◆第5話「敵はキャピタル・アーミィ」◆ (脚本:富野由悠季 絵コンテ:斧谷稔 演出:越田知明)
THE・空中戦。
ロボットの空中戦とはこうだ! という渾身の出来で、素晴らしかった。実にいい物を見せていただきました。
その上で、ラストに来る静のワンシーンが重ねて素晴らしい。傑作回。
冒頭、法王様と会談したと思われるベルリ母の出てくる建物の壁画が、やはり多宗教的。そして、意味が有るのか無いのかさておき迷彩色(ベルリ母曰く「アーミィカラー」)に塗られたクラウン、というのが、物語の推移を表していて、非常に象徴的です。
クラウンがペイントされているように、前回ラストから若干の時間が経っているようで(この作品のペースだと2日3日ぐらいかもしれませんが)、キャピタル・アーミィの新型MS・エルフブルックが登場し、初回のEDで度肝を抜かれた、変な仮面の人がパイロットとして見参。
パピヨンマスクさんは、1−4話まで見た限りあまり変な趣味持ちには見えなかったので、趣味で無ければ補助装備かな……? と思ったら補助装備でした。が、あれは本当に単なる補助装備なのか……?(^^; 後半の戦闘を見るに微妙に性格変わっている気がするのですが、脳に変な刺激とか入っていそう。
いや、仮面の人の、正体は、謎なんですが!
すっかりキャピタル・アーミィ応援団と化したチアガールの中で、マニィが
「今日のキャピタルガードの中にも、ルインは居なかったなぁ」
と呟いているのは、今後の波乱を予感させる所です。
アーミィの方でも「ヘルメスの薔薇」という単語が現れ、クンパ大佐が軍備の増強とタブー破りを推し進めている事が明確に。
ただ、この後で語られるカーヒル大尉のキャピタルタワー占領計画などを聞くと、キャピタルの備えとしてはむしろギリギリ間に合った、というところなのか(この辺り、調査部が掴んだ世界情勢のきな臭さに備えていたという事なのでしょう)。
一方で、タブーに関して守旧派と思わせる言動のベルリ母とは、話を通していなかった事を含めてやや軋轢が生まれ始め、キャピタル内部の政治情勢にも波乱の芽が見えます。
法王様に関しては、ここ数話は会話の中では出てくるものの本人が登場せず、宗教以外に興味が無いのか、のらりくらりと様子を見ているのか、調査部に譲歩しつつ腹に一物あるのか、などは不明。
飛行形態への変形機構を持つエルフブリックは、更にブースターと補助輪をつけて離陸、とこの辺りの描写は面白い。
海賊部隊では、露骨にドムっぽさのある新型MSに乗って、女パイロット、ミック・ジャックが補給物資を運んでくる。
長身でスタイルのいい金髪美女に目を奪われるベルリと、新たな敵の出現を感知するノレド(笑)
ベルリはあれか、同世代にモテすぎて、センサーの向きが年上に偏っているのか。
前回ラストで触れられた“宇宙から来るもの”ですが、1話でラライヤの出自の推測としてデレンセン大尉が口にしていた「トワサンガ」というのが、どうやら宇宙にある国家?の模様。
ベルリによると「スコード教の聖域」で、そこからフォトンバッテリーが送られてくるとの事ですが、アイーダは「それを信じているんですか?!」と言っており、さていったい、どんな秘密があるのやら。牧歌的で無い事だけは予想されますが。
海賊部隊の作戦行動が前倒しになり、ブリッジに上がるアイーダ達にしれっと同行する途中、ベルリはクリム・ニックから戦力としてアメリア軍に勧誘を受ける。
うん、中尉は、間の抜けた嫌がらせをしそう。
「なあ貴様、アメリア軍に入隊しないか?」
「……中尉の位をくれるのなら、入隊します」
「それでは私の階級と同じだ!」
「だって、虐められたくありませんから」
すっかりラライヤに懐かれた綺麗な目をした天才(笑)は、ラライヤにおさげを引っ張られたり、ベルリを締め上げようとして逆に腕をねじられたり、大活躍(笑)
MSの中でケタケタ笑いながら敵兵を屠っていくという割と危ない人なのですが、マッド方面に行かず、ひたすらネアカなのが、クリム・ニックは面白い所。
現状どういうわけか、最も作品の清涼剤です(笑)
本隊を支援する陽動作戦の為に、宇宙へ上がる事になるメガファウナに迫るキャピタル・アーミィの部隊。ベルリは船を守る為に協力を申し出、それを受け入れた艦長はベルリにパイロットスーツを用意する。
