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『重甲ビーファイター』感想34

◆第41話「兄貴はムキムキ」◆ (監督:石田秀範 脚本:扇澤延男)
ジャマールではメガオームより総員待機指令が下され、新たな地球侵攻作戦をプレゼンしようとしていたシュバルツはそれに不満を抱く。
「永遠の命など、とうの昔に科学が生み出している。この俺がそうだ! 部品交換さえすれば、永遠に生きていけるのだぁ!」
「とにかく待機命令は下った!」
「どうしてガオーム様はセントパピリアなんてものを望む? このシュバルツの科学力さえあれば、ジャマールは、無敵なのにー!」
発言内容の信憑性はともかく、元コンピューターウィルスである機械生命体のシュバルツが、ガオームへの忠誠心とは別に、永遠の命というものの価値を理屈として理解できない、というのは面白いスタンス差。
……まあ、ガオームが何の為にセントパピリアを求めているのかについては言及されていない筈なので、多分にジェラの推測だったりはするのですが。
セントパピリアを巡るジャマールの動きを警戒するビーファイターだが、パトロール中の大作がシュバルツそっくりの顔をした謎の筋肉怪人の襲撃を受ける。セイバーマグナムすら筋肉で跳ね返す、恐るべき戦士の名は、マッチョNO5!
……前回のゲストキャラの名前がマッスルで、今回の怪人の名前がマッチョって、この時期一体何があったのでしょうか(笑) 「ナンバー5」は多分「マンボナンバー5」(というマンボの有名曲がある)からなのでしょうけど。
バイクで派手に転倒したり、吊ったジースタッグを振り回して投げ飛ばしたり、車をひっくり返したりと、かなり力の入った肉弾アクションが展開するが、ビーファイターが揃った所で、待機命令を無視した怪人の独断専行に慌てたシュバルツが「ちょっとマッチョ!」と乱入して怪人を連れて一時撤退。
そこへ、戦闘メカ軍団の抜け駆けを咎めに現れるギガロとジェラ。
「ギガジェラ!」
カップルみたいなので、略さないで下さい(笑)
「このマッチョNO5は、俺がこの手で作り上げた、俺の兄貴だー!」
シュバルツは、戦場での不測の事態を危惧してこれまで出撃させてこなかった最強の戦闘メカにして兄であるマッチョと熱い抱擁をかわし、ギガジェラは面倒くさくなって帰宅。残った兄弟は、開き直ってビーファイターに挑む事を決意する。
「貴様等の首を手土産に、ガオーム様に必ず知っていたただく。科学こそ力! 科学こそ全能なのだという事をな!」
だが戦闘中、シュバルツの危惧した通りの不測の事態が起こり、シュバルツをかばったマッチョがビームの直撃を受けて損傷。兄弟はその場を引き下がるが、マッチョは修理不能な駆動中枢回路を損傷してしまっていた……。
沈む夕陽に照らされながら、シュバルツが作り出したにも関わらず、何故マッチョは“兄”なのか? それは、マッチョがシュバルツに欠けた筋肉を身に纏う、より完成された存在だからなのだ――! 故にシュバルツは自らマッチョを「兄ちゃん」と呼び慕っていたのである、という兄弟誕生秘話が妙に感動的に描かれ、監督×脚本×声優&スーツアクターが、ノリノリ(笑)
「俺は……もうスクラップだ。これからはおまえ一人で、生きろ。俺はここで、朽ち果てる」
「科学に不可能はないよー! 俺はたった一人の兄貴を、スクラップなんかにはしない。必ず甦らせる!」
「シュバルツ……」
冒頭でセントパピリアへの懐疑を口にさせる事によりエピソード全体が、“善の科学vs悪の科学”というより“科学vsオカルト”という構図になっている為、シュバルツの科学へのこだわりが純粋な気持ちに感じ取れて、それ絡みの台詞が変に面白い事に(笑)
「ワルのロボットに、兄弟の情なんてあってたまるかよ」
マッチョがシュバルツをかばったのは、シュバルツ自身のプログラムに過ぎない、と切って捨てる大作はしかし、筋肉に対抗心を刺激されたのか、せっせとダンベル体操。そこへ研究所が占拠されたとの通報が入り、駆けつけたビーファイターが目にしたのは、駆動中枢回路を補う為に、シュバルツとマッチョが融合した姿だった!

