はてなダイアリーのサービス終了にともなう、旧「ものかきの繰り言」の記事保管用ブログ。また、旧ダイアリー記事にアクセスされた場合、こちらにリダイレクトされています。旧ダイアリーからインポートしたそのままの状態の為、過去記事は読みやすいように徐々に手直し予定。
 現在活動中のブログはこちら→ 〔ものかきの繰り言2023〕
 特撮作品の感想は、順次こちらにHTML形式でまとめています→ 〔特撮感想まとめ部屋〕 (※移転しました)

『ビーファイターカブト』感想5

◆第7話「友に捧ぐ怒りの鉄拳」◆ (監督:東條昭平 脚本:宮下隼一)
登場当初は学究肌かと思われた健吾、軍隊ばりの戦闘訓練をこなしてきた上に、跳び蹴りで岩石を木っ端微塵に粉砕する有名な空手家の弟子にして、その道場の師範代と判明し、ますます筋肉の使徒に。
そうだ筋肉は、真理に近づくための手段だ……!
前作でいうところの大作ポジションなのでしょうが、やはり『ビーファイター』はマッスルと縁が切れないのか。
その頃メルザードでは、
「誰だ……人間を暴力と……破壊の大好きな、野獣に変えるのは、だぁれぇだぁ……!」
女帝から、凄く細かな指定が入りました。
誕生したヒトデ怪人は、変幻自在に姿を変えて獲物に取り憑き、心と体を操る能力を持っているとこれまた細かく説明が入り、人間を野獣に変え、同士討ちさせる作戦の指揮を執ることになる魚次男。
まずはアンモナイトが先行して地上に出現する姿が描かれるのですが、特にこれといってキャラクターの掘り下げは無し。顔出しと着ぐるみの差かもしれませんが、恐竜コンビが割とフィーチャーされて肉付けされているのに対し、海産コンビの方の肉付けが弱いままなのは気になる所です。キャリアのある声優(塩沢兼人増岡弘)任せみたいになっている部分もあるのかもですが。
健吾の親友であり空手道場の跡取り・和也は、偉大すぎる父の影に苦しみ、空手道を見失っていた。和也の妹から相談を受けた健吾は和也を説得しようとするが、逆に破門されてしまう。
「危ないんじゃないの、ハッキリ言って、ここ」
東條監督の中では蘭は、歯に衣着せないというか、周囲に配慮のできない子、という扱いなのか(^^; いやまあこれ、貫けばキャラクターになりますし、天才プログラマーという設定を考えると、それらしいですが(長所に対する短所というのは必要ですし)。
街でシャドー空手をしていた和也はヒトデに取り憑かれて公園で器物破損を繰り返し、更に和也の体から増殖したヒトデが、街の人々に次々と取り憑いて広がっていく暴動。
一般市民が暴力衝動に取り憑かれて……というのはよくあるシチュエーションですが、結構な人数が角材振り回して暴れ回っており、かなり派手な事態になるのが凄く『ビーファイター』です(笑)
敢えて名札を師範代の位置に戻した健吾が、和也を元に戻す為に友としてもう一度戦う事を決意する……というシーン自体は格好いいのですが、和也はヒトデに取り憑かれる前から暴力的になっており、悪化はしているものの和也本来の暴走にヒトデ怪人が関係ない為、その和也に(ビーファイタークワガーではなく)健吾として立ち向かう、というのはヒトデ怪人が蚊帳の外になっていて、残念。
これが和也が表向きは昔のままだったけれど、ヒトデに取り憑かれた事で秘めたコンプレックスを暴力に転化した、というのなら、健吾が本当の和也の姿を受け止めて正そうとするきっかけにヒトデ怪人がなる、という形で意味が出たのですけれど。
「和也ー! 負けるな和也! 思い出せ! 和也!」
師匠譲りの必殺電光蹴りを友にぶち込んだ健吾は、内臓破裂の懸念がある和也に、説得という名のラッシュ攻撃(笑)
筋肉による肉体言語の駆使こそ、心に届く最良の手段……!