パイロットスーツを平然と受け入れるラライヤの姿に、宇宙で暮らしていたに違いない、と推測する会話が実に渋い。
「ラライヤはトワサンガから来たんだ」
「なんでそんな事がわかるの?」
「こういう姿に驚いたりしていないじゃないか」
メガファウナは魚のひれのようなミノフスキーフライトを展開し、アーミィの部隊はエフラグから離脱したりブースターを切り離して空戦モードに入り、ここから本格的な空中戦に。
上昇中のメガファウナがMS出撃の為にハッチを開き、風圧で格納庫の中を転がるチェック中だったコアファイター、風圧で飛びそうになるアダム・スミス、斜めに出撃していくMS……と、この入りから臨場感抜群。そしてアーミィの部隊は上下から攻撃を仕掛け、上空の敵に対して対艦ライフルを持ち出して砲座をやろうとするアイーダのG−アルケイン、応戦するモンテーロとMS部隊。
「我々のカットシーの編隊は伊達では無い!」
これまでデレンセンを除くとグリモアに一方的にやられていたカットシーですが、鮮やかな編隊攻撃を見せ、部隊の練度が上がっている描写。どう見ても先頭の一機が生け贄という戦法なのは、宗教的熱狂の賜物なのか。この戦法が一糸乱れず実戦で行われるアーミィの背後に、どす黒いものを感じずにはいられません(^^;
MS形態に変形したエルフブルックとモンテーロが激突し、いっけん手持ち武器の無いエルフブルックは、肩部からのビームバルカンでモンテーロの攻撃を全て撃墜、と大型メカらしい広範囲攻撃を披露。どうしても人間ぽいラインの出がちなMSですが、エルフブルックは無機質というか、ブロックを組み合わせたような感じがかなり素敵。
「はははははっ! これで死ねよ! 宇宙海賊ぅ!!」
指先からのビームでライフルを破壊されるも、モンテーロはジャベリンで反撃。パピヨンの人がいきなり強すぎるのも違和感があるので、割と迂闊に反撃を受けるというのは、納得のバランス。
空中で熱戦が盛り上がる一方、主人公はコアファイターで格納庫の中を転がり回っていた。
監督は多分、ここはいやらしい気持ちで脚本書いていたよね、と思うのは私の心が汚れているからでしょうか。
「姫様! 聞こえますね! ベルリ少年を、G−セルフに突っ込んでやって下さい!」
「え? それは無理です。無理ですよ」
「戦闘中は、好き嫌いは言わないでいただく!」
「コアファイターが、勝手に動き回っているんです!」
いや、富野だから、きっとそう。
ようやくキャノピーをしめたコアファイターは急発進し、暴発して空中戦のまっただ中に突っ込んでしまう。この辺りのスピード感と乱戦の描写は、さすがの一言。実に巧い。
ビームウイップでエルフブリックの動きを封じたモンテーロだがとうとう頭をもがれてしまい、窮地に陥る天才(笑)。ベルリはコアファイターからレスキュー用の水の球を落とす事でパピヨンの騎士を攪乱する。
1話でも台詞にあった「空気の球」「水の球」ですが、ボウリング球程度の大きさの中に相当量の水(空気)が詰まっているようで、これは過去作品であまり触れられた記憶の無い、宇宙空間での生命維持に関わる解答としての設定なのかと思われます。で、それを設定の為の設定にせず、さらっと道具の応用として見せている。
それはそれとして、エルフブリックの気密は大丈夫なのか。
コックピットの中に水がしぶいている描写とリアクションがあるのですが、このまま宇宙に出たら、飛騨忍者っぽい人は酸素欠乏症候群になる所だったのでは。
戦艦の方ではアルケインが強引にG−セルフを甲板に押し出し、滑り落ちそうになって掴み直す、など、ちょっとした描写が空中戦の臨場感をまた増します。
自動操縦で対空機銃の間をすり抜けたコアファイターは、はじめての合体。
「よし、行けるか――のわぁっっっ?!」
ようやくドッキングし、ここでG−セルフが立つ、という爽快感から…………挟まっているハッパ(笑)
最初、機体の外側に張り付いているのかと思って、G−セルフが飛び上がったら死なないか、と思ったのですが、ドッキングしたコアファイターと機体の間に挟まっていたようで。……それはそれで、よく無事だった、と思うしかないですが。
混戦の中で非常に格好良く主人公メカの起動を描いておきながら、直後に出てくるのがキャノピーに張り付いている男、という、このノリは駄目な人には駄目そうですが、凄く、面白かったです。
これが超格好いい。
「さっさと上がって、撃退しろ!」
