◆第18話「三日月へ乗れ」◆ (脚本:富野由悠季 絵コンテ:吉沢俊一/斧谷稔 演出:吉沢俊一)
ここ数話、何度か台詞では触れられていたクレッセントシップが初登場するのですが、これが、超格好いい!
三日月を縦と横に組み合わせたようなデザインで、「SFは絵だねぇ」というかの名言を思い起こさずにはいられない、未来のスターシップとして非常に魅力的なデザインで、素晴らしい! 正直、カシーバ・ミコシのデザインに今ひとつ面白みを感じていなかったのですが、その不満が一発で吹き飛びました。クレッセント・シップ、いい。
そのクレッセント・シップは、ビーナス・グロゥブからカシーバ・ミコシへのフォトン・バッテリーの搬送を終え、再びビーナス・グロゥブへ帰還する準備を進めていた。ビーナス・グロゥブへの長距離航行の為にはアイドリングだけで3日を要し、アイーダの発案でビーナス・グロゥブを目指すメガファウナは、クレッセント・シップに取り付いてそれに同道しようと目論んでいた。
話の流れや名前からすると、金星ないし金星圏と思われるビーナス・グロゥブですが、まだハッキリと、場所の言及はありません。ただ、巨大なスターシップであるクレッセント・シップが、エンジンを暖めるだけでも3日をかけて航行するという事で、旅のスケールの大きさが感じ取れます。
「クレッセント・シップは、G−セルフが接触できれば、化ける筈なんです」
本来はヘルメス財団の関係者しか乗り込めないクレッセント・シップだが、ロルッカらによればクレッセント・シップはG−セルフと同系統、ヘルメスの薔薇の設計図に関わる秘密のシステムが組み込まれており、メガファウナ一行はそれを利用しようと考えていた(前回、「ヘルメス財団との連携論がある」と発言していたロルッカらレジスタンスの面々も、交渉の為にかメガファウナに同行)。
一方シラノVでは、前々回ベルリのG−セルフにこてんぱんにされたガヴァンが、部隊を鼓舞していた。「伝統あるザックス兵団」という発言があり、ザックスもネオドゥ同様、長期的に使われてきたMS(レコンギスタ計画にまつわる新造MSとの差別化)という事でしょうか。
「カシーバ・ミコシが出港するから、ビームライフルは使うなという命令は、100回聞いている!」
今回の戦場での制約に触れつつガヴァン隊はメガファウナへ向けて出撃し、ヘルメス財団の前で騒ぎを大きくしたくないマッシュナー指揮下のクノッソスも、その動きを抑える為に出港。ガランデンでは、それらの動きをクンパ大佐が見つめていた。
クンパ「トワサンガは我々の船を欲しがっているのですから、G−セルフを確保しておけば、ドレット将軍との交渉も優位になります」
マッシュナー「ガヴァン隊より先に、YG−111を連行するんだぞ」
まとめてしまえば、これにクリム達も含めて、それぞれの陣営がG−セルフを確保して優位に立とうとしている、という流れなのですが、あくまで登場人物達は自分の目に見える範囲の話をするだけで、状況を全てわかりやすく説明してくれる便利な誰かはいません。各人の台詞や行動で少しずつ説明される状況を統合すると全体像が見えてくる、という話の造りが徹底されています(この作劇の是非については、また別に論ぜられるべきだとは思いますが、とりあえず今作はそういう手法で描かれている)。
カシーバ・ミコシの停泊する大桟橋近くに陣取る事で他陣営からの攻撃を避けていたメガファウナでは(前回のドタバタ大掃除の後に政治的な安全地帯への逃げ込みに成功したようで、この辺り、艦長は地味に有能っぽい)、クレッセント・シップに便乗する作戦の為の準備中。ノレドとラライヤが、面倒見る/見られる関係から、だいぶフラットに友達らしくなって参りました。
また改めて、「カシーバ・ミコシの降臨祭」に言及。
14話時点でゲル法皇の口から「半月後」と語られていた年に一度の降臨祭ですが、それからメガファウナの月までの旅路、今回カシーバ・ミコシが出港、という事を考えると、あと1週間〜数日後という所か。
個人的に、物語のクライマックスはこの降臨祭を舞台にするのかと考えていたのですが、今回の展開を考えると、さすがにメガファウナ一行は降臨祭までにザンクト・ポルトには帰れなさそう?