激闘の末に二人の拳がスパークしてヒトデ怪人が弾き出され、和也が正しい心を取り戻した事で悪に打ち勝ったという事なのでしょうが、そもそもヒトデに悪の誘惑要素が無かった(強制憑依)為に、二人の関係とその改善は、少しずつ話と状況設定がズレてしまった感じ(^^; 空手対決は見応えあって、勢いは悪くなかったのですけれども。
増殖ヒトデに取り憑かれた市民は、ビットが弱点は電気と分析した上で、博士が人体にダメージを与えず子ヒトデだけに有効な電圧を計算して伝える、というのはチームワークが発揮されて良かったです。こういった作戦要素は、博士の存在理由も含めて、今後も継続していってほしい部分。
合流した3人は超重甲し、ネオビートマシン出撃。メカ部隊を蹴散らした後に、こいつも電ショックでいけるのでは? と安易に属性攻撃をしてみるも反射されてしまうビーファイターだが、「俺はもう逃げない。父さん、健吾、見ててくれ」と立ち上がった和也がチャージアップ。必殺電光三段蹴りに覚醒して怪人を吹っ飛ばし、弱った所をクワガーが必殺攻撃でフィニッシュ! かくして昆虫魂は、新たな戦士候補をリストに加えるのであった……。
和也はコンプレックスを乗り越えて立ち直り、盛り返す道場。二人の師匠はどこかで見覚えのある顔だなぁと思って調べたら、ガイラー将軍(『宇宙刑事シャリバン』)でした。
次回――迫り来る退学の危機! 小山内博士が他人事でナレーションしてはいけないのでは(^^;


◆第8話「カブトついに退学!?」◆ (監督:東條昭平 脚本:小林靖子
甲平の連日の遅刻早退が学校で問題になり、教頭先生の主導により退学処分が下されそうになるが、担任の平野先生の取りなしで、1週間の補習とテストで何とかしてもらえる事に。
「誰の為でもない。自分の為なんだぞ」
コスモアカデミアに補習課題を持ち込む甲平の姿に、全く自責の念を感じる様子の無い小山内博士は、人間として完全にどこか壊れています。
「退学執行猶予中の甲平くん、補習三日目にして、既にグロッキー状態?」
他人事だと思って茶化す蘭はもうここまで来たら、他人に配慮できないというこの路線を貫いていただきたい。
健吾は健吾で、さらりと英文を解答すると気楽に励まし……この人達本当にあれだ、学業とビーファイターの両立ぐらい出来て当たり前、ちょっと苦労するのは「青春のいい思い出」ぐらいに認識しているんだ……!
恐らくビーファイター活動の合間にアカデミア研究員としての通常業務をさらりとこなしている健吾と蘭はともかく、立場が違うので、小山内博士が下衆い事は変わらないんですが。
メルザードでは、絶滅アリ怪人が産み出す灼熱卵を利用して火山大噴火作戦が進行しており、地質学研究所から情報提供を受けた健吾と蘭は、不自然な反応を見せる火山のパトロールへ。
健吾と蘭が黙ってパトロールを肩代わりしてくれている事をビットから聞いた甲平は、自分の不甲斐なさに憤る。
「俺はみんなに、迷惑かけてる。学校なんて……」
甲平は、ちょっと思考が飛躍しすぎる節が見受けられますが、本当にいい奴だなぁ……。
未熟な若者を主人公に据えるスタイルだと、その青臭い言行を物語が肯定していく際に説得力の構築に失敗してしまうという事がしばしばありますが、甲平の場合、若さと青臭さが、自分の考えが一番だと思い込む視野の狭さではなく、周囲への配慮と繋がって時に自分を殺しかねない形として出ているのが好感の持てる所(例えば第4話でも、健吾の事情をすんなりと飲み込んだり)。ある意味で「要領が悪い」といえるのも第5話をしっかり踏まえており、巧く繋げてきました。
また、そんな甲平が数少ない自分勝手な振る舞いを見せている(自覚は薄いけど甘えている)相手が妹のゆいといえ、身内の存在意義もしっかりと出ています。
「甲平、お前が、何をやっているのか先生は知らん。しかし、学校は続けた方がいい。な、頑張れ」
担任教師や、助っ人参加している部活の友人達に励まされ、甲平を取り巻く絆がしっかり描かれているのも良かった部分。
改めて退学回避への意識を強くする甲平だったが、補習の最後となるテスト寸前、健吾と蘭が火山地帯でメルザードと接触した事を知ってしまう。
「みんなはただの高校生としてのお兄ちゃんの学校生活を守ろうとしてくれてるんじゃない!」
教室を飛び出そうとする甲平を止めるゆいですが……その気があるなら、もう少し普段から手を回して!
