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楽しくて悲しき世界――『Gのレコンギスタ』感想・第17話(Aパート)

◆第17話「アイーダの決断」◆ (脚本:富野由悠季 絵コンテ:牧野吉高/斧谷稔 演出:居村健治)
今作、富野作品名物・アバンタイトルの“前回のおさらい”は毎度作ってはいるけれど時間の都合で入れたり入れなかったりしているらしいのですが、久々に入った今回、ベルリがかなり重要なモノローグ。
「知らない人に奉られたって、楽しい事などはないのだから、1人で踏ん張るしかなかった」
前回、衝撃の真実にアイデンティティとモチベーションを大きく揺さぶられたベルリですが、激しい苛立ちを見せた理由の一つには、わけもわからないまま「王子」と奉られた事に対する当然の不信感、防衛反応があった様子。
良くも悪くも「姫様」扱いに慣れきっているアイーダに対し、これは非常に理解出来る反応です。
また、持ち上げられても取り込まれない、思う通りにはならないぞ、という無意識のアピールもあったのかもしれません。
勿論、計算尽くでは無く、本当のどうにもならない苛立ちがある故に、あのような無謀かつ無駄な戦闘行為になったのでしょうが。
そんなベルリがG−セルフに搭乗していない、という少々ドキリとする状況から今回はスタート。
ラライヤの操るG−セルフが行っているのは…………宇宙のゴミ掃除。
シラノVの農業ブロック外壁が剥がれて宇宙空間に大量の土砂が流れ出し、メガファウナはそのどさくさに紛れて出港。G−セルフやアルケインは、メガファウナにゴミがぶつからないように防ぎつつ、瓦礫が大桟橋の方へ行かないように掃除していたのだった。
メガファウナへの直撃を避ける為に宇宙空間でもこもこ広がって障壁となる隕石風船を展開したり、巨大なハエ叩きのような物をMSに持たせて瓦礫を打ち払ったりと、面白い描写。
「こんなゴミ掃除にかこつけて、メガファウナが出港したのって、何かわけがあるんですか?」
「わけ? ……モロイの港に居っぱなしになると……」
「はい」
「自由にならないでしょ」
「そ、それはそうでしょうね」
笑顔が引きつるラライヤさん、姫様への信頼ゲージが5下がった!
姫様、表向き自信満々なので、皆騙されるのです。メガファウナクルーの通過儀礼なのです。
ここでG−セルフの背中にぶつかりそうになった瓦礫を払いのけ、ケルベス中尉のレックスノーが活躍。
「ラライヤの体には、かすり傷一つつけさせないよ!」
中尉は脊髄反射で物言うなぁ(笑)
ケルベス教官は何にでもチャージして、何にでもリアクションするので、実はけっこう、何考えているかわからない所があります。いやまあ多分、素直に裏表のない人なのでしょうが。スコード教の偉い人に命令されたら「じゃ、そういう事で」とあっさり鞍替えしそうで割とスリリング(笑)
「ラライヤの体がどうしたって?!」
と、そこに飛び込んできてレックスノーを弾き飛ばすリンゴのモラン。
この辺りのドタバタは、完全に人間の芝居をMSにさせており、少々やりすぎた感じはあるものの、コミカルに展開。リンゴ少尉はいつの間にやら、すっかりメガファウナの一員と化しております。実のところ、トワサンガまで来てしまったらリンゴをメガファウナへ置いておく理由もあまり無いのですが、そこでラライヤの存在がリンゴの理由になっているという構造。逆に他のしがらみが無い上に性格軽そうなので、リンゴもけっこうスリリング。
で、そんなリンゴをラライヤさんが手なずけつつあり、すげなくするのが面倒くさくなったのか、それとも計算尽くなのか。素のラライヤさんの性格はまだ謎だらけなので、やっぱりスリリング。
どうやら休憩中だったらしいベルリは目を覚まし、レジスタンスが農作物に偽装して、MSの武器などを運び込んでいる所に出くわす。新たにメガファウナへ運び込まれたのは、15話でちらっと出てきた、ガンダム口のネオドゥ。コロニー建設などに長年使われてきた頑丈なMSで、改修のしやすい便利なやつ、との事。ガンダム口に鉄仮面を被っているようなデザインなのは、元のフレームを改修していった結果、という事なのか。
そして……
ノレドが! 働いている!!
運び込まれた資材のチェックなどをしている様子のノレド……17話にして、ノレドが初めてメガファウナの為に働くシーンが描かれました。当初は一応捕虜扱いとはいえ、事ここに至ってもメガファウナへの帰属意識が全く感じられず、ラライヤの面倒を見て、ベルリにかまう以外、能動的にメガファウナの役に立つ事をしている様子の無かったノレドが、遂にメガファウナの業務を。
ラライヤの回復後にノレドがどう描かれるのかにはかなり興味があったのですが、これはさりげないけど大きな転換点だと思われます。
正直しれっとフラフラしていると思ったので、ノレドはノレドで、自分のやれる事を探している子である、というのが描かれたのも良かった。
その頃、アパッチ港ではドレット軍からガランデンに、変な試験用MS・ビフロンが貸し出されていた。受け取りを担当していたマニィがバララを呼びに来て、珍しく、バララとマニィが同じ高さに立っての会話。バララ自体が、他人を上から見下ろすカットが多いので(性格や志向を現すと同時に、同じ目線で話すマスクとの関係が印象的になる)、かなり希少。
また、ドレット軍がガランデンをチェックして、お墨付きを与えるという描写。隣に並ぶサラマンドラにもマッシュナーが乗り込んでチェック中で、ビフロン発進をそれぞれのMSから見つめるクリム、ミック、ロックパイ
「実験機を、地球人にテストさせるなんて!」
「マスクが後見人として出るようだな」
「お優しい事で。あやかりたいものですね」
「誰の事を言っているんだ」
クリムとミックはいついかなる時でも、ひたすら楽しそう。
この出撃時に、前回描写された青いフィールドが、ジェルカーテンと呼称されました。詳しくはまだよくわかりませんが、ジェル、という事はある種の粘性なのか。
「そうか! マスク大尉は、バララ中尉を兵器として使っている? ……そこまでクールな大尉ではない筈よ」
発進した機体を見送って呟くマニィ。確かにマスクには“女を利用する男”、マニィは“そんな男に盲目的に従う女”の影はあるのですが、実際のマスクはまだその数歩前で踏みとどまっている描写なので、これはマニィの願望が入った台詞に聞こえます。女の独占欲でそんな事を考えた後に、自分で否定する所まで含めて。
クンパ大佐はランチに乗ってどこかへと去り、サラマンドラのマッシュナーは外の瓦礫掃除を指示するが、アメリア勢に嫌がられる。
ここから先のやり取りが、実に今作らしいとっちらかり方で、絶妙な面白さ。


