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久々に石持浅海と森見登美彦

○『煽動者』 (石持浅海


 主人公・片桐は、反政府組織の一員である。その組織『V』の目的は、一般市民に被害を与えないよう最大限の配慮をしながら、現政府に対する国民の不信を高めていき、やがてスムーズに政府を転覆させ、この国をより良い方向へ導いていく事。組織の招集を受け、週末テロリスト「春日」として軽井沢に向かった片桐だが、その施設でメンバーの一人が他殺体で発見される。施設に入れるのは招集を受けたメンバーだけ、そしてメンバーはお互いの個人情報を一切知らず、怨恨などの可能性は限りなく低いにも関わらず。警察を呼ぶわけにもいかず、しかし組織の任務を放棄するわけにもいかず、疑心暗鬼の中で板挟みになるメンバーだが……。
恐らく、連絡短編『攪乱者』と同じ設定をベースにした長編。『攪乱者』は、組織の実働部隊のメンバーがいっけん反政府活動に繋がるとは思えない指令が如何なる意味を持っているのかを説き明かす、という形式でしたが、今作では兵器制作部門のメンバーが集まった週末の施設で、予想外の殺人事件が発生。反政府組織なので警察は呼べない、そして組織は任務の遂行を求めてくるので逃げ出す事も出来ない、という状況に置かれた主人公達の行動が描かれます。
凄く回りくどい閉鎖状況の設定は面白かったのですが、物語の方はそこからは面白くは広がらず。軸となるミステリの周辺で、書こうとした事3つぐらいがバラバラのまま終わってしまいました。


○『フライ・バイ・ワイヤ』 (石持浅海

 主人公・宮野隆也が通う、さいたま工科大学附属高校の選抜クラスにやってきた転校生は、二足歩行のロボット――IMMID−28だった。それを遠隔操縦するのは、病気の為に学校に来られない一ノ瀬梨香という少女。難病患者をロボットによって登校させるというこの実験を日常として受け入れていくクラスだが、思わぬ悲劇が発生して――。
近未来を舞台にした、青春SFミステリ。著者お得意の、“閉鎖環境”でも“議論形式”でもなく、学園ものの要素を重視した作り。
ロボットには、いわゆるロボット工学三原則をベースにした“アシモフ・アプリ”が搭載されているという設定でSF者をニヤリとさせますが、正面から三原則を題材にした本家取りのミステリ、というわけではなく、スパイスといった所。
SF要素はアクセントで青春ものとしての要素が強いですが、近未来の日常描写が終盤にしっかり伏線と機能しており、物語の美しさに対する作者の志向がはまった感あり、なかなか楽しめた佳作でした。
主人公の親友、スウェーデン人のヨハンがいい味。


○『聖なる怠け者の冒険』 (森見登美彦

 土曜日が始まる! 恩田先輩と桃木さんは充実した週末を過ごす為に行動を開始し、謎の怪人ぽんぽこ仮面は人助けに奔走し、ぽんぽこ仮面を探る浦本探偵は潮が充ちるのをじっと待ち、その助手の玉川さんは冒険を求めて道に迷い、スキンヘッドの後藤所長は若者に助言し、アルパカそっくりの五代目は秘密組織を動かし、そして人間である前に怠け者である主人公・小和田くんはひたすら怠惰な週末を求めるのであった。
あらすじがさっぱり意味不明だと思いますが実際にこういう小説で、相変わらす凄いセンス。
京都を舞台に、幻想と現実、現実と夢想、怪人と凡人と変人が入り乱れ、宵山の夜にめくるめくクライマックスを迎えるファンタジー。ファンタジー、てつけておけばまとまるであろうファンタジー
過去に読んだ森見作品は2冊に1冊ぐらい、濃すぎて呼吸困難になってリタイアしていたのですが、今作は最後まで読めました(笑)

研究所の窓から外を見ると、世界はあたかも田んぼと工場と京滋バイパスだけでできているように見えた。遠くにはAEONが見えたが、まるで魔術師の住む塔のように霞んでおり、はたしてその地には本当にAEONがあるのか、誰にも確信が持てなかった。研究員たちの間では、まだ実験的に裏付けが取れていない希望的観測のことを出して「まるでAEONのような」という表現が使われていたほどである。
というような、どこから湧いてくるのかわからない表現が目白押しで、本当に凄い。ここ数年分読んでいないので、久々に森見作品にも戻ってみるか……。