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『鳥人戦隊ジェットマン』感想35

◆第47話「帝王トランザの栄光」◆ (監督:東條昭平 脚本:井上敏樹
頭を打った影響で、日本トマト化計画を進行するも失敗に終わったトランザは、巨大な銃を手に、いよいよ自らジェットマンとの決戦に挑む。
「短い間だったが、ジェットマン。貴様達とのお遊び、なかなか楽しかった。だが俺も飽きっぽい性格でな。今日こそ全ての片を付けてやる。チェックメイトだ」
暴力と恐怖による支配が限界を迎えながらも、虚勢を張り続ける帝王トランザの姿には、くしくも自ら口にした「正義とは悲しいものよ。負けるとわかっていても、戦わねばならぬとはな」とは逆の、悪の悲壮さも見える所。
また、トランザが支配したバイラムというのは、バイラムが支配した地球のいわばミニマムな未来予想図ともなっており、たとえ悪がどんな栄華を得ようとも、悪は悪の性質ゆえにいずれ崩れ去るのだ、というオーバーラップになっているのも地味に巧い所。
それがまた、ではそれに打ち勝てる「正義」とは何か? という今作の問いを引き立たせています。
白いスーツにバラの花束を持って竜の前に現れたトランザは、レッドホークを捕らえると何故かブランコに乗って高笑いという、テンション高い演出。
これは、玉座→揺れるブランコ→×××、とトランザの座る場所が変わるという、三段活用なのか。
仲間が駆けつけてレッドを助け出し、本気のトランザと5人のジェットマンがぶつかり合う、力の入ったアクションシーン。トランザはイエローに投げ飛ばされるが、木の幹を蹴って脱出すると反動きりもみキックを浴びせ、倒れたイエローを巨大な銃――バイオガンでシューティング。すると何と、イエローが石版に変わってしまう!
「狩人は獲物を剥製にする。この彫刻こそ、貴様達の剥製」
続けての攻撃で竜が谷底に落下し、散り散りに逃げる残り3人を、トランザは余裕の笑みで追いかける。
「俺の手で1人1人、片付けてやる。ふふふふふふ」
一方、気絶した竜に近づく1人の男――それはゴミ捨て場ダイブを経て男としてのレベルをまた一つ上げ、地上を徘徊していた大介さん(仮)であった。大介さん(仮)は甲斐甲斐しく竜の傷を手当てすると、肩を貸して立ち上がらせる。
「俺もトランザを憎む者。俺の事はどうでもいい。急がないとおまえの仲間達が危ない。俺達2人の力を合わせれば、或いはトランザに勝てるかもしれない」
ここでまさかの、かりそめの友情リベンジャータッグ結成(笑)
内心(誰だこいつ……?)と思っている竜ですが、思えば過去にも異次元の戦士がバイラムとの戦いに協力してきた事があるので、シリーズ通しては受け入れる説得力が生じています。
2人は山道を進み、足を滑らせた竜に必死に手を伸ばす大介さん(仮)。
「駄目だ、このままじゃ2人とも……手を、手を離してくれぇぇ!」
「諦めるな! 貴様は戦士、俺も戦士だっ」
前々回の感想で書きましたが、今作は基本構造として、お互いを信じ合う事を学んでいく「正義」と、他者を見下し利用する事しかできない「悪」の対比というのが重視されているのですが、それを一つまとめてきた直後に、表向き「正義」と「悪」が壁を乗り越えて手を組む(竜は自覚ないけど)、そして友情プレイで盛り上がるという、掟破りが衝撃的で、煽れば煽るほど、面白い(笑)
加えてここで、竜の魂のワードである「戦士」を悪の象徴であるラディゲが持ち出しており、非常に悪辣。
一話から長らく振りかざされてきた「戦士」という言葉が遂にここで、“それは一番大事な事ではないんだよ”と暗に示されます(もともと、竜の掲げる「戦士」は、竜の精神を防衛する為の逃げ道ではあったけれど、その重要性が物語の中でも明確に揺らがされる)。
一方、トランザはわざわざジャケットに着替えたりエレベーターボーイにコスプレしたりしながら、アコと香を次々とバイオガンの餌食とする。竜と大介さん(仮)の友情の歩みの合間に挟まれる追跡シーンは、街中の人混みの中、というのが日常の中に紛れ込んだ異質を強調し、緊迫感を高めました。
残った凱もバイクでのチェイスの末に石版にされてしまうが、そこへやってくる友情リベンジャーズ。
「貴様の剣に、2人のエネルギーを籠めるんだ」
孤独な悪の帝王に見せてやる! 受けてみろ! 俺達の! 篤い友情!!
