◆第6話「強敵、デレンセン!」◆ (脚本:富野由悠季 絵コンテ:京田知己/斧谷稔 演出:亀井治)
渾身の空中戦だった第5話を踏まえて、人間関係からも序盤の山場になりそうな宇宙戦闘という事で非常に期待していたのですが、期待からすると少々肩すかし。ただこれは、前回が傑作回だったのを含め、私が期待値を上げすぎた、というのはあるかもしれません。
今回、富野アニメ名物?前回のあらすじのような気がするアバンタイトル、が初使用。過去作品においては時々、「え? 前回そんな話だったの?」という事がありましたが、今回は納得のできる範囲(笑)
メガファウナは弾道飛行で宇宙へ上がり、キャピタルではカットシー部隊がブースターでこれも宇宙へ上がり、アンダーナットではデレンセンが出撃の準備をしていた。
アンダーナットの内部が初めて描写され、普通に街や農地の風景。そしてどうも、アーミィは住人に歓迎されていない様子、と軍部と市民の温度差が窺えます。
ここでベッカー大尉がデレンセンに丁寧語で、デレンセンがベッカーに対して普通に喋っているのは3話と逆ですが……同階級の場合はガードよりアーミィの方が格上という暗黙のルールがあり、3話時点ではガードだったデレンセンが、アーミィに所属して作戦指揮官になっているので……という感じでしょうか。
エルフ・ブルに乗り込んだデレンセンは、地上でアーミィの偉い黒人・ジェガンと口論しているベルリ母に力強く宣言し、思わず毒気を抜かれるベルリ母。
「長官殿!」
「は?」
「ご子息は、必ず取り戻してみせますから」
ここは一見、やはりデレンセン大尉は熱くていい人だ! というシーンなのですが、この後の諸々を見ると、ベルリ母は毒気を抜かれると共に、変わりつつあるキャピタルの状況を全く呑み込んでいないデレンセンに呆気にとられているとも取れます。
もはやベルリ母からしてみれば、ベルリ(プラス2名)の救出作戦などというのはアーミィのお題目に過ぎない事は承知で、しかしその中で1人、本気で救出作戦を行おうとしている男が居る。
この後、並んだディスプレイの左側に決意に燃えるデレンセンの顔があるのに対し、右側ではベルリ母とジェガンが音声の切れた状態で激しく口論中、というのはデレンセンの立ち位置を思わせて印象深いカット。
しかし一方で、感情的になりがちではあるもののデレンセンは決して単細胞で愚かな人物として描写されているわけではない事を考えると、キャピタルの変化を全て承知の上で、ベルリ以下2名を救い出すチャンスとして、敢えて自ら救出作戦を志願したという可能性も考えられます。
この作戦そのものが、下方からの援護はあるものの試作機による単騎突撃というかなりの無茶である事も含め、限られた時間と人員の中で、デレンセンが自ら強引に立案した作戦なのかもしれません。
キャピタル・アーミィの中で浮いている感じもあるデレンセンはスケープゴートにされたのでは、という感もありますが、わかっていて敢えてそこに乗ったのかもしれない……と大尉好きなので、ちょっと格好良い解釈を(笑)
本体の陽動を目的とするメガファウナはMS部隊を展開し、G−セルフは新兵器リフレクターパックを装着。ノレドとラライヤを飛行メカに潜り込ませたベルリは、G−セルフを出来る限り高い高度に持ち上げると、キャピタルタワーに迫る本命であるアメリア艦隊の撮影に成功する。だがその為に、アンダーナットから出撃し、上方からメガファウナに迫るエルフ・ブルと、いち早く接敵してしまう。
今回一つどうかと思ったのは、「弾道飛行」(第一宇宙速度を突破しないので、宇宙空間に出てもいずれ地表に戻ってくる飛行)というのがわかっていないと、この戦闘シチュエーションをすんなり飲み込めない所かな、と。
まあ前回「弾道飛行」が強調されていたのは、それぐらいは予習しておいてくれ、という事だったのかもしれませんが、予習しないで見たので、最後にG−セルフとモンテーロがメガファウナに着艦した後割とすぐに地球の青い大気の中に入っている描写があった事に少々混乱してしまいました。
つまり今回は、弾道飛行を行ったメガファウナに対して、地上からもカットシー部隊が弾道飛行で下方からのランデブー(押し上げ、のち離脱)を図り、そこをアンダーナットから出撃したデレンセンのエルフ・ブルが“上から”強襲するという、地球低軌道における限られた時間での遭遇戦であったのだな、と(1話でアンダーナットを通り過ぎた辺りで「高度365km」という説明があるので、高度300−350km程度か)。
