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『キャプテン・アメリカ:シビル・ウォー』感想(ネタバレあり)


 ナイジェリアでのミッション中、テロリストによる化学兵器の強奪阻止に成功するも、敵の自爆を阻止しようとした結果として民間人に多数の死傷者を出してしまうアベンジャーズ。この事件をきっかけに、国際社会及び各国政府にくずぶっていたアベンジャーズへの不満や脅威論が表面化し、アベンジャーズアメリ国務長官から、新たに結ばれる協定に基づいて国連の管理下に入る事を要請される。
 増え続ける超人達、度重なる世界の危機――大きすぎる力は、多数の正義に委ねられるべきなのか、個人の信念でこそ動くべきなのか。
 協定参加の是非をめぐって意見が分かれる中、大事な人の訃報を知らされたスティーブはロンドンへ向かうが、アベンジャーズに大きな危機が迫ろうとしていた……。
 「この仕事は…………出来るだけ大勢を助けたいが、全員を救えるわけじゃない。その現実を受け入れないと、この次は……――1人も救えなくなる」
 『アベンジャーズ』(以下『A』)を中心軸に拡大を続けるマーベル・ユニバース映画の1本で、タイトルには『キャプテン・アメリカ』(以下『C』)を冠してはいるものの、シリーズ第3弾というよりは、アベンジャーズ2.5』といった内容。
 『A2』でキャップが直面した志の限界、トニーとの思想性の違いが掘り下げられると共に、『A2』からの新キャラであるヴィジョンとワンダにスポットが当たり、助っ人ヒーローの参戦、ヒーロー特盛りで入り乱れる戦闘シーン、と物語の中身に加え、劇の構造もかなり『A』寄り。
 そんなわけで、出入りじゃ出入りじゃ! と祭の要素がふんだんに盛り込まれているのですが、あれもこれも入れようとしすぎて物語がまとまらなくなるのではなく、あれこれそれと入れるものを固めて、時間を使い切った構成は毎度の事ながら手堅く良い出来。また今回、傑作だった『C:ウィンター・ソルジャー』と同じ監督だそうですが、一つ一つのアクションシーンの映画全体における意味づけをしっかりと決めて、それぞれ違いを出した上で全体として飽きさせないスペクタクルの流れを作る手腕が実にお見事。
 シーン個別で見ても、大きな山場となる大乱戦シーンは非常に面白く、やや散漫になってしまった『A2』のクライマックスよりも良い出来でした。……特典映像の制作裏話によると、殺陣の構成組むだけで、数ヶ月かかったそうですが。
 全体の流れを見ると、キャップ映画自体が〔『ファースト・アベンジャー』=A0・『ウィンター・ソルジャー』=A1.5・『シビル・ウォー』=A2.5〕という位置づけなのでしょうが、その実質的前作といえる『A2』で提示された上で放置された問題を拾っている事もあり、『C:WS』の時よりもかなり露骨に続編の姿勢が明確で、それらの網羅は基本前提。
 ま、ここまで来るとヒーロー関係は前提で良いと思うのですが、同じ調子で脇役の把握まで要求してくるので、キャップがペギーの姪っ子に驚いていたけど、いや『C:WS』の時はチョイ役だったし覚えてないからしばらく意味がわからなかったり、とか、説明不足で困惑するシーンは幾つか(^^; いちいち説明を重ねるとテンポが悪くなるという事情もあるのでしょうが、冒頭に戦っていた相手についてとかは、もう一言二言説明欲しかったかな的な。
 またその調子で、キャップとバッキーの関係についても基本新たな説明無しで突き進んでいくのですが、『C』シリーズを見ていればわかる事という判断だろうとはいえ、そこは物語において非情に重要な部分なので、クライマックスへの効果も意識して今作の劇中において1エピソード描いても良かったかなとは思います。
 日本で例えるなら、TVで4クールやっていたアニメの劇場版新作みたいな映画なのですが、既に過去作で描いている事は基本的に観客はわかっているものとする、というのを徹底しすぎた結果、“この映画単体の中で説明しておいた方が効果的な要素”まで省きすぎてしまったかなと。
 それでも2時間半あった上で、特に冗長に感じる場面などは無かったりするのですが(^^;
