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『仮面ライダービルド』感想・第30話

◆第30話「パンドラボックスの真実」◆ (監督:上堀内佳寿也 脚本:武藤将吾
見所は、火星の王妃様に正座で傅く下僕達。
「「我が名はベルナージュ。――火星の王妃」」
「まだ生きてたとはな……」
光る美空に銃を向けるスタークだったが、プリンセスパワーに思い切り吹き飛ばされ、変身解除。
「この程度か……なら、これでどうだ!」
生身に戻るも宇宙パワーを発動して炎の弾丸を放つが、咄嗟にカバーリングしたクローズがその直撃を食らい、しかし、マスターはまるでそれが“狙い”であったかのように、ニヤリと嗤う。
炎の弾丸の直撃を受けたクローズはスクラッシュドライバーを破壊されて倒れ、光る美空はプリンセスパワーでライダー3人と撤退。その驚愕の力を目の当たりにしながら、マスターは地面に大の字に転がって口元を緩める。
「はは……面白くなってきたぁ。これから真の戦いが始まる」
ずっと……ずっと暖め続けてきた、人生で一度は口にしてみたい台詞ナンバー1、言えた……! 遂に言えたよ……!!
後はどんな素敵な断末魔を用意しているのか楽しみです(おぃ)
スタークの傾向からすると、「俺を倒しても第二第三のブラッドスタークが……!」系でしょうか。
「肉体は既に滅びた。この魂もじきに消えるだろう。パンドラボックスが火星を滅ぼした。エボルトの手によって」
茶店では火星の王妃を自称するベルナージュが色々説明してくれるのかと思いきや、万丈に向けて「自分が何者かわかっていないのか」「ならば、おまえが希望になる」と意味深な発言だけして気絶。
はからずも気絶した美空を膝枕する事になってしまった猿渡は、衝撃と興奮のあまりマネージャにお金を払おうとして、ギャグ通り越して危ない(^^;
……それにしても、『ゴースト』の時も科学畑の人という設定の、主人公幼なじみの描写や転び方が大変雑でしたが、「バングルに魂が宿っている」を率先して信じる天才物理学者、とはいったい。
スカイウォールをねじ曲げるトンデモないパワーも、摩訶不思議な現象も目の前で見ているので、それを受け入れる柔軟な思考という捉え方は出来ますがそれにしても、魂が宿っている理屈にも、瞬間転移の原理にも、一切興味を示す素振りすら見せない、というのはキャラクターの描写としていかがなものかと思います。
美空が懇々と眠っている間、エージェントSは万丈の過去を調べる事になり、戦兎はスタークに撃ち込まれてスクラッシュドライバーにめり込んでいた岩塊の中から生じた黒いフルボトルを参考に、新アイテムを作る事に。
万丈の伏線絡みなのでしょうが、万丈が触ったらフルボトルが出てきたシーンはそもそもどこに何がどうなっていたのかが分かりづらく、また、ベルナージュの能力の理屈に興味関心を示さない戦兎の姿が描かれた直後だけに、毎度の事とはいえ強化アイテム作成の流れにおいて、「天才物理学者」という設定がただの便利スキルになってしまっているのが悪目立ち。
派手な爆発と共にニューアイテムが完成し、目を覚ました美空と語らった戦兎は、東都首相から預かった1ドルク紙幣を手に考え込み――翌日、ビルドは国家反逆罪で指名手配される。
やたらハイテンションなビルドは、久々のバイクアクションで単身パンドラタワーに殴り込みをかけるも合体ガーディアンに弾き飛ばされた所で、ヤンキー2人に絡まれる。
「政府に解雇されれば国を背負う必要もねぇ。だからパンドラボックスを奪うのも自由ってか。ふざけんな」
まさか、万丈に気持ちを全て代弁される日が来ようとは。
「ふざけてるのはおまえらの方だ! これは」
敢えて罪を被る事で国家の枷から自由になり、独りで戦いに赴いた戦兎だが……
「侵略行為にあたるんだろ? ……けどな、こっちは首相命令なんだよ」
「ビルドから1ドルクとパンドラボックスを取り返してこいってよぉ。首相も粋だよなぁ」
「だから侵略行為じゃありませーーーん!!」
…………あの……ええと……散々、「侵略行為」とか「防衛目的」とか表面上の言葉遊びを繰り返してきた挙げ句に、その突破口、本気でこれなんですか……?
