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海の下、空の上――『Gのレコンギスタ』感想・第21話(Bパート)

◆第21話「海の重さ」◆ (脚本:富野由悠季 絵コンテ:松尾衡斧谷稔 演出:松尾衡
マニィとノレドはジット団の工場に潜入し、唸るパチンコ、飛び交う猫! 工場職員の状況の飲み込めてなさはもはや今作のパターンと化しておりますが、まあ金星くんだりまで宇宙海賊がやってくるとは思いますまい。
ザンクト・ポルトトワサンガビーナス・グロゥブ、と行く先々で、そこに暮らす人々が外から来た戦乱に現実味を持たず対応できないという姿が描かれるのですが、劇中で、時代がそれだけ早く流れている、という事ではあるのでしょう。
マニィとノレドが工場内部で新型のG系MSを発見し好き放題している頃、G−セルフはキアの操る巨大な目玉MAと交戦していた。強力なマイクロウェーブでMS内部のパイロットを焼き殺そうとする目玉MAに立ち向かうG−セルフだが、接近しての攻撃も隠しマニピュレーターの大型ビームサーベルで防がれてしまう。
巨大な相手の力技に押されるG−セルフ、というのは少し新鮮。ジャスティマのハイパービームサーベルジャイオーンの蟹アーマーなど、ジット団の兵器が高出力路線な事が窺えます。
一旦距離を取ったG−セルフはホログラムの空を抜けて天井にぶつかり、
「天井? という事は、海面からの高度3000mってとこ?」
天井越しには、頭上の宇宙空間を行くポリジットの機体が見えて……というのは地球の自然環境を模倣しているけどあくまでここは閉鎖空間である、というのを動きと絵で見せていて、非常にSF。
また、第16話でベルリがシラノVの外周を移動中に、
「この上に……というより、こんな物の上に林があったり、窪んだ土地の農家や、僕の生まれた家や池もあるって事?」
と呟くシーンと対比になっていると思われ、宇宙とそこに浮かぶ生活空間が一つの作品中においてきっちり、外と中から主要人物の目を通して描写されています。
「天井を背にすれば、ジット団は撃ってこないけど」
とまた、そんな場所をしれっと盾にするベルリ(笑)
一方、自動修復では海水の流出を止められないと見て取ったキアは、地球人を追い払う事よりも自分の不始末の責任を取って、シーディスクに空いた穴を塞ぐ事を優先する判断を下す。
「地球人は貴様達が手なずければいい。メディスペシーの底が抜けきったら、10数万人の人間が死ぬんだぞ!」
Aパートの住人とG−セルフのコミカルなシーンもありましたが、戦いの最中にも渦に呑み込まれていくボートなどが描かれており、この辺りの物語と連動した描写は手抜かりがありません。
キアはジャイオーンを接続したまま目玉MAを海底に沈め、自らの機体で穴を塞ぐ事に成功する。が、水圧によりコックピットが水漏れを起こし、その身は宇宙で海水の中に沈んでいく……。
「貴様達は、レコンギスタをしろ! 地球では、俺の分も楽しめ! フルムーン・シップの準備は、完了しているんだ! クレッセントと……なっ!」
「動いて下さいっ。隊長と一緒にレコンギスタできければ、意味ないじゃありませんか!」
キアを助けようとしたクン・スーンもまた海の重さに呑み込まれ、何とかポッドで脱出。
「隊長、一緒に行くんじゃないんですか……」
無数の水滴の舞うコックピットの中でキアに呼びかけるも、その返信は途切れてしまうのだった……派手に登場したお頭、宇宙で溺死という、衝撃のリタイア。
クンの方にカメラがあって、途切れ途切れの返信が沈黙する、という描写がまたえぐい。
30がらみのいかつい男に厳しい今作ですが、カーヒルとデレンセンが戦闘の中で一瞬の判断の差から死んだのに対し、混乱とアクシデントの連続の中で、ある種の覚悟を持って死んでいった、というのが特徴的にして、もう少し落ち着けば穴を塞いだ上で死なずに済んだのでは、と見えるのがちょっとまた咀嚼の難しい所。
クレッセント・シップの占拠に始まり、豪快な乱暴者めいていたキアですが、自分達はレコンギスタするから後の事は知らないというのは出来ない、欲望に率直なようでいてある程度の広い視野を持っていた人物であった事は窺えます。
