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話題の『ダンジョン飯』(九井諒子)を読んだ


迷宮の深部でドラゴンと戦い全滅しそうになった主人公ライオスのパーティは、ギリギリの所で退避魔法で地上に脱出するが、ドラゴンに食われかけていたクレリックのファリン(ライオスの妹)には魔法の効果が発揮されず、迷宮というかドラゴンの中に置き去りにしてしまう。胃の中で完全に消化される前なら蘇生が可能かもしれない……一縷の望みを掛けて、妹を助けるべくドラゴンに再戦を挑もうとするライオスだが、パーティは所持品のほとんどを迷宮内部にロストしてしまい、ほぼ一文無