はてなダイアリーのサービス終了にともなう、旧「ものかきの繰り言」の記事保管用ブログ。また、旧ダイアリー記事にアクセスされた場合、こちらにリダイレクトされています。旧ダイアリーからインポートしたそのままの状態の為、過去記事は読みやすいように徐々に手直し予定。
 現在活動中のブログはこちら→ 〔ものかきの繰り言2023〕
 特撮作品の感想は、順次こちらにHTML形式でまとめています→ 〔特撮感想まとめ部屋〕 (※移転しました)

『快盗戦隊ルパンレンジャーvs警察戦隊パトレンジャー』感想・第17話

◆#17「秘めた想い」◆ (監督:渡辺勝也 脚本:荒川稔久
「また、バイト先で余ってしまったので」
「あ、いつもすいません、末那さん。職場が明るくなるって、みんなで感謝してます」
「…………みんなで」
「はい! みんなで」
緊張した面持ちで圭一郎にオレンジの花の咲く鉢植えを渡す女性、それを受け取って朗らかに笑う圭一郎、顔を見合わせ無言の溜息をつく同僚(&背後の初美花)……予告の前振りもありましたが、一つも明言されていないのに、この時点で今回の人間関係が全てわかるのが絶妙(笑)
女心を微塵も介さない圭一郎の言葉にショックを受けつつも気を取り直して笑顔を浮かべる女性――赤来末那――に、圭一郎はレコードを貸し、喜ぶ末那は意を決すると振りかぶって……
「あの! …………あのあの……今日、お仕事が終わったら……一緒に、私の家で聞きませんか?」
渾身のストレートを投げた!
「俺は何度も聞いてますから」
爽やかに笑いながら、圭一郎は力強く見送った!
圭一郎の全く屈託の無い、むしろ好感度の上がりそうな笑顔と、え、なにこの、必殺技無効体質、と目を丸くする末那の表情が揃って素晴らしい(笑)
「特に、一曲目の《秘めた想い》は、一人で、じっくり聴くのがお薦めです」
ど真ん中にストレートを投げ込んだ筈が、バックネットに突き刺さる大暴投のような反応を受けて時間停止する末那を取り残して、「じゃ、失敬」と圭一郎はビストロを辞し、もはや同僚達の方が、気まずい!
「……ぜーんぜん伝わらなかったな。滅茶苦茶勇気出したのに」
「あの人が鈍感すぎるんだよ」
徹頭徹尾、酷いギャグにする場合を除き、ゲストキャラを軸にしたラブコメないし恋愛要素のあるエピソードにおいては、対象となるゲストキャラ(男女問わず)に如何に好感を持たせられるかが大きなポイントになりますが、この冒頭2分弱に、ゲストヒロインの、緊張・笑顔・困惑・踏ん張り・感激・決死の必殺攻撃・愕然・落胆を次々と詰め込み、圭一郎への想いを見せると共にそこから生まれる魅力を引き出すのが、特撮界のラブコメ伝道師・荒川稔久、匠の技。
出会いのシーンを省く(ジュレ組含めて既知の関係とする)事でヒロイン描写に尺を採った構成も秀逸ですし、圭一郎の一挙手一投足に一喜一憂する姿も好演で、特に、「俺は何度も聞いてますから」に目を丸くするシーンは、圭一郎の爽やかすぎる笑顔との対比もあいまって、今回最高のシーンでした(笑)
「先輩、待って下さいよ。そんな洞察力じゃ、警察官失格ですよ! 末那さんがお花をくれる理由、わかんないんですか?!」
「だから、バイト先で余ったからだろ」
「違います! あーもう、なっんでわかんないかなぁ! ほら、ジュレで初対面の時から、盛り上がってたじゃないですか」
「それは、音楽の趣味が偶然にも一致したからだ」
末那からの好意にまるで無頓着な圭一郎に食ってかかる咲也……なのですが、会計と荷物持ちを咲也に任せてそそくさと店を出て行ってしまうのも、咲也に対する返答がやけに頑ななのも妙に不自然で、(芽生えつつある自身の気持ちも含め)薄々わかっていて目を逸らしているように見えなくもありません。後者は単純に恋愛沙汰の話題自体が嫌いなのでぶっきらぼうになるのかもしれませんが、前者は明らかに普段の圭一郎らしくはないですし。