普段あまりこういうのは気にしないのですが、今回はこの構図――落下と時間制限を前提とした戦闘――が、“物語と戦闘の面白さ”に直結しているので、もう少し説明があった方が面白かったかな、と。
一応、艦長やベルリの台詞で「いざとなったら高高度戦闘うんぬん」というのもあるのですが、あまりわかりやすくはならなかったと思います。
で、そう考えると、今回描こうとしたのは本格的な宇宙戦闘ではなく、“低軌道での数分の交錯”だったようで、そもそも私の期待と見方が間違っていた、というのは初見の時にピンと来なかった大きな理由の一つのようです(^^;
クリム・ニックとグリモア部隊は下方からメガファウナに迫るカットシーの迎撃に回り、ベルリのG−セルフはそれと知らずにデレンセンのエルフ・ブルと交戦する。
戦闘開始早々、長距離移動用のブースターを質量兵器に使ってくるデレンセンが格好いい。
「貴様は何人の戦友を殺してきたのかわかっているのかぁ!」
「キャピタル・アーミィが、あんなものを建造していたなんて……母さんは、キャピタル・アーミィの事を知らなすぎです!」
ベルリには恐らく、バリバリ仕事の出来る母に対する敬意というのがあって、アーミィに対して妙に攻撃的なのは、その母がアーミィの好き勝手を許している――母が格好悪い事になっている――事に対する苛立ちが多分にあるように見えます。
運行長官の息子でありキャピタルガードの候補生である自分がキャピタルタワーの防衛に重要な情報を持ち帰る事で、アーミィの鼻を明かしてやりたい、母のために一本獲ってやりたい、というのが背景にあると考えると、ベルリの情報集めに対する執着が腑に落ちます。勿論、自分の能力への過信、というのもあるでしょうが。
そう考えると現状、ベルリが母と女(アイーダ)の間で揺れている、というのは劇構造として面白い所。
そして“母の為”の行動が、ベルリを地獄に直面させる。
限度はあるようですが、ビーム攻撃を無効化して更にエネルギーに転換するリフレクターがえらい超兵器なのですが、着実に攻撃をヒットさせるデレンセンの技量を表現した上で、ベルリとデレンセンの技量差を埋める為には丁度いい装備となりました。
デレンセンはベルリの支援に上がってきた天才(笑)を一蹴するが、そこへ突撃してきたG−セルフともつれ合った末に、G−セルフが反射的にカウンターで放ったビームライフルがそのコックピットを灼き尽くす。
「ベルリ生徒だったか……!」
「デレンセン……教官殿……? ……そんな新型を出してくるからでしょ? そんなもので変形したりするからでしょ! 教官殿がそんな小手先の事をやるからぁ!」
このシーンはいつの間にかエルフ・ブルの下半身が吹っ飛んでいるのですが、どうやら、幾つか編集上のカットがあって、いきなりトドメのシーンに繋げられた模様。カット部分の是非(どうもOPのラストカットの辺りらしい)についてはフィルムの中に収められていない以上触れず、出来上がったフィルムの話だけをしますが、ん? 何か飛んだ? という感じは否めませんでした。
ただその上で、意図的に2話と被せたと思われる射撃シーンは、印象的。
無我夢中の内に顔も名前も知らない相手(カーヒル)を殺した第2話に対し、顔も名前も知っている相手を殺してその声を聞いてしまった、というのはベルリが明確に人殺しの感触を得た事を、強く印象づけます。
初回放送から豪快にフラグの張られていたデレンセンの死は、どんな劇的な状況になるのかと色々妄想を膨らませていたのですが、特に劇的な状況は与えられませんでした。
そしてそれ故に、重い。
不幸な擦れ違いがあるわけでもなく、他の誰かの為というわけでもなく、純粋に殺し合いをして、明確に殺す。
シンプルな殺しであるが故に、言い訳がきかない。
だからベルリは自己防衛の為に、咄嗟に死んだ相手に責任を押しつける。
もう一つ注目したいのは、4話においてはデレンセン率いるカットシー部隊に戦闘停止の交渉を試みようとしたベルリに、今回は一切そういった動きが見られなかった事。戦闘の流れとしては、先にエルフ・ブルの攻撃があり、それに反撃するという形で交戦しているのですが、メガファウナから離れた1対1の状況にも関わらず、ベルリは躊躇無くビームライフルの引き金を引いている。
そうやって相手を殺しかねない行動を散々取った上で、実際に相手を殺してしまった事に愕然とする。これは偶発的な事故ともいえた2話とは違う、明確な人殺しです。