姫様が「これが、フォトン・バッテリーを運ぶ輸送船だなんて、地球人を馬鹿にしてません?」と、実用性よりもデコデコしたデザインで権威付けが優先されている、と批判するようにかなりシンボリックなデザインですし、『∀ガンダム』と『オーバーマン・キングゲイナー』が“祭”で始まったのに対し、今作が“祭”でクライマックスを迎えるとすればそれはどう描かれるのか、というのは興味があったのですが、ちょっと違う方向性になるのかなー。
ただの大道具で終わってしまうのも勿体ない気がしますが、さてさて。
ここでG−セルフを移動しようとするベルリと、ベルリに疲れが見えると気遣うノレド、ラライヤの会話が、ベルリの心情の変化(整理)がそれとなく織り込まれつつ、ノレドのいい所が出ていて、今回お気に入りの一つ。
珍しくブリーフィングで状況の模式図が表示され、
ノレド「ベルは働きすぎ」
ベルリ「アイーダさんが思っている事を、手伝わないといけないからさ」
ラライヤ「お姉さんを、大事にしたいんだ」
ベルリ「まだ慣れてないんだよ」
ノレド「ベルは天才でないし、タフでもはないんだよ」
ベルリ「だから、ロルッカさんが用意したものぐらい、使えるようにしたい」
〔カシーバ・ミコシの側を離れる→攻撃を受ける→それをかわしながらクレッセント・シップへ取り付く→攻撃が止まる→G−セルフとの接触で何かが起きる筈→そのまま金星へ〕
と、今回のメガファウナの作戦行動と目的を説明。
だがそこへ、マスク操るマックナイフがいきなり甲板上へ乗り付けてくる。同乗していたマニィが外部から手動で格納庫のハッチを開き、警備していた筈の赤モランは背後からビフロンに踏まれる。……ビフロン(不良品)、てっきり前回限りで返品かと思ったのですが、バララ機として続けて登場。
「レーダーが使えないんだから、もっとよく見なくちゃねぇ、周りをさ!」
「周りを見たらラライヤが居たんだろ!」
リンゴくん、凄く不真面目に人生を謳歌していて、すっかり作品に欠かせないスパイスとなりました(笑)
ブリーフィング参加中だった姫様と、ハッチを開けたのがマニィかもしれないと気付いたノレドは格納庫へと向かい、「下は、危険でしょ」とノレドを気遣う姫様だが、ノレドはさらっと「ブリッジは狙い撃ちされる」発言。
うん今実際、ビフロンにビームダガー突き付けられて、ブリッジ風前の灯火。
『Gレコ』世界は登場人物達が結構、「交渉」と「戦闘」を個人単位で区分していたりするので助かってますが、メガファウナはMSの接近を許してブリッジに武器を突き付けられるの、これで3度目か?(笑)
マニィが開けた扉の隙間を縫って、真っ正面からパイロットスーツで格納庫の中へ飛び込んでくるマスク先輩。
無駄に格好いい(笑)
上司は前回、宇宙服すら着ずに単独潜入とかやっていましたが、アーミィで流行っているのか、これ。
この際、画面上方へ向けて真っ直ぐ突っ込んでいくマスクと、その下をエアロックの装置の方(そこに居るマニィ)に向けて斜めに横切るノレド、というのが俯瞰で描かれ、久々に高低差を用いた立体感のあるカット。
ベルリは突入してきたマスクと、G−セルフのコックピットでもみ合いになる。
「G−セルフはトワサンガで建造されたから、返さなければならんのだ!」
