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野球の特別扱いに、一番甘えているのは誰なのか

要望があったので、その後また色々と話は動いていますが、とりあえず18日に発表された「セリーグの3/25開幕発表を受けての、選手会の公式声明」が、それまで各選手が出していたコメントに比べて遙かにまともで頷ける内容(書き方)であった事に関して。
全文はこちらをご参照下さい。
〔3月25日セ・リーグ開幕決定についての声明文/日本プロ野球選手会〕
勿論、インタビューに答えた発言(記者に切り貼りされている可能性もある)と、推敲可能な文章、時間経過の差、などと色々と条件の違いはありますので、単純に比較できるものでもありませんが、同じ主旨でも、言葉の選び方次第で、全然違う印象になるというサンプルとしても。


選手会の総意としてあらためて、3月25日のセ・リーグ開幕を延期すべきであることを要望いたします。
冒頭、開幕延期の要望、という主旨は最初から終始一貫しています。
で、次に来るのが「電力問題」(代え難き現実、の部分)

それでも強行するなら「電力事情や安全面も配慮するデーゲームでの開催等の方法を検討するべき」(一歩退いた条件提示)

要望が理解されなければ、対抗処置の示唆

そして、自分たちの社会的な意義について
いまプロ野球が何をすべきかを共有して、社会に貢献しなければならないこの時期
選手会も、一日も早く、被災者や社会を勇気づけるために試合をしたいという気持ちは同じです
最後に、「社会」という単語も入れた上で、自分達の気持ち(前向き)
−−−−−
これは、いい文章。
ここまでの間に広く報道された何人かの選手コメントとレベル差がありすぎて、誰かいいブレーンが居たとしか思えない。
で、個人を槍玉にあげる気はありませんが、比較サンプルとして丁度良いので、金本のコメント。
元記事に「800字を超えるコメントを発表」と書いてあるので、喋ったのでなく、文章みたいですし。
全文はこちらをご参照ください。
〔金本「勇気与えるとかいう状況じゃない/日刊スポーツ〕

阪神選手会は開幕延期に賛同しました。僕もその意見に賛同しました。今、被災者の方々のことを考えると、野球どころじゃない。批判されるかもしれないけど、僕個人としては、そういう気持ち。
冒頭、開幕延期に賛同、という意見表明は同様。
その直後にまず、自分の気持ち。
あと改めてやはり、「野球どころじゃない」と、プロ野球選手が言ってはいけない。本心では思っていても、オープンで口に出してはいけない。直接の被災者なら話は別ですが、それは職業人としての禁句。

僕らが野球をやっても、被災者の精神状態も、そういうレベルじゃない。

今は野球を見て楽しもうとか、そういうレベルじゃない。
とにかく前半部分、(被災者に勝手に仮託した)ひたすらネガティブな自分の気持ちの羅列。

僕が開幕を焦らず、反対している理由には、電気のことがある。
全体の半分を超えてやっと、現実的問題の話。

放射能もそう。海外の大使館は退去命令を出しているという。そんな中、ファンも数時間野球を見て、危険にさらされる可能性がないわけじゃない。
万が一の考慮は理解できますが、一歩間違えると、風評被害じゃないですか?

サッカー日本代表も国際試合をしようとして、抗議メールが殺到したと聞く。
締めは他人の話。
−−−−−
個人を槍玉にあげる気はない、と書きましたのでこれ以上は書きませんが、今回の一連のプロ野球選手のコメントに、どう解釈しても、「被災地の気持ち」でも「社会の事」でもなく、「自分の気持ち」を第一に置いている、というのが見えるわかりやすいサンプル。
それの良し悪しに関しては人それぞれかと思いますが、私個人は、それを支持できない。
以上、主題は同じでも頷ける文章と、頷けない文章の比較、でした。
〔現実問題→妥協案提示→対抗処置の示唆→表現者としての姿勢・社会における存在意義→個人の感情〕
〔個人の感情→表現者としての姿勢・社会における不要さ→現実問題→他分野への同調の促し〕
というのが話の順序立てとしての違い。
無論、金本のはあくまで個人的に出したコメントですので、声明文との性質の違いに関して一定の考慮はするべきでしょうが、本人も自分の立ち位置と影響力をわかった上で書いているのだろうから、あまり気を遣わなくても良いという気もする。
後これも繰り返し書きますが、2軍、開幕してます。それこそ、金本が「野球どころじゃない」とコメントしている時点で既に。
〔ウエスタン・リーグが開幕!中日、広島が勝利/sanspo.com〕
イースタンもしました)
2軍開幕しているから1軍も、という話ではなく、選手(達)会が「個人の気持ち」を第一に尊重する組織だというのなら、2軍選手の気持ちも考慮して、2軍の試合も中止するように要望しなければそれは自己矛盾である、という話。
実際今回、一軍レギュラークラスの選手コメント聞いていると、彼等にとって「2軍選手は人じゃないの?」みたいな事は思う。まあプロの世界だから、それぐらいの事は思っているのかもしれないけど、その点も今回、選手会も、「野球どころじゃない」コメントしているスター選手達も、そろって信用しきれない点の、一つ。
そういう点からも、「個人の気持ち」を最後に置いた、18日の選手会声明文は、「正しい」のです。
ところが今度、文部科学省の要請を受けた形で「29日開幕」をセリーグが発表すると、

