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有川浩、2作感想

  • 『植物図鑑』

植物図鑑

植物図鑑

「咬みません。躾のできたよい子です」「あらやだ。けっこういい男」。飲み会帰りのOL・さやかは、行き倒れの青年・イツキを成り行きで拾う事に。一宿の恩義にと彼の作ってくれた朝食に胃と心を奪われた彼女は、彼を半ば強引に引き留める。そして奇妙な同居生活が始まったのだが――。
携帯サイトに連載されていたものをまとめ、書き下ろしを加えたもの。基本、1話完結の連作短編。
もひとつピンと来ず。
単純に、ジャンルの問題かもしれませんが。
これまでの有川作品の中では最も純然たる恋愛小説といってよいであろう今作が、私の守備範囲から外れていた可能性はあり。そもそもジャンルとしての“恋愛小説”というのは全く読まない為(劇中の“要素”としては大好物なのですが)、そのジャンルとしての評価の基準を奈辺に置けば良いのか、というのはわからないのですが。
とはいうものの単純に、小説、としての出来は今ひとつ。これは連載形式との兼ね合いもあるかとは思いますが、伏線の処理とかは、開き直り気味のレベルですし。もっとも『図書館戦争』に見るように、「あえてベタに」という方向にアクセルを踏み込むのが好きな所もあるようなので、その結果かもしれませんが。
敢えて例えるならば、隔月・短期集中連載の料理ネタ少女マンガ、みたいな感じ。
基本、有川ラブコメは好きなのですが、難を言うならば、割と生臭い部分が苦手であったりします。これは、生活臭、とかの意ではなく、言うなれば、個人的な趣味嗜好として、フィクションでは読者としてそこは読みたくないなぁ、という部分。
例えば、既刊読者以外にはわからない話で申し訳ないですが、『別冊 図書館戦争1』の、堂上と小牧の風呂場での会話とか、ちょっと引いちゃうんですよね、私は。そこは親友同士でも黙して語らずにおこうよ、みたいな感じで。
その辺りの、ドリームとの境界線の部分が、たぶん、引っかかった。
というのが、全体的な感触の微妙さに繋がっているような気がします。

塩の街

塩の街

塩が世界を埋め尽くしていく、原因不明の塩害の時代。社会は崩壊の崖っぷちにあり、文明は塩に飲み込まれて死に絶えようとしていた。人口の三分の二を失った日本、その東京の片隅で暮らす男と少女の元を、人々が通り過ぎてゆく内、世界は運命の転機を迎えようとしていた――。
何となくタイミングを逸して、実は読んでいなかったデビュー作。
読んだのは、文庫版を改稿し、短編4編を加えた、2007年発行のハードカバー版(文庫版は2004年)。
著者あとがきによると改稿は主に、電撃小説大賞の応募原稿→文庫化に際して改稿、した部分において、改稿して良かったと思った部分を残しつつ、応募時の方が良かったと思う部分を戻して、プラスアルファ加えたとの事。特に、文庫出版時に“電撃文庫らしく”する為に、年齢関係で変更を求められた部分を応募原稿通りに戻したとの事なのですが、この辺り、あとがきで公表されている部分が振るっています。

逆に断固として私が拒否した提案が「真奈を中学生にできないか」というのと「秋庭を二十二、三歳にできないか」というもの。特に真奈は十八歳の設定だったんですが、食い下がられましたねー。
「せめて十七歳にならない?」「それで何が変わるんですか?」「変わる! 読者の印象が!」
まあ、猫も杓子もヒロインは14歳、という時代があった気がします、確かに。今はむしろ、この時代より、年齢層が上がっているという事になるのか。
しかし、真奈ちゃん(ヒロイン)中学生にしたら、秋庭さん(ヒーロー)、完全に変態ですよ。
でも、18と17で印象が変わる、というのはわかる辺り、まだまだ私にも少年の心は残っている模様です(笑)
まあ色々な意味で、有川浩をハードカバー要員にしたい、といって引っ張った担当は慧眼であったという事か。
内容の方は、荒削り、というか、後の片鱗は窺える、というか、後で出世するのがわかっている人のデビュー作に付ける感想としては甚だ、だらしのない言葉しか出てこないのですが、先にその後の作品を読んでしまっていると、何より文章のテンポにどうしても少々の違和感があります。
長編のアフターエピソードとして収録の短編(初出が記載されていない為に、発表年は不明)の方になると、完全に会話の間合いなどが現在の有川浩となっていて違和感なく読めるのですが、これは既に第2作の『空の中』で確立されていると言ってよく、ちょっとビックリ。
まあ、『塩の街』だけが文章のテンポが違うのは、なんだかんだで、電撃文庫として書いたから、というのはあったかもしれません。
出来としては水準以上で、面白かったです。
付け加えるなら、○○が、○○○○な辺りが、作者の面目躍如か。
あとはこういった作品の常で、ヒロインとヒーローがどれぐらいストライクゾーンかで、評価変わるかとは思います(笑) 私はややボール(笑) ただこの当時から、いかにもわかりやすいヒロイン、を書く気はなかったのだな、というのが見えます。これは作者の大きな特徴ではあるかもしれない。
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これで多分、現在出版されている作品は全て読了したと思うのですが、一番好きなのは、しつこいですが、『空の中』。これはもうホントに大傑作なので、是非是非。
しかしまあ、こういう作家が、同時代に、それなりのペースで書いてくれるというのは、実に嬉しい。