一方、下の方ではベルリとマニィが再会。ここで二組の同級生の、交錯と温度差が盛り込まれています。
「なんでこんな風に来たの?」
「だって、G−セルフをトワサンガに返せば、3隻とも地球に帰れるって」
マスク先輩はとりあえず建前を言ってみた感じですが、マニィの方はそんなマスクに表向きの理由で丸め込まれていそう。
マスクとマニィはここまでマックナイフのコックピットの中で二人きりだったのかと思うと、なかなか甘酸っぱい妄想も膨らむ所ですが、いつバララのビフロンに接触回線で乱入されるかわからないと思うと、スリリングでますます甘酸っぱい。ビフロンがずっと接触回線を保持していた可能性も考えると、それはそれで甘酸っぱい。どう転んでも私が得だ。
「ガランデンも、メガファウナも補給してもらえるのだ!」
「駄目ですよ!」
今回も取っ組み合いで後れを取り(というかベルリは今のところ、この世界最強の近接系戦士です。手加減されていただろうといえ、鞭による攻撃を回避できるし)、コックピットから蹴り出されるマスク。
「G−セルフは、僕とアイーダさんの――」
ベルリはG−セルフのコックピットハッチを閉じ、更に甲板上でMS戦が開始された事から、マスクはマックナイフへと退却。外の赤モランがいつの間にか、ビフロンの使っているビームダガーっぽいのを手にしているのですが、ビフロンアーム専用の武器ではなく、トワサンガMSの共通装備だったのでしょうか?
メガファウナの甲板上でビフロンに攻撃を仕掛けたのは、クリムの青ジャハナムとミックのヘカテー。
「その格好では、接近戦は無理でしょ!」
「なめるなぁぁぁ!」
ビフロン、脚部のブースターを飛ばして、ジャハナムにロケットキック(笑)
「馬鹿なぁっ?!」
素晴らしい「馬鹿なぁ」をいただきました。ありがとうございます。
「ならパワー半減!」
ヘカテーが背後からビフロンに蹴りを入れた所で、吹っ飛ばされたビフロンとマスクのマックナイフが合流。
マスク「いざとなればビーム・シャワーを使えばいいが……トワサンガの部隊も接近している」
クリム「こちらの戦いを、トワサンガの連中につけこまれる。カシーバ・ミコシは、まだ視界の中なのだ」
交渉における腹芸あり爆弾発言ありの主導権争いが度々描かれる今作ですが、今回は、G−セルフを巡る争いを通じて主導権争いが行われている、という構図。政治劇と戦闘が巧みにミックスしてブレンドされています。
クノッソス艦長「メガファウナで内輪揉めがあったようだ。こりゃ拡大させるわけにはいかんぞ、マッシュナー!」
マッシュナー「わかっています。ヘルメス財団の使者が見ている前で、カシーバ・ミコシにビーム一発かすめたら、軍は即刻解体されます。そんな事は、させはしませんよ」
ここでドレット軍はあくまでトワサンガのタカ派勢力であるという、ヘルメス財団とのパワーバランスが一層見えて来ました。
また、前回のデブリ掃除回を踏まえる事で、とにかくカシーバ・ミコシに傷一つ付けてはいけない=飛び道具禁止! という今回の戦闘のルールが厚みを持って納得できるという構成。
マッシュナーの視線がアイドリング中のクレッセント・シップに向いた所で、Aパート終了……て、まだ前半だ!
