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『見たことも聞いたこともない』(原田宗典)

見たことも聞いたこともない (光文社文庫)

見たことも聞いたこともない (光文社文庫)

酢酸バーや柏手教室、にやけ止めなど、ありそうでなさそうでやっぱりない場所や物を書く短編集。
(確か)小学生の頃、何かの新聞に連載されていた『こんなものを買った』という、タイトルそのもののエッセイが大好きで、それ以来、原田宗典は私の中で独特の位置を占めるに到ってます。
好きだけど、読めない。
子供の頃に面白かったという記憶があまりに鮮烈に刻み込まれ過ぎて(しかも後に買った文庫版で更新されてしまった)、怖くて他の作品を読めなくなってしまったという(笑) そんなわけで、好きだと言っている割には実は2作目。
作品の傾向としては、フィクションはけっこうシリアスで、ノンフィクション(エッセイ)はユーモアが効いたものが多いそうなのですが、本作は語り手の「私」に作者自身がかなり投影されている部分も含め、フィクションではあるものの微妙にノンフィクション風味。神社の神主さんが正しい柏手を講習する「柏手教室」など、微妙にどこかにあるかもしれない、といったエピソードなど、フィクションとノンフィクションの合間を縫うような作品となっており、ユーモア短編といった趣です。
中身は、いい意味で“くだらない”、洒落のきいた法螺話の世界で、巻末解説の「スケールの小さいSF」という表現が、非常に的を得ている気がします。客同士がお互いに、相手が食べたそうな料理をおごりあう事で“おごり道”を究めんとしながら腹を満たす「おごり食堂」とか、なかなかに名作。
まあ、軽い気持ちで読んで楽しい小品といった所でしょうか。私は、段ボールのどこかにたぶん眠っている筈の『こんなものを買った』が凄い読みたくなってきました(笑)
これはホントに面白いので、たぶん今、古本でしか手に入らない気がするのですが、お薦めなのです。
こんなものを買った (新潮文庫)

こんなものを買った (新潮文庫)