 そういった物語を劇的にする為の布石の多くが過去シリーズという点を本編で補いきれなかった、という短所はあるものの、濃密に詰め込まれたテンポの良い展開に、見所たっぷりのアクション、観客に何を見せるかが明確で金と時間を無駄にしない造りで、全体としては十分に面白かったです。
 今回一番好きなキャップアクションは、シールドによるスタングレネード防御(転がってきたスタングレネードを上から盾で押さえつけて起爆を待つだけの簡単レシピ)。
 あとマンガ『闇のイージス』(作:七月鏡一/画:藤原芳秀)ファンとしては、バッキーが鋼鉄の義手で銃弾を弾くシーンに大興奮。左腕なのが惜しい。
 台詞の面白さも大きな魅力ですが、一番好きなやり取りは、
 「スターク家の奴は信じるなって、ピム博士が言ってた」
 「君は誰だ?」
 『アントマン』で、ピム博士とスターク家って何かありましたっけ……記憶にない……そしてピム博士はピム博士でかなりアレなので、物凄く、あなたが言うな感。
 以下、本編内容に触れながらの感想です。ラストまでネタバレを含むのでご了承下さい。
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 まずは冒頭10分程度、市街地での息もつかせぬ掴みのアクションが非常に面白かったです。
 いまいち冴えなかったファルコンウィングが改良され、ドローンにミサイルを放ち、変形して防弾シールドに、と多彩になったギミックが童心をくすぎります(笑)
 そして、相変わらずバイクの扱いが雑なブラック・ウィドウ。
 キャップは新メンバーのワンダ(スカーレット・ウィッチ)の念動で撃ち出されてビルの上階に突撃するという必殺・超人大砲を披露し、ヒーローそれぞれの個性を魅力的に描きつつ、更にそれを連携アクションでも見せてくるのが『アベンジャーズ』から光る面白さで、さすが。
 また、テロリストを相手にスーパーヒーローがチームで連携を組んで戦うというのは、『C:WS』で見せていた、特殊部隊の中に組み込まれたヒーロー、の流れを汲んでおり、ここは非常に『C』シリーズを意識した立ち上がり。
 ラゴスでの自爆被害、そして過去の戦いで完全に防ぎきれなかった惨劇……ヒーローのお陰で破滅的な大惨事は免れたが、しかし被害者がゼロではないという現実にヒーローは、そして人々はどう向き合うべきなのか、という普遍的にして答の出しにくい問題が提示され、重大な選択を迫られるアベンジャーズ
 元々は原作コミックの膨大な蓄積があった上で、フィクションとして目をつぶっていたけれど突き詰めていった時に出てくる問題に敢えて正面から向き合ったというテーマなのでしょうが、大を救う際にこぼれ落ちてしまった小の問題、というのは『A2』で既に提示されており、映画としても違和感のない形になりました。
 また、『アイアンマン』の当初より、00年代以降の現実社会と過去のスーパーヒーローを融合させる手法として、シリーズの背景には“テロとの戦い”が存在しており、現状いわば“テロリズムへのカウンター集団”となっているスーパーヒーロー達が、国際秩序に組み込まれるべきなのか、あくまで個人として動くべきなのか、というのはそのまま、国家とテロ組織の引き写しになっており、映画独自の蓄積としても、納得の行く流れ。
 アベンジャーズの活動に外部のチェックが入る事を良しとするトニーと、即断性が失われる事を危惧するキャップの意見が対立するが、70年前の思い人であるペギーの訃報を知ったキャップは、チームとしての結論をまとめられないまま、葬儀に出席する為にロンドンへ。
 協定賛成派としてウィーンに向かう途中のナターシャはロンドンに立ち寄ってキャップを気遣い、今回全体的に、ナターシャのいい女度が上昇。これまでのシリーズでは、強い女ではあるが割と悩み多きヒロイン的立場でしたが、そこをワンダに世代交代した感じで、この辺りの構造もスムーズに出来ています。
 ところがウィーンで爆破テロが起こり、その容疑者がバッキーとされた事から、暴走気味にバッキーを追うキャプテン。成り行きから二人で特殊部隊を蹴散らすが、そこに、ウィーンの事件で父王を失ったワカンダの王子が、黒い超人ブラックパンサーとして乱入する!
