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『獣拳戦隊ゲキレンジャー』感想・11−12話

◆修行その11「ウキャウキャ!獣拳武装」◆ (監督:竹本昇 脚本:横手美智子
ジャン、今回も、脱ぐ。
マスター・エロファントの元で修行もといキャンプを始めるトライアングルだが、理想の地震ポイントを発見したセンザンコウが行動を開始。ジャンとレツはエロファンに指名を受けたランにゲキハンマーの修得を託して東京大地震作戦を止めに向かうが、その前にメレが立ちはだかる。
「あんた達みたいな格下と戦ってちゃ、メレ様の美貌と品格が落ちちゃうけど、今日は特別、相手してあげるわ」
前々回はバズーカ回転レシーブの特訓の為に一方的に打たれる側だったメレ様、今回は華麗にして俊敏なカメレオン拳で赤と青を手玉に取り、格の違いを披露。
「遅いのよ、軽いのよ、全っ然物足りないわ。やっぱり、あたしの攻撃を受け止められるのは、理央様だ・け♪」
残虐モードから乙女モードへタイムラグ無しで移行する振り幅は書いていて楽しいというのもあるのでしょうが、メレ様の台詞回しは本当にノリがいい。
一方、根性主義で生真面目なランは肩に力が入りすぎて苦戦していたが、エロファンのくだらないギャグに笑ってしまった瞬間、驚くほどスムーズに釣り針の投擲に成功。
「笑顔というのは大事なもの。大変な状況になればなるほどな」
心に余裕を持つ事の大切さを学んだランはゲキハンマーの使用を認められるが、メレに叩きのめされた赤と青は絶体絶命の危機に陥っていた。
「さよなら、格下ーズ」
だが寸前、メレが振り下ろす白刃を食い止めるランのハンマー。
「メレちゃん、お痛が過ぎまちゅよ」
心に余裕を持った結果、“トライアングルの母”という立ち位置に開き直りました。
「なーに笑ってるのよ ヒロイン力0 格下のくせに」
「笑う門には福来たる、てね!」
変なテンションで不自然な笑顔を浮かべるランは見事にゲキハンマーを操り、センザンコウを一本釣り。事あるごとに強調する笑顔とウインクがどうもぎこちないのは、役者さんの照れなのか、あくまで“ランを演じているから”なのか微妙なラインなのですが、笑顔をアピールすればするほど、ヒロインというより、たいそうのおねえさんに近づいていきます。
まあ、ある意味では、戦隊女性メンバーの理想型なのかもですが。
ゲキイエローの振るうハンマーの一撃で装甲を砕かれたセンザンコウは巨大化し、ゾウに対するツッコミがハエと被ったのが個人的にちょっとショック(笑)
ゲキトージャはゲキエレファントを召喚すると獣拳武装して、ゲキエレファントージャ・バーニングアップ。
エレファントがハンマーのおまけになっているという点も含めて、マスターに認められたので心を一つにすると新しいゲキビーストが召喚できました、という展開は非常に劇的さには欠けるのですが、主題歌を流すと大抵の事は誤魔化せるので困ります。
割れた上半身と下半身が両肩アーマーに、というのはなかなか斬新な気がするゲキ像トージャはスピンハンマーでセンザンコウを撃破してハエ大興奮、ランはスキル《N教の幼児番組ノリのテンション》を身につけるのであった!
げんきげんきー!
……スーツを纏ってゲキトージャに乗ってしまうと他に表現方法が無かったのでしょうが、クライマックスバトル中、笑顔とか心の余裕というよりも、常にハイテンション、というのが最も印象強くなってしまい、『おかあさんといっしょ』に近づいたのは、もはや必然なのかなんなのか。
なおスクラッチにも顔を出したゾウは、案の定かずえお姉さん、じゃなかった美希にセクハラを働こうとして、綺麗なハイキックを入れられるのであった。
そんなドタバタ騒ぎの最中、一人シリアスにクエスト真っ最中の理央様は、シャーフーによってかけられた結界を破り風の拳魔の骸に辿り着くと、引退した相談役を真毒によって甦らせる!
