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『仮面ライダーW』感想9

◆第11話「復讐のV/感染車」◆ (監督:諸田敏 脚本:長谷川圭一
顔芸路線だった亜樹子、芸の幅を広げるべく、ひたすら風邪演技に挑戦するの巻。ガンバレ。
「命を狙われているから助けてくれ」という電話で依頼人の元へ向かった翔太郎だが、チンピラ風の依頼人は翔太郎の目の前で、血管のような模様の浮き上がる車に轢かれてしまう。
これまでと毛色の違うサブタイトル、夜の埠頭でカーステレオで爆音を流しながら人を轢く不気味な黒い車、と怪奇スリラー色を強めた、面白い入り。
翔太郎の目の前で確かに轢かれた筈の男だが、死体には轢かれた跡がなく、男はウィルスに感染して死亡していた。ドーパントの関わり、そして、車から感じた哀しみを気にした翔太郎は独自の調査を開始し、被害者の青木が加わっていた、風都で幅を利かせているストリートギャングのリーダー・黒須と接触
黒須の言動を怪しんだ翔太郎は部下のチンピラ二人を尾行するが、チンピラAもまた、謎の車に殺されてしまう。ホラー&スリラー&シリアスな展開で格好良く変身しようとした所で、「馬鹿は風邪をひかない」の検証にフィリップが夢中、というのは今作らしい落とし具合。
翔太郎はカースタントを披露して車を止めようとするが、失敗。ようやく変身するもナスカドーパントの介入を受け、チンピラBも殺されてしまう。車に取り憑いて予想外の活動をするバイラスドーパントを追跡検証中のナスカは、マフラーで半分こキックを防御する、とようやく活躍。
ようやく活躍。
ようやく活躍。
翔太郎が確認した車の運転手は、山村康平18歳。一週間前に姉・幸(さち)が轢き逃げに遭って意識不明となり、その復讐の為に黒須達を狙っていると推測され、翔太郎は説得を試みる。
「復讐なんてもうよせ。君の姉さんだってそんな事望んじゃいない」
凄く、普通です。
逃げ出した康平を追った翔太郎は、幸の婚約者、売れない画家の湯島と出会って黒須の一味と誤解されている間に康平を逃がしてしまい、康平は復讐の最後の相手、黒須を狙う。
湯島と翔太郎の会話シーンで、背後に置かれた架空のバス停の作り込みなどは、今作の良い所。
亜樹子からの連絡により、復讐車を返り討ちにしようと武器を持って盛り上がる黒須の元へと急ぐ翔太郎に、問いかけるフィリップ。
「一つ、聞いていいかな? 黒須って男は、僕らが救う価値はあるの?」
黒須の外道さをここまでしっかり描写した上で、思っても言ってはいけない台詞を、浮き世の情や社会性とは無縁のフィリップからずばっと。むしろ視聴者の共感を得てしまう爆弾を敢えて置いた所で、しかしそれを翔太郎は良しとしない。
「でも俺は黒須を守る。たとえ人間のクズでも、この街の人間だ。殺させるわけにはいかねえんだよ。それに、復讐なんかで康平の哀しみは消えやしない」
「ハーフボイルド――とても不合理だけど、君らしい答えだね」
変身したダブルは、銃撃をものともせずに黒須に襲いかかる感染車をバイクで阻止。
「一番大切な人を奪われた、その気持ちは俺にもわかる。だからこそ……やらせるわけにはいかねえんだ!」
メタルサイクロンでバイクが硬化?してひっくり返すが、感染車は片輪が壊れてもなお、執念で黒須を追い詰め続ける。ダブルは飛行マシンに跨がると、ヒートメタルにチェンジし、メタルブランディングにより車を焼却撃破。だが、車から転がり出た康平からは、ガイアメモリが排出されなかった。康平はメモリの保持者では無かったのか?! その時、緑と茶色の入り交じり、人型ではあるが顔らしい顔が無いという奇怪なドーパントが、奇妙な高音を発しながら姿を現す……。
自動車というのは人間の顔を想起させやすいデザインであり、その喚起するイメージでホラー時にはロマンスも表現できる面白いアイテムでありますが、迫り来る無言の恐怖を、巧く演出。3−4話も良かったですが、落とす部分との緩急のテンポなど、諸田監督の演出は、今作と相性がいい(勿論、演出自体がそれを作っていくわけですが、諸田回が最も、立ち上がりの作品世界を確立したという意味で)。


◆第12話「復讐のV/怨念獣」◆ (監督:諸田敏 脚本:長谷川圭一
黒須は結局、謎のドーパント(バイラス)にウィルスを打ち込まれて死亡し、ドーパントは逃亡。
「許しがたい悪人」「それでも守ろうとする翔太郎」という構造にどう始末をつけるのかと思ったら、翔太郎は翔太郎の信念で(康平の)復讐は止めたけど、思わぬ展開で悪人は死亡して報いを受けました、とやや逃げ腰に。
まあ、黒須をかなり外道に描いた上に逮捕の難しい設定にしてしまった事で放置するのも見ていて気分が悪く、どの辺りでバランスを取るか、というのは難しい所なのですが。
