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一千万年銀河――『Gのレコンギスタ』感想・第19話(Aパート)

◆第19話「ビーナス・グロゥブの一団」◆ (脚本:富野由悠季 絵コンテ:越田知明/斧谷稔 演出:越田知明)
次回予告から期待した通りのものと、期待以上のものを見られた、傑作回。
前回に引き続き、クレッセント・シップの進行方向は画面左側(下手←上手)に向けてであり、作品全体として、世界の中心であるキャピタル・タワーから世界の果てへ向けて旅をしている、という構造。
クレッセント・シップに同道するメガファウナのクルーは、クレッセント・シップの通路を用いて、放射線対策と老廃物の排出の為にランニング中。
「うまく走らせる」のって、作画的にも演出的にもけっこう難しいのですが、それを、20人以上を描き分けて行う、といういきなりのE難度。
服装や走り方にそれぞれの個性がしっかり出ており、物凄いシーンです。
一部、これ誰だっけ……? という人も入っているのが素晴らしい。金髪の毛深いマッチョは、サングラス外した副長か?
露出度高めの女性陣ばかりではなく、おっさん達もぜえぜえはあはあ大サービス(待て)
「まだ走れるぞー」
と言いながら座り込んで脚がぷるぷる震えているロルッカの無駄に細かい描写など誰も喜ばないと思うのですが、ここで、悠然とランニングの指示を出すフラミニアが、ヘルメス財団の医者であった事が判明。
その後の
「よくも今日まで騙してくれたものだ」
という発言を合わせると、どうやらフラミニアの思い通りになりたくない、中年の意地のような物が窺えます。
G−セルフの事やこれまでの活動、フラミニアの正体に随分と怒っている事なども考えると、色々吹き込まれたりそそのかされたりして、良いように使われていた、という思いがあるのか。
フラミニアが、病原菌や血液検査を行う助手のヤーンに「やっぱり姉弟?」と確認するのですが、回答なし。レイハントン・コードに認められた時点でまず確定ではあるのでしょうが、何故か微妙にベルリとアイーダの血縁関係が断定されないのはまだ何か含みがあるのか(レイハントン家で幼時のベルリの写真は出てきませんでしたし)。
一方、艦長は何故か、女子のシャワールームに突入して、追い出されていた。
艦長、何しているのか。
宇宙でのセクハラは、樽に詰めて漂流刑ですよ!。
パイロット陣(ベルリ、アイーダ、ラライヤ、ケルベス、リンゴ、オリバー、ルアン)はフラミニアの指示で、もう一周ランニング中。
リンゴ「あの女がここの医者だったなんて、裏切りもんだよなぁ」
ケルベス「フラミニア先生が好きなんだ」
またケルベス教官は脊髄反射で物を言って……と思ったのですが、よくよく考えてみると、ラライヤはまがりなりにも一時期キャピタルで預かっていた身であり、ケルベスにとってはある意味で“生徒”であって、そんな生徒に近づく悪い虫(リンゴ)を警戒して牽制しているのか、という見方もありな気がしてきました(笑)
更に妄想を広げると、そういった感情は描かれない作品ですが、事の成り行き的にラライヤを亡き上司(デレンセン)の忘れ形見みたいな目線で見ているとしたらどうか!(何がどうか)
なんだかんだで余裕のあるパイロット達の会話は続き、「ビーナス・グロゥブは検疫が厳しい」「まるでクンタラ扱い」というような軽口に対して、ラライヤが
クンタラなんて、大昔の話じゃないですか!」
と怒りを見せ、これにベルリとアイーダがはっとした顔をするのが割と強調されるのですが、これはちょっと保留。
とりあえずわかる事としては、クンタラ云々はリンゴくん発言なので、クンタラ差別は地球には限らないという事。
あと、これまでの劇中のクンタラへのリアクション描写(クンタラ差別に怒るのはクンタラだけ)を考えると、ラライヤがクンタラである、という可能性も浮上。
そして今作のキーワードの用い方を考えると、「クンタラ」が思わぬパラダイムシフトに繋がるという可能性は、やはり有りそう。