「バックパック無しでどうするんです?!」
「一撃離脱!! 45秒間なら、飛べる!」
巨大な人型兵器の能力とその限界、それを知った上で今何をすればいいのかが明確に凝縮された、名台詞。
ビームウイップの拘束を外し、G−セルフに迫るエルフブリック。
(モンテーロの頭を取られて、何が天才パイロットだ)
天才(笑)にちらっと毒を吐きながら、格好良く飛び上がるG−セルフ…………のキャノピーに張り付いているハッパ。
「守るだけでは、勝てないからっ!!」
G−セルフはビームサーベル二刀流・更に大回転、によりエルフブリックのビームバルカンを防ぐと、続く攻撃でエルフブリックの腕を切り裂き、マスク・ザパピヨンは撤退。
正直な所、ここまでそれほど“格好良さ”を感じなかったG−セルフなのですが、ここで文句なく格好良い所を見せてくれました。
初めての殺しは既に2話で体験しているのですが、年上の女の導きで初めての合体を成し遂げたベルリとG−セルフが、ここで如何にもヒーローメカという活躍を見せる、というのは一つ明確な分水嶺なのだろうな、と。
アーミィを退け、次の作戦の為に弾道飛行に入るメガファウナのブリッジでは、休憩中の姫様に艦長が、ベルリを巧く転がすように依頼。
前回、「3人を返して済むならそれで」というアイーダに「どちらにせよ潜伏場所を知られたのはまずい」と返したり、ドライに現実的問題を告げる役割の艦長ですが、ここでは姫様の気持ちがわかっているので、顔を背けたり言いづらそうな所に、人間的な味が出ています。
「何を、言いたいんです?」
「私からも礼を言うつもりですが、姫様からも、ベルリ・ゼナムを誉めてやってください。それね、姫様の任務です。義務かもしれません」
「義務、ですか……」
「貴女は、姫様になられる方だからです」
艦長は如何にもな今時イメージされるジオン軍人顔で、監督がよく採用したなぁと思ったのですが、今作ここまで割と、シリーズファンに対するキャッチーな要素が入れてあるので、これはこれで、という所なのか。『ガンダムUC』を担当していたというプロデューサの意見も参考にしているのかもしれません。ブリッジクルーのサングラスの声質が古川登志男にそっくりだったりするのも、そういったセルフオマージュめいた要素は感じます。
「頭なしで戻ってきたんだから、さすが天才じゃないの?」
格納庫では、ベルリの毒に対して、ノレドの優しさがモンテーロに痛い。
またここで、兵器だから当然予備の部品があると、モンテーロの頭を交換する描写が入っています(同時に、補給の意味も示している)。
「部品はあるじゃないか」
「ただ置けばいいってもんじゃないんですよ!」
そして、一息吐いていたベルリに、ねぎらいの言葉をかけるアイーダ。
「僕らだって、死にたくありませんから。おあいこでしょ?」
「おあいこ? そうですね」
この「そうですね」のニュアンスとか、素晴らしい。
そこへ、横からすちゃっと飛んでくるクリム。
「よう、少年。少尉でなら、アメリア軍に推薦してやるぞ」
「中尉でなけりゃ駄目ですよ」
「なら私が大尉になってからだな。――姫様。……?」
ベルリとクリムの掛け合いは前半の軽口を受けてそれ単体で充分に面白く、このまま終わるのかと思ったら、画面左手で会話の弾むベルリ達に対し、いつの間にかきびすを返していたアイーダは、画面右手で作業用エレベーターに乗り込み、無言で上昇していく。
この温度差は、実に痛烈。
「カーヒル、ごめんなさい、カーヒル……」
カーヒルを殺した相手を誉めてみせる、という事をやらなければならなかった自分への悔しさから、ひとり嗚咽するアイーダ。
姫様が落ち込んでいる横でそれに気付かずに艦内クルーの作業が進行している、というのもえぐみを増します。
アイーダの心象は無言でエレベーターを昇っていく所で充分に出ているので、やや台詞は盛った感じもありますが、3−4話の姫様が若干さばさばして見える描写になっていたので、ここはわかりやすくした所でしょうか。
なんだかんだで姫様は、人の上に立つ立場としての教育と自覚があるようで、これまでベルリに対して「私怨で人を害してはいけない」という一線を守っており、部下や他人の前では平然と会話してみせるという気丈さを見せていました。