康平がドーパントでなかった事で真犯人として浮かび上がったのは、被害者・幸の婚約者の画家、湯島。湯島のアトリエを訪れる翔太郎だったが、何とその湯島がドーパントに襲われている場面に遭遇。とりあえず変身して湯島を助けるが、ドーパントはまたも逃亡し、湯島もどこかへ姿を消してしまう。
湯島がドーパントで無ければ他にいったい誰が居るのか……亜樹子が閃いた人物は、被害者本人。病院に向かった翔太郎達は、幸の腕に生体コネクタ(ガイアメモリを差し込む痣がこう呼ばれる事が判明)を発見する。実は幸は、車に轢かれる直前にガイアメモリを使用しており、意識不明になったまま精神がドーパント化。現場に居合わせた弟・康平の怒りの感情を取り込む形で特異なドーパントに変質すると、車と融合して康平を操っていたのである。
ドーパントの正体が幸であるならば、いったいなぜ婚約者の湯島が狙われたのか……クイーン&エリザベスと接触した翔太郎は、湯島が女たらしの遊び人であり、最近では結婚詐欺にも手を染めていた事を知る。
……悲劇の婚約者役にしては、あまりにちゃらかったからなぁ、湯島(笑) この前の絵画教室のシーンで、生徒が若い女の子ばかりというのは、画だけで見せる巧い伏線。
あと、情報屋を固定せず、複数出してくる、というのは遊び心と世界の広がりがあって今作の長所の一つ。“街もの”であるからこそ、街の中のサブキャラ配置にこだわる、というのはゲーム的面白さというか。
幸を復讐から救おうと奔走する翔太郎の為にフィリップは、幸を星の本棚に呼び出して説得を試みようと、生体コネクタを通じて精神ダイブをはかる。
星の本棚に登場する幸が、そこで意識が止まっているという事なのか、轢き逃げされた直後、というメイクと服装でホラー。
「幸さん、君の事を本気で救おうとしている男が居る」
どちらかというと復讐を止める事に興味の薄いフィリップが、本気の翔太郎の為に手を貸す、というのはいい所。1−2話でちょっと詰め込みすぎましたが、この二人のコンビ関係もじわじわと大事に描いていっているのは好印象。
またこの台詞は前回における「でも俺は黒須を守る」と対になっており、クズも、復讐者も、風都に暮らす人々を等しく助け、その上で正統な裁きを受けさせるのが正義であると考えている、という翔太郎のヒーローとしてのスタンスを現していると思われます。
翔太郎の職業設定など、生活感のあるリアリティを志向している今作ですが、ダブルがここまでのところ法治にゆだねるヒーローというのは、面白い。
前回フィリップが、「私刑でも別に構わないんじゃい?」と述べましたが、翔太郎はそれを否定。“ヒーローと社会の関係を組み立て直す”というのは、《平成ライダー》初期のテーゼの一つですが、ダブルはかなり意識的に社会性をともなったヒーローとして描かれおり、またこれは、翔太郎が社会正義を、それを構成する人々の良心を信じている現れかと思われます。
ヒーローというのは多かれ少なかれ、既存の枠組みを打ち破る所にこそヒーロー性、フィクションゆえの面白さが存在するわけですが、翔太郎自身はどちらかというと、(ヒーローにしては)なるべく社会から逸脱しようとしていない。
救う人間の価値を定める事を厭わない、ある意味で神の視点に立ちかねないフィリップに対して、翔太郎が“凄く普通”と言えるのですが、この翔太郎が“凄く普通”というのは、もしかしたら今作のキーの一つなのかも。
また、フィリップが翔太郎について言う「ハーフボイルド」は、「情に流される甘い男」というニュアンスがあるのですが、その実、翔太郎が目指す結果というのは「法の裁き」というシビアな地点である事が多い、というのは今作の持つ不思議な二面性であります。出来れば意図的に仕込んでくれているのだとすると、この先に色々使えそうで、面白いけど。
幸がバイラスのガイアメモリを購入した理由、それは湯島の正体を知った為であった。湯島に対する復讐を悩みながらも振り捨てようとしたその時、轢き逃げにあった幸のやり場のない憎悪はドーパントを変質させ暴走。湯島が潜伏中の女の家を襲撃し、駆けつけた翔太郎は湯島に幸へ謝罪するように説得をするが湯島は逃亡し、フィリップもまた幸の説得に失敗して精神世界から弾き出されてしまう。
「止めてやるよ俺が……必ず」
「それを言うなら、俺たちが、だろ」
しかしフィリップは、変身すると倒れるのに、どうして毎度立ち上がるのか(笑)
身の安全よりポーズを取る辺り、これはこれでハーフボイルドです。
その頃、売人からの情報によりバイラスメモリの暴走と変質を知り追いかけていた霧彦さんは、「精神体のドーパントとか凄いよね?! これを詳しく報告したらご褒美ですか?!」と盛り上がっていた。だが、ミュージアムでは既にそういった症例は研究済みであり、精神体ドーパントは肉体変異のドーパントより力の劣る粗悪品である、と結論づけられていると冷たい視線を浴びる安定の酷い扱い。