レッドホークと大介さん(仮)は友情の力でバイオガンの弾丸を跳ね返し、壊れる銃。
「今だ! ――飛べ、レッドホーク!」
ジャンプの踏み台になる大介さん(仮)、ノリノリ。
レッドホークは空中からトランザに会心の一撃を浴びせるが、しぶといトランザはレッドホークに組み付いてその自由を奪う。
「おのれ!」
「動くな! レッドホークの命はないぞ!」
大介さん(仮)をレッドと篤い友情で結ばれたお友達だと思いこむトランザは、人質作戦で正義の味方の足を止めようとする、が……
「……ふふふふふふふ。トランザ、しょせん貴様は流れ星! いかに輝こうと、墜ちる運命にあったのだ!」
急に様子の変わる大介さん(仮)、最高に楽しそうです。
「なに!? 貴様、いったいっ」
「ふふふ、はぁぁぁぁぁぁぁっっ!!」
「ら、ラディゲ……」
「馬鹿な!」
「レッドホーク、もはや貴様にも用は無い。2人揃ってあの世へいけ!」
友情をあっさりどぶ川に放り捨てたラディゲが怪光線を放ち、レッドは咄嗟に体を入れ替えて、トランザでそれをガード。ダメージを負ったトランザを投げ飛ばすと、突撃してきたラディゲに振り向きざまのカウンターを浴びせ、返す刀でトランザを刺突。再び振り返ってジャンプからラディゲを銃撃すると、続けてトランザも銃撃、とシンプルながら赤の鮮やかな立ち回りが非常に格好いい戦闘シーン。
直前までラディゲが全て持っていっていたのですが、ここできちっとヒーロー側に主導権を取り返しました。
……そしてラディゲ、あんなに盛り上がっていたのに、あっさりとレッドに撃退されているよラディゲ……(笑)
バードブラスターの一撃でパワーグローブが壊れた事により、石版と化していた4人が復活し、復活したジェットマンはファイヤーバズーカーで帝王トランザをシュート。直撃を受けたトランザは重傷を負って崖下へと吹き飛ばされる。
「馬鹿な……この俺が、帝王トランザが……」
その落下地点に待ち受けていたのは、手段を選ばず復讐を成し遂げたラディゲ! ゴミ捨て場から這い上がったラディゲはその剣を倒れたトランザの手に突き立てると、愉悦の嘲笑を浮かべる。
「トランザ。俺の名を言ってみろ」
「ぁぁぁぁ、うぁぁ、ら、ラディゲぇ」
「なぁにぃ? ――トランザ、俺の名を言ってみろ」
「ら……でぃげぇ」
「なに? 「ラディゲ」だとぉ?」
最高にいい笑顔で、ラディゲはトランザの心身と尊厳をぐりぐりと踏みにじり、上から白い歯を剥き出しにするラディゲと、愕然とした表情で何とか抜けだそうと藻掻くも絶望していくトランザとの対比が、実に素晴らしい。顔出しの悪役同士の絡みとして、非常に良いシーンになりました。
そして――――
「ラディゲ様ぁぁぁぁぁぁ!!」
帝王トランザ、職務上のストレスで、遂に崩壊。
「そうだ! ――だが殺しはせん。人間として生きながら、一生俺の名を恐れるんだ! はははははははっ」
意趣返しを完遂したラディゲは高笑いしながら去って行き…………後日、城東脳神経外科病院。
「あの患者、まだ身元が分からないのか?」
「ああ。酷いもんだよ。脳神経がズタズタにやられてる。一生あのまんまだそうだ」
虚ろな表情でヨダレを垂れ流す車椅子の患者、その男の顔は……
車椅子の男は閉鎖病棟に運び込まれていき、鉄格子の扉が閉じ、絶叫する男が取り押さえられる所でホワイトアウトして、つづく。
衝撃の廃人エンドで、「もしかあの子が好きならば」どころではない!(笑)
ジェットマン側に視点を戻して大団円、というのをやらず、衝撃のシーンのままエンド、というのを何度かやっている今作ですが、その中でもとびきりの1本。
トランザ廃人に、というのは、役者さんのアイデアだそうですが、役者さんの発案も凄いけど、それを真っ正面から撮った東條監督も凄いし、プロデューサーサイドもよくOK出しました。
で、こんな回のサブタイトルが「帝王トランザの栄光」で、それは車椅子の上の虚無である、というえげつなさ。
トランザ退場編という事で、派手な立ち回りや各種コスプレを見せつつ、精神的には劇中随一のタフネスを誇るラディゲが再浮上し、その邪悪さを強調する事で巧くトランザと入れ替わる、という構造。
暴れるトランザ! 友情パワー! 愉しそうなラディゲ! レッド奮戦! 壊れるトランザ! と、役者陣の熱演も重なって見所たくさん、『ジェットマン』最終章のスタートを飾るにふさわしい名編でした。