Bパート入って、カシーバ・ミコシがシラノVを離れていき、画面右手に小さく地球、という絵。
この発進が特に劇的な演出はなく、ほとんど背景同様の形で描かれるのは、軌道エレベーターにおけるクラウンの上下と同じく、欠かせざる「日常/人類の日々の営み」の一部にしてまた、俗世とは隔絶された神の世界の出来事という事なのか。なかなか凄い。
「自分の守備範囲で、地球人に好きにさせるわけにはいかんのだ!」
ガヴァン隊はメガファウナへと接近し、画面左手、メガファウナの看板上ではマスクコンビと天才コンビが戦闘中、とちょっと遠景で状況の俯瞰から。
「ノレド! なるべく船の中央に隠れていろ! マニィも!」
ベルリのこの台詞は状況を考えるとごく普通ではあるのですが、以前にマスクがマニィにかけた台詞と類似しており、意外と意味深い台詞かもしれません。
ノレドと一緒に居たマニィは成り行きでメガファウナの中へ避難する事になり、メガファウナの鼻先で戦闘を始められたベルリは、デブリ除け用の隕石風船を格納庫の前に据え付けてバリケードにする事を思いつく、とベルリのセンス見せ。
G−セルフとネオドゥが強力して据え付けた風船により吹っ飛んできたビフロンが船体にぶつからずに見事に跳ね返り、前回、実際の効果を発揮するに至らなかった隕石風船が強い反発力を持っている事が描かれつつ、ここも前回のデブリ掃除で描かれた要素をうまく利用して連動させています。
ところがこのバリケードによりステアが前方を目視不能になって困り、ギゼラが割とのんびり、甲板のカメラと繋いだ小さなモニターを取り出す、という変な間合いのギャグシーンが挿入。今回、戦闘のオチまで見ると、監督的にはかなりコメディ要素が強いイメージだった模様。
富野監督はドタバタ劇を筋の通った話に見せるスキルが異常に高く、実のところスラップスティックコメディへの親和性が高い演出家なのですが、今回は監督のそういった面が多めに出ており、意図的にドタバタ劇に寄せているのが見て取れます。
激しくぶつかり合う、ミックのヘカテーとバララのビフロン。
「私の大尉を蹴飛ばしたのは許せないって言ってるんだ!」
「蹴飛ばされた男が悪いんだろ!」
最高(笑)
ここで言う「私の大尉」というのは、「私の(見込んだ)大尉」ぐらいでとりあえず受け止めておけばいいと思いますが、この、「私の見込んだ男」というのは「私が選んだ男」なんだけど、実際には「私が選ばざるを得なかった男」であるかもしれない、という辺りが、凄く面白い。
(ちなみにその屈託が、最後まで怨念になったのが、『Vガンダム』)
「選んだ」にしろ「選ばざるを得なかった」にせよ、見込んでしまえば自分のプライドがかかるし、一緒に居れば愛着(愛情、とはちょっと違う)も湧くし、そうなれば男をコーディネートしたくもなる。
(それが、本物の愛情になる場合もある)
勿論、「捨てる」という選択肢もあるのですが、富野作品の女性キャラはあまりその選択肢を選ばない印象で、これは富野監督が自作を貫く大きなテーマである「母性」をそこに見ている為かもしれません。
「ここはおまえ達の遊び場じゃないんだぞ!」
そこへトワサンガの部隊が乱入し、戦況は混戦模様に。ロックパイの操る新MSガイトラッシュは、いきなりの電光ライダーキックを放つ――ガヴァン機に。
「ならず者ガヴァンは、数の暴力!」
「マッシュナーの玩具がぁ!」
地球人の内輪揉めを指摘するトワサンガ勢力がいきなり内輪揉めを始めるという、困った構図。所轄と本庁というか、シラノVの守備隊であるガヴァン隊とドレット軍の主力として行動するマッシュナー隊がそもそもそりが合わないようですが、これは15話でリンゴの指摘していた、居残り組とレコンギスタ組の軋轢、というのものも入っているのか。
クリム「トワサンガの連中は、ライフルは使わない」
ミック「スコード教の信者ですからね」
カシーバ・ミコシとクレッセント・シップへの被弾を恐れて飛び道具を使わずに進んでいた戦闘だが、ガヴァン隊に囲まれたビフロンを助ける為、マックナイフが股間ミサイルを発射してしまう。
ロックパイ「地球人がミサイルを使った?!」
バララ「大尉……!」
マスク「バララを助ける為には、やむをえん!」
涙ぐんで急に可愛くなるバララ(笑)
バララがマスクをどこまで見込んでいるのか、というのは今ひとつわからないのですが、先程、女の戦いがあっただけにこの感情の動きも納得のいくところ。
これをきっかけに戦闘が激しくなる中、メガファウナは何とかクレッセント・シップへ辿り着こうと加速し、観測士としての有能さを見せるフラミニア。進行方向で戦うガヴァン隊とロックパイ隊を見たベルリは、メガファウナから敵の目を逸らす囮として、G−セルフを出撃させる。
バララ「G−セルフが出てきた! マスク!」
マスク「私に捕まる為に出てきてくれたか! が……トワサンガの!」
開き直った先輩、ビーム攻撃でザックスを撃破。この際、さらっと上下逆転しての射撃が描かれているのが、宇宙戦闘らしさを出すと共に、マックナイフのアクロバットさも強調しております。マックナイフは最初見た時は正直、変な顔だなぁ……と思っていたのですが、最近すっかり気に入ってきてしまって、まんまとしてやられています(笑)
マックナイフのHGキットは3月発売という事ですが、1月中に売り出していたら凄く売れた気がするよ……!