そんな顛末を挟んでランニングは終了し、船外活動のシーンになるのですが、ここがまた、非常に良かった。
ベルリ・ノレド・ラライヤは3人で外へボンベを運び出し、メガファウナの周辺では宇宙空間で皆がわいわい補修作業中。
既にある程度馴染んでいる様子のマニィはアイーダを手伝って二人で体重をかけて資材を押そうとするが、それをグリモアが鷲掴みにした事で揃ってバランスを崩し、ボンベで移動しながらその様子に微笑み合うベルリ達。
アイーダ「笑った……」
マニィ「笑いましたね」
何という事なくさらっと描かれるシーンなのですが、宇宙空間での慣性の描写、MSによる指先での精密把握、人間とMSのスケール対比、そのアンバランスさで発生するでんぐり返し、と短いシーンに色々な要素が詰まっており、その間合いも含めて実にいい。また、マニィが元々親しかったノレド達ではなく、アイーダを手伝っているというのも良い所。
会話のやり取り見ていると無線を使っているようですが、内緒話という事なのか、アイーダにヘルメットをくっつけて話しかけるマニィ。
「ノレドとラライヤさんにベルって、ああなんですか?」
「ラライヤさんは、記憶を取り戻してからは、ベルとは気が合うようです」
マニィから見ると、ベルリはノレドの気持ちを知っているくせにまた他の女と同じように扱って……みたいな感じなのか?
「外れないんですか?」
「ええ」
「これ、駄目です。温めてやらないと」
「そうなの?」
そこからナチュラルに仕事の話に切り替わるのも素敵。第1話のキャピタル・ガード候補生の描写に始まって、宇宙空間ではオンオフの切り替えが大事というのが徹底しており、また、ガランデン搭乗中にマニィが宇宙空間での活動経験を積んでいる事が窺えます。
『Gレコ』世界は憎しみの連鎖がほとんど描写されない……という点は今作においてある種の物語としての引っかかりを生んでいる所ではあり、その点については幾つか考えてきましたが、ちょっとした手違いで大きな事故が起きてしまったり、閉鎖環境で限定された人間関係が続いたり、という「宇宙に生きる」というのは、そういった事を引きずらないで、行動だけではなく感情のオンオフも切り替えられないといけないという事なのかもしれません。
勿論、メガファウナクルーなどは地球生まれの地球育ちではあるのですが、宇宙世紀から連綿と続く、そういっった倫理観、思想背景というのがリギルド・センチュリーに根付いているのかも。
まあ個人の感情の爆発が否定されているわけではないし(基本的に皆、争いの場以外では呑み込んで処理してしまうのですが)、その辺りの描き方はこれから終盤にどうなるかはわからない所はありますが。
クレッセント・シップの張るビームシールドに宇宙線がぶつかって生じる、オーロラのような光の煌めきに気が付き、それを見つめに上昇するアイーダとマニィ。ここは映像も音楽も、とても綺麗なシーン。
「ああ……」
マニィはクレッセント・シップが背にしてきた広大な宇宙空間を目にしてしまい、星々に向けて手をさまよわせる。
「マスク大尉……。どの星が、ルインの居る星なのか、わからないんだよ」
心情描写としては手の動きだけで充分だったので台詞は要らないかなーとも思いましたが、割と今作、こういう所はわかりやすく伝えようとしている印象。
遙かな宇宙と人の対比、それでもそこに存在する人の意志、「旅」を通じてその距離感を描いた、ここまでで屈指の名シーン。
一方、ベルリは格納庫のG−セルフの元に。
「レイハントン・コードは、元の制限コードに、戻しておいたよ」
「脱出ポッドとしては、使えますよね?」
「コード制限があるってことは、G−セルフって、あくまでも貴様達を救いたい、ていうシステムなんだよな」
「え?」
「いいご先祖様に、感謝するんだな」
ハッパはその場を去り、一人残ったベルリは、コックピットの中で涙を流す。
「あの両親の意志が、こういう所に働いていたんだ。…………アイーダさんは姉さんで、僕は弟かよっ!」
