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『獣拳戦隊ゲキレンジャー』感想・第21話

◆修行その21「ビキビキビキビキ!カゲキに過激気」◆ (監督:諸田敏 脚本:横手美智子
「俺、なんのために戦うんだ?」
「激獣拳を裏切り、臨獣殿の当主になってまで、なぜお主は戦う?」
戦う意味を問い問われる、ジャンと理央。激獣拳ビーストアーツと臨獣拳アクガタ――因縁の両雄が再び激突しようとするその時、クラゲとタカは景気づけと勝利の前祝いを兼ねて街を破壊していた。
激臨の大乱とマスター達の過去の一端が明かされた事により、流派内部の内輪もめで小さくまとまりそうになってしまっていた物語の視野を、市街地の苛烈な破壊描写によって再び広げ直したのは良かったのですが、これに対して
「そんな……街を乗っ取るなんて卑怯だわ」
「街の平和も、この戦いにかかっているよね」
「だが彼らに、過激気が出せるかどうか」
「待とう。そして祈るのだ」
と、スクラッチ内部で待機して弟子任せのマスタートライアングル(&真咲)の株が、物凄い勢いで下落。
せめて、不闘の誓いにより戦えない自分たちに歯がみする、とかあればまだ違ったのですが、敵への批判と弟子達への不安に終始し、誰一人、直接の被害者達を気に懸けない為、悲鳴をあげ逃げ惑う市民達の姿を克明に描くほど、安全圏で不安だけ口にしている4人の印象が悪くなってしまいます。
今後の話の都合もあるのでしょうが、なぜ「不闘の誓い」なのか? 「不闘の誓い」を破るとどんなリスクがあるのか? も具体的に言及されていない為に、葛藤と選択の天秤がそもそも成立せず、正義を名乗っているのに今そこにある危難にまるで立ち向かおうとしない人達、と見えてしまうのも大失敗。
まあその辺り、マスター達は長命なので消えていく命の数百数千程度、既に達観してしまっているのかもしれませんが、それならそれで仙人としての扱いを徹底すれば良かったのに……と、ここまでの集大成的エピソードでパズルのピースがはまってくれません。
3000年間臨戦態勢でアースを鍛え続けてきた某ギンガの民とは違い、拳魔の腕輪強奪から臨獣殿の侵攻、更に拳魔の復活まで全て想定外の出来事だったのかもしれませんが、作風を明るめにしたかった事もあってなのか、それに対抗する激獣拳(拳聖)サイドの切迫感が著しく描写不足だった為、破壊スケールを大きくして風呂敷を広げ直したら、現状の人物描写と大きな齟齬が生まれてしまいました。
今作、「拳士ヒーロー」を成立させる為に、最初に風呂敷を広げて正義と邪悪の対決を大々的に銘打ったのですが、こうなるとむしろ、魔道に堕ちた怪拳士との局地戦が、実は世界の命運を賭けた戦いに繋がっていく……という逆の構造だった方が良かったのではとも思えてきて、掴みのインパクト&説得力と、シリーズ構成としての物語展開の両立の難しさを考えさせられます。
「拳魔の二人がが待ちかねてるわ。あんた達が負けたら、どんなに沢山の悲鳴が聞こえてくるんでしょうね」
「今日この場が、激獣拳の最後となる」
決闘の場にやってきたトライアングルを見下ろすメレ様と理央様、揃って素晴らしい表情(笑)
理央様は落雷とともに黒獅子となると疾風迅雷の動きでゲキレンジャーを蹂躙、クラゲやタカの技も交えて修行の成果を見せつけ、もはや、ひのきの棒のような扱いを受けるゲキセイバー(涙)
「しょせん過激気など幻か」
地面に這いつくばる3人を無視した黒獅子は、戦いの趨勢を見守るシャーフーへと向き直る。
「シャーフーよ、なぜ戦うのかと聞いたな。それが、俺の選んだ道だからだ。俺の内なる声が力を求め続ける限り、俺は戦い続け、勝ち続ける。臨獣拳は俺の求める強さをくれる」
「そんなに恐れるな、理央よ」
「俺が恐れるだと?」
「そうじゃ。儂にはお主の心のおののきが手に取るようにわかるぞ。まるで孤独な雛鳥のようじゃ。あの雨の日から、おまえはずっと恐れ、おののいておる」