「……ただ、怨念というのも、時としてとてもこわーいものだけど」
逃げ出した湯島が、いやーな音楽と共に辿り着いたのは、幸と式を挙げると話し合った教会だった。その扉が開き、現れる花嫁姿の幸。
いい感じにホラーだったのでここはもう少し尺を取って見せても良かったと思いますが、朝から嫌なホラー過ぎるという判断だったか、この衣装は一瞬。幸の姿は瞬く間にバイラスへと変わって湯島に襲いかかるが、間一髪、突風を起こしてそれを阻むダブル(サイクロンジョーカー)。
「やめろ。こんな事をしても君の為にならない」
ハードボイルドを愛し、気取った台詞を好む翔太郎ですが、この11−12話で、土壇場の説得は凄くストレートで普通である事が判明。まあ、1−2話でも見せたように、左翔太郎という男の本質は、物凄く青臭い熱血漢、という事なのでしょう。
シンプルなヒーロー物の作劇を出来るようにしつつ、物事への価値観としてフィリップというもう一つの視点を置き、翔太郎自身もハードボイルド趣味を纏わせる事で(そしてこれは、おやっさんも関わる二重三重の装いであるという推測もされます)、単純化しすぎないようにしている、というのが今作の一工夫。
怨念で暴走するバイラスは説得に耳を貸さず、ダブルはやむなくヒートトリガーにフォームチェンジすると、マキシマムドライブ・トリガーエクスプロージョンによる火炎放射で焼却。肉体変化より弱いという設定に合わせてか、あっさりでした。
ドーパントの消滅に歓喜する湯島の高笑いを聞きながら、ダブルは無言でフェードアウト。見えない所で変身を解除した翔太郎は、幸の心を罵る湯島の背後に立つ。
「おい……おまえの罪を数えろ」
ここに決め台詞を温存しておいたのは秀逸。“人の悪意”をキーとする今作において、ただ怪人=悪とするのではなく、悪とは何か、をどこに置くのかが鮮やかに出ました。
ここで翔太郎が湯島を殴るというのはいいシーンなのですが、翔太郎のパンチ演技が微妙(笑) 現場的には、スーツアクターやアクション監督から指導を受けられる筈なので、わざとマンガチックな大ぶりにしたのかもしれませんが、パンチというか、スローイング。
「おまえを殴ったのは俺の拳じゃない……幸さんの、心だ」
そして翔太郎、そういう人に、そういう言い方は、あまり有効ではないと思う(笑)
翔太郎が湯島を殴るのは、先に書いた法治うんぬんの話で言えば私的制裁になるわけですが、幸による復讐を止めた事でそれは成立し、カタルシスの為のボーナスステージ、というバランスで良いかと思います。劇構造からそう見えるという話で、翔太郎が法治に縛られているというわけでもないですし。
かつてその辺りのリアリズムに囚われたすぎた結果、カタルシスの方を放り投げてしまった作品もあったりしましたが、やはりヒーロー物として一定のカタルシスはあるべきだと思います。問題は、そのカタルシスを、どういう折り合いを付けて作品の中に収めるかというわけで。その点で、決め台詞を温存しての今回の展開は、巧く収めたと思います(あと後日談としては語られないけど、湯島は割と杜撰な感じなので、翔太郎が頑張れば結婚詐欺で警察があげられるぐらいの証拠は集められそう)。
そして幸は今エピソード内では目を覚まさない、という形で、轢き逃げ犯4人を殺害した事の因果応報はバランス取り。今作は恐らく「罪の償い」というのは一つのテーマなので、今簡単にハッピーエンドにはしないけど、いずれ(法的に裁けるかは別に)償いの精神を持って目を覚ますのだろう、と予感させる形で着地しました。
最初に触れましたが、翔太郎を立てつつ、結局黒須を死亡させた(視聴者にカタルシスを与えた)帳尻はどこかで合わせなければならなかったので、湯島の扱いと含めて、今作のバランスはこの辺り、という悪くない所に着地したとは思います。
今回、フィリップによるガイアメモリの分析が無かったので「バイラス」って何……? と思ってとりあえず検索してみたら一番上に、
ガメラ対宇宙怪獣バイラス
と出てきたので、う、宇宙怪獣?!と動揺したのですが、「Virus」、現在の日本語表記における「ウィルス」との事。割とそのまんまでした。目を作らず、得体の知れない怪物というイメージを前面に押し出した、思い切ったデザインがエピソードの雰囲気とも合って面白かったです。
7−8話で荒川稔久がやらかしたので心配された三条陸以外の脚本でしたが、翔太郎とフィリップの関係、亜樹子にちゃんと役割を与える、作品世界のバランス判断など、しっかり押さえられていて面白かったです。怪事件を追うという形式上、複数脚本家でバリエーションがあった方がいいと思うので、今後も参加するなら期待したい。
翔太郎(馬鹿)はオチで風邪を引いてフィリップに更なる難題を提供し、次回、姫、ストーカーに狙われる。そして、ときめきメモリアル