もともと戦兎、「防衛目的なら兵器じゃない」というレトリックで自己の正当化を図るような考え方ですし、この前振りというか言い訳として前回、「やり方変えねーと駄目なのかも」的な発言もあるのですが……自分からこだわって自分を縛り、万丈に対して「なんでわかんねーの? ばーかばーか」と言っていたルールを自分から無かった事にするという、およそ考え得る限り最低最悪の突破方法で、「代表戦で終戦するわけないじゃん。うっそぴょーん」という西都(難波重工)と同レベルの論法。
最大限好意的に見積もって目には目をの意趣返し、という言い方も出来るかもしれませんが、下劣な悪の側と同じ場所へハイテンションで駆け下りていくヒーロー(しかも自覚無し)という、とんでもないものを見る事に。
これまで何度か、国境線でウォーミングアップしている仮面ライダーの姿に感じた虚しさに対し、私はその現実をブレイクスルーするヒーローが見たいのだ、と書いてはきましたが、これでは単に物語としての積み重ねに無責任なだけですし、今回の戦兎がやっている事はブレイクスルーではなく、「右手を使わないでお前を倒す」と言って戦っていたらピンチになったので「あれは嘘だぴょん」と右手で思い切りぶん殴るという詐術のようなものであり、
「最悪だ……俺のヒーロー感が薄れるだろ」
というか今回の行動に1ミクロンも存在しないよ。
また、戦兎(ビルド)が、誰もが驚くような明確な犯罪行為を行った末に、真意を見抜いた仲間達が駆けつける、というのならまだ多少は盛り上がるのですが、最初から完全に出来レースであり、東都首相もグルなので、国境線で起こした揉め事にかこつけて無茶苦茶な屁理屈でなし崩し的に他国に侵攻する、ってもはや中世(或いはそれ以前)。
もうひとつ加えると、侵攻前夜、
「なんか考えがあるの?」
「……西都から、パンドラボックスを、取り返す。パンドラボックスがあれば、ベルナージュの力に変わる抑止力になる筈だ」
という美空とのやり取りは、軍拡競争の理屈そのものであり、さすがにこれ、後で戦兎の頭をはたく為の仕込みだと思いたいのですが、ですが、今作ここまでの論法を見る限り、大変不安。
どうせ曲がりなりにもここまで依ってきた理屈を根こそぎ薙ぎ倒すなら、パンドラタワーの出現という非常時への対応である、という事にしてしまった方がさっぱりしてまだしもヒーローらしくなったような気がするのですが、理屈を整地する為になまじ新たな理屈を振り回した結果、内臓破裂の大惨事。
新展開早々、溜まりに溜まった戦争編の負債が大破綻して黒い日曜日です。
実験の爆発で気絶した万丈のおでこにはりつけた「ごめーん」のメモの駆使など、演出は随所で面白かったのですが、劇中ルールのひっくり返し方としては、唖然を通り越す最悪ぶり。
今回後半、作風変わったレベルでキャラのテンションが高いのですが、無茶な展開を画面の勢いで誤魔化すのと同時に、「細かい理屈とかいいよね!」というスタッフの魂の叫びが悪い意味で聞こえてくる気さえします。もし本当にこれこのまま突き通すなら、「戦争」という題材はとことん挑戦に酔って刺激を弄んだだけに終わってしまったなと。
タワー内部ではマスターの中で二つの人格がせめぎあっている描写が挟まり、タワーの中へ乗り込んだ3人はスタークの操る変幻自在のトラップに苦しめられるが、新アイテムを装備したクローズが大爆発。だがその頃、万丈の過去を調査していた紗羽が、驚くべき情報を美空に伝えていた。
「万丈は…………人間じゃないかもしれない」
で、つづく。