛くなってきました。
「代表戦を目撃したのは、我々だけなんだぞ。なあ? う・つ・みー」
難波重工の横槍で中継なども出来ず(確かにここは北都代表戦との違いで違和感にはなっていた)、密室で行われたライダーバトルなど契約書のない口約束のようなもの、と西都側が強引な言い抜けを図ってくるのですが、難波の悪辣ぶりが強調されるというより、もともと説得力の薄かった「ライダーバトルで戦争終結」という茶番が本当に茶番になっただけで、スタッフ自らが少なく見ても半クール分の物語を切り刻んで下水に流してしまったような印象。
難波の強行策を物語としての面白さに変えるには、むしろ事前に「ライダーバトルで戦争終結」に物語なりの説得力を入念に与えておかなかなけれればならなかったのですが、それをせずに盤面をひっくり返してゲームをご破算にして済ませてしまうのは、結局「戦争」という要素を扱い切れずに無責任に放り捨ててしまったように感じます。
東都サイドも東都サイドで大変間の抜けた事になっているのですが、東都首相の、理想を成す為に事にあたって誠実さを旨とする、という姿勢は今作における善の在り方として納得できる一方、誠実であろうとする事と、相手が不誠実だった場合の対応を用意しておく事は矛盾なく両立できるのに、後者の備えがまるで見えないのが大変困ったところで、これは幻徳もこじらせるわけです。
意図的に弱みとして描いている可能性もありますが、結果として東都首相が、他者の誠実さに期待する“事に甘えている”人、になってしまっており、「政治」という基本的に下手に手を出すと大火傷する要素が、見事に火を噴いた感。
スタークはフルボトルを回収する事でボックスの力を解放、三国の中心にパンドラタワーを建設していき、西都首相は世界に西都の軍事力を誇示する為、東都を焼け野原にしてやると宣言。
「マスコミを操作して、代表戦の勝敗をねじ曲げた」
「むしろ、領土を渡さない我々に、非難の声があがっている!」
で、視聴者に対してはメタ的に半ば茶番を認めてしまったにも関わらず、劇中の一般市民は仮面ライダーの殴り合いで国際紛争に決着が付く事を受け入れているという説得力のねじれぶりが、北都代表戦の空虚ぶりにますます拍車を掛けてしまいました。
自分たちと関係ない所で戦争が終わってくれるならそれでいい……という大衆の姿を風刺する要素もあるのかもしれませんが、仮にそうだとするならば、北都代表戦の前に、「それでも命がけで代表戦に挑む戦兎達」の姿を東都市民との関係性を通して描いておいてこそ効果的になるわけで、西都代表戦前はまだともかくとして、それと同じ流れだからと色々と省略してしまった事で、ライダーと一般市民との関係性に大きな穴がポッカリと空いてしまったのは、かなりの痛手。
「こんな暴走おかしいだろう! ……これでも攻めたら侵略行為だって言われるのかよ!」
「俺たちは国を背負っているんだ。勝手な行動は許されない」
そして前回一つの殻を破ったと思われた戦兎がまた、北都との国境線でストレッチ待機という大惨事の時の話を蒸し返すのですが、ホント戦兎のこの、東都への強い帰属意識はいつの間に生まれたのか。
1年とはいえ自分の暮らしてきた東都を守りたい、という感情は自然なものとしてわかるのですが、戦兎が国家代表という立場を自認してこだわるに至る経緯は、ここまで見てきてもさっぱり理解できません(^^;
基本的に戦兎、アイデンティティに自信が無いので、自己を「東都のライダー」と規定する事で行動にブレーキをかけている、という捉え方は出来るのですが、それならそこは物語として描いておいた方が良い点だと思いますし、戦争をこれ以上拡大しない為に建前上の立場に縛られているのならば、単純に足踏みしすぎて面白くないと、前回の今回でどうしてまたこうなったのか。
猿渡は「俺が北都を守る」と一人で出て行き、猿渡ファームの人間だけでも協力して助けるべきでは、と提案する万丈だが、他の北都市民にしわ寄せが行くだけだ、と戦兎は戦争の抜本的解決法が見つかるまで戦うべきでないと主張。
「結局誰かが苦しむ事に変わりはない」
「そんな事言ってたらなんも出来ねぇだろ! 目の前の人間が苦しんでいたら手を差し伸べるのが俺たちの役目なんかじゃねぇのかよ!」
「そんなのわかってるよ…………けど、戦争を引き起こした責任がある。だからこそ、身近な人間だけを助ける事なんて、私たちには、出来ない……」
やってきた美空が仲裁に入るのですが……いや前回、鍋島の家族一同、助けましたよね……?
それともあれは、勝利の為の“手段”だったからOKなのでしょうか……?