 ヴィブラニウムの織り込まれた真っ黒なスーツに同材質の爪を持ち、銃弾をものともせずキャプテンの盾に傷をつけるという新ヒーローのブラックパンサーは、バッキーへの復讐者としてこの映画単独でキャラクターが成立しているという事もあり、かなり格好いい。
 また、ここでハイウェーで車の間を縫いながらの追いかけっこがスピーディーで素晴らしいのですが、逃げるバッキー←追うパンサー←更に追うキャップ、の中でキャップの足が一番遅いのはどういう事なのか(笑) ワカンダは長く鎖国が続いていたアフリカにある神秘の王国(ゴリラの王国ではない……と思う)という事だそうですが、ヴィブラニウムの産出に加えて、超人血清の元になった成分が井戸水に含まれていたりするのか。
 「おめでとうキャプテン。君は犯罪者だ」
 激しい追いかけっこの末、結局捕まるキャップとバッキー、と合わせて不審者扱いで身柄を確保されるパンサー王子。
 トニーのお友達のウォーマシンに厭味を言われるキャップですが、この二人、これまでもほとんど絡みが無かったので、本気で仲が悪そうに見えて困ります(笑)
 「面倒を起こすつもりは……」
 「ああ、君は紳士だからな」
 「まずい事態になっているのを見ると、無視できないんだ。出来たらいいのに」
 「嘘だろ」
 「……ああ、そうだな。……時々」
 「時々その完璧な歯にパンチ食らわせたくなる。だが、居なくなられても困る。君が必要だ」
 トニーの説得を受けたキャップは協定へのサインについて折れようとするが、トニーがワンダをアベンジャーズ基地から外に出さないようにしている事を知り、またも決裂。
 ……この件に関してはトニーの対応の方が正解だと思うのですが、理屈の人ではないキャップと、それによって悪くなる事態もあれば良くなる事態もある、というのが今作のテーマの一つ。
 完全無欠の正解が無いからこそチームが必要だ――という事には、この映画の中では辿り着かないわけですが(^^;
 精神鑑定中、ヒュドラの遺産により再びマインドコントールされてしまうバッキー。暴れ回るバッキーの身柄をどうにか確保するキャップとファルコンだが、犯人には逃げられてしまい、バッキーの口からその狙いが、かつて奪われた超人血清により生み出された5人のウィンター・ソルジャーを目覚めさせる事だと知る。
 ヒュドラでも選りすぐりのエリート兵士であるその5人を思うがままに制御できたなら、暗殺や潜入工作は勿論、国家転覆すら容易い。世界の危機を急ぎ阻止するべく、ロシアへと向かう事を決意するキャップ……トニーには報せずに。
 話しても信じないし、仮に信じても協定が足枷になってすぐに動けないし、と言うのですが、それはそれとして、こういう事情で俺は行く、ぐらい連絡しても良さそうな所を全くしない辺りに、信頼はされているけど信用はされていないトニー、が透けて見えます(笑) ……まあ、こちらはこちらで今度は、トニーの過去の実績や人格的問題に基づくわけですが。