またこの行動中、クンが近づいてくるG−セルフに向けてミサイルを撃ち込んで、その一部はG−セルフが切り払うものの、残りが天井を破壊してしまう(オートで補修)というシーンが挟み込まれ、ジャイオーンのシーディスクへの攻撃をほとんど誘導していたベルリも天井の破壊を阻止しようとすれば、隊長が命がけで穴を塞ごうとしている頭上でクンはついミサイルを撃って撃った後で反省する、とひたすら一面的な描写が拒絶されていますが、今回は正直ちょっと、忙しすぎる。
こうして海底の穴は塞がり、ジット団はキアの遺言に従ってフルムーン・シップに後退。ベルリは何とかアイーダ達と合流するが、そこへマニィとノレドが工場からMSを強奪してやってくる。
「出来たわ私! ふふふ、やったぁマスク!」
「ケルベス中尉、リンゴ少尉、ラライヤの協力を得て、捕獲マシン1号の、G−ルシファーです」
完全に、無法者の集団です。
当座の悪玉サイドが10数万人の命を救う為に感動的な描写で命を落としたと思ったら、直後に主人公サイドが新型MSを徴発して高笑い、というテンションの落差が極悪(^^;
一応、ベルリがG−セルフで海底に向かおうとして(出来ればキアを助けようとして?)アイーダに止められる、というシーンはあるのですが。
新登場のG−ルシファーは、サザビーを思わせるデザインの頭部に、乳白色と紫のカラーリング。やはりどことなく海洋生物っぽいというか、なんとなく甲殻類
この終盤に出てきた高性能機っぽい雰囲気とは裏腹に、マニィの言によるとマックナイフよりも操縦は簡単との事で、人類世界の果てでも(果てゆえにか)ユニバーサルスタンダードが推し進められている事が重ねて強調されます。
今作、人が宇宙で生きていく為にあらゆる機械はユニバーサルスタンダードであるべきというテーゼが貫かれているのですが、一方で、ユニバーサルスタンダードであるが故に、マニィがしごくあっさりと暴力を手に入れる姿が描かれているのが肌寒い所。
「ふふふ、やったぁマスク!」という台詞の、一瞬ブレーキを失った感じは、恐ろしい。
合流した海賊一行は一旦宇宙へ出てロザリオ・テンへと向かい、ここでシーディスク内部が微妙に観光地っぽい整備をされているという描写。ディスクが何枚かあるという事なので保養目的のエリアなのかもしれませんが。
ベルリとアイーダは宇宙空間でロザリオ・テンの外壁に刻まれた巨大な薔薇を目にし、そしてメガファウナ一行はようやくラグー総裁と面会、食事会へと招かれる。
ラグー総裁による解説タイムの食事会ですが、それだけでは済ませず、総裁が話している最中にも気にせず食事に手を付けている若者達や酒を飲んでいる人達、食事の際もベルリやノレドは箸を使って、マニィはナイフとフォークだったりと、やたらに細かくキャラクターの色分けをしているのが、実に今作らしい。
「人々がムタチオンすると知れば、絶望する人々も出て参ります」
ムタチオン? 突然変異ですか」
中世貴族のような金髪ロールに豪奢な服装、若々しい外見の総裁は、自分が既に100歳を超えている事を明かすのであった……。
ラスト、外の水辺が映ったので、一瞬、『オーバーマン・キングゲイナー』ノリで、脱出に成功したキア隊長がぜぇぜぇはぁはぁしているのかと身構えたのですが、そんな事はありませんでした(笑)
個人的に全26話の中で最もピンと来ないエピソードだったのですが、改めて見てもどうもピンと来なかった(^^; 『Gレコ』にしても、2話分を1話にまとめたような圧縮とドタバタぶりというのもありますが、このエピソードに関しては、2話かけて見たかったなぁというのが正直。
メカ戦にかなり尺を割いており、海面の描写や細かい美術などかなり力が入っているのかと思われますが、その分、展開に間が無さ過ぎて、目まぐるしい場面転換の度の感情のジェットコースターが少々激しすぎた気がします(^^;
人間の心理における水の重要性と、物理的な水の重量、そしてその海の存在が支えている命、を掛けたサブタイトルは格好良くて凄い好きなのですけど。
次回――物語は再び地球圏へ。