美空の理屈は、「皆を助けようとする時に身近な人を優先するわけにはいかない」という点においては正当性があるのですが、それが「身近な人を優先できないから誰も助けない」では本末転倒になってしまい、つまるところ「戦兎はわかっているけど苦しんでいるから、許される」という『ビルド』ロジックは、正直いい加減、鼻につきます。
この辺りの理屈の捏ね回し方は、くしくも『ルパパト』第14話と対照的で、極端に言うとヒーロー(広義)とはある種の「非常識な存在」であり、一面においてはその内に「危うさ」を孕み大局的には愚かともいえる行動の中にヒーロー性が生じる(てしまう)わけで、ヒーローを描くというのは、その危うさの匙加減を描く事でもあるわけですが(そういう点で『ルパパト』第14話の圭一郎の描写は「危うさ」に比重があったように感じたわけです)、戦兎が度々繰り返す「大局的に正しい判断をしようとする/自分の責任を重く感じる」あまり動かないので、そもそもヒーロー性が生じず内なる均衡の揺らぎも描かれないというのは、今作におけるヒーロードラマとしての面白さを大きく削いでいると思います。
……そして恐らくこれが、私が現行『ビルド』に感じている肌触りの悪さの核であろうな、と。


 「俺たちが信じた想いは、幻なんかじゃない。俺も、こいつも……誰かの力になりたくて戦ってきたんだ。誰かを守る為に、何度も立ち上がってきたんだ。……あんたが居なくても、俺には守るものがある。俺は、自分が信じる正義の為に、あんたを倒す!」
この頃の戦兎の方が魅力的であったし、この後1クール以上かけて、これに代わるヒーローとしての魅力を感じる事が出来ないでいるのです。勿論、為政者などが敢えて「大局を取る」姿をヒーローとして描く物語も可能であり、戦兎の「国を背負っている」発言にはそういうスタンスの要素も含まれているのかもしれませんが、だとすれば作品としての戦兎の立ち位置の描き方が下手、という他ありません(^^;
どうしても「国家とヒーロー」(国際紛争のミニマムなカリカチュア)という要素を描きたいのであればいっそ、
「皆さん、俺はね、俺は東都人なんです。東都のライダーなんですよぉ! 俺は先週、東都から来ました。けど、東都人と戦います。だけども、北都や西都の人とも戦います。人の命を大事にしない人とは、俺は誰とでも戦います!」
と、超国家的なヒーローにでもしてしまえば良かったのではいか。
「……けど……じっとしてらんねぇんだよ」
万丈は部屋を出て行き、翌朝……一人で北都へ向かったら死ぬの確定扱いされている猿渡は、国境線で待ち受けていた万丈と、電話をかけてきた美空に「いのちをだいじに」と北都行きを止められるが、そこにスタークと歯車兄弟が現れ、けちょんけちょんにされる格下ーズ。東都首相から1ドルクを恐喝した戦兎が更に駆けつけ、綺麗事の理想論かもしれないが皆を守るために戦いたいと改めて語り、猿渡は一人で無茶をするのではなく、新たに生まれた絆と共に戦う事を決意する。
表向き綺麗に3ライダーの結束をまとめているのですが、その結論は「大事の前の小事」を地で行く「理想論の実現の為にとりあえず北都の人々には後回しになってもらう」なので(この問題は全く解決していない)、
「今そこにある苦しみは捨て置いて、大局的な正義の勝利の為に俺たちの命を大事にしようぜ!」で結束するヒーロー達の図
をどういう顔して見ればいいのかわからなくなってきました。
勿論こういった内容も話運びと構成次第で、よく考えると……というのをねじ伏せる事は可能なのですが、今作全く隠せていない上に、それを既に犠牲となった人間に許された事にして肯定させるというのは、大変いかがなものかと思う次第。1ドルクを恐喝した戦兎の思いつきが今回説明されていないので次回もう少し進展があるだろうとは思うものの、なんというかもう少し、猿渡を止める理由を「一人で突っ込むと死ぬぞ」以外の何かに出来なかったのか……。
そしてグリスが「心火を燃やしてぶっ潰す!」を格好良く入れるのですが、ラビラビ&グリスというタッグの戦力バランスが大変悪く、マッチアップ相手が歯車兄弟というのも滅茶苦茶盛り上がりません。
戦力ヒエラルキー考えるとラビラビ一人で楽勝に思えますし、因縁と成り行きをを考えるとグリス一人で歯車兄弟の相手をするぐらいで丁度良いですし、こういった戦闘の組み合わせによる盛り上げというのがここに来てどうも『ビルド』は下手というか、敵の粗製濫造の悪影響が辛い。
燃えるグリスは歯車兄を追い詰め、苦境に陥った兄弟は、戦場の真っ只中で一人を生身にしてヘルブロスを起動……って、いやこのシステム、何か重大な欠陥があるのでは(笑)
まあ戦兎さすがに、生身の歯車弟を「2月2日、黄羽を殺したのは貴様だな?!」と一方的に叩きのめして人質に取ったりはしないと思うけど……とか思っていたら、割と普通に、こそこそと身を隠していて笑いました。
そして逆に、握手券と写真撮影券と耳かき券をカバンに詰めて(ここは美空の可愛げが出て良かったです)猿渡を説得しようとやってきた美空を、人質に取った!(笑)
今、始めて歯車弟の事を面白いと思いました。
いいぞ君、その方向で素質が開花するかもしれないぞ!
「ボトルをよこせ。早くしろ!」
ところが――美空の瞳が再び碧に染まると、その体から放たれた黄金のオーラにきりもみ回転しながら吹っ飛ばされ、いいぞ君、その方向の才能がありそうだぞ!!
「我が名はベルナージュ。火星の王妃」
トンデモない事を言い出す美空、でつづく。
次回――スタークが地球外パワー発動! と予告のあおりですが、いや前から発動しているような(笑)