◆第11話「危険な遊び」◆ (監督:東條昭平 脚本:藤井邦夫)
バイラムの真打ち登場、ジェットマンの戦いを分析するグレイは、トランから「遊びが足りない」と言われ、自動販売機に次元虫を融合させ、ジハンキジゲンを誕生させる。トレーニングの休憩中、そうとは知らずに自販機ジゲンの化けた自販機からジュースを買って飲んでしまったジェットマン達は、突然、性格が豹変。
怠惰な竜、一匹狼の雷太、気弱で寂しがりの凱、ケチで金にいやらしい香、乙女チックなアコ、と5人がいつもと違う性格に変貌した事で、ジェットマンのチームワークはバラバラに。
立ち上がりのキャラクター造形がしっかりした作品なので、第11話にして性格変化ネタというのがしっかり成立し、この描写は実に面白くなりました。仲間意識の強いブラックコンドルが怠けるレッドホークを殴り飛ばす、というのは言ってしまえばセルフパロディなのですが、それがこの段階で成立する、というのは今作の特色がよく出ています。
また、トレーニング中に
凱「困ったもんだぜ、石頭の働きもんは」
アコ「でも、キザな見栄っ張りよりいじゃん?」
凱「うるせえんだよ、脳天気な男女!」
という会話があり、やや他と比べてキャラの薄かった(というかフォロー役として他動的だった)アコのキャラクターが逆にしっかりするという効果も発生。単純に竜と凱が逆転するのではなく、雷太がまるっきり凱っぽくなる(不良に憧れる地味キャラポジション)というのも頷ける所。
小田切長官は5人を精密検査し、心の奥底に隠れたごくわずかな性格の一部が、異常にデフォルメされて表に出てきている、という事を突き止める。ジェットマンを役立たずにした自販機ジゲンは、満を持して街を攻撃。……なぜ、自販機を次々と爆発させるのか(笑) と思ったら、その後高層ビルも攻撃しましたが。
次元獣が暴れているというのに、肝心の竜は飛行場で昼寝中。小田切長官は竜を立ち直らせようと叱咤し、遂には平手打ち。
「なまけさせて……たまるもんですか」
そして銃を向け……引き金を引く(笑)
あははははははははは!
凄い、凄いよさすが小田切長官!
敵前逃亡は士道不覚悟で銃殺刑です。
戦士の常識です。
長官は被害に遭った街の惨状を見せつける事で戦士の心を取り戻させようと、竜をヘリコプターに押し込み、強制発進。だがそこへ、自販機ジゲンが突如現れ、残った4人が襲われる。変身した凱が立ち向かうが、雷太はクールを気取り、香は宝石が大事、アコは心配はするけど自分から動かず、と1人で戦う羽目になったブラックコンドルは追い詰められていく。
引き返してきたヘリコプターから、一時的に正気を取り戻した竜が長官の銃を借りて援護射撃するのですが、次元銃に結構ダメージを与えています。なお、ヘリを運転中の人は、先程それを、人間に向けて撃ちました。
「怠ける心を捨てるのよ、竜! 早く行きなさい、さ、早く!」
再びへたれモードになってしまった竜を、長官、ヘリから突き落とす。
命の危機 > 怠けたい
で空中変身した竜は勢いで自販機に空中攻撃を浴びせ、そのダメージにより次元ジュースの効果が切れ、5人は正気に。ようやく普段の調子を取り戻したジェットマンは戦闘員達を片付けると、自販機を撃破。巨大化した自販機とジェットイカロスの戦闘に。