いよいよ戦闘に本命(G−セルフ)が参加する中、マッシュナーは悲鳴をあげる艦長を無視して、ロックパイを援護する為にクレッセントシップ方向へ艦砲射撃をさせる。
「撃てって命令してるだろ! 3番4番も撃ちなさい!」
「貴様ぁ、私を死刑台に送るつもりかぁー?!」
「停戦命令で止まるような連中ですか!」
艦長はすごすご引き下がり、マッシュナー、強い。
ガヴァン「111は連行する!」
マスク「G−セルフ、クンパ大佐に性能を解析させろぉ!」
クリム「ベルリくん、G−セルフは、人質にする価値があるのだから、私に貸すのだ!」
もてもてのG−セルフは三方を囲まれ、ここで更に下方向よりビームを撃ちながら迫るモランのカットが入る、というのが重力に縛られない宇宙戦の描き方として、実に鮮やか。
「みんなで取り合いに来てぇ!」
G−セルフはMS入りのネット(パイロット脱出済み――そういえば、脱出装置の起動シーンが明確に描かれたのは初めてかも)を振り回してモランを撃退するが、そこへ更にガイトラッシュが突っ込んでくる。
「やったな地球人! マッシュナー、援護してくれ!」
ガイトラッシュは頭部の輪っかからビームマントを展開し、強力なビーム干渉によりマックナイフと青ジャハナムを弾き飛ばす。
この際、ロックパイが操縦桿から手を離してコックピットで暗黒舞踏しているのが謎ですが、ベルリも第3話で両手フリーにして「スコード!」と叫んだらG−セルフが謎パワーを発揮してカットシーを退けたので、れっきとした操縦方法なのだろうか。
「出力、出ましたぁ!」
繭のように自機を包むビームマントを展開しながらG−セルフへ突撃したガイトラッシュは、蝶が羽化するようにビーム力場を解放! その中にG−セルフを閉じ込めると全身のビーム兵器で攻撃をしかけ、G−セルフはビームサーベル大回転でそれを防ぐも、被弾した宇宙用バックパックが吹き飛んでしまう。
「ロックパイの足を止めろー!」
両機はそのまま、ガイトラッシュの勢いに押される形でクレッセント・シップの方へと突っ込んでいってしまい、クノッソスはビームマントの出力を減衰させようと砲撃するが、最大出力のビームマントは戦艦の砲撃すら弾いてみせる、と単独のMSとしては、これまでで最大の性能を発揮。
みるみる迫ってくるビームの塊に対し、メガファウナ陣営が一斉射撃して押し返そうとする(G−セルフを援護しようとする)のは、みんなの力で怪獣に立ち向かう、みたいな感じもあり、音楽もあいまって実に格好いい。いまひとつ目立てないベルリ以外のパイロット達に一定の見せ場があったという点でも良かったです。
「ロックパイが命を賭けてるんだから助ける!」
すっかりブレーキの吹っ飛んでしまった戦況に錯乱気味のマッシュナーは、騒ぎを大きくしない目的で出てきた事も、ヘルメス財団に対する配慮もかなぐり捨てて、クノッソスを最大船速で突撃させる……と、これまでの姿から大きく雰囲気を変え、感情的な面を見せました。これ多分、回って来た新型MSで手柄を立てさせてやろうと若い男を乗せてみたら、思わぬトンデモMSだったとしか思えません……(笑) 後で何人か、開発部の人間が闇討ちにあって歴史から姿を消すかもしれない。
「G−セルフもフォトンシールドあります!」
「ビームコーティングというヤツか! ガイトラッシュのビームサーベルを、掴んで防いでいる!」
ここは緊迫した場面でいきなり聞き取りづらい固有名詞が出てきて、あまり良くなかった所。まあ、気にしなくても良いのですが、ロックパイは何を言ってるんだ? とちょっと気が逸れてしまいました(感想用メモ取り作業の際に字幕出すまで、そもそも「ガイトラッシュ」というのが聞き取れなくて全く意味不明だったし)。今回、「ガイトラッシュ」というMS名自体がこの台詞で初出だったと思うのですが、ここで言わせるなら、先にどこかでガイトラッシュ=このMSの名前、と、紐付け&耳慣らしを仕込んでおいた方が良かったと思います。