「咲也……やめとけ。こいつには一生わからん」
そして、つかさ先輩の圭一郎評は、割と外れるわけで(笑)
初美花は乙女として末那に肩入れし、一緒にレコードを聴こうと末那の家に向かう途中、人を夢の世界に送り混んでしまうバクギャングと遭遇。ネムランスによる5円玉攻撃を受けた市民は意識不明となってしまい、圭一郎に借りたレコードを慌てて取りに戻った末那もバクに襲われそうになるが、ルパン赤と青が駆けつけてなんとか逃走に成功。
「圭一郎さんに明日返さないといけないから」
レコードをかけた末那は家に招いた初美花に、明日の夜、オーストリアへの留学に出発する事を告げる。
「だから今日中にちゃんと告白しようって決めてたんだけど………………駄目だった」
「そんな…………まだ時間あるよ! あたし、セッティングする」
末那の家の花壇には「バイト先で余った」と称して圭一郎に渡していたオレンジの花が一面に咲いており、各所で印象的にフレームインするのですが、本編と関連づけた花言葉を持っていたりするのか……なにぶん花の名前がわかりません(^^;
「ギャングラーめ。我々が間に合っていれば」
「科特研の分析では、夢の世界に取り込まれているのでは、と」
バクにやられた被害者達は昏睡状態に陥っており、地味に凄いな科学特捜研究所!(笑)
「せめて、幸せな夢ならいいんだが」
そこへ初美花から着信ありで、
「うわぁぁ!! これは夢かぁ?!」
と叫ぶ咲也、アドレスの登録名に、ハートつけるのはどうなんだ咲也。
バクギャングを取り逃がした魁利と透真はコグレからコレクションの説明を受け、「つまり、肩が伸びるのがこのコレクションの力」という表現が絶妙にせせこましいのですが、今回もコレクションは補助的な扱いで話のメインとならなかったのは残念。「夢の世界へ引きずり込むコレクション」でも良かった気がするのにそうしなかったのは何やら事情があるのか、それとも荒川さんにとってルパンコレクションが扱いづらい題材なのか。
今回は恐らく劇中初となるコグレによるお宝説明シーンが入ってまで、コレクションの力と分けて怪人の能力を強調したのですが、果たしてこれはなんらかの布石なのか。
翌日、初美花と咲也の共謀によりジュレに呼び出された圭一郎は、初美花から末那の留学の話を聞かされ、「だから末那さんの気持ち、受け止めてあげて下さい」と迫られ困惑、そして緊張。前回ラストの警察戦隊による透真への説教タイムは余計なお世話の面が大きかったのですが、今回は初美花が余計なお世話に両足突っ込んでいるのはセット意識があるようにも思えます。
かくして奥手な2人はジュレのテーブルを挟んで向かい合い、固唾を呑んで見守る初美花と咲也。
「……あの、末那さん」
「……はいっ」
「留学されると聞きました。……ご健康とご多幸をお祈りします!」
緊張のあまりハーブティーを一気飲みした圭一郎は、末那と真っ直ぐ向き合うと激励の言葉をかけ、直立不動で敬礼。
「……ありがとうございます」
ギャラリーが揃って落胆する中、満面の笑みを浮かべる末那。
「ちがうだろ〜」
「すいません、以上です!」
レコードと花を手にした圭一郎はそそくさと店を飛び出していき、慌てて追いかけた初美花はその前に立ちはだかる。
「何してるんですか?! 戻ってやり直して下さい!」
「……いや、緊張してこれ以上は無理だ」
初美花にさえ逃げ腰になる圭一郎はベンチに座って背中を向けるが、乙女の義憤に燃える怒りの矛先は鈍らない!