ロ「司令! ビフロンは実験機でしょ!」
マ「だから、掃除できるかどうかの試運転だっていうのだ」
ク「先程の命令は、取り消してもらいたいな、マッシュナー司令殿」
MSのコックピットから身を乗り出した状態で、次々とサラマンドラ艦橋の前に現れて自分の主張を始めるパイロット達(笑) そこへマッシュナーに、カシーバ・ミコシから、「さっさと瓦礫を片付けろ」というクレームの通信が入る。

ミ「ガランデンから出たビフロンは、G−セルフを取りに行ったんですよ!」
ロ「そのヘカテーも、どう見たって、トワサンガの技術者が建造したモビルスーツだ!」
ミ「それがなんだってんだ! 建造したのは、アメリア軍だぞ!」
艦橋の前で3機のMSが押し合いへし合い(笑)

艦長「我々は――」
マ「ヘルメス財団の使者が、クレッセント・シップにも傷がつくと怒鳴り散らしているのだ!」
艦長「どういう連中なんですか?」
マ「地球人は……知らなくていい」
艦長「クリム大尉、キャピタル・アーミィに、メガファウナとG−セルフには触らせるな。あれは、アメリア軍のものだ」
ク「おうよ! ミック、出るぞ!」
ミ「そのつもりです!」
と、合点承知、みたいな勢いでジャハナムヘカテーが出撃。

マ「あのな、ロックパイ。貴様は瓦礫の掃除をしてみせろ」
ロ「冗談でしょ! 司令」
マ「ロック! ドレット軍としては、ヘルメス財団の顔を立ててやる必要があるんだ」
ロ「了解、了解、了解!」
嫌々ながら、モランも出撃。