ジェットイカロスはシールドを初披露するのですが……特に使わず、自販機の吐き出した缶ジュース爆弾をハンマーで打ち返すと、バードニックセイバーで今回も瞬殺。多分、缶ジュース爆弾でダメージ→シールドで防ぐ→ハンマーで打ち返す→必殺剣、という流れだったのが、尺の都合でカットされたのかと思います(^^; ホント、時間無い。
「人間の性格って、一つだけじゃなく、色々あるんだよな」
「ま、いいじゃねえか。パターン通りの性格だけじゃなくてよ」
ちょっとメタな事を言いつつ、今回の事件はマウンテンサイクルに埋めてしまい、いい話だった事にしようとする5人(笑)
「長官にも、意外と冷酷で、執念深い所があるみたいだし」
「そうよ、本当の私は、怖いのよー」
いや、隠れてません。
若手の連投が続いた今作ですが、ここで藤井邦夫が登板。
藤井先生は例の如く例のように戦隊の尺では真価を発揮できないので強引かつ滅茶苦茶かつ適当に話を畳むのですが、今回は結果的に突き抜けて、駄目な方向で面白くなってしまいました(笑)
要するに小田切長官が何故長官かというと、一番狂っているから長官なのである。
キャラクターの性格をデフォルメする事で、作品そのものをデフォルメしてみせるという作りなのですが、その結果として、一番危ない人が炙り出されました(笑)
で、バイラム一味がジェットマンのトレーニング風景を盗撮している上に喉元に次元虫を放ったりしてしまって、その気になればすぐに仕留められそうなのですが、「くだらぬ遊びに翻弄されるとは、愚かな奴等だ」と、あくまで“遊び”である、というバイラムの現状の立ち位置も改めてすっきり。
そんな“遊び”の作戦が割とジェットマンを追い詰めてしまった為、「おまえそろそろ働けよー」とグレイを囲んでいた3人も、嫌味も言えずにハイかいさーんと、サブタイトルからしっかり繋がっている辺りは藤井邦夫の良い所。藤井邦夫の良し悪しというか落差がわかりやすく出たエピソードでした。
◆第12話「地獄行バス」◆ (監督:東條昭平 脚本:井上敏樹)
ゴールデンウィーク――戦士に休息は無いが、たまには飴を与えて士気の保持をはかろう、という事で特別休暇が出されたのか、「田舎へ行きたい」と言い出した香を、実家へ案内する雷太。隣の香は、竜とハイキングを妄想(笑) ところが路線バスがトンネルに入ると突如車内の電気が消え、「やめてくれぇ!」という男の悲鳴が響き渡る。
トンネルを出てバスが停車すると、なんと乗客の1人が泡になって溶けていた! とても人間業とは思えない手口の殺人は――
「この中にバイラムの手先が?!」
緊張する車内の様子を、バイラムは今日も盗撮中。
バイラムに、GWは無いのだ!(或いは毎日が日曜日)
「ホワイトスワンにイエローオウル、君たちにたっぷり恐怖を味わわせてあげるよ。君たちの頭で果たして犯人がわかるかな?」
たまたま乗客に居たハンチング帽の老刑事が場の主導権を握り、一行はそのまま警察へ向かう事に。しかし果たして、刑事は本物なのか? チンピラ風の男、派手めな女、目の泳いでいるサラリーマン風の男、サングラスにマスクというバス運転手……どことなく乗客達は挙動不審。
「最後の大仕事を片付ける為にこのバスに乗ったんだが、まさかこんな事件に巻き込まれるとはなぁ」
いきなり運ちゃんと渋い会話を始める明日定年という老刑事だが、その時、チンピラ風の男が派手目の女にナイフを突き付けてバスを降りようとする。香と雷太が鮮やかに男を叩きのめすが、再びトンネルで車内の電気が消え、トンネルを抜けた時にはチンピラ風の男は泡になって溶けていた――!