 かくしてロシアへ向かおうとするキャップと、キャップを止めようとするトニーがお互いの助っ人集めで、しばらく純粋に楽しいシーンとなり、激動→休憩→山場、の組み方が手堅く秀逸。
 ナターシャはパンサー王子を、トニーはピーター・パーカーを急増チームにスカウトし、スパイダーマン参戦にはかなりの尺。一方、アベンジャーズ基地のワンダの元を、引退した筈のホークアイが訪れる。
 「バートン……こんな所で何してるの?」
 「約束を破ってる。――子供と遊ぶ筈が」
 と言いながら壁の両サイドに矢を放ち、ワンダを連れ出そうとした所で登場するヴィジョン。
 「クリント、あなたは関わるな」
 「へぇ? 俺が引退して、ほんの5分かそこらでこのザマじゃないか」
 「その行動が生む結果を考えるべきだ」
 「はいよ、考えた」
 で、トラップ発動(笑) と、ホークアイ好きとしては、このタイミングでの登場に、洒落た台詞とアクションが非常に良かったです。
 「もう問題を起こしたくない」
 「……力を貸してくれ。いじけたいなら、学生やってろ。償いたきゃ、じっとしてないで、動け」
 躊躇するワンダに対してホークアイが行動を促すというのも、ワンダにヒーローとしての志を教えたのがホークアイという『A2』での絡みを拾ってくれて良かった。『A2』といい今回といい、ホークアイはやけにおいしい役回りが続きます。まあ、シリーズの作風として、キャップやホークアイぐらいの超人強度のキャラクターが一番ドラマを作りやすくて、規格外組(ソーとかソーとかハルクとか)の方が動かし方が難しい、というのはある感じですが。
 ホークアイを止めようとする戦いで物質透過能力を持つヴィジョンの強さを見せつつ、ワンダがそれを越える念動力により、ヴィジョンを地下へとめり込ませる。ワンダの能力がヴィジョンに干渉できるのは、源流を同じとする力だから、という事でしょうか。
 今回、落ち込むワンダを元気づけようと料理にチャレンジしたり、人工生命であるヴィジョンがヴィジョンなりにワンダを気にかけ守ろうとする姿がなかなかおいしいのですが、その上で肝心な所で妻子持ちのおじさんにさらわれるというのは、けっこう酷い(笑)
 キャップ陣営にはファルコンの伝手でアントマンも加わり、助っ人を加えた両陣営は、空港でいよいよ対峙。
 キャップチーム〔キャプテン・アメリカ、ウィンター・ソルジャー、ファルコン、スカーレット・ウィッチ、ホークアイアントマン
 アイアンチーム〔アイアンマン、ブラック・ウィドウ、ブラック・パンサー、ウォーマシン、ビジョン、スパイダーマン
 6対6に分かれてしまったヒーロー達が、それぞれの信念の命ずるまま、今ここに激突する!
