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最近読んだ小説・2

続けてUPするつもりが、体調不良で遅れて、なんで1なのか謎な状態になっていましたが、これが2になる予定だったんですはい。

扉は閉ざされたまま (ノン・ノベル)

扉は閉ざされたまま (ノン・ノベル)


大学のサークル仲間が集まった同窓会で、伏見亮輔は後輩の新山を殺害し、現場を完全な密室に偽装する。
閉ざされた扉の外で、部屋から出てこない新山をいぶかしむ仲間達だが、明確な打つ手がない。寝坊、事故、果ては自殺説までが飛び交う中、仲間の一人、碓氷優佳だけが僅かな齟齬から疑惑を募らせ、伏見を追いつめていく――。果たして伏見の計画は成功するのか。閉ざされた扉の外で、行き詰まる心理戦が展開される――。
いやこれが、凄い面白かったです。
終始、ロジカルに組み立てられた一種の閉鎖環境(開けようと思えば開けられるのだが、色々な理由があってその手順がなかなか踏めない)の中で物語は進んでいき、究極的には「扉を開けるか開けないか」という所に全てが集約されるという野心的な佳品。
特に優れているのは、一つ一つはそれほど奇異でもない有り得る設定が、重ねられて組み合わさった時に、きちんとしたロジカルな障害として機能するようになっている事。作中で突飛なのは、探偵役のヒロインの性格というか人格ぐらいのものです(笑) そのヒロインにしても、普段はちょっと賢いまともな一般人を装っている、という設定なので、通常いたって普通。そして、この普通、日常の延長線上という要素も作品のキーの一つになっている辺り、実に見事。
物語は倒叙形式で進み、一人称ではないものの話を進める主観となるのは、殺人者、伏見亮輔。殺人、というよりも、閉ざされた扉の向こうで新山がどうなっているかそのものを隠匿しようとする伏見と、僅かな疑念から、それを追求していく碓氷優佳。サークル仲間4人を交え、優れた頭脳を持った二人が、お互いの思惑を抱え、激しく、しかし見えない火花を散らします。
ここで面白いのは、間に挟まれたサークル仲間4人が、お互いにとって友好的な人々であるという事。互いを牽制しつつ、同時に仲間達を誘導しつつ……という探偵役vs犯人、という1対1の構図になりきらない辺りが、ちょっと変わった味付けになっています。
そして、犯人も犯行方法も最初から明示されているこの小説の最大のキモは、「誰が犯人か」でも「密室トリックの謎」でもなく、
「なぜ密室は造られたのか」
すなわち、密室に対するホワイダニット
偶然の密室でも衝動的殺人の隠蔽でもなく、計画的に造られた「密室」。
その「なぜ密室にしなくてはいけなかったのか」が解きほぐされた時に、全てが明確に解明される構成の巧さ。アイデアもさることながら、作劇に感心させられる逸品。
あとこの小説で面白い所は、完全犯罪を成し遂げたと思ったその場に運悪く名探偵が居た時の犯人の心理がリアルタイムで描写されている事(笑) これはなかなか読めません(笑)
それと個人的に、ヒロインであり探偵役の碓氷優佳が凄い可愛かったんですが、このキャラを可愛いと思う人は、多分かなり少ない。そしてこの娘のキャラクター性を受け入れられるかどうかで、この作品への評価は少し変わるかも。
作者はたぶん意識して書いているわけでは無いとは思うのですが、この作品自体がある意味で“裏返し”な作品の為か、結果的に舞台設定のかなりの部分がいわゆる“本格”派の裏返しになっていて、ミステリは好きだけど、“(新)本格”の人達のデコレーション趣味についていけない、という方にはけっこうお薦め。
それ以外の方にも、お薦め。
以下、ネタばれを含んだ感想。
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以下、ネタばれあり
といっても、書きたい事は一つだけなのですが。
この小説が作劇的に素晴らしいのは、ミステリであると同時にラブストーリーである事。
しかも、裏筋であるラブストーリーが、ちゃんと本筋とシンクロした上で進んでいき、本筋と同時にクライマックスを迎える事。
そして名探偵が事件の真相に関与する事によって、“完全犯罪”*1が探偵と犯人、二人の共作になる事。
素晴らしい。

*1:もっとも、厳密には作中のその後は描かれないのでどうかわかりませんが