まあこの、戦闘中にいきなり字数の多い単語を口走って、かえって台詞が効果的にならない事がある、というのは監督のあまり良くない癖なんですが。効果的になる時もある、けど。
青く輝くG−セルフはフォトンシールドによるビーム防御でガイトラッシュの攻撃を防ぐと(マンガ『クロスボーン・ガンダム』における、X−3のIフィールド防御を思い起こす映像)、押し返して迎撃に成功するが、ここから二段構えのクライマックスで、高速でクレッセント・シップに接近したメガファウナが、船の構造物の間をギリギリで擦り抜けていく、というスペクタクルが展開。
「姫様、ぶつかりますよ!」
「ぶつからないように、します!」
アイーダはラライヤに指示を出してメガファウナの両サイドにアルケインとネオドゥを位置させると、クレッセント・シップの外壁を船体がこすりかけた所でMSで手を突いて制動をかける、という荒技を披露し、何とか隙間を擦り抜けたメガファウナは、クレッセント・シップに取り付く事に成功する。
…………アルケインが、史上最高に活躍したような。
ここ数話の展開は“姫様の成長”を明確に描いていると書いてきましたが、ここも、そういった意図のシーンだと思われます。戦いが終わった後に、臨機応変な対処を見せて姫様(アルケイン)が活躍する、というのは物凄く計算された配置だと思うのですが、凄くお気に入りのシーンです。
姫様を信じていて良かった……!
G−セルフに吹っ飛ばされたガイトラッシュは、なんとかクノッソスに帰還。甲板に転がるや否や、コックピットハッチから外に飛び出してブリッジに向けて手を伸ばすロックパイ。
「司令、ぼ、僕、一生懸命頑張ったんですよ!」
「そうだろう、わかってるよロック、ロックパイ」
マッシュナーが優しいまなざしを向けたところで前方から迫ってきた隕石風船(メガファウナから切り離されたもの)がぶつかりそうになり、エルモランが切り裂いたそれが広がってクノッソスの表面を覆う、という、まさに幕が下りるというか、書き割りが倒れてくる、とでもいった形でドタバタ戦闘の方はオチ。
一方ガイトラッシュを撃退したG−セルフは、黄金の鳥のメタルの振動に導かれるように、荘厳なパイプオルガンのBGMでクレッセント・シップの内部へと入り込んでいた。
と、クレッセント・シップとの接触は、かなり宗教的なイメージの強い演出。
謎の設備の置かれた空間で、壁に描かれた黄金の鳥の紋章を発見したベルリがその下のスロットにメタルを差し込むと、眠っていた装置が起動する。そこへアイーダがやってきて、その空間がメインエンジンルームとわかり、アイーダもまた、鳥の紋章に気付く。
「私達の、メタルと同じ?」
「うん。姉さんのメタルでも、使えると思うな」
「よくわかったわね」
ここで再び、アイーダを「姉さん」と呼び、満面の笑顔を向けるベルリ。
「僕は何もやっていない。あのめちゃめちゃなモビルスーツとの戦いの後は、父さんと母さんの仕掛けに乗って、なぞっただけさ」
父さんと母さん、のところでまた笑顔。
「父と、母の仕掛け……」
「こいつのおかげでね」
そしてG−セルフへ視線を向ける――と16話において明かされた真相により荒んでいたベルリですが、ある程度整理がついたのか、父や母、G−セルフ、そしてアイーダとの関係について肯定的に受け入れているように見える描写。
6→7話の時のように、主人公に与えたショックが特に劇的な事が無いまま、幕間と水面下である程度処理されるという構造(ラライヤの回復も同じ構造)なのですが、この、理不尽な事があっても生きているなら笑顔で前を向こう、というのは改めて今作の根っこのメッセージであるのかな、と。
