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『「ガンダム」を創った男たち』上・下(大和田秀樹)、感想

ガンダム創世」のタイトルで、同作者の『機動戦士ガンダムさん』に収録されていたシリーズを抜き出して再構成し、上下巻でまとめたもの。TVアニメ『機動戦士ガンダム』の誕生から映画化に至るまでが、一部脚色と誇張を交えつつ、明快に戯画化されて描かれます。
面白かった。
素晴らしいのは、作者の優れたパロディのセンス。
本来は当時まだ30代で頭髪もあった富野ヨシユキ(登場人物は基本、苗字+カタカナ名前で、あくまで“架空のキャラクター”)は、見事な禿げ頭で常にサングラスをかけた怪しすぎる男で、安彦ヨシカズはシロッコがモチーフの美形キャラ。
出だしの第1話はそれほど面白くないのですが、第2話、巨大な洋館のようなオフィスアカデミーに、シロッコ似の安彦ヨシカズが「おはようございます安彦様」と居並ぶスタッフ達に出迎えられる、というぶっ飛んだ描写から俄然面白くなってきます。
リアリティを強く出した実録風ドキュメントではなく、あくまでも事実を元にしたフィクションとして、あの時そこにあった“戦い”と“祭”をギャグマンガを通して描く、というのを徹底しており、そのアプローチの仕方、そして各キャラクターの造形が非常に秀逸。
スケベで突拍子もなくてギラギラした野心に燃える男、ところどこで無駄に格好いい、主人公・富野ヨシユキの描写は、特にお見事。
現実と虚構を巧く絡み合わせつつ、戯画に徹した作者のパロディのセンスがとにかく非常に素晴らしい。
物語の内容は、作品の制作裏話めいたものというよりは、当時のロボットアニメを取り巻く状況を描きながら、『ガンダム』という存在がそこにどんな影響を与えていったか、をダイナミックに描く、という形。
その為、個々の関係者に関しての突っ込んだ話は、板野一郎のエピソードがある程度。出来れば個人的には、星山博之松崎健一も出番欲しかったところですが、さすがに脚本陣まで手を伸ばすと別の意味でマニアックになりすぎるし、マンガ的な表現も難しくなるかからか、一度だけ台詞で肯定的に言及されるぐらいで、出番なし。ただ板野さんを扱ったエピソードは、作画というのがどうアニメの制作に関わるか、をマンガで巧く見せていて、単品でも面白い部分でした。
また一方で、そういったアニメファンにはわかりやすい人物以外、後半に登場する映画の宣伝プロデューサー・野辺タダヒコなども非常に印象深く描かれており、巧い。
おまけコラムでは当時を伝える資料などが収録されており、特に当時の新聞記事などは、色々と尾ひれが付きがちな中で、いわゆる第一次資料として貴重な読み物。
“物語”としても綺麗にまとまっており、富野監督好きには、お薦めできる作品。
ところで巻末に7本収録されている番外編の1本で、富野が『ガンダム』の小説を早川書房SFマガジン』編集部に持ち込んだというエピソードが語られているのですが、これ、初めて聞いたけど、実話なのかなぁ。まかり間違うと小説『ガンダム』がハヤカワSFレーベルで出ていたのかもしれないのか……!
そして作者は“後の文豪”さんに、何か含む所があるのか(笑)