「末那さんの気持ち、わからないんですか?」
「俺の使命はギャングラーを倒し、世界に平和を取り戻す事。……今はそれしか考えられん」
公私を、混同するな。俺たちは戦士だ。それが全てに優先するんだ。
某レッドホーク(『鳥人戦隊ジェットマン』)の説教が木霊してきそうな言葉で、改めて公の正義を最優先する事を告げる圭一郎ですが、正面から他者と相対するのを旨とする圭一郎が、ここでは初美花に背を向け、半身で言葉を発しており、だからといって果たして、個人の気持ちを顧みないでいいのだろうか、という煩悶が見て取れる気はします。
第15話を踏まえ、果たして圭一郎は「私」に向けられた感情にどう対応するのだろうか……という興味に対する解答は、圭一郎の「私」は「公」に対して従属的な存在であり判断基準になりえない、というものになりましたが(ただし圭一郎は他者にはそれを強要しない)、色恋とは距離を置き、自己犠牲をいとわず、公の正義の為にのみ邁進する、という圭一郎のヒーロー像は正道というにもいっそ戯画的でさえあり、果たしてそこに眠っているかもしれない揺らぎが今後大きくなるのかどうかは、気になるところ。
既に27年前の作品ですが、戦隊史における一つのエポックであり、荒川稔久にとっては戦隊デビュー作品であり、『ゴーカイジャー』の時は思い入れの強さから井上敏樹の召喚に至ったという『ジェットマン』を想起させる「戦士」像を持ち出してきた事には意図があるように思え、朝加圭一郎なりの歪みというものがジワジワと蓄積されていっている気がします。
……まあこれは、私自身が『ジェットマン』に思い入れが強いのでそう見えてしまう、というのも多分にあるかもしれませんが、朝加圭一郎といういっけん完成されたヒーローが今後どう描かれていくのか、というのは私にとって今作における大きなポイントになっていくかも。
なお『ジェットマン』は、「ヒーロー」と「人間」、という命題を1年かけて徹底的に突き詰めた金字塔的作品なので、個人的には非常にお薦め。
ギャングラー出現の報が入り、駆け出す圭一郎。いくら職務とはいえ、花とレコードをその場に置き去りにしてしまうのは、けっこう酷いぞ(笑)
「せめて! 空港に見送りに行って下さい! お願いします!」
その背中に向けて他人の為に腰を折って頭を下げる初美花は、快盗活動を離れるとひたすらいい子路線で、我関せずと距離を取る赤青とは対照的ですが、透真はやはり婚約者とは幼なじみカップルで、先日の中学生男女に甘酸っぱい過去を投影していたのではないか(笑)
アジトでゴーシュから「地味」呼ばわりされた怒りで大暴れしようとするバクギャングだが、駆けつける国際警察。
「被害者は居ない……今度は間に合った!」
前夜、「ギャングラーめ。我々が間に合っていれば」と圭一郎が怒りを燃やしていたのですが、戦隊文脈だと怪人による状態異常は“いずれ治る(治す)もの”なのですが、警察視点では“被害者が出た時点で敗北”というのは、警察戦隊の職業性が出ていて良かったです。
パトレンジャーとバクギャングが戦っているところに、圭一郎を見送りに行かせようとするルパンイエローが、勢いよく乱入。
「焦りすぎだろ」
「なんなんだこの勢いは?!」
「うるさい! あんたのせいだっての!」
「は?! なんだそれは」
だが大きな隙を作ったところに触手攻撃を受け、警察3人とイエローが夢の世界へと飲み込まれてしまう……太陽がさんさんと降り注ぎ、鳥が囀る草原で、かつて着ていた高校の制服姿で目を覚ました初美花は、食べても食べても飽きないラーメンを食べ続ける男の姿を見て、早々にそこが夢の世界である事に気付く。
そして、
「かわい〜」
ぬいぐるみの山に埋もれて、つかさはあっさり夢の世界にはまっていた(笑)
更にそこへ、初美花の写真集を手にダッシュしてくる咲也、盗撮は犯罪だぞ咲也!
ストーカーから逃げ出した初美花は、警官の制服姿で自転車にまたがりパトロール中の圭一郎と遭遇。
「素晴らしい世界じゃないか……ギャングラーも居ない、事件も起きない、理想の世界だ」
「それは嘘なんです! ギャングラーが見せてる夢なんですよ!」
「平和で何もする事がないな……鼻歌でも歌いたくなる気分だ」
バクの力で精気を吸い取られながらも、夢の魔力に囚われた圭一郎は太平楽に大の字に転がり、その言葉に閃いた初美花は、現実との接点として《秘めた想い》を口ずさみ、突然の、アイドル力炸裂。
……さすが荒川さんの煩悩は、こちらの予想を遙かに超えてきた!!!
五星戦隊ダイレンジャー』第33話「アイドル初体験」、『激走戦隊カーレンジャー』第11話「怒りの重量オーバー」、『炎神戦隊ゴーオンジャー』GP−31「歌姫デビュー」などなど、数々の煩悩を映像化してきた渡辺監督との黄金コンビで、これはもう、実質アイドル回。
「……あれ? なんだこの曲? なにか、凄く大事な……」
初美花のハミングに、現実世界で末那の奏でるピアノが重なり、橙色の花びらが舞う中、“秘めた想い”を取り戻す圭一郎。
「……そうだ! 俺はこんな事をしている場合ではなかった!」
圭一郎の銃撃により警察戦隊&ルパンイエローは夢の世界を脱出し、多分ずっと戦っていたルパン赤青は狼狽するバクギャングからコレクションを回収。警察戦隊はグッティを手に一致団結し、蹴り飛ばして跳ね返ってきた所を空中で撃ち殺す、という殺意の高いコンボ技でごっちゅう。
「私の可愛いお宝さん。地味なネローを元気にしてあげて」
いつも以上に厭味のきついゴーシュさん、個人的に嫌いだったんですか?!