元気で居られるなら 元気で居られるなら
トライする チャレンジで 運試しに賭けてみる
世界にあるもの 見つめられるから カオスの中からも 引き出してみせる
リアルは地獄 真実の意味見つけ その先に未来という閃光がある
来るぞ快感 充実の時 元気のGは始まりのG
ここしばらくの展開は、EDテーマ『Gの閃光』2番の歌詞をなぞらえているようにも見える所。まあそれだと、この後、「つまらなく辛い 連続連続」が起きるのか、という話になりますが(^^;
ベルリの心情に関しては、本当に割り切りと整理がついたのか、まだ断定しきれない所はありますが(ある程度のブレは出て当然ともいえますし)、今回このシーンでアイーダに向ける笑顔に関しては、かなり意図的に印象づけられていると思えます。これが前向きな笑顔で無かったとすると、完全に狂った笑顔という事になってしまうので、それは嫌かなぁ……(笑)
それもそれで、面白くなりそうなのが困るけど(^^;
「あー?! メガファウナとみんなは?!」
ここでベルリ、姉さんに肩タッチ敢行。
エンジンルームに入ってくる際に距離のある入り口からアイーダが話しかけているので、すでに無線は通じている状態、つまり、直接触れる必然性はない、という事が先に提示された上で、これまで無かった大胆な肩タッチを行うベルリ。
これが……! 飛び級生の、臨機応変というやつなのか……!
アイーダからメガファウナは無事にクレッセント・シップに辿り着いたと聞かされ、喜ぶベルリは、何故か、姉さんの両手を握りしめる。
…………おいベルリ、これはこれでアリでしょ! みたいになっていないか(笑)
そもそもベルリの頭の回転の速さで、アイーダがやって来た事とメガファウナの無事を関連付けられないとは思われず、物凄く、邪なオーラを感じます。
少年の煩悩と青春は、果たしてどこへ行くのか……!
レイハントン・メタルの使用により、これまで眠っていたヒッグスルート・カプセル(多分何か凄い動力)を起動できるようになったクレッセント・シップはアイドリングが大幅に短縮され、メガファウナをくっつけたままビーナス・グロゥブへと出発する――。
かくして物語の舞台は月をも離れ、更なる広大な宇宙へ……という所で今回、ベルリの回想によるフラミニアの台詞として「ヘルメスの薔薇の設計図などという伝説など、確かめた人は居ない」という言及があり、これまで物語の一つの中心であったロストテクノロジーの存在が何やらあやふやになって参りました。
一方で、レイハントン・サインの確認により開いたクレッセント・シップのエンジンルームでは、ヘルメス財団ですら再起動できなかった超技術の動力が動き、フォトン・バッテリーはどこから来ているのか? と並んで、レイハントンとは何か? というのが今後の物語のキーとなってきそうです。
後ここまで見て納得したのですが、ヘルメス財団&トワサンガ勢力が異常にカシーバ・ミコシとクレッセント・シップへの被弾に神経を尖らせるのは、かすり傷でもつこうものなら、手持ちの技術では修復できない、という事なのかなぁ。
旧世紀の反省を踏まえて徹底管理されている筈の技術とエネルギーが、実はブラックボックスの塊によって流通していて誰もその全体像を把握できていない、というのは実に皮肉な構造ですが、今作らしくもあり。
初見の時は少しバタバタしすぎた印象がありましたが、感想まとめていたら凄く面白かった気がしてきました(笑)
自分の中で一番ツボだったのが、アルケインの活躍シーンであった、というのが飲み込めたら、全体へのピントが合ったというか。
というわけでピントがぼやけるほど見所の多い回でしたが