「地球の平和と、俺の学校生活なんて、比べものにならないんだ!」
甲平の優先順位の付け方は付け方で間違っていないだけに、昆虫魂に選ばれてしまったのは一種の不測の事態とはいえ、高校生にここまでの覚悟を押しつけているコスモアカデミアの暗黒ぶりだけが浮き彫りになります。
(俺はビーファイターとしての責任を果たす!)
まあ劇中の描写がこうである以上、コスモアカデミアには教育機関に手を回すまでの力はない、と見るべきなのかもしれませんが、前作を踏まえて考える限り、コスモアカデミアは私設自警団でも秘密組織でもなく、国家権力とも繋がりがある国際的な地球防衛組織の筈なので、なにもカブトンの中身だと明かさずとも、アカデミアの特待選抜に選ばれたとかなんとか、法を曲げない範囲でフォロー出来ると思うというか、むしろ、それぐらい出来ないと困る組織(メルザード被害の後始末などもしていると思われるわけで)なのが、にんともかんとも。
翌年、高校生戦隊である『電磁戦隊メガレンジャー』において、背後組織であるアイネットがこっそりと便宜をはかっている節が見え隠れしていたのは、今作を踏まえていたのか(笑)
甲平は現場に辿り着いて超重甲し、学校では教頭に厭味を言われながらも、甲平を待ち続ける担任教師。
メルザードの繰り出す戦闘マシンに対してネオビートマシンで迎撃に……というのはここまで毎度繰り返されているのですが、怪人とメカが全く連動していない為に、BFと怪人が対峙→おもむろに戦闘メカが出てくる→怪人を無視してビートマシン戦→適当に蹴散らした後にマシンを降りて怪人と戦う、というノルマ消化の為だけのパターンになっていて、話の流れが完全にぶった切られてしまっているのが残念。戦隊と同じ事(怪人の巨大化)が出来ないので毎度物語にマシンを組み込むのも大変なのでしょうが、もう一工夫は欲しい部分です(^^;
そんなこんなでノルマを片付け、アリに立ち向かおうとするBFだが、突如、体内の高熱に耐えきれなくなったアリが暴走を始め、既に地中に産み付けていた卵が次々と大爆発。出撃前に魚次男が兄者への嫌がらせでアリに打ち込んだ発熱促進剤、それはアリの能力を強化する代わりに、アリ自身の限界を超える所まで体内温度を上げてしまう効果を持っていたのだった。
「まさかデズルの奴〜……」
恐竜コンビも巻き込む大爆発の中、カブトンはコールドレーザーでアリを冷却し、カブトンランスでフィニッシュ。消滅する化石素体の映像が定番化し、既に絶滅した種がベースとはいうものの、最後の一匹を改めて絶滅に追いやっている感じが凄く強いのですが、全ては昆虫魂の元、新帝国ビートルによって統轄されるべきなのだ!
