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『アントマン』感想(ラストまでネタバレあり)

<マーベル・ユニバース>の一角を成す、アメコミ・ヒーロー映画。今度のヒーローは、その名の通り、スーツの力で蟻ほどの大きさに縮む事ができる、ミクロの戦士!
……ただしその中身、無職の駄目男。
まとまりのよい娯楽活劇で面白かったですが、何より、ピム博士がタチ悪くて最高でした!
他の<マーベル・ユニバース>映画との絡みはそれほど濃くないので(「アベンジャーズ」という単語は出てきますが)、ヒーロー活劇と面白サイエンティスト好きにはお薦めです(笑)
以下、小刻みに本編内容に触れながらの感想なので、ご了承下さい。


 3年の刑期を務め終えて刑務所から出てきたスコットは、別れた妻の元で育てられる娘に胸を張って会えるよう社会復帰を目指すが、前科が邪魔をしてなかなか上手く行かない。そんな中、娘の誕生日にプレゼントを渡しに行ったスコットは、娘が変わらず自分を父親として愛してくれている事と、養育費もろくに払えない自分の不甲斐なさを思い知る。娘には会いたい……しかし養育費を払う金がない……追い詰められたスコットは、世話になっているムショ仲間の誘いに乗って再び犯罪に手を染めてしまうが、忍び込んだ屋敷で手に入れた古めかしいスーツが、その運命を大きく変えるのであった――。
職が無い、金が無い、それより何より意志が弱い、と駄目男は何が駄目なのか、が緩やかに描かれていき序盤はスローペースなのですが、駄目男はその筋では一目置かれる駄目男だった、と主人公スコットが電子怪盗としての能力を見せ始める所から加速を開始。……社会的に駄目な方に。
序盤、クライムコメディ展開に尺を採るのが脇道に見えていたのですが、実はそれが今作全体のベースを成しており、中盤に来て成る程、と思わせる構成が巧み。基本的には「親子の愛情」「駄目人間の立ち直り」「潜入スパイ物」などの定番のプロットの組み合わせで作られており、驚くべき展開、と言ったものはほとんど無いのですが、その組み合わせ作業が非常に丁寧で、“2時間の映画”としてみっちり詰まってしかし詰まりすぎでない、というバランスが良く出来ています。
特に、物語の持つ要素→そこから引き出されるプロット→そのプロットから掘り下げる物、と切り落とす物の取捨選択が巧み。
例えば、別れた妻についてと悪役の背景に関しては思い切って切り落とし、その分、主人公と娘・博士とヒロイン、という二組の親子の愛情に焦点を絞る事で、全体を映画として“わかりやすく”しており、あれもこれも拾おうとして散漫になる、というのを避けています。
勿論、その取捨には好みもあるでしょうし逆に破綻を招く場合もありますが、今作に関してはそこが凄くよく出来ていたな、と(勿論、最低限の情報は提示していますし)。
プロットの組み合わせをただ複雑化するのではなく、娯楽作品としての適度な簡略化の巧さ、というのが光りました。
これは今作最大の特色となるヒーローの能力の見せ方にも発揮されており、人体ミクロ化、という、古今様々な形で使われてきたアイデアの部分は、最新のハイクオリティでここまで出来ますよ、というのを定番ネタの詰め合わせでさらっと見せてしまい、その先――縮小と拡大を瞬時に繰り返せる、と、蟻を操れる、という部分に主眼を置くのが鮮やか。
まあこの、ミクロネタを前振りで済ませられる贅沢さが、荒唐無稽なヒーローに説得力を与えてしまえる<マーベル・ヒーロー>物の最大の強みといえるのですが。ゲスト出演のファルコン(の翼)とか、多分さらっと凄い事をしているのでしょうが、さらっとしすぎて、当たり前に見えてしまうという(いずれ、何もかも当たり前に見えすぎて観客がマヒしてくる飽和に到達する危険性があるかとは思うのですが、その時の事は恐らく想定していると思うので、エスカレートの頂点をどう見せるつもりなのか、というのはシリーズの今後で興味深い部分)。
アントマンというのは、ただ、蟻の大きさになれるのではなく、蟻の王である、というのが中盤のワンポイントとして効き、特訓シーンと父娘のドラマを並行して見せていく中で、蟻を操る、という技術の習得を通して、“意志の強さ”を得る主人公。
そしてアントマンスーツの開発者であるピム博士が先代アントマンであった事と、その妻(ヒロイン母)の死の真相が明かされる――。
ピム博士は最初から最後までタチの悪さが最高に面白くて、今作一番のお気に入りキャラです(笑)
元ヒーローだし“科学に対する倫理観”は強いのだけど、“人間に対する倫理観”がやや踏み外し気味で、「正義のマッドサイエンティストとして凄くよく出来た造形(キャスティングも大当たり)。
元ヒーローだから意外と腕っ節が強い所とか、正義の為なら法をちょっぴりねじ曲げていいと思っている所とか、2代目探しの為にストーキングを辞さない所とか、最後の切り札とか、ラストシーンの決断とか、何から何まで最高。
留置場のカウントダウンシーンは爆笑でした。
基本、娘のヒーローである為に駄目父が最後のチャンスにあがく物語であり、主人公が博士に共感するのも「娘のため」というミニマムな視点なのですが、その一方で正義は語られないけど大義はあって、“一瞬も迷わなかった”先代の姿が語られる事で、何のために戦うのか、というマクロとミクロが折り重なって交錯し、「イエロージャケットを奪って」というヒロインの言葉に反射的に走り出すシーンで主人公が“ヒーローになる瞬間”がしっかり描かれているのが素敵。
そしてそうやって一度、マクロな世界の為に戦うヒーローになった後で、ラストバトル、たとえ抱きしめているのが自分では無くても、娘を守る為、ミニマムなヒーローが何よりもミクロになって、戦う理由を持たない悪を倒す、というのが綺麗に決まり、ヒーロー物としての構造もお見事。
憎まれ役になりかねない元妻の婚約者も、義理の娘を助ける為に命を張り、最後はスコットに便宜を図る事で互いのわだかまりを少し解消。実父と義父が仲悪いのはスコットの愛する娘の養育環境として良くないのでは、という家庭の問題もしっかり解決し、最後までぬかりがありません。
父娘愛・道を踏み外した男が立ち直る物語、という中心軸に上手くヒーロー要素を結合し、非常にまとまりの良い映画でした。土台としてのクライム・コメディ要素もしっかりと使い切り、愉快な仲間達、そしてアントニー……! アントニーはもう、大体わかりきっているのに、突っ走りきったのが上手い。
ところで全く余談ですが、余計なおしゃべりの多い実はパワーファイター(クライマックスで、気絶した警備員を拾っていくのが素敵)のルイスが、マンガ『闇のイージス』(作:七月鏡一/画:藤原芳秀)<刑務所編>に登場するホセは実写だときっとこんな感じだ……! と思えて仕方がありませんでした(笑)
映画館があまり得意でないので『シビル・ウォー』はレンタル待ちかなーと考えておりますが、アントマンが新作でどんな活躍をするのか、楽しみが増えました。一番好きなのはキャップなのですが、『キャプテン・アメリカ−ウインター・ソルジャー−』は傑作(定期)。