「ほざけ! 俺は最強だ! そして今よりも強くなる。シャーフーよ見ていろ。おまえとこいつらの悲鳴が、俺の力となるところをな」
またも猫に煽られた黒獅子は手近のイエローを執拗に踏み続け、ラン、変身解除。生身のランに迫る追撃をかばう男を見せたブルーは派手に蹴り飛ばされて変身が解け、生身に激しい打撃を浴びる事に。
「そうだ、惨めに、何一つ抗えずに死ぬ。おまえらも、人間どもも、弱さゆえに」
黒獅子の昂ぶりを感じ取り、ほくそ笑む二人の拳魔。
「若獅子は、いい臨獣拳使いになった」
「あなたの植え付けた憎しみの力と、私の教えた妬みの力が、あの子をいっそう強くしたからよ」
「「ふふふふふふふふ」」
実に性格の悪い二人ですが、拳魔のこの徹底ぶりに対して、人数やガジェットとの兼ね合いの都合もあって、猫を除く拳聖が“強化アイテムの授与者”にしかなっていないのも、苦しいところ。そして、強化イベントを離れて個性を掘り下げていこうというエピソードで最初にした事が身内を裏切り者だと疑うだったのは、改めて大事故。
「力こそが全て。弱き者が果てるのは道理」
「……俺、俺、なんのために戦う……」
黒獅子に完敗して地面に転がりながら、虐げられる弱い者達の存在を感じ取るジャン……
「俺の力……俺の、激獣拳。なんの、ために、ある……?!」
前半に続きかなり直接的な描写で、拳魔の破壊活動に飲み込まれていく人々の姿が差し込まれ、スクラッチ待機組の拳聖達もそれぞれ映される事により、救助活動すら出来ない彼らの激獣拳がなんのためにあるのかも大変考えさせられます。
いっそ待機しているのがシャーフーで、その心中に触れる台詞が一つ二つあれば「不闘の誓い」の重さを伝える方向に出来たかもしれませんが、前回登場したばかりの3人では破壊に対して手をこまねいている印象だけが強くなってしまい、激獣拳の拠って立つ「正義」が行方不明で、少なくとも今回においてこの見せ方は大失敗だったな、と。
「なんのために……戦う? ………………わかった。俺がなぜ、戦うのか。やっと……わかった!」
そして肝心のジャン覚醒は、空を見上げて独り言を呟いていたら辿り着いてしまい、劇的なトリガーが非常に希薄で残念。
「守りたいからだ。みんなを守る。守りたい……! だから、俺は戦うんだぁぁぁぁ!!」
立ち上がったジャンの咆哮は、第1話における


「おまえゾワゾワする。ゾワゾワのキチキチ! 許さねぇ!」
を改めて自覚的に言語化したものであり、そこに激獣拳の「正義」の根源がある、というのはいっけん綺麗な繋ぎ方なのですが、激気の発現と過激気の覚醒が全く同じ構造になった事により、そこにここまでの修行の積み重ねが反映されているように見えないという、「学び」「変わる」を看板に掲げる今作としては、致命的なジャンプミス。
第1話で示された本質の上に、修行によって積み重ねてきたもの(含む「仲間の存在」)があってこそ至高の境地に手が届いた、という流れだったのでしょうが、積み重ねてきたものが何か、がエピソード内で全く描かれていないので、むしろ、「正義」という言葉を知らなくても身内から沸き上がる想いに突き動かされて行動した時に「正義」を体現する、という第1話の方がよほど劇的かつ説得力があります。
これが、道を見失っていた者が原点に戻って道を見つけ直す、という流れなら話はまた変わりますが、ジャン自身がそういうキャラクターでは無いので、敢えて言えば道を迷わせたのはゴリラであり、やはり理央様の事務所移籍の原因は、ビーストアーツのパワハラ体質なのでは。
加えて、諸々の説得力を補強する筈だった「仲間」要素も前回の今回で完全に投げ捨てられており、今回の戦いのどこにも「3人マッチリ」要素が無いのは、いっそ凄い(せいぜいレツがランをかばったぐらい)。
