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傭兵のアカネイア史 #2


傭兵は古代オリエント以来、市民軍、封建正規軍、徴兵軍と並ぶ最も基本的な軍制の一つであった。つまり古来、戦争とは忠誠、祖国愛といった観念とは対局に位置していた傭兵たちによって担われていたのである。
〔『傭兵の二千年史』(菊池良生)より〕
後編です。前編はこちら。
種本は前回と同じく、こちら。
傭兵の二千年史 (講談社現代新書)

傭兵の二千年史 (講談社現代新書)

以下、文中の引用は特に記載が無い限り『傭兵の二千年史』からのものです。
さて、デビルマウンテンを越えたマルス軍は、オレルアン騎士団と合流。錦の御旗ニーナ様、そしてファイアーエムブレムを入手します。以後、マルス軍を「解放軍」と呼称。
オレルアン騎士団に関しては、王城の陥落後は中原でゲリラ的活動を続けていたと思われますが、イメージ的に給料の支払いが良かったとも思われず(そもそも資金力があるなら、もう少し大規模な反攻を打てる筈)、レジスタンス的な意味合いを含め、いわゆる地域愛郷主義に強く根ざした部隊、だったのではと想像されます。
いくら王弟に率いられているとはいえ、そうでもないと、ゲリラ戦を続けられたとは思えない。
そもそも、ファンタジーな騎士団は大概が、近代ナショナリズム成立後の視点(現代の我々の恐らくは無意識の前提)によって語られながら、イメージとしては封建主義の頃の中世騎士、という矛盾を抱えている場合が多いのであまり突っ込んではいけないのですが、実際の封建正規軍というのは、

騎士が君主に仕える奉仕の最大のものは、言うまでもなく軍役であった。その軍役の内容は、君主と騎士の間で取り交わされた封臣契約に定められている。標準的なところで、騎士が自弁で軍役を果たす期間は年間四十日で、遠征地もどこそことまで取り決められていた。

そのうち、無償である君主への軍役は金銭で代納し、傭兵稼業でそれを上回る現金を稼ぐ騎士も現れた。
君主たちにしてみても、やたらと制約の多い封建騎士軍を使うよりも、彼らが軍役を逃れるために払う金で傭兵を雇ったほうが、はるかに手っ取り早く効率よい軍編成ができるのだった。そのため需要と供給のバランスが取れヨーロッパに騎士傭兵市場が出現する。

わが鎌倉武士の間でも「夜討・強盗・山賊・海賊は世の常のことなり」、「野に伏し、山にかくれて、山賊・海賊することは侍の習いなり」とあったのだから(『鎌倉遺文』)、洋の東西を問わず、封建正規軍騎士とはだいたいがこんなところだったのだろう。ともあれ、これら不逞の騎士連中はそのうち徒党を組むようになり、強盗騎士団を結成し、傭兵騎士団となっていった。
こんな感じであったらしく、ファンタジーが台無しです(笑)
要するに、本業の合間にバイトしていたら、そちらの方が稼ぎがいいのでバイトを優先するようになり、遂にはバイトが本業になってしまい、傭兵騎士の全盛期が来たらしい。
という風な事を踏まえると、オレルアンの騎士団というのは、そこに所属する人々に“草原の民”という異称がある事からも示されるように、騎士団というよりも、血族意識の強いある種の職能集団であったのではないか、という仮説を採りたい。
アカネイア大陸全体の中でも、やや毛色の違う、特異な団結力を持った集団であった、と考えると、多少しっくり来ます。
マケドニア竜騎士団も、そんな感じだったのでは、と思うのですが。
オルレアン騎兵、マケドニア竜(天馬)騎士団、それからカダイン魔道兵、といった辺りが、アカネイアにおける特徴的な職能戦士団であったのではなかろうか。
なお前編で少し触れましたが、マルス王子の再軍備(タリスでの2年間)に関して、オレルアン騎士団が間接的に果たした役割は小さいとはいえず……と、この辺りの全体的な戦略論もこじつけていくと色々と出来そうですが、主題でないのと、知識もないのでパス。ただこの世界の架空読み物として、後世に『草原の狼〜如何にしてオレルアン騎士団は2年間を戦い抜いたか〜』とか歴史と戦術の研究本とか出ているかもしれない、とか考えるのも面白い(笑)
まあとにかく、マルスは少しハーディンに感謝すべし、という事で。
話は「傭兵」に戻りますが、次に登場するのは第7章、「港町ワーレン」における、シーザ・ラディの二人。
この2人(部隊)は、ゲームに登場する中でも、最もわかりやすいというか、傭兵イメージに沿った傭兵、という気がします。