前回ラストで、アイーダとの関係を整理できたような描写があったベルリですが、ここでもう一押し、どんどん事態や環境に適応してしまうタイプのベルリの、それでも処理しきれなかった感情がようやく涙となって外に放出される、というのもとても良かったです。
同時にベルリは、G−セルフという機械を通して、記憶に無い両親の思いを受け取ってしまう。
この後、クレッセント・シップによる流星の狙撃を皆で見物した所で、その輪郭を見せるビーナス・グロゥブ
だが、ビーナス・グロゥブでは、謎のMS部隊がジャズテイストなBGMで不穏な動きを見せていた。
「金星の磁気嵐が酷いが……」
と、ここで登場した新キャラの台詞で、「金星」という単語が登場。ビーナス・グロゥブが金星圏にある事がハッキリとしました。
クレッセント・シップをいただきにいくのだ」
動きだすMS部隊……一方、クレッセント・シップではメガファウナの主要クルーがブリッジに集まり、クレッセント・シップの艦長エル・カインドから話を聞いていた、と諸々の説明シーン。割と重要な会話中なのに、背後で適当に動き回っている人が居たりするのが、今作らしい(笑)
また、会話中にテンション上がってちょっと浮き上がったアイーダがどこか飛んでいってしまわないように、いつでも手を掴める位置に腕を伸ばしておくラライヤの宇宙慣れした描写などが、細かくていい所です。
かなり長い会話シーンなのですが、重要な要素は、

といった所で、大雑把にまとめると、人類存続の為に何か凄い大がかりなプロジェクトを遂行しているという点を抑えておけば良いのかと思います。
以下、個人的な後々の参考資料としての会話書き起こし。


ドニエル「メガファウナなんか、ヘルメスの薔薇の設計図のままに組み立てたみたいなものだから、本当の働きを知っている技術者なんて居ないよなぁ?」
ベルリ「よくもまあ! それで宇宙に上がってきましたね」
(ベルリに振られ、なんだか、いたたまれない表情になる姫様)
アイーダ「え……宇宙世紀を支えた技術の歴史は歴史で、あったんですよ。滅びの技術ですけど」
エル・カインド「宇宙に取り残された、絶望した人々が居たからこそ、トワサンガもあれも、建設したのです」
アイーダ「あのビーナス・グロゥブが、フォトン・バッテリーの生産工場なのですね」
エル・カインド「いや、全て大型のバッテリーと考えて下さい。我々はオーシャンリングで暮らして、あの空域をバッテリーだけで球体を完成させたいのです」
アイーダ「どのぐらいの球体なのです?」
エル・カインド「月ぐらいの大きさでしょうなぁ」
アイーダ「お月様……?」
「そんな莫大なエネルギー……」
「何に使うんです?」
エル・カインド「人類を、永遠に生き延びさせる為です」
ベルリ「地球では、科学技術であるアブテックは改良してはならない、というタブーを押しつけておいて、勝手ですね」
エル・カインド「人類は、大量消費と戦争で、地球を住めないようにしたのです。そんな人類には、アブテックのタブーは必要でした。その代わり、財団はフォトン・バッテリーは無条件で提供してきました」
アイーダ「エネルギーの配給権を、キャピタルタワーに独占させた為に、他の大陸の人々は」
ノレド「アメリア人の感覚だけで、喋るな!」
アイーダ「人の自由を侵害されています!」
ベルリ「人は自然界のリズムに従うものでしょう」
アイーダ「でも、アメリアでは……」
エル・カインド「そのように教わって、お育ちになったのですな」
アイーダ「え? ……教わった? 教わった、って」
ノレド「自分で感じた事ではないって事だよ」
ノベル「オソワル、入力、オソワル」
アイーダ「刷り込まれたという事……?」
こそっと、ノベルの台詞が凶悪。
カーヒルの影響が薄れ、自分見つめ直しモードに入っている姫様ですが、今、別の思想を植え付けたら、ころっと染まりそうで、ちょっと危うい感じもあるなぁ(笑)
終盤の重要なキーになると思うので、姫様がどんな道を見つけ出すのか、引き続き注目です。
クレッセント・シップに迫るMS部隊はトワサンガから情報を提供されていた事が判明し、パイロット達がコックピットの中で筋トレしたりお化粧したりとキャラ付けがあったところで、Aパート終了。