 両チーム入り乱れての大乱戦の中で、それぞれのヒーローの見せ場をしっかり作っているのが、実にお見事。誰かが誰かの踏み台なのではなく、対立し合っているけど個々人がそれぞれヒーローなんだ、という気配りが良く出来ています。
 比較的割を食ったのは、脇役属性の強いウォーマシンと、オーバースペックすぎて本気を出させにくいヴィジョンぐらいでしょうか。戦闘力で一段劣るブラック・ウィドウは、個別でいいシーン貰っていましたし。
 お互い殺意こそないものの、下手に手加減するとかえって間合いが狂う理論なのか、超人だからこのぐらいなら死なないよね、という勢いで壮絶なバトルが展開して見応えたっぷりなのですが、そんな中で、キャップ陣営にアントマン、アイアン陣営にスパイダーマン、という和み要員が居る事で、バトルが殺伐としきらないのが、実に巧い構造。
 一歩間違えると凄く嫌な気分になってしまう所を見事に回避しており、この二人の存在が、今作の白眉だと思います。
 「スタークは他にも言ってたか?」
 「あなたは自分が、正しいと思ってる。よけい危険だって」
 「……言えてるな」
 まあ、夜な夜な地道に街のヒーローやっていたティーンエイジャーをこんな戦いに脅迫まがいで巻き込んで良かったのかと思う点はありますが、トニーがピーターにヒーローとしての志を確認した際の「力を手に入れた以上、見て見ぬ振りは出来ない」という答が、どちらかというとキャップ寄り――そしてそれを聞いた上で、ピーターを連れて行く事を決める――なのは面白い所。
 これ自体がまた、少し悟ったような事を言っているけれど結局物凄く青臭いキャプテン・アメリカ、というヒーローの諸刃の両面を示唆している、とも取れそうですが。
 ヴィジョン登場で激闘は第2ラウンドに移り、これでもかと趣向を凝らした戦いが続く中、アントマンまさかの巨大化。
 スーツの配色もあり、凄くウルト○マンです。
 巨大アントマンは大暴れの末に、スパイダーマンと空飛ぶ二人の連携で倒れるものの、キャップとバッキーは離陸に成功。最終的に、ヴィジョン光線の流れ弾で墜落したウォーマシンが重傷を負う事になり、ヒーロー同士の激闘は幕を閉じる……。
 ファルコン、ワンダ、ホークアイアントマンの4人は海中刑務所に投獄される事になり、「子供と遊ぶ筈」がキャップの応援に駆けつけたらムショ入りになったホークアイと、更生の道を歩んでいた筈が憧れのヒーローの呼びかけに応えたらやっぱりムショ入りになったアントマンの二人が、なんだか悲惨(^^; まあそのリスクを負った上でヒーローの信念に従う……というのもこの作品のテーマであるわけですが、ホークアイはまだともかく、アントマンはかなり私生活が切実なので、とても可哀想な気持ちになります。
 あと、空港バトルでは凄まじい強さを見せたワンダ(制作裏話によると、強キャラ設定らしい)が、全身拘束されていて絵面が悲惨。後はこの映画の終わりまでそのままで、途中扱いが良かった反動が悲惨。
 ウィーンの爆破テロ犯と、精神鑑定に現れた医師が、共にある男の変装だったという真相を知ったトニーはロシアに急ぎ、キャップ&バッキーと合流するが、しかしそれこそが真犯人――元ソコヴィア特殊部隊の軍人・ジモ――の狙いであった。
 「おまえの目は綺麗な青だと思い込んでいたが、実物はくすんでいた」
 3人がヒュドラの実験施設で目にしたのは、冷凍睡眠カプセルの中で射殺された超人兵士と、1991年のある晩に記録された、監視カメラの映像。そこに映っていたのは、ウィンター・ソルジャーとしてのバッキーが、トニーの両親を殺害する光景であった。この真実にトニーはバッキーに対してまごう事なき殺意を向け、それを食い止めようとするキャップ。