名残のピアノを弾き終えた末那が空港へと出発する中、警察戦隊はパトカイザーを起動し、前回と同じく(今回は挿入歌インストでしたが)CM空けから音楽に乗せて射撃戦でスタート。ヨーヨーで眠ランスを破壊した警察カイザーは、クレーン&ドリルを起動し、吊り上げてから、ねじり殺す! ……て、ホント酷いなこの必殺技。
「やったー! よーし。余裕で見送り間に合う」
某臨獣フライ拳的にパトカイザーに声援を送っていたイエローはホッと胸をなで下ろし、空港……
スマホでニュースを知った末那は、
「圭一郎さん……! ……ご活躍を祈ってます」
とニュース画面に向けて笑顔で敬礼を送ると、一人、オーストリアへと旅立っていく。
そして、夜空へ向けて飛び立つ飛行機を見送る圭一郎に、花とレコードを突っ返す初美花。
「どうして空港に行かなかったんですか? ……末那さん待ってた筈なのに」
「俺は二つの事は同時に出来ん。不器用なんだ」
結局、末那の気持ちにイエスともノーとも言えなかった圭一郎の言い訳は言い訳なのですが、少なくとも圭一郎にとって末那は、ギャングラー相手と同時進行で向き合えるような生半可な存在ではない、という事が示され、そんな圭一郎の真意を感じ取ったのかどうなのか……
「………………意味わかんない。最低!」
初美花は憤懣をぶつけて去って行き、圭一郎の気持ち、初美花の理解、末那の想い、と解釈の幅が出る要素を複数重ねたのは好みの大きく分かれそうな作劇でありますが、戦隊的に概ね別れを前提としてしまう事になるゲストとの恋愛展開としては、悪くない濁し方だったと思います。
諸々の演出とサブタイトルを考えると、最終的に圭一郎は己の持つ好意を自覚するに至り、初美花もある程度それを理解したのかなと解釈していますが、理解と納得は違い、また圭一郎は圭一郎の一方的な理屈で末那に向き合いきれなかったのは事実なので、初美花が圭一郎をなじる事で、全体のバランス取り。
一方で、圭一郎自身に恋する末那は、圭一郎の簡単に変えられない生き様に理解と納得を示し、圭一郎が圭一郎なりに精一杯向き合ってくれた証としての敬礼を返す、と、恋する女性と恋に恋する乙女の温度差まで織り込まれているのが、実にテクニカル。
「損な性分だな」
「……痛み入る」
つかさと咲也はなんだかんだ圭一郎に甘いのですが、この分も初美花で帳尻合わせをしているといえます。
そんな初美花の背中に視線を向ける圭一郎は、ある引っかかりを覚えていた。
(なぜ彼女が夢の中に居たんだ……?)
登場人物が考えるべき事を考え、気付くべき所に気付く気持ちよさというのは、『ジュウオウジャー』そして今作と、香村さんメインライター作品の特徴になりつつありますが、夢の中での接触がきちっと回収されたのは、サブライター回ながら香村さん的展開で、スタッフサイドのしっかりした意思疎通が窺えます(当然ある筈なのに何故か感じられない作品がたまにあるので……)。
荒川さんが得意のラブコメから豪腕でアイドル回に持ち込みつつ、今回も縦横無尽に仕込みを散りばめ、快盗戦隊の行く末は勿論ながら、朝加圭一郎というヒーローがどこへ行くのか、が大変気になってくるエピソードでした。
全体の展開に関わる部分ではもう一つ、「初美花が夢に囚われなかった」のが今回の話の都合ではなく何か理由があると良いのですが……服装だけは、初美花の夢にふさわしい服装(親友の居たあの頃)だったのが、果てしなく不穏。
そしてその不穏の根源たるザミーゴは、デストラと接触していた。
「これはこれはデストラ様。直々にお召しですか」
「……その為に情報を流したのだろう」
「……えひっ」
ロックアイスをかじるザミーゴとデストラの視線がぶつかりあい、ザミーゴの瞳に映るデストラが回転する、という意味深なカットで、つづく。
なお、ロックアイスは、コンビニで買っていたようです! 良かった!
……いやまだ、袋だけ市販のもので、中身は凄く不穏という可能性はありますが。
次回――満場一致でニンジンをシめる事にしました。