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『クロスボーン・ガンダム ゴースト』1巻――銀色の幽霊

「きみは見てはいけないものを見――引き当ててはならない真実を引き当ててしまった。だから、この先取るべき道はふたつしかない。われらと共に来るか。ここで死ぬかだ」
クロスボーン・ガンダム ゴースト』長谷川裕一)1巻入手。おおお! これは! 面白いぞ!!


物語の舞台は、宇宙世紀0153年。コスモ・バビロニア建国戦争(U.C.0123)、木星戦争(U.C.0133)などを経た地球圏では、徐々に力を蓄え地球連邦から独立独歩の機運を高めるコロニーの増加が、皮肉にもコロニー間の抗争と勢力争いへと繋がっていた。時、“宇宙戦国時代”……サイド2に勃興し勢力を強めたザンスカール帝国は地球へ侵攻、宇宙と地球、宇宙と宇宙、戦火は激しさを増していた。
地球から最も遠いサイド3の一角、かつてジオン公国の首都であったコロニーに暮らす少年フォント・ボーはある日、ネットに流れていたデータを興味本位で開いた事から、ザンスカール帝国の軍事機密、<エンジェル・ハイロウ>の情報を入手してしまう。帝国に追われる身となったフォントの前に姿を現す、謎の男と少女。そして……
宇宙世紀0153年――これはおれが、ウサギを抱いたアリスと“蛇の足”に出会ったことから始まる“銀色の幽霊”にまつわる記録だ……。そしてその幽霊の名は――
我が偏愛してやまない『クロスボーンガンダム』(作:富野由悠季/画:長谷川裕一)の新シリーズ登場!
クロスボーン・ガンダム』(富野由悠季シナリオによる本伝)→『スカルハート』(後日談的短篇集)→『鋼鉄の7人』(長谷川裕一オリジナルによる続編にして完結編)
を経て、物語の舞台は『鋼鉄の7人』の17年後!
率直な所、『鋼鉄の7人』は好きではなくて個人的に黒歴史扱いだったのですが、物語として当然踏まえてはいるものの、17年のジャンプをした事により登場人物が基本的に一新された事で、新たな気持ちで読める構造になっています。あのキャラクターも、ほぼ新キャラクターとして立っているので、あまり引っかからずに読む事が出来る。
物語の発端となるのは、TVアニメ『機動戦士Vガンダム』においてザンスカール帝国の最終兵器として登場した<エンジェル・ハイロウ>、という事で『クロスボーン・ガンダム』の延長線上にある『Vガンダム』の時代を舞台とし、『Vガンダム』の物語を背景としながらストーリーは展開していきます。
いわば、クロスボーン・ガンダム』の新作にして、『Vガンダム演義あるいは偽史『Vガンダム』とでもいう物語。
まずはここを突いてきたのが巧い。
この辺りは『機動戦士ゼータガンダム1/2』で見せたような、原典の要素をうまくつまみながら“あったかもしれない”物語を紡ぐ、ストーリーテラーとしての作者の手腕が存分に発揮されており、方向性としても期待。
主人公の暮らす、かつて一年戦争震源地だったサイド3が、70年の時を経た今、“戦争から遠く離れた場所になっている”というのを織り込む事で、パロディでは無しに歴史の皮肉な構図が盛り込まれている辺りも、実に巧い。
そんな環境で暮らす主人公フォント・ボーは、学校のクラブで作っているAIの外見を美少女に設定し、自分のサイトではネットに溢れる様々なデータから変わったMSのデータを集めてきてはそれについて熱く語っているという、メカヲタクの高校生。
「すごいよ! こいつのサイトは。GPシリーズとかハーフZとか、聞いたこともないヘンなMSのデータでいっぱいなの」
GPシリーズは実在したんだよ! ちゃんと調べたんだよ! ハーフZは自信ないけど……」
ある日フォントは、ネットに流れていたザンスカールの軍事機密のデータをそれと知らずに入手してしまう。その名は、<エンジェル・ハイロウ>。発動すれば全人類を幼児退行させられるという、あまりに有り得なさそうな巨大マシンであったが、それ故にフォントはその存在に現実味を感じ、同時に<エンジェル・ハイロウ>には“対になるパーツ”が足りていないと考えを巡らせる。その彼の前に現れる、ウサギのぬいぐるみを抱えた不思議な少女ベルと、褐色の肌にサングラスをかけた男カーティス。
木星から来た――“蛇の足”だ!」
木星の特殊部隊を名乗る謎の男との会話中に、学校を襲撃する、大型モビルワーカー・サンドージュ! その狙いは……フォント・ボー!
「“エンジェル・コール”を知っているな?」
ザンスカール兵が告げる、その名が意味するものは何なのか?
追い詰められて絶体絶命のフォントの前に、“銀色の幽霊”が姿を見せる――!
『Vガンダム』の世界観を背景に、『クロスボーン・ガンダム』本伝を引き写しつつ、謎の兵器、少年と少女の出会い、そして冒険の始まり! と物語のツボを押さえながら転がっていく構成はさすがベテランの技。特に物語の構成が、本伝の引き写しになっているというのは、実に心にくい。
あと、ザンスカール系のトンデモMSは、長谷川世界がよく似合う(笑)
名前の凄い主人公は熱血少年タイプではなく、ちょっとヲタク系と、少しばかり変化球。巻末インタビューによると、作者も始めて付き合うタイプとの事。その主人公の機転が発揮される中盤のネタは、その設定をそう使ってくるのかっ、と実に面白い。
ヒロインは……ええ、まあ、いつも通りです、はい。法律なんかに負けないぞ!(おぃ)
長谷川祐一とは女性キャラの趣味は残念ながら合わないんですけど、もう、この人が漫画書く原動力だから仕方がない(笑)
毎度の事ながら、決して画力が高いというわけではないもののメリハリで見せる演出は健在。テンポよく進むストーリーに作者のSF趣味も絡み、今後の展開に期待大のシリーズ。
クロスボーン・ガンダム』が好きだった人には、お薦め。
ところでなんと、最初の『クロスボーン・ガンダム』連載開始からちょうど17年経過しているとの事。
途中で各種ゲームに参加した事で知名度が上がった事もあり、それだけ生き延びたというのも凄いけど、長谷川裕一という漫画家の、変わらない感じも凄い。勿論よく読み返すと、タッチの変化はあるにはあるのですが、全体の印象が凄く変わらなくて、良くも悪くも17年の歳月を感じさせない、少年漫画書きとしての長谷川裕一というのも、漫画家として実に面白い存在。
巻末インタビューによると物語の構想自体はかなり固まっている様子なので、綺麗にまとまってくれる事に期待。
2巻ではもう少し、部数が増えるといいなぁ!(笑)