新井「29日(開幕)という想定はしてませんでした。最初からセ・パ同時開幕で、ということをいっているので、思ってなかった…」
〔3・29セ開幕、新井選手会長「想定外」/sanspo.com〕
いや、ええと、念のためにまた読みましたが、声明文に「同時開幕の希望」なんて、一言も書いてませんでしたが。
折角うまくまとめた文章を誉めたのに、そういう主張があるなら、盛り込んでおいて下さい。
声明文そのものの効果すら怪しいのに、個人が「最初から言っていた」事など箸にも棒にも引っかからなくて当たり前で、むしろ後から何を付け足しているんだという事になりかねません。それから仮にも交渉窓口(になってないのでしょうけど)のトップに立っているのだから、ありとあらゆる条件を想定してください。そうしないと、条件交渉の駆け引きすら成り立ちません。
で、新井は今日のOP戦は出たの?
新井の立場ならむしろ、「野球どころじゃない」、今の最大の仕事は「リーグとの交渉」じゃないのかなー。
嫌な言い方しますが、彼等(選手達)にまともな交渉能力も政治的立ち回り能力も無いのは、彼等の咎です。基本的に雇用される側として立場が弱いというのはありますが、一連の問題における選手会及び個々の選手の発言と動きにはとにかく感心しないし、覚悟が足りていない。
例えばセリーグが25日開幕を発表した直後のコメントも、新井「悔しい」とかサブロー「セリーグの選手が可哀想」とか、いい年した社会人のコメントしては、全く誉められない。
そんな感心しない中で一つだけ感心したのが、冒頭に取り上げた声明文(だったのですが……)。
あれがまず、基本の位置。
あそこから始めないと交渉にならない。
で、もし「選手会にはそんな力はありません」と言うなら、選手会など解散してしまえばいい、と思う。
私は今回、そのレベルで無様だな、と思って見ています。
念のために書いておきますが、オーナー連を全面的に支持しているわけでもありません。今回、選手会も含めた上で日本プロ野球そのものの立ち回りが最低だと思っている。
だからとにかく、全てが一ファンとして、残念。
で、一つ思い至ったのですが、前々からの傾向として感じてはいたのですけど、日本のファンって基本的に「選手に優しい」んだろうなぁ。
そこに足が置いてあるのか、と思うと、色々とわかる部分はある。


あ……今、わかった。ピンと来た。結局だらだらと書いてきて、ようやく、私が感じる温度差の核心に触れられたのかもしれない。
今回私が、選手達の発言に対して、感情的な「残念」以外になにか違和感を抱いていたのは、本来なら先に立って「非常時でも野球は必要」と言わなければならない人達(それでご飯食べているのですから)が、むしろ自ら「非常時に野球なんて」と言ってしまう事にあったんだ。
それは理屈で正論かもしれないけど、根本的な所で「棒きれで球を遠くまで飛ばした人が誉められる遊び」(或いはその逆)をしている人達が自らそれを言ったら、何もかもおしまいなわけです。
私、プロ野球ファンだからエキサイトしていますが、一連の開幕問題って、野球に興味ない人からすれば「やらなきゃいいじゃん、野球なんて」の一言で切り捨てられる話だと思うのです。
何が読めてないって、プロ野球の選手達&ファンが、本質的な部分でそれを読めていない気がする。
その「やらなきゃいいじゃん」が“今”だけではなく、もっと長いスケールでなりかねない、という事を。
それなのに、何だかよくわからないけど(一部の)選手達は「今は野球の気分ではない」けど、「開幕延期すれば被災地にも余裕が出てくる」(←繰り返すけど、思い上がり、というのはむしろこれ)し「開幕延期すれば電気の問題はなくなる」から、自動的に「野球の出番が来る」と思っているらしい事が透けて見える事、が引っかかっていたのか。
それはよく言えば自分達の仕事への信頼なのかもしれませんが、現状単なる太平楽という気もします。
それが仮に建前でも、今「野球に出来ることを」自らアピールしなくて、「非常時に野球なんて要らないのだから、今シーズンは中止」と言われた時に、どうするのか。
或いは、それを受け入れる所までの覚悟があるのか?
何がなんでも開幕強行がベスト、とは思いませんが、野球の存在意義なんて簡単になくなりかねない、という事はもう少し意識してもいいように思う。選手もファンもそういう本質的な危機感が足りないから、安易にああいう発言が出てくるのかも、と思うと納得。
要するにこれもまた、「野球だけは永遠不滅」という、ファンも含めた球界の楽園妄想なのかもしれません。
これも安易に比較できる話ではないですし、事の是非はまた別問題ですが、恐らく今回、“そういう危機感”を一番強く持って動いたのが競馬界なのだろう、という事は付記しておきます。