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『虹の家のアリス』(加納朋子)読了

会社を早期退職して若い頃からの念願だった「探偵」になった主人公と、押し掛け助手の少女が、零細探偵事務所に持ち込まれるささやかな事件を解決していく、ミステリ短編集。
一読して、私の中の加納朋子株が、2段階ぐらい(謎)上がりました。
まあ、同作者の『ななつのこ』はあまり面白く感じなかったので、このシリーズが好き、というのは有るのかもしれませんが。なんとなく、主人公・仁木が、私の好きなパーネル・ホールの探偵ヘイスティングスを彷彿とさせる辺りとか。仁木の方が更に年を取ってはおりますが、「夢」という言葉に弱くて随所に中年男の哀愁が漂ってしまう、とかそういう状況設定というものは結構好きなのかもしれない。
男の人はある程度結局、子供の部分を切り捨てられない自分、というのが好きなのですよ。子供で居られないのも夢を追い続けられないのもわかっていて、現実にそこへ走る気もないのだけど、その部分を抹消しないで抱えておきたい自分、が好きなんです。これ、複雑ですけど(笑)
というわけで、娘ほどの年の助手に振り回されたり助けられたりしつつ、有閑マダムの井戸端会議に出席したり、息子の結婚問題を考えたり、事務所の採算に頭を悩ませながらも私立探偵として自立しようとする主人公の姿が涙ぐましくも微笑ましいのであります。
収録作品では、表題作の「虹の家のアリス」が一番好き。
育児クラブに起こる謎の悪戯を追いかける内に――という話で、キャラクターの使い方と、美しいオチの付け方がお見事。こういう小説を書ける人は、素直に尊敬です。

虹の家のアリス (文春文庫)

虹の家のアリス (文春文庫)