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春に読書の波が来た

○『新釈 走れメロス 他四篇』(森見登美彦


 京都吉田界隈に、一部関係者のみに勇名を馳せる、斎藤秀太郎という孤高の学生が居た。ただひたすら文章にのみ情熱を注ぎ、留年と休学を巧みに使いこなして大学に居続けながら、11年の歳月が流れたが、その文明は一向に世に轟く事がない。その年の祇園祭の晩、宵山見物に出かけて帰宅した秀太郎は、深夜になって突然、「もんどり! もんどり!」と叫びながら闇の中へ駆けだし、それっきり二度と下宿に帰ってくる事は無かった。そして誰一人、その行方を捜す者も居なかったのである――。(「山月記」)
山月記』『藪の中』『走れメロス』『桜の森の満開の下』『百物語』という五つの名作を、舞台を現代の京都に置き換えて語る短編集。
性質上、元ネタを読んでいてこそ面白いという内容の為、読んだもののほとんど覚えていなかった「桜の森の満開の下」と、読んだ事が無かった「百物語」は、いまいちピンと来ませんでした(^^;
面白かったのは、元ネタの印象が強い上で、奇天烈で馬鹿馬鹿しくて、その上で幻想が天井を突き抜けていく著者の作風とピッタリ合った、「山月記」。もんどり! もんどり!


○『宵山万華鏡』(森見登美彦

 バレエ教室の帰りに姉とはぐれてしまった少女、祇園祭司令部特別警務隊に捕まった観光客、3万円とお世辞に目がくらんで大騒動に巻き込まれる大学生、15年前の宵山で従妹を見失った女性、迷宮をさまよう画廊の男、妹を探して宵山様の元を目指す姉……宵山の夜に虚構と現実が交錯し、幻想的な螺旋を描く連作短編集。
ある宵山の夜の出来事を6つの視点で描き、それらが少しずつ重なり合って一つの物語を成している、という連作短編集。祭の夜に繋がった、こちら側と向こう側の狭間の話、といったファンタジーで、なかなか面白かったです。全体的に、馬鹿話というより幻想譚寄り。
お気に入りは、ある出来事の表と裏を描く、「宵山金魚」と「宵山劇場」。
森見作品は後、日本SF大賞を受賞したという『ペンギン・ハイウェイ』を読みたいなぁ。


○『三階に止まる』(石持浅海

 僕が入居した賃貸マンションは、駅から徒歩5分で家賃も格安、居住者達も皆気持ちの良い優良物件だが、一つだけ、問題があった。エレベーターが、いつも必ず、三階で止まるのだ――。全8編収録の短編集。
表題作は、以前に読んだ『二歩前を歩く』と同シリーズで、友人や同僚から日常の些細な謎の相談を受けた探偵役・小泉が、その秘密を解き明かすというもの。著者のシリーズ短編は、フォーマットの統一が、導入の適当さや悪い意味でのパターン化に繋がってしまう場合がしばしば見られるのですが、このシリーズはその特性上、結末の多様性が維持されており、今作も面白かったです。
短編集としても、2003〜11年にかけて雑誌などに掲載された作品+描き下ろし1篇という事で内容のバリエーション豊富で、ピンキリはあるものの、それなりのアベレージ。表題作以外だとお気に入りは、掌編ながら会話劇と発想の逆転に著者らしさが綺麗に収まった「ご自由にお使い下さい」。