「貴様、謀ったな………! 俺をうまく葬り去るつもりだったのか」
「まさか。あんな副作用があるとは俺も知らなかったのさ。運が悪かったな兄者」
「お気の毒様でゲスゲス」
前回、海産組の肉付けが進まない事に不満を書きましたが、小細工を仕掛けてくれる姿で個性が強くなったのは、非常に良かったです。
一方、アリを倒した甲平は、ビーファイターとしての使命を全うする為に、退学を受け入れようとしていた。
ビーファイターとして戦う為にも、鳥羽甲平は、捨てなきゃいけないんだ!」
「それは違う! 戦うだけがビーファイターじゃない。喜び、笑い、泣き、怒る。おまえのほとばしる若い感情があればこそ、インセクトアーマーはおまえを選んだ。甲平、まだ若いおまえには戦い以外の生活は大切なんだ。おまえにはこれから知らなきゃいけない事がまだまだたくさんある。そして、そんな普通の高校生としての鳥羽甲平を、一生懸命守ろうとしてくれる人がいるじゃないか」
それを諭す博士がいっけん良い事を言っているような雰囲気なのですが、言っている本人が一生懸命守ろうとしていないので、人の世への絶望から新たな絶滅モンスターが生まれそうな勢いです。
追い詰めるだけ追い詰めてから土壇場で優しい言葉を投げかけるコスモアカデミア(小山内博士)のマッチポンプ吐き気がする程どす黒いのですが、このやり口は、洗脳ではないのか。
全ては、新帝国ビートルの為に!!
シリーズとしては90年代に入り、
〔公のヒーロー→公のヒーロー→公のヒーロー→闇の正義執行人→蔭のヒーロー(戸籍上死亡)→公のヒーロー〕
と官憲に所属しているか、社会的に死んでいるので法の枠外かが極端だった流れから、高校生戦士という設定を巧く生かして“公私の間で揺れるヒーロー”を描いており、ヒーローとしての覚悟決まりまくりの甲平が自ら社会性を捨て去ろうとするのに対し、周囲がそれを押しとどめようとする、そこで甲平の若い覚悟が視野狭窄へと転じ、学生生活にはそれを広げる意味があるとしてきたのは鮮やか。
「鳥羽甲平は、捨てなきゃいけない」という台詞が示す、古いヒーロー像へのアンチテーゼも嫌にならない形で入っており、『ブルースワット』で見せた光に続き、翌年から戦隊シリーズに参加して大きな飛躍を遂げる小林靖子の片鱗が見えます。
メガレンジャー』終盤の某エピソード(最近、ニコニコ動画で配信が始まったそうなので伏せる)は小林靖子だったかと思ったらやはりそうだったのですが、色々な点で、翌年の戦隊に繋がっていくエピソード、という気がします。
……今作放映の1996年というと同期の東映作品は『カーレンジャー』と『シャンゼリオン』になりますが、やはり『カーレン』を改めてしっかり見ないといけない気がしてきたので、恐らく現在の『オーレン』配信の次だろうから、見るかなぁ。
博士の言葉に懸命に自分をかばってくれた平野先生の存在を思い起こした甲平は、考えを改めて学校へと急ぐ。
「平野先生!」
「遅かったな甲平。テスト始めるぞ」
「はい!」
先生が何も聞かずに笑顔で迎える、というラストも爽やかで、またそれが、先生が甲平を信じているというその信頼に応える事、になっていたのも良かったです。
コスモアカデミアのエリート達の最低な対応のお陰で地雷気味になっていた“高校生戦士”という設定に敢えて正面から向き合った上で、整合性を付ける為に設定面でフォローを入れるのではなく、鳥羽甲平とは如何なるヒーローか? そして今作が大事にしているのはどういう精神なのかというのを描く(手法としては、すり替えている)事により、改めてヒーローを立ち上げるという、ヒーローの理由を大事にする小林靖子らしさも見える、好エピソードでした。
甲平が上がった分、小山内博士が地獄に落ちましたが、博士は地獄行きが相応なので、やむを得ません。
次回――怪人と落語家、って、もうこれ扇澤さんしか書かないだろう、みたいな予告でしたが、さて(笑)