 「敵に倒された帝国は再び立ち上がる。だが内側から崩れれば、永遠に、死んだままだ」
 ジモの目的は、超人兵士の覚醒ではなく、ソコヴィアで失われた家族の復讐の為に、アベンジャーズ同士を殺し合わせる事だったのだ――。
 「父さんは、私の妻と息子を抱え込んだまま、息絶えてた。…………そしてアベンジャーズは、家に帰った」
 そこに、世界を好きにしようとする悪役の姿などなく、『A2』クライマックスの惨事が生んだ復讐者が居ただけだった、という救いようのないクライマックスで、まさかのラスボスがアイアンマン。
 ジモ自体は、復讐の為に復讐と無関係の人間を何人も殺しており、更に恐らくは前職において、自分が復讐される側でもおかしくない行為をしてきていると思われ、事情はあるけど理はない人物として描かれているのですが、一歩間違えると誰もがそちら側に転がり落ちる可能性の象徴として、強烈な存在。中盤で意味ありげだった、留守番電話に残された妻からのメッセージを聞いている姿、の意味がここで明らかになるという構成も効きました。
 「復讐心がおまえを蝕み、彼らを蝕んでる。……私はもう、終わりにする」
 トニーを追ってこの地に辿り着いていたパンサー王子は、事件の真相を知り、その爪を収めるとジモの自殺を止める。
 世界の破滅を食い止めた陰で失われた命、洗脳された人間が奪った命、悪いのは誰なのか、あらゆる復讐は許されないのか、大義は全てにおいて優先されるのか――軽々と答の出ない問題が突きつけられ、カタルシスの無いまま幕を閉じる今作において、一つだけ答を出す事で光るのが、テロの連鎖を止めようとするパンサー王子の姿。
 上述したように、このシリーズは“テロとの戦い”がずっと背景にありますし、今作単体においても、ナイジェリアでの自爆、ウィーンでの爆発、という二つのテロ行為が大きな意味を持っており、ブラック・パンサーがそれに対する答を出し、それによって真のヒーローになる、という部分は綺麗に着地しました。
 施設内部では、キャップ&バッキーvsアイアンマンの死闘が繰り広げられ、血みどろの殴り合いの末、アイアンマンスーツを機能停止に追い込んだキャップは、左腕を失ったバッキーを連れて姿を消す……。
 「盾は置いていけ。おまえにふさわしくない。父が作った盾だ!」
 スパイダーに狙われたり、スパイダーに狙われたり、今回も落とす度にピンチに陥る、キャップ魂の盾を捨てて去って行くのが、戦いの結末として非常に印象的。
 「どんな気分だ? あれだけ時間と労力をかけ、結局、失敗に終わった。さぞ、愉快だろうな」
 「……失敗かな?」
 かくしてアベンジャーズには大きな亀裂が入り、拘束されたジモは、不敵に呟く……。
 しばらく後――ウォーマシーンのリハビリに付き合っていたトニーの元に、<嫁さんに逃げられて一人で寂しい自宅に居ないで本部に居て安心したよ!>と、(この野郎、地の果てまで追い詰めてリ○アで買った核ミサイルぶちこんでやろうか)と火に油を注ぐ時候の挨拶で始まるキャップからの手紙が届く。
 「僕が信じているのは、組織ではなく、一人一人の個人だ。僕が信じている人達には、裏切られた事がない。だから僕も裏切りたくない」
 事ここまでこじれた背景について、割とくどくど言い訳がましいキャップが割と身勝手(^^;
 「出来れば協定にサインしたかった。本当だ。君は信じた道を行け。それぞれ、信じた道を進もう」
 キャップはファルコン達を脱獄させるとパンサー王子に匿われる事となり、洗脳を完全に解く方法が見つかる時まで、バッキーは人工冬眠につく事に。手紙の入っていた箱から何やらポケベルみたいなものが出てくるのですが、何なのかよくわからず。……キャップへの、直通召喚アイテム?