「天才頭脳の弟と」
「無敵戦闘パワーの兄の一体化」
「「これこそ、科学が為した究極の合体なのだ!」」

中に幹部が入っているとはいえ、怪人相手に「面倒くさいからメガヘラクレスで吹き飛ばそう」と物騒な事を言い出すビーファイターだが、それではセントパピリア関連の情報を聞き出せない、と召喚中止。冒頭の布石を用いてビーファイターの目的をセントパピリアの情報とする事で、“結果的にシュバルツがマッチョに守られている構図”を作り出し、ゲスト怪人を兄として慕うレギュラー幹部、という関係性を視聴者に飲み込ませる流れがさすがのテクニック。
セイバーマグナムが通用しないマッチョに対して、ビーファイターはビートマシンで対抗。
「体を引き裂いて出してやる!」
とカブトとクワガタで両側からロープを引っかけ、怪人を巨大メカで車裂きにしようとするヒーローが見られるのは『重甲ビーファイター』だけ!(多分)
「弟が産み出してくれたこの体は……」
「そして我ら兄弟の固い絆は……」
「「こんな力で引き裂かれはしない!!」」
だがシュバマッチョはその責め苦に耐え抜き、逆にビートマシンを行動不能に追い込む絆パワーを発揮するコズミックマインド。
「出てこいシュバルツ!」
「俺が抜け出せば、メガヘラクレスでこの兄貴の体を吹っ飛ばすつもりだろう! そうは行くか……そうはさせん!」
兄弟の絆は燃え上がり、続けて繰り出される激しい電磁波攻撃にもシュバマッチョは耐え抜く、が……
「やったよ兄ちゃん! 俺達兄弟の絆の勝利だ!」
「出て行けシュバルツ。俺の体から」
「何言ってるんだよ兄ちゃん……」
戦況の不利と肉体の限界を感じ取ったマッチョは、弟には告げずに密かに内蔵していた自爆装置のスイッチを自ら入れる。
「兄貴として、俺がおまえにしてやれる事はもう一つしか残ってないんだ。ビーファイターを道連れにする事だ」
狼狽するシュバルツだが、非情に進むカウントダウン。しかし――
「俺は抜け出さないよ……」
「ん?! ……シュバルツ……」
「俺はずーっとひとりぼっちだった。長い長い孤独の果てに……やっと俺は兄弟を、兄貴を得た。そしてその兄貴は、最高の兄貴だった! 弟の俺に手柄を残す為、自爆装置まで体に埋め込むような。そんな兄貴を……そんな兄貴を一人で死なせるか!」
「シュバルツ……!」
「兄ちゃん! ……吹っ飛ぼう、一緒に。兄ちゃん!」
若干、目的が変わってるゾ(笑)
「本気なのか?!」
「やっぱりプログラムなんかじゃなかったのよ」
「兄弟の情、兄弟の絆なんだ!」
「あるのかそんなもんが? あったのかワルのロボットにも?!」
自爆装置云々がビーファイターに丸聞こえなのはどうにも間抜けなのですが、このやり取りに思わず棒立ちになってしまうビーファイターに対し、覚悟を決めて突撃してくるシュバマッチョ。
「科学こそ無敵。我ら兄弟の命と引き替えに、それを証明してやる!」
筋肉対決に負けたジースタッグが羽交い締めにされて爆発四散の危機に陥り、ブルービートは俺の勇者キャノンでハイパー化すると、問答無用で射撃(え) 1秒も躊躇せずに撃っていましたが、状況的に一歩間違えるとジースタッグが光の粒になっていた可能性が高くここが凄く雑になってしまったのは勿体なかった所。
前作の金色父さんは特に露骨でしたが、扇澤さんもどうも、販促の都合を取り込む事にはあまり工夫する気が見えません(^^;
ビートイングラムの直撃を受けたマッチョは、最後の力でシュバルツを体内から放り出し、大爆死。
「おまえは生き延びなきゃいけないんだ……生きて、おまえの科学の偉大さを、証明しなきゃ……」
「兄ちゃん!」
「シュバルツ……我が弟……お別れだ」
「兄ちゃん!!」
バラバラに吹き飛んだマッチョのゴーグル部分を拾ったシュバルツはブルーに向けて特攻するが、銃を構えたジースタッグが割って入り、互いに銃と爪を向けながら至近距離で向かい合うカットは格好良かったです。
「……ジャマール要塞へ帰れ! そして……弔ってやれよ」
「………………覚えていろよ、ビーファイター……!」
3幹部がすっかりデフォルトでビーファイターより弱い扱いなのが気になりますが、劇中倫理としては、絶対に仕留められる局面で見逃したわけではない、という所でギリギリ着地。
まあナレーションは、
「敵の幹部を見逃したのは、ビーファイターにとって、最初で最後の事だった。しかし、三人の胸に、悔いは無かった」
なんですが(笑) それにしてもしっかり、次は無い宣言が組み込まれているのが、昆虫魂です。
何とも言えないもやもやを抱えた表情になる大作に、
「帰ろ? ね!」
と、笑顔で舞が声をかけ、常に気分を前向きに切り替えていく舞の芯の強さ、というのは一貫して描かれています。
大きな物語の中では、ゴルゴダル回、ネロ回に連なっているといえ、「怪物や怪人にも命はある」という割とギリギリの所を綱渡りで走り抜けた第23話をそれきりで終わらせずに、「悪に生まれたロボットはただの悪なのか?」という形で、一つのテーマ的連続性を持たせているのは、扇澤さんがさすがの一言(バリカン回や漬け物婆回もテーマ性という点では、関連していると言えますし)。
その上で、前2エピソードでメインとなった舞ではなく、大作の感情を揺らがせる事で物語の視野が狭くなる事を避けつつ、最後は舞の笑顔で落着させるという形を作っているのも、綺麗にはまりました。
「にいちゃぁぁん!!」
ジャマール要塞では、マッチョの形見を手にしたシュバルツが嗚咽の叫びをあげ、冒頭で「部品交換さえすれば、永遠に生きていける」と嘯いていたシュバルツがしかし、機械に宿った魂を取り戻せない不可逆性に打ちひしがれる、という構造も良く出来ています。
扇澤さんの構成テクニックと会話の面白さ、そして連続性を持ったテーマの仕込みの活用、という良い部分が存分に発揮されたエピソードでした。改めて、巧い。
次回――ギガロの過去。と、最終盤前に、幹部を一人ずつ補強?