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今更な上にこのタイミングですが(^^;

山本昌邦備忘録』(文庫版)を読みました。
山本昌邦備忘録 (講談社文庫)
せめて五輪前に読んでおけよという感じですが、色々忙しくてこのタイミングに。
内容は、サッカー五輪代表監督を務めた山本昌邦氏が、前日本代表監督フィリップ・トルシエ氏の元で、コーチとして活動した4年間の記録をつづったもの。2002年ワールドカップ・トルコ戦の敗北に始まり、4年間を振り返って再びトルコ戦で終わる、という構成。
出版物として発行されている以上、商業的・政治的な要素が当然含まれるわけですが、以下一応、全文を本人の意向として山本昌邦が書いた、という前提の元に感想。
とりあえずこの本の主旨は、著者もあとがきで書いていますが、“山本視点から見たトルシエ・ジャパンの4年間”というもの。
トルシエはああ言っているが私に言わせればこうだった。ただし、私の視点には勿論、私なりの偏りがあるのも確かなので、その辺りは御了承下さい。
といった具合で、まあ当たり前といえば当たり前なのですが。読む場合、あとがきに目を通してから読んだ方がいいかもしれません。
繰り返し述べられている著者の主な主張は、こんな感じ。

  • トルコ戦は勝てない試合では無かった。どこからか、チームの歯車が狂ってしまったのだ。
  • トルシエのお陰で、スタッフはみんな大変だった。
  • 要所要所で選手に重要なアドバイスをしたのは私だ。
  • スターシステムスターシステム、と言うが、要するにトルシエは自分が一番目立ちたいのである。
  • ヒデは素晴らしい選手だ。

……並べるとなんかアレですが、実はそれほどトルシエ批判に終始しているというわけでもありません。色々大変だったけど、トルシエにはトルシエで優れた所もあった、みたいな感じ。
むしろ本人が3番目をアピールしたがった感が強く(笑) まあ、事実そうであった所もありますでしょうし、書いた人の権利とも言えますが、“サッカー界のニューリーダー”(あおりより)だったら、もう少し露骨じゃない書き方してもいいよなぁとは(笑)
個人的に一番気になったのは、5番目。まあ勿論中田英は素晴らしい選手であり、日本代表において極めて重要と言える選手でありますが。隙あらば中田を外そうとするトルシエ(著者はこれを、スターシステムと関連づけた要するにトルシエの個人的感情ではないかと分析)に対してそれを阻止しようとする私が正しい、という何度か出てくる構図、結局そこがこの二人の決定的に分かりあえない所であったのかなぁと。
真実の理由はどうあれ、少なくともトルシエは、中田抜きでも機能するチームを作ろうとしたのであり、これは正しい事であると私は思っています。対して、中田を絶対不可欠な選手と言い切り、そこから考え始めている著者。このスタート地点の差というのは非常に大きく、後付けでいうならばこれこそが五輪代表における、OA小野伸二→小野中心のチームへ、という事になったのかな、とは。
まあ、中田に関する文章そのものがトルシエに対するあてこすり的な面もあるとは思いますので強くは言い切れませんが、基本的に、中心選手あってのチーム、という考え方なのかなぁとは思わされました。
読み物としては、ある程度しっかりしたサッカーファン向け。トルシエ・ジャパンに関する予備知識がある程度ないと、説明されていない事が多々。なにしろ、試合の結果すら書いてません。トルシエの練習法に関しても、いわゆる“ぶつかり稽古”が後半でいきなり単語が飛び出てきたり、と、まあ備忘録だからといえばそれまでですが。全編、初歩的なファンへ、というよりは、もっと詳しく知りたい人へ、という感じ。
あと、冒頭にトルコ戦の敗戦を持ってきて、こんな負け方をする筈ではなかった、どこかから歯車が狂ったのだ――という、いかにもトルシエ糾弾みたいな前振りをしておきながら中身はそれ程でもなく。自分の健闘を主張したいのか、トルシエを批判したいのか、未来の日本代表について何かを語りたいのか、なんとなく全体の焦点がぼやけてしまった感じ。私ならこうする、とか、これを踏まえてこう考えてこうしたい、みたいなビジョンを語る部分も少なく、全体的に裏話と“実は私はこんなアドバイスをしていたのだ”の集合体。まあ一応、最後に山本さん自身の反省もちょっと入りますが。
……要するに著者自身が読者に結局何を伝えたいのか、微妙に不透明。本当にどうしても伝えたい事があるならば、多少の誇張をしても読者の心を動かしてしまったもの勝ちなわけですが、その辺、性格の問題なのか、或いは本人にも何が一番言いたい事なのかわからなくなっていたのか(笑)
もう一つこれは著者本人の性格の問題もありますでしょうが、とにかくユーモアの欠片もない文章が延々と続きます。真摯な備忘録、としてはまあ良いのかもしれませんが、なんとなく、もう少しどうにかならなかったのかなぁとは。
……まあホント、真面目な人なんでしょうね、山本氏は。トルシエの事をちょっとけなしすぎている気がするから、この辺でアイツのいい所も書いておいてやろう、みたいな文章がたまに出てくる辺りも含めて(笑)