「吾は空の拳魔、臨獣ホーク拳のカタ! 若獅子よ。おまえの声に応えようか。ふふふふふふ」


◆修行その12「ゾワンゾワン!臨獣拳、修行開始」◆ (監督:竹本昇 脚本:會川昇
前作で危うく途中降板しかけた會川さんがここでサブ参加、というのはビックリ。今作、ストーリーの連続性が強い(悪役サイドの状況がどんどん変化していく)割に脚本家が続々投入されているのですが、この差配がどう転がるのか気になる所です。
出会い頭に放ったライオン神拳を片手で弾かれた理央は、「それでこそ我が師にふさわしい」と弟子入りを志願し、空の拳魔カタを臨獣殿へと迎え入れる。
「なんだこの、醜いリンリンシーは」
「我が片腕メレにございます」
メレの立場について即答する理央様、人間的な親愛の情は持ち合わせてなさそうですし、部下のマネジメントを気にする性格とも思えないので、今のところは純粋に能力を評価しているという感じでしょうか。
…………まあ基本、甦らせた臨獣拳士の大半がいいとこ知力20(最大100)ぐらいなので、知力60以上はありそうなメレ様は貴重な人材ですよね! コブラみたいに50超えるとすぐ裏切ろうとしますし!!
「死闘の中に修行あり。本気で殺し合う事こそ修行だ」
物騒なモットーと共にマスター鷹は理央を上空から投げ落とし、理央様、落下しながらの空中変身が格好いい。
いかなる理由によってか、力を、強さこそを求めマスター猫の元を去った過去を語りながら、黒獅子は激しく鷹と激突。ここまで圧倒的だった黒獅子の攻撃をさばき、地面を転がすという、偉大な三拳魔の一人にふさわしい実力を見せる鷹の臨技により、理央はその胸に秘めた絶望の世界へと引き込まれる。
それは、夢の中で繰り返される、嵐の中、たった一人で山中に立ち尽くす少年の記憶……。
「今若獅子は、己の悪夢の中にある。そして最後には、絶望の中で悲鳴をあげるだろう。それが我が力となる」
理央を殺してその力を糧とする、と言い切った鷹はメレの攻撃を受けるも、これを一蹴。
「師弟は互いに憎み合い、殺し合う。そして相手の力を食い尽くす。それが臨獣拳だ」
理央の悪夢の中に姿を見せた鷹は理央を一方的に蹂躙し、これまで迸る闇の力でふんぞり返っていた理央様の“弱い”部分を、過去の記憶と絡めて見せる事で、理央というキャラクターの幅が上手い形で広がりました。
一方、臨獣ウナギ拳士の打撃無効のにゅるにゅる体質に大苦戦したトライアングルは、マスター猫の勧めで銭湯に。当然のごとく番台で待ち受けていたエロファントはランの正拳突きでリタイアし、男衆の方は手ぬぐい使いのマスター源さん(演:岡本美登)と出会い、社会の厳しさを教えられる事に。
源さんの手ぬぐい殺法ににゅるにゅるへの活路を見出したジャンは手ぬぐいヌンチャクの修得に励み、これを他人事のように見つめるファンタジスタ、そろそろ技担当の立場が危うい事に気付いた方がいい。
激獣拳と臨獣拳、双方の師弟関係、修行の形が交互に描かれ、ジャンは成り行きで手ぬぐいヌンチャクを修得。その姿に、マスター猫が自分たちを銭湯に行かせた理由を悟るランとレツ。

「自ら見出す。それが激獣拳のやり方ぞ」
「いつでも僕たちを、導いてくれているんだね」
「うん。それが、マスターシャーフー」

と、トライアングル/激獣拳サイドと理央/臨獣拳サイドを明確に対比させて正邪の差を描き、大事なのは日々の“気付き”であり、それとなく道を示してそっと見守るのが良き導き手なのでは、と示されるテーゼそのものは嫌いではないのですが、猫と鷹の対比に重点を置きすぎた結果、源さんという存在が全く肉付けされず、ジャンとの間にこれといった交流も生まれないまま、気に入って真似していたらなんかスキルが増えました、というのはあまりにも酷すぎます。
エピソードとしては明らかに理央サイドに軸があるので、尺の不足で骨子だけ抜き出したら大惨事になってしまったのかもですが、その骨組みに肉付けをするのが物語であって、自ら物語性を放棄して、問題と解答だけを並べてしまうという粗雑な作り。