乗客同士の疑心暗鬼が募る中、派手めの女がサラリーマン風の男を犯人と名指しするなど、ますます空気の悪くなっていく車内。……それにしてもみんな、バスの中でぷかぷかと煙草を吹かし、物理的にも空気が悪くなっています(笑)
弱気になって愚痴りだす雷太を励ます香だが、そこへ絡んできた派手めの女、いきなり暗い人生を語り出す。
と、田舎の路線バス(降りたが最後、人里までの移動手段が徒歩しかない)を巧みに閉鎖空間として利用しつつ、戦隊というよりは2時間ドラマノリのボールを投げ込んでくる間合いが絶妙(笑)
「生きる事に疲れちゃったの……くたくたに疲れちゃったの。でももう自殺する必要なんてないわ。この中の誰かが、きっと私を殺してくれる。はははは、ははははは……」
「くさい芝居しやがって。自分が犯人のくせによぉ!」
ところが今度は、運転手が突然バスを止めて逃走。その正体は、6年前から老刑事の追っていた強盗殺人犯だったのだ。
「こいつはバイラムに魂を売ったんだ!」
「ち、違う。俺はバイラムじゃない」
堂々宣戦布告している事を受けて、一般人が普通にバイラムの名前を口にして警戒しているのは世界観のリアリティの肉付けとして面白い所。一応ジェットマンの正体は隠しているようで、その辺りのバランスは厳密に考えるとややこしい事になりそうではありますが(^^;
刑事は運転手を逮捕するが、前方には再びトンネルが見えていた……。
「トンネルだわ! これで私も死ねるわ!」
運転手はハンドルに手錠で繋がれ、仕方なく運転を再開。乗客はそれぞれ手を繋いでトンネルに入るが、次に消失したのは……なんと運転手。ところが運転手が居ないのに、ハンドルやシフトレバーが勝手に動いて走るバス……そう、犯人はバスジゲン。香達は最初から、犯人の体内に居たのである!
バス内部に無数の触手が湧き出し、バスの暴走に巻き込まれそうになって文句を言いにきた対向車の運転手が無残に溶かされてしまうという、なかなか酷い展開。
「ようやく犯人がわかったようだね! やれ! バスジゲン! みんな消せ!」
うんまあほとんど、自分からバラしましたけどね(笑)
バスジゲンは巨大化し、思い切り爆発に巻き込まれて吹っ飛ぶ一般市民達。
「死にたくない……死にたくない!」
落石からホワイトスワンにかばわれながら、死の恐怖に直面して怯える派手目の女。
イエローが生き残りの民間人3人を避難させている間、バスの攻撃でピンチに陥るホワイトだったが、連絡を受けた残りのメンバーが救援に駆けつけ、ジェットイカロスに合体(ここで、初の挿入歌仕様)。
スケーターのように機敏に動くバスは触手攻撃でイカロスにダメージを与えるが、イカロスはジェットダガーを投げつけて反撃すると、怯んだ所をバードニックセイバーで斬殺。
今作にしては、長い戦闘でした。
「香さん、私もう一度、やりなおしてみるわ!」
……ここで気付いたけど、この派手めの女、ルー(『超新星フラッシュマン』)か?
ルーの本編での扱いを思い出すと、ちょっと顔が引きつるなぁ(^^;
「その意気ですわ。人生、七転び八起きですもの」
「ありがとう、バイバイ、ばいばーい」
なお鹿鳴館香は、かつて東京中のダイヤを買い占めた経験を持つ資産家の令嬢であり、一転びの基準が、「朝飲んだ紅茶が好みでなかった」レベルだと思われるので、人の善意を簡単に鵜呑みにしてはいけません(多分これ、意図的)。
レギュラーメンバーの出番を大胆にカットし、竜・凱・アコをほとんど出さない代わりにゲストキャラを大幅に動員。それぞれの不審さを繰り返し描く事で視聴者を困惑させつつ、巧みな台詞で人間関係を描写(女が自殺志願を告白した後の、サラリーマン男の反応とか、実にいい)、ちょっとした飛び道具で小さなドラマを肉付けし、その上でヒーロー物と融合させる、というザ・井上敏樹とでもいったエピソードで、こういうシナリオを書かせると本当に巧い。
また、一歩間違えると滑りかねない内容を、要点を押さえた演出でしっかりとサスペンスの空気を出す東條監督は、さすがお見事。脚本、演出の巧さが光る1本でした。