本当の戦場では、相手を殺さないように加減した戦いなど自分の都合では出来ないし、悠長に話し合おうとする余裕もない。
4話において、戦闘中の敵味方でもコミュニケーションが可能であるという構図を描いた上で、しかしそんなものは、敵味方に分かれた戦場では絵空事である、という事が描かれている。
ベルリが重ねて口にしてきた「死にたくない」をMSに乗って実践しようとするならば、基本的には「敵を殺すしかない」――ここで遂にベルリは、本当の意味で「戦場<リアル>は地獄」である事を思い知る。
また、ベルリが殺した相手がデレンセンであった事にショックを受けるのが強調されるほど、知り合いでなければここまでショックを受けなかったのではないか、という裏側の表現が見えるのが、どうも非常に危うさを感じる所です。
一方、エルフ・ブルの攻撃を受けたモンテーロは地球に向けて落下し、天才(笑)は今日も順調に死にかけていた。
「私には、無駄死にというチョイスはないんだ!」
リフレクターでエネルギーを溜めていたG−セルフは、モンテーロに制動をかけ、クリムを救助。
ここで謎の青い火の鳥状の光(ベルリは「ガス」と表現)がG−セルフから放たれ、両機を摩擦熱から守るのですが、富野作品で青い火の鳥というと、個人的には『無敵鋼人ダイターン3』第38話「幸福を呼ぶ青い鳥」に登場する、宇宙を渡る高エネルギー体“青い鳥”を思い出します。これは作品の敵役であるメガノイドが主人公達と協力してまで手に入れようとするも結局失敗する、人類の手にあまる超存在というモチーフなのですが、まあ、そこまで関連づけるのは、うがち過ぎではありましょう(笑)
飛行メカ部隊がモンテーロ救出に気が回らなかった事を毒づくベルリだが、
「エフラグの限界性能を出してくれた連中だ。いいじゃないか」
と爽やかに返すクリム・ニック、命が助かったらすぐ鷹揚になる、引きずらない男。
G−セルフとモンテーロが無事に帰艦し、地球へ再降下したメガファウナは再び島へ。
「かなりのものです、彼は」
前回はベルリ当人に向けての軽口でしたが、今回は上役である艦長に向けて言っており、本人のショック症状とは裏腹に、クリムがますますベルリの「兵士(人殺し)としてのセンス」を評価している事が窺えます。
「リフレクターは、有効だったのですね」
「初めて使わせてしまったんですよ、ベルリに」
「そうでした。しかも本体の損傷はかすり傷程度……」
「我々の製造能力も、大したものだというべきでしょうなぁ」
あまり殺伐とした雰囲気の無い海賊部隊ですが、やっている事は人質取った上で捕虜にした少年兵を実験装備持たせて最前線に送り込むなので、とても鬼畜です。対するキャピタル・アーミィは先頭の機体を見殺し前提の戦法が基本の部隊で、まさに地獄絵図。どうしてこうなった。
デレンセンをその手で殺した事を否定したくても否定しきれず、沈むベルリ。
「嘘だよ、デレンセン教官だったなんて、嘘だ……!」
果たしてベルリは、現実を受け入れる事が出来るのか。そして、現状からの脱出を選べるのか。現在かなりよろしくない方向に進んでいるベルリがどうなるのか、今後の作品のトーンも大きく左右しそうで、かなり興味深い所です。
今回、ちょっとテンポが悪いなと感じたのは、コックピット内でのベルリの独白が非常に多かった事。リフレクターの説明などの必要性があったのかとは思いますが、もう少し圧縮して欲しかった。そしてそのあおりも受ける形で、前回の今回で姫様の出番が非常に少なかったのは不満。そろそろ、G−アルケインに仕事を――。
気が付けばすっかり毎度死にそうで死なない閉店SALEキャラと化しているクリム・ニックですが、予告を見る限り、次回も華麗に死にかけそう(笑) 今回は正直、デレンセン死亡回と見せかけて、クリムも一緒に始末される大衝撃回かと思いました(笑) まあ、今回死ななかったので、しばらくは死にそうにないか。
味方側に毎回のやられキャラが居るというのは、新しい構造かもしれない。
あと予告見る限り、デレンセンの死はアーミィの戦意高揚に利用されたりしそうでしょうか。そして母がなんだか危ない感じに。次回もまた迎撃戦の構図のようですが、アメリア軍本体も動いているようですし、今回をスプリングボードに、そろそろ次のステップも見たい。
ところでどうやらグリモアの売れ行きが好調な事からプラモデルのラインナップが増えそう、との事で、エルフ・ブリックのキット化に期待したい。