その上でベルリと一対一で面と向かった際には怒りと悲しみを向けたり、艦長に対して「海賊の法で裁いてしまいましょう」と拗ねてみせたり、と場所によっては表に吐き出していたのですが、そんなアイーダの感情が、ここで内側に強く篭もる。
前回のベルリの言葉を聞き、多少なりとも距離感を掴み始めた所で、艦長の言葉によりベルリとの距離を無理矢理に縮めざるをえなくなった事により、かえって憎しみがそこに自覚されてしまう。
今作でここまであまり描かれてこなかった、人の心の影、の部分が明確に描き出されました。
そしてそんな回で蝶々仮面が初登場している、というのはかなり強い意図を感じます。
また先に温度差と書きましたが、ここはベルリとアイーダの感情の温度差だけではなく、戦闘の熱とその後という劇構造の温度差、戦闘後の高揚ではしゃぐ男の子達(ベルリとクリム)と自分が道化を演じざるを得なかった事に歯がみする姫様という立場の温度差、など幾つかの温度差を重ねているのがお見事。
あれだけ熱の入った空中戦を描いた後だからこそ、このシーンが実に活きる。
またクリム・ニックはどうやらハッキリと、ベルリの「人殺しのセンス」を評価し始めているようで、クリムとアイーダの間にも、視点の差異が浮かび上がります。
戦場のならいという事もあってか、カーヒルの件に関して海賊のクルーが特にベルリ達にきつく当たるという描写は無いのですが、その中でも特に、クリムとハッパは「戦力」と「G−セルフを動かせる人材」という見方がハッキリしている感じ。
クリムって、マイペースないい所の坊ちゃん・天才肌・陽性、とベルリと重なる要素を持っていて、当然意図的だとは思うのですが、ベルリにとっては、こうなっていけない身近な見本なのだろうか(笑)
アイーダの本心はつゆ知らず、そんなベルリ達はメガファウナをいかに逃げ出すかの相談などしていた。また、強引に逃げ出さないのは、海賊部隊、そして宇宙から来る脅威(トワサンガ?)の情報収集という、ベルリの目的または建前に言及。
海賊のベルリ達への警戒はさすがに緩すぎると思うのですが、G−セルフはともかく、子供3人が逃げ出してもそれほど不利益ではない、という判断か。ベルリ達の気付かない所で警戒しているか、少なくともG−セルフにはいざという時の爆弾ぐらい仕掛けているとは思いたいですが。
そして物語の舞台は、再び宇宙へ――。
渾身の空中戦でしたが、今作ここまで、
〔宇宙での小競り合い(格闘戦)→市街戦→地上付近での空中戦→低空での海上戦→高度のある空中戦〕
と来て、次回がいよいよ満を持しての本格的な宇宙戦闘と思われ、かなり意識的に段取りを組んでいるのが見えます。バリエーションをつけながら視聴者を徐々に空間の広がりに慣らしていくという、そういう見せ方が凄く丁寧。
第4話で高低差を意識させる演出が多かったのはやはり空中戦への前振りだったと思われ、ここから宇宙でいかなる戦闘が展開されるかだけでも、非常に楽しみ。
富野監督の過去作品というと、どこへ転がるか計算尽くではない部分が、面白かったり面白くなかったりしたのですが、今回ここまでの所、2クールでかちっと作っているのが、非常にいい方向に作用して見えます。渾身の絵コンテに、細かい芝居を拾う作画、ともかく1話1話のクオリティが非常に高い。このクオリティは正直1年物では出せなかったと思え、引き続き期待したい。
で、
マ ス ク
アイーダ・レイハントン→アイーダ・スルガンに変わったり、キャストのクレジットに変に凝っていたりするのですが、まさかのマスク。
なにか、他に無かったのか。
まあ、『Zガンダム』第1話EDのシャア・アズナブル 池田秀一という表示はとても酷かったので、それに比べればこちらの方が良いと思いますが(笑)
……そういえば『ダンバイン』の時は一応、黒騎士だった。
二枚目先輩はかなりお気に入りのキャラなので、今後が色々心配です。
さて次回、ベルリが人生最大のミステイクでいよいよデレンセン大尉に危機迫る!
毎週のEDで死亡フラグを強調する大尉ですが、ベルリが殺ってしまうときつすぎるし、海賊軍が殺すと今後行動を共にするのが更に厳しくなるし、妥当なのはベルリをかばってアーミィにやられる、とかかと思っていたのですが、まあ、妥当な事になるとは、我ながらあまり思っていない(^^;
今回ラストでかなりきつい方向に来たので、アイーダを守ってベルリが殺す、とか厳しい方向に行くのかなぁ……。
スリリング過ぎるから見なくていい!
だが見る。