マ「サラマンドラはいい船だとわかったが、手空きのモビルスーツには瓦礫の掃除をさせろ」
艦長「りょ〜かいです。お互い友好的に……」
マ「行こう」
ここまで、「趣味:航海日誌」で、どことなく真剣味の足りない雰囲気すらあったサラマンドラ艦長ですが、マッシュナー相手にのらりくらりとかわしてごねつつ、潮時と見るやとりあえず他の名目でMSを出撃させてみると、したたかな面を見せました。
マッシュナーは「ビフロンの目的はゴミ掃除」とロックパイを宥めているものの、その実、クンパ大佐によれば「G−セルフを確保したいと言ったら貸してくれた」そうで、二重三重に本音と建て前が交錯。いよいよ物語のフレームに入ってきたヘルメス財団の存在も交え、主導権争いと探り合いが面白い事になっています。
また、これまでマッシュナーとの絡みが主だったロックパイも、クリムやミックと絡む事で、キャラクターが少し広がりました。マッシュナーもマッシュナーで、口調がロックパイ相手だと若干トーンが変わって、この一本気で物わかりが悪いけど可愛い坊や、感が素敵。
マッシュナー司令の「あのな」は、ヒット作。
ところで今作、戦争楽しぃーーーーーな人が多い割には皆柔軟というか、相手を取り込んで優位に立てる状況なら、過去のいざこざは気にしないといった傾向が顕著です。
敵・味方に別れる事で話し合いも出来ず憎しみが悲劇の連鎖を生んでいく……という劇作の全く逆を行っているわけですが、事あるごとに話し合いのテーブルに付くけど、しかし欲得に動く人々の、一度始まった争いは簡単には止められない、というのは、もっと酷い事なのかもしれない。
「あのピンク、宇宙船なんですか」
シラノVの外を周回中のメガファウナは、大桟橋に収まる、巨大なピンクの宇宙船を目にしていた。それこそが、フォトン・バッテリーの運送船にして、スコード教御神体ともいうべきカシーバ・ミコシ
「ホント……まるでカーニバルの山車」
てっきり人名だと思いこんでいた「カシーバ・ミコシ」ですが、本当に神輿でした!(カシーバ・ミコシの中にカシーバ・ミコシという人物(選ばれた象徴的存在とかで)が乗っている、という可能性はまだありますが)
“祭”というのは、『∀ガンダム』以降の富野作品において重要なキーの一つなので、この露骨に象徴的なカシーバ・ミコシがどう扱われていくのかは、興味の湧く所。
で、少し勘違いしていたのですが、キャピタル・タワーのクラウンが休み無く稼働しているので、フォトン・バッテリーは定期的にトワサンガから供給されていると思っていたのですが、カシーバ・ミコシが構造物と勘違いするほど巨大な輸送船という事は、トワサンガザンクト・ポルト間の輸送は、年に一回(「年に一度のカシーバ・ミコシの降臨祭」)に限られているという事でしょうか。
とすると、ザンクト・ポルトフォトン・バッテリーの巨大な倉庫なのか?
そう考えると、両陣営がザンクト・ポルトへの攻撃を徹底して避けていた理由が腑に落ちます。聖域としての象徴以上に、下手に流れ弾でも当てようものなら、フォトン・バッテリーが誘爆して軌道エレベーターどころか周囲の宇宙艦隊が全滅、という可能性も有り得たという事なのか。
ブリッジに皆が集まっているシーンでは、パイロットスーツを着たままのベルリとラライヤがトングっぽいもので食事を取る描写があり、これは成る程。有りそうで今まで無かった描写という気がして、相変わらず細かい。
前回、クンパ大佐に対してわざとらしい反応を見せていたレジスタンスのおじさん(タムラ料理長+ジャイアンみたいな見た目である)が、またもクンパ大佐に対して反応し、ロマンスグレイな方と2人で、何かを誤魔化す素振り。

「ご老人は何を知っているんです?」
「い、いや我々は、ニュースで報じら……」
「気になる事は説明してください」
「いや、まだ本人かどうか、確認していないので」
「大佐を知ってるんじゃないですか! それでガランデンの動きがわかりました。クンパ大佐はここに来た事があるか、ここの人だった」
ベルリの爆弾発言に、おじさん達に対して少し不穏な空気になるブリッジ。ベルリ達は万が一に備えて出撃準備に向かい、それを見送ってフラミニアは呟く。
「若いレイハントンの後継者……」
果たして若者達は、この混沌とした状況の中で光をたぐり寄せる事が出来るのか――という所でAパートはここまで。
どうも前回から、レジスタンスの指導的老人が2人居る事の意味がいまいち掴めないのですが(これから終盤戦という所で出てくるにしては、役割に差が無い)、クンパ大佐についても2人とも心当たりがあるようですし、もう少し差別化の欲しいところ。
ところで全く唐突に思いついたのですが、被差別階級であるクンタラが実は、前世紀において“人を食い物にしていた一部の特権階級”の末裔であり、大半の人類こそが“食い物にされる側だった”としたら、パラダイムシフトとしては面白いなぁ。
次回、色々と重要な事の多かったBパートへ続く。