経済が膨張し国力が増すと、地域愛郷心に支えられていた市民皆兵制度が崩れ、傭兵が軍事力の主力となる、という共和制都市国家の歩む道をフィレンツェもまた進んでいったというわけである。
経済が発展すると市民の間に経済的格差が生まれるようになり、それが富裕層においては「なんでお金を持っている俺が」、小市民にとっては「なんで金持ち連中の為に俺が」、という双方の兵役への忌避と繋がり、結果、兵役免除税が設置される。そしてその金で軍事力として傭兵を雇用する事になる。
というのが、古代オリエント以来の、軍事力の傭兵依存に至る基本モデルなのですが、自治都市(確か)であったワーレンは、まさしくそのモデル通りといえましょう。経済の発展した港町という辺りもオリエント或いは南イタリア都市国家を思わせますし。
そんなシーザとラディが、解放軍に参加したのは恐らく、グルニア軍に囲まれた解放軍が、手っ取り早く戦力を増強したかったから。
お金でヘッドハンティングしたのでしょう(笑)
ワーレンの方は、解放軍に立ち寄られたせいで、グルニアに囲まれるわ、守備隊は引っこ抜かれるわ、散々です。当面のグルニア軍は解放軍が片付けていきましたが、多分この後、グルニアにねちねちと色々な名目で余計な金をむしり取られたりするに違いない。
解放軍、この時点ではまだ、後方に防衛戦力を残しているとは思えませんし。
前編の最後に冗談半分で触れた徴収もとい略奪ネタですが、例えばかの十字軍も補給は基本的に、道すがら力ずく、であったらしく、イスラム圏入る前に、中欧・東欧のキリスト教国とやらかしていたそうですが、戦後政策もあるので無茶はしていないだろうとはいえ、ある時点まで、
ドルーアがマシか、解放軍がマシか、
みたいなのはあったかと思う。
ちなみに、その辺りの民衆の機微をうまくシステムに取り込んだゲームが傑作『伝説のオウガバトル』ですが、これはまた余談。
こうして考えると、ガーネフの策謀による御乱心があったとはいえ、ハーディンというワンクッションが入った事は、後のマルスの治世にとって幸運だったのではないかとまた黒い話がげふんげふん。
仮に解放軍の兵站が安定するとすれば、いいところアカネイア解放後でないかと思うのですが、それにしても優秀なロジスティック担当官が必要だと思われますが、逆にそういう隠れた人材が居て、解放軍の進撃を支えていたとか夢想してみるのも、面白い。蕭何!
話を戻して、次に登場する傭兵は、11章アストリア。
さて、「勇者」です。
傭兵のクラスチェンジである「勇者」とは何者なのか? アストリアにいたっては国家に対する帰属意識まで持っておりますが、そういった元・傭兵について考えてみると、

イタリア・ルネッサンス傭兵隊長には二つのタイプがある。ホークウッドに代表される外国人傭兵隊長、そしてフランチェスコスフォルツァを典型とするイタリア人傭兵隊長である。前者は「人が幸福になるところ、そこに祖国あり」(キケロ)を合い言葉に、金の匂いをかぎつけ諸国を流れるいかにも傭兵隊長らしい放浪型で、後者は小なりといえども自分の領地を持つ定着型である。
こういう感じの、定着型の土地持ち傭兵隊長なのではないかな、と。
つまり傭兵が戦功を重ね、領地を得たりする事で「勇者」になる説。
14〜15世紀イタリアというのはかなり下克上な世の中で、最大の“成り上がり”例が傭兵隊長からミラノ公爵となったフランチェスコスフォルツァですが、その他にも、奪って勝手に名乗る、というタイプの小君主が点在していたとの事。
アストリアのように王家(というかニーナ様)に忠誠誓っている、みたいなのはこの場合極めて稀ではありますが、貴族の娘(ミディア)まで彼女にして、懐柔された例、という事でここは一つ(笑)
そう考えると15章で登場するサムソンは、