成り行きとしてはランとレツが瀕死になってからジャンが覚醒しているのですが、それではランとレツがジャンに「庇護される弱い存在」になってしまい、それはもはや仲間ではありませんし。トライアングルの関係性自体は、戦隊メンバーを3人に絞る事でそれなり積み重ねてきたと思うので、肝心の局面で空中分解してしまったのは、大変残念です。
一つ、積み重ねが活きている部分があるとすれば、ネガ存在である理央に研磨される事により、ジャンの激獣拳士としての人格が形成されている、といえるのですが、そうすると極端な話、過激気修得にあたって物語として最大のノイズはマスタートライアングルによる修行だった(要するに、スーパーゲキクローの供与者、にしかなっていない)という事になってしまうのが、大変困った所です。……まあこの後の展開を考えると、マスタートライアングル=新ビースト、を物語に上手く収める事ができなかった、という身も蓋もなく世知辛い話になってしまうのですが。
「なんだこれは?!」
「俺、今、ビキビキだぁ!!」
再び黄金の闘気を纏ったジャンは遂にスーパーゲキクローの起動に成功し、スーパービーストオン! これまで赤地に黒いアクセントだったスーツが、白地に赤いアクセントへと二段変身し、背中からジェット噴射したスーパーゲキレッドは黒獅子の反応速度を超えるパンチを放って岩壁に叩きつけると、ランとレツを叩き起こす。
「貴様ぁぁぁぁぁ!!」
「強いものが弱い者いじめてどうすんだ。みんなを守らなくてどうすんだ。理央、おまえは駄目だ!」
己の正義と強さの在り方を、ジャンらしくシンプルにまとめた、このテーゼは好きなんですが……
「そうだ……僕もみんなを守る!」
「守りたい……その気持ちがあれば、戦える!」
残り2名がそれに感化される形でスーパー化してしまうという、またも大失敗。
ジャンが自らの戦う理由を理解する事で過激気に辿り着いたならば、ランもレツも自分なりの「戦う理由」を見出さねばならなかったと思うのですが、それが「右に同じ」では、あまりに悲しすぎます。
物語のロジックとしては、心・技・体に偏っていた3人が、仲間の結束でそれぞれの壁を乗り越える事により、心技体全てが備わった超拳士として次のステージに進んだ、ということなのでしょうが、その結果として個々の存在が一つに塗り潰されてしまうというのは、個人的には大変いただけません。
三歩譲って「守る」気持ちが新たな力を生むという点は共有するとしても、せっかく第19話でトライアングルがそれぞれの信念を持って理央の“強さ”と対峙したのですから、3人が各々の視点から「守る」に到達するべきであり、ここは展開や尺の都合で妥協してはいけなかった部分だと思います。
ランとレツも続けてスーパービーストオンし、蒸気の噴出口と肩アーマーがついてややメカ要素の入ったスーパーゲキレンジャー、揃い踏み。

「過激にアンブレイカブル・ボディ、スーパーゲキレッド!」
「過激にオネスト・ハート、スーパーゲキイエロー!」
「過激にファンタスティック・テクニック、スーパーゲキブルー!」
「「「たぎる過激気は正義のために、獣拳戦隊・ゲキレンジャー!!!」」」

そして珍しい女性ボーカルの挿入歌で、オーラロードは開かれた!
「己の限界を、強い想いと、仲間の力で突破する。そうして噴き出した過激気が、生半可なものである筈がない」
どうやらスーパーゲキレンジャーのスーツ各所から噴出しているのは過激気の強制排気らしく、それを利用して宙を舞いながらカブトとクワガタを瞬殺する姿に、なんだかファイズブラスターフォームを思い出します(笑)
エネルギーそのものを身に纏っているイメージというか。
「俺は負けない……守る!」
スーパーゲキレッドは、過激気竜巻旋風脚で捉えた黒獅子をエアリアルコンボで空中に磔にし、スーパータイガー円錐パンチでフィニッシュ。追加コマンド入力により、背中を向けて歩き去るモーションまで完璧に入れて、黒獅子、大爆発!
