- 作者: 柳広司
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2010/05/26
- メディア: 単行本
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主人公は、祖父に習った古武術の使い手にしてタフでクールなプロフェッショナル、というわかりやすいヒロイン。
ある事情で警察を辞めた元SPの冬木安奈は、現在は六本木のバーで働いている。ゲイを公言しているマスターの元で、タチの悪い酔客相手に時折用心棒めいた働きもする彼女であったが、いつしか、周辺の店のホステス等がストーカーめいた客にしつこく付きまとわれた時などに、その撃退を頼まれるようにもなっていた。生真面目な性分ながらも、目前の困っている人を見捨てられない性格から、そんな生活に流されつつある日、友人のホステス・リコを介して護衛を依頼されたのは、チェスの世界で不世出の天才と謳われる伝説のチャンピオンであった。依頼の内容、襲撃者、そしてその黒幕、ちぐはぐとした違和感を覚えながらも、事件に巻き込まれていく安奈であったが……。
そんなヒロインが、奇矯な天才チェスプレイヤーの襲撃事件に巻き込まれ……元警官である遵法精神の高さから依頼を断ろうとするものの、殉職した警官を父に持ち自らも警官となったその志ゆえに、依頼人を見捨てる事も出来ず、「必ず守る」と約束した上で、元上官に情報の提供を頼み込む……てあたりで、あれ?となるわけですが、何となく全体的に肩透かしというか、作者はもしかしたら読者の期待する展開をわざと外す事を面白いと思っていた可能性もありますが、序盤に繰り返して語られる組織から自らを切り離した主人公の葛藤が後半にあまり生きてこないのは、少々残念。
護衛対象のチェスプレイヤーも、それに絡めて作中に散りばめられたチェスがらみのネタも、あまり機能していたとは言い難く、なんとも中途半端。
主人公と周辺を取り巻くキャラクターの造形も含め、全てのネタが一歩二歩詰めたりない、という印象。
文章は読みやすいし話の展開もスピーディでわかりやすく、佳作、とは言えるかもしれませんが、そこ止まり。
大ネタである○○○○○○(一文字でも出すと勘のいい人だとすぐにわかってしまうので、全面伏せ字)に関しては、程々の出来。
というか、もしかすると、そうだと思わせない事が主眼なのかもしれないけれど、ちょっと読み慣れていると、すぐにそう思ってしまうと思うわけなのですが。……さっぱりわからないかもしれませんが、ジャンル読者というのは業の深い生き物であるという事で、そういう意味では、最初にどういう読み物だと思って入るかで、印象と感想が変わる小説かもしれません。
まあ、ミステリ読みには、あまりお薦めしません。
柳広司はこれで4作読みましたが、どれも数歩分、食い足りない、という感想になってしまったなぁ。