戦場で男選びのセンスを競う女達と、G−セルフに夢中な男達
という構図がまた素晴らしく良かったです。
そんな中、自分の男は「天才でもタフでもないから休め」と言うノレドさん、格好いい。
どちらかというと姫様派なので、ノレドに特別思い入れは無かったのですが(嫌いではないし、非常に良いキャラだとは思う)、この2話ぐらいでノレドはますます良いキャラになったなぁ。
真ヒロイン争いは、なかなか壮絶(まだラライヤのムーンサルトもあると思っている)。
ヒロインレースの一角を占めるマニィですが、メガファウナへ取り残されたどころか、ビーナス・グロゥブへの旅に強制参加ご招待というジェットコースター。落ち着いて考えると、マスク先輩が割と危険な作戦にマニィを連れて来た上に、全く心配する素振りを見せずにマックナイフでメガファウナを離れてしまったのが気になるのですが、状況次第でメガファウナをスパイするように、とでも言い含めていたのかなぁ……。
さすがにマスクやクリム達はちょっと休憩となりそうですが、気になる所です。
気になる所といえば、そういう展開には多分ならないだろうし、そういう期待をしているわけでもないけど、神話的世界観なら兄妹婚はそれほど珍しくはないよなーという点についてはちらっと考えてみたり。
人類の絶対数が減少していた時代には、その辺り色々とあったのではないかと思うのですが、それ故逆に、情勢が安定してからはスコード教の倫理観においてタブー意識がより一層強くなっていそう。で実は、レイハントン家が時にそういったタブーに触れながら続いてきた家系(貴種血統の近親婚というのもよくある話)かもしれない、などと妄想を広げてみたり。
その場合、だからこそベルリとアイーダはレイハントンの軛を断ち切る為に翼を広げてこそ意味があるわけですが。
そういう点ではベルリはノレドやラライヤが居るけど、アイーダの相手になれそうな男性キャラが特にこれまで出てきていないのですが、『Gレコ』世界のいい男って誰だろう…………筆頭に上がるデレンセンは故人だしなぁ(^^;
性格に目をつぶれば、顔が格好いい、声が格好いい、物凄く有能、とクンパ大佐が断然なんですが。
後もしかしたら、声が稲田さんだし、スペースガランデン艦長がハイスペックという可能性もあるかもしれない。
姫様、年上好きだし、いける……!(待て)
メガファウナの男性クルー各員は、鋭意努力を惜しまないように。
或いは次回、ビーナス・グロゥブで登場する新キャラの中に、姫様の婿候補が居るという可能性もありますが、予告を見る限り、はっちゃけた人達が出てきそうなのはかなり楽しみ。
ロックパイは嫌いではないけど、後半の起爆剤として見るにはちょっと弱いので。
そういえば今回、基本的にクレッセント・シップが舞台下手(画面左手)を向いており、最後の出発シーンも下手方向に移動。これは、トワサンガへの道中も同様で、基本的に(下手←上手)という移動方向で描かれていました。これに対して、第9話におけるメガファウナのキャピタル・タワーへの移動は(下手→上手)で描かれており、どんどん舞台の広がっていく今作ですが、世界の中心はザンクト・ポルトであるという大きな基盤は意識的に組み込まれていると思われます。
やはり最終的にザンクト・ポルト(ないしキャピタル・タワー)に集約されるべき物語構造だと思うのですが、レイハントン・パワーで3日ぐらいで行って戻ってこられたりするのかなぁ(笑) まあ、必ずしも降臨祭の最中とは限りませんが……ああでも、今頃閃いたけど、降臨祭が2週間とか1ヶ月ぐらい続く可能性もなきにしもあらずだから、それなら超パワー使わなくても間に合うか! さてどうなりますか。
次回――地獄のエキデン?!