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『大平面の小さな罪』

大平面の小さな罪 (ビームコミックス) (BEAM COMIX)

大平面の小さな罪 (ビームコミックス) (BEAM COMIX)

ゆえあって昨夜から岡崎二郎リバイバルの波が来たので、たまには古いマンガの紹介でもしてみる。
もともとの発刊は1996年。1話完結エピソード7話収録の連作短編で、全1巻。
書影を紹介しようと思って、2010年の復刊を知る。

ある日、JR新宿駅の駅貼りポスターが一区画全て、白紙に取り替えられるという事件が起きる。しかも取り替えられた白紙は全て、元のポスターと全く同じ紙質という手の込んだものだった。だがそれは、人間の手によるイタズラ事件ではなく、平面管理委員会の“調整ミス”によるものだった。この世界の全ての平面は、平面管理委員会によって管理されている。我々が目にする絵や文字は全て、彼等がそう見えるように調整する事によって成り立っているのであった。
広告代理店に勤める宇田川は、平面管理委員会の仕事に嫌気が差していた行動局員セーナと知り合い、二人で新しい広告代理店を始める事になる。力の私的利用を禁じるという委員会の規則をうまく誤魔化し、セーナの力を用いてあらゆる平面にどんな広告でも打てるという画期的ビジネスは大当たりし、二人は大金持ちになるのだが……。
この世のあらゆる平面を調整する平面管理委員会、その実働役である行動局のはみ出し者セーナと、ごく普通の人間の宇田川。二人が、平面の調整能力を悪用した犯罪を暴いていくという連作シリーズ。ただし正統派のバディヒーローものというわけではなく、シリーズ1話では、むしろ“ヒロインが犯罪を犯す側”であり、その後諸事情あって、というのが一ひねり。
例えば紙に「あ」と文字を書いたつもりでも、行動局員が調整を変更しただけでそれは「ア」にも「阿」にも変わってしまう。イラストを別のイラストに変えてしまう事も、数年をかけた絵画を真っ白にしてしまう事も、平面の絵を実物のように動かして見せる事さえ可能である。同時に、局員の人為的な調整以外にも、平面の局地的乱れというのは自然発生し、行動局員の元来の仕事は、その乱れを正常に調整する事にある。
この平面の乱れと調整、というワンアイデアを元に、紙幣や有価証券の偽造は委員会のマークが厳しく必ず捕まる、という前提のもと、それを出し抜く毎回トリッキーな平面詐欺の手法にドラマを絡め、テンポ良く進む作品。
画の部分では、キャラクター達が平面に沈み込んだり、逆に平面から現れたり、平面を動いたり、といった描写に色々と凝っていて面白い。
また作中を通して、セーナと宇田川の、素直じゃない女とそれなりの年取ってちょっとひねちゃった男の微妙な関係、というのも面白く物語に彩りを添えています。
アフター0』シリーズでSF短編の名作を数々生んだ作者が、短編上手の持ち味を活かしつつ、連作として巧くまとめられています。
岡崎二郎は、両手を振って万人に薦められるというタイプではないですが、個人的には大好きな漫画家。40〜50年代の英米SFとか好きな方には、お薦めしたい。