これでもかという勢いで大変派手に爆発した黒獅子は理央の姿で倒れ、ゲキレンジャーは猫を救出。理央の敗北を知ったタカとクラゲはカブトとクワガタを巨大化し、対するスーパーゲキレンジャーは、ゲキゴリラ、ゲキペンギン、ゲキガゼル、のスーパーゲキビーストを召喚。その他ビーストも召喚してアニマル大行進でクワガタを撃破するもクワガタの臨気を吸収したカブトが強化されるが、獣拳合体し、概ねゴリラのゲキファイヤー、バーニングアップ!
(理央様のおののきが伝わってくる……これはなに? 怒り、悔しさ、それとも……?)
ゲキトージャと比べると色合いの渋くなったゲキファイヤーは、時代は横回転から縦回転、とスーパー駄々っ子パンチでカブトを撲殺。三位一体の闘気の巨人、という設定は、「ロボットを操縦する」という縛りを離れて新たな絵作りをという狙いもあったのだろうと思うのですが、3人並んで腕を振り回すの図は、どうにも格好良くなりません(笑)
「過激気か……。そうか、あいつ、白虎の男に連なるものか」
メレの肩を借りて立つのが精一杯の理央はジャンを見て何かに気付き、ようやく動き出す、ジャンの過去と理央の因縁。
「覚悟しておけゲキレンジャー! 俺は貴様等の存在を認めん。次は潰す!」
「それがお前の道なのか」
「そうだ。俺の目指すものは、その道の先にある!」
捨て台詞を残して理央様は退却し、激獣拳と臨獣拳、両者の死闘はますます白熱していくのであった! でつづく。
というわけで、3話かけたスーパーゲキレンジャー誕生編のクライマックスでしたが、主な問題点を整理すると、

1・市民の被害描写と待機している拳聖達のギャップが大きすぎて必要以上に印象が悪くなった。
2・ジャンのスーパー化への理由付けが第1話の繰り返しなのはともかく、そこに20話分の積み重ねがプラスされて見えない。
3・「仲間」の存在が重要どころか、むしろセット商品扱いに。

と、ホップ・ステップ・ジャンプで崖から転落、みたいな事に。
激獣拳の「正義」を体現しないどころか損ねてしまう拳聖達、むしろその「正義」を体現していたジャンの「修行」による成長がスーパー化と繋がらない、「修行」の説得力不足を補う為の「仲間」という要因が行方不明、と物の見事に負の連鎖。
塚田プロデューサーはかなり設定と物語を作り込んで脚本家にオーダーしていくタイプだそうですが、脳内で出来上がっている話と実際に映像で表現されているもののギャップが大きくなりすぎたのかな、と。
今回の展開から遡って考えると、ハンマー・ファン・ソードはそれぞれ、トライアングルの心・技・体の合格免許、という事だったのでしょうが、まるでそうは見えないまま、トライアングルが心技体の先に進んでしまって置いてけぼりにされてしまった感があります。
修行の進行・宿敵への完敗・弱点の克服による新たな三位一体・力を振るう理由の会得・覚醒と飛翔・宿敵の撃破・次の舞台へ、という建物の構造自体は納得いくのですが、それを構成する骨組みが穴だらけで脆いので、荷重を支えきれずにあちこちで曲がったり崩れている、というのがなんとも惜しい。
過激気を手に入れたゲキレンジャーが、強さのみを求めて破滅の道を突き進む理央様とようやく正面から向かい合えるようになったので、それがどうなっていくのか、というのは楽しみではあるのですが……。
そしてこの展開からおまけコーナーで、リクライニングチェアにふんぞり返るマスター三角形を団扇で扇いだりマッサージしたりかき氷を提供するジャン達、というパワハラシーンを、どうして描きますかね……。過激気への覚醒を大喜びする三角形を描いているので、ギャグになるという判断だったのかもしれませんが、ギャグになっていないんですよ……。