いく人かの傭兵隊長たちは強力な中央権力不在のために、ほとんど空家同然となっていた教皇領ローマーニャ地方の都市や村に乗り込み勝手に主権者を僭称するようになってきた。
という感じかな、と。
アランも似たような感じっぽい。或いはアランは「パラディン」だけに、きちんとした小領主であり、ゲーム中では村の仲が悪い、という演出になっていますが、アランとサムソンの間に、そういった立場的な対立があったとも考えられます。
この時期のアリティア(翻って、解放軍の進撃前のアカネイア大陸全体)は、あわよくば、を目論むそういった小規模な勢力が数多く存在していたのではないでしょうか。
解放軍の急激な拡大と進撃の背景には、ドルーアの圧政もさる事ながら、そういった勢力の効果的な吸収があったように思われます。
ちなみにこの後の英雄戦争(第2部)を考えると、アランはうまい事解放軍で戦功を上げ、サムソンの方はアリティアの情勢が安定した事で場を奪われ、不安定な国(グラ)に移動していった、という感じでしょうか。
こうして考えてくると、マルス率いる解放軍は、ペガサスナイトドラゴンナイトを含め騎兵を主とした各国の中心部隊を精鋭に置きつつも、膨大な歩兵傭兵部隊を抱えていた、という気がしてきます。
なお、「兵站」の概念の極めて薄かった中世の傭兵部隊においては、戦闘部隊と一緒に食料や装備の供給を担当する民間の酒保商人が同行している場合が多く、

このランツクネヒト*1部隊のカッコ付き輜重隊は酒保商人とその配下、女子供、旅芸人らの非戦闘員でむせ返っていた。その数はべらぼうに多く、ランツクネヒト一連隊六千人とすると、ほぼその同数の民間人が連隊の後をぞろぞろとくっついていくのである。
という様相だったらしいです。
解放軍もそんな感じだったのかも、とか思うと絵としては非常に面白い(笑)
マルスに、輸送隊くっついているしなー。
さて、暗黒戦争におけるマルス軍(解放軍)と傭兵との関わりを追ってきたわけですが、ここまで書いてきて、一つの疑問が浮上します。
それは、解放軍の資金源はどこにあったのか、という事。
タリス王の支援、アリティアの財宝、各地での徴収、などという要素もあげてきましたが、3章ナバール、7章シーザ・ラディ、など、その場で金で戦力を引っこ抜いた、としか思えない例を見ると、マルスの背後に資金力豊富なパトロンが存在していたのではないか、と思わないではいられません。
欧州における三十年戦争において、最大15万という桁違いの動員力を持って名を残した傭兵隊長ヴァレンシュタインの場合、

彼は皇帝軍総司令官になると、自らの才覚でなんと十五万の軍を編成するようになる。いったい、どこにそんな金があるのか?
民間投資家がいたのである。ボヘミヤの金融シンジケートの代表者であるユダヤ資本家ヤーコプ・バッセヴィ・フォン・トロイエンブルクの名が挙げられる。しかしなんといってもオランダの銀行家ハンス・デ・ヴィッテの資金調達力がものを言った。
という金融業者の先行投資を受けて軍を編成し、

兵力提供と引き換えに、皇帝フェルディナントから占領地における徴税権を手に入れた。この皇帝のお墨付きにより、軍の非合法的恒常的略奪は合法的恒常的戦争税に化けるのだ。いわゆる軍税である。ヴァレンシュタインはこの軍税システムを財政原理とした。
という「戦争は戦争で栄養を摂る」という仕組みを成立させるのですが、ここまでではなくても、暗黒戦争全体を通して、マルスに投資していた商人が居たのではないか? タリス王黒幕説も有りかと思うのですが、賭けるものが国一つとなると、少々デメリットが大きい。そこで、野心ある若き商人が、福本マンガ的な感じで、マルスという札に張って一世一代の大博打を打ったのではないか、とか考えてみると、裏アカネイア史としては、ちょっと楽しい。
と、最後に少し、夢とファンタジーを足してみました!(笑)
あと、裏アカネイア史というと、ゲーム中では時々昔話をしたりするぐらいで“お付きのじい”以上の意味はなかったモロドフ伯爵ですが、タリス逃亡から再軍備の流れを見ると、実はこの人が物凄い名軍師だったのではないか、という気もしてきます。
そんなこんなで思いつく限りの余録も交えつつ、『FE』傭兵アホ話、以上、長々とお付きあい、ありがとうございました。
なお、種本にさせていただいた『傭兵の二千年史』(菊池良生)は、いたって真面目かつ、非常に面白い内容です。お薦め。

*1:ドイツ傭兵