以前に今作(激獣拳サイド)の構造を、「(悪い意味で)“参考書”のよう」と書きましたが、課題に対する解法(=修行)があまりに明解かつ直線的すぎる事で、“物語を通してそれとなく解決法に気付く”という寓話性を喪失しており、“気付き”をテーマにした作品が、視聴者から“気付き”を奪ってしまっているというのは、ひどく悲しい矛盾です。
手品の驚きからテーマを見出させるのではなく、手品の種を明かしながらテーマを語るのが今作の短所なのですが、今回に至っては“この問題の解答はこれに決まっているので途中の数式どころか思考の必要もない”ところまで問題の解き方(課題の解決法)だけが圧縮されてしまい、史上希に見るレベルの惨事になってしまいました。
この構造ゆえ、激獣拳サイドが常に抱える“わざとらしさ”と“押しつけがましさ”も含めて、正直、臨獣拳サイドに人気が偏ったという話は大変納得できてしまいます。
悪夢の中の理央様が風鷹幻魔拳の直撃を受けて口から黒いキラキラを吐き出したりしている頃、トライアングルはウナギと再戦。
「今度こそおまえを倒す!」
と率先して挑発しているそこのファンタジスタ風呂入ってコーヒー牛乳飲んでいただけなのですが、君の自信はどこから生まれてきているのか。
「僕たちは、僕たちのマスターを、激獣拳の力を信じる!」
と力強く啖呵を切っているファンタジスタ
「ジャン、リンシーズは任せろ!」
と当然のようにウナギとは一切拳を交えないのですが、君のその堂々たる態度はどこから生まれてきているのか。僕たちは3人で1つのトライアングルだから、誰かの栄誉は僕の栄誉であり誰かの勝利は僕の勝利であり、ああ僕はなんて美しい、なのか。
ある意味、戦隊シリーズ屈指の、仲間を大切にする男なのかもしれません、ファンタジスタ
そんなファンタジスタから僕たち代表を任されたゲキレッドは鯉のぼりヌンチャクでウナギと戦い、布を振り回して戦うのも、カンフー物の定番というイメージ。今作の長所としてこの、時に様々な獲物を交えながらのアクション面での工夫と切れ味は見応えがあるのですが、例えばここ3話、青が修行からも完全に蚊帳の外になっているように、「修行」と「戦隊」という要素がクライマックスで綺麗に噛み合わない事が多く、ほぼ個人バトルになってしまっているのは非常に残念。
メレ様が臨獣殿でそれどころではない為に巨大戦はゾウが解説し、理央様大ピンチの現場が非常に気になる中で行われる消化試合は適当にゾウトージャになって勝利。臨獣サイドにマスタークラスが登場したところで双方の差異を強調しようという意図はわかるのですが、物語としては激獣サイドが完全にお荷物になってしまい、エピソードの構造として大失敗。
そして――悪夢の中で力尽きたかと思われた理央は、紫炎を纏いながら立ち上がる。
「あの日突然の災厄が、俺から全てを奪った。俺は絶望した。絶望が臨獣拳アクガタを強くするならば……自ら喰らおう、俺の絶望を!」
理央様は、自分の黒歴史を飲み込んだ!
弱き自分、その根幹を成す絶望を飲み込む事で更なる闇の力を得た理央は、臨気外装。凄まじい力で鷹を圧倒するとライオンクローで粉砕、新たな強さを見せつけた上で改めて師弟関係を結び、ジャンとシャーフーは恐るべきゾワンゾワンを感じるのだった……。
ラストカット、激獣トライアングルを見下ろす理央様のイメージカットが素晴らしすぎます(笑)
激獣サイドと臨獣サイドに同格のドラマ性を持たせてきた今作が「師弟」という要素で遂にクロスする、という厄介な構造のエピソードに初参戦の會川昇が噛み合わなかった部分もあったのか、作品コンセプトを活かすのではなく、作品コンセプトの問題点をえぐり出す、というエピソードになってしまい、複合的な大惨事に。
そしてもうひとつ気付いたのですが、今作「悪役サイドの状況がどんどん変化していく」のに対し、「善玉サイドは定型ストーリーを繰り返す」構造になっていて、それがまた、激獣拳サイドにおける、解法を押しつける参考書めいた作劇、に拍車を掛けてしまっているような気がします。
はたしてこの構造的迷宮から、今作は抜け出す事が出来るのか……。次回――新たなるマスター登場で、ナルシスト、空へ?!