 「これだけは言える。何があっても、君が僕らを……僕を必要とした時は――駆けつける」
 と、最後なんとなく格好良く締め、正義のヒーローが一つに結集しているのは必ずしも良い事ばかりではなく、信念に基づいたフレキシブルさも必要ではないか……というのは決着としてわからないでもないのですが、キャップ贔屓の私から見ても正直、今作で浮き彫りにされた、反省も傷心もするが責任は取らないキャップの姿には、色々と問題を感じます。
 冒頭の自爆からして、悪いのは自爆するテロリストなのは確かなのですが、結果として発生した被害に関して公式に謝罪する様子が描かれるわけでもなく(謝ればいいというわけではありませんが、キャップの被害者に対する意識が自省以外に見えないのが問題)、もしかしたらトニーの会社から賠償金とか出しているのかもしれませんが、全部救えないのは仕方の無い現実、と変に割り切っているだけで、責任を取ろうとする意識が非常に薄い。
 一方でトニーは、いい年して嫁も居るし、そろそろ俺達、社会に対して責任を取らないといけないのではないか、というスタンスなのですが、そもそも野放図に生きてきたトニーが社会責任について考えるようになっているのに対し、もともと愛国戦士だったキャップが社会責任に対する関心が薄い、という逆転現象は面白い構図。
 で、どうしてキャップがそうなのかというと、結局、スティーブ・ロジャースはまだ孤独なままなのだろうな、と。
 ラストの手紙では18の頃から軍隊で得ていた疎外感を理由にしていましたが、『C:WS』では、70年経って変貌した国家や社会に対する孤独感が描かれており、同作では所属組織に悪の秘密結社が寄生していた真実を知って内側からバラバラに粉砕するに至るという、キャップが組織というものに重きを置けない感情が十分に理解できる上で、何より未だキャップは、そもそも現代社会に対する責任を感じられていないのではないか(更に今回、そんな世界との大きな絆であったペギーとも死別している)。
 これに関しては『A2』のラストでのトニーとのやり取りが今作に向けて非常に示唆的で、

 「のんびりするのか?」
 「君もそうしろ」
 「……どうかな。家族とか、安定とか……そういうものを求めていた男は氷に埋もれたよ。……出てきたのは別人だ」
 「……大丈夫か?」
 「……うん、ここがうちだ」
 スティーブ・ロジャースは氷の下でずっと死んでいる。
 では、キャプテン・アメリカは、生きているのか?
 今回、洗脳中の殺人に関しても「全て覚えている」と叫ぶバッキーの方がまだ自分の行為に責任を取ろうとしているようにも見えるのですが、そのバッキーにしても事件に巻き込まれるまではこれといって活動しているわけではなく、最後は人工冬眠という形を選ぶわけで、バッキーもキャップも、死に方どころか生き方さえもわからないまま100歳になってしまった二人に見えます。
 「今頃100歳だろうな」
 「僕達もだ」
 という突入前の二人の会話がなんとも寂しいのですが、そんな状況でキャップにとって唯一の生きていると思える方法が
 「まずい事態になっているのを見ると、無視できないんだ」
 であり、故にキャプテン・アメリカは、思い立ったら即正義を実行する事でしか、生きていけない。
 帰る家もなく、愛する世界もなく、しかし信じる個人の為に戦い続ける事でしか生きられないキャプテン・アメリカこそ、実はアベンジャーズで一番のバケモノなのではないか。
 一番最初に『アベンジャーズ2.5』みたいな映画と書きましたが、その抽出によって最終的に『キャプテン・アメリカ』として帰結する、個人的にはそんな映画となりました。
 キャップ贔屓としてはなかなか辛い話になったのですが……果たして、キャプテン・アメリカは、この世界を愛しているのか?
 今回キスシーンなどあったりましたが、キャプテン・アメリカスティーブ・ロジャースとして、再び世界を愛せるようになる日が来るといいなぁと、そんな事を思います。
 終わってみると延々と内輪もめしている作品なのですが、それを映像の出来で面白く見せるという力技は素直に凄い。その上で物語に関しては、この後ヒーロー再結集映画があるんですよね??? という期待感あってこそ許せるというオチなので、今作を踏まえた上でのヒーロー再結集にも期待したい所です。
 心理的には地味に重傷なヴィジョンがどう描かれるのか、なども楽しみ。
 あと雷神様はついネタにしてしまうけど別に嫌いなわけではないので、再結集の暁にはハンマー兄上の活躍にも期待しています!
 今回国務長官から「おまえらハルクとソーの居場所把握してるの?」って聞かれて、(いやアイツ神様だから、把握しろとか言われても正直無理すぎて迷惑……)みたいに不在の場所で流れ弾食らってましたが!
 後、持てなくなっている、という展開の後に、クライマックスでヴィジョンにハンマーかっさらわれそうな気が凄くするけど!!
 兄上は 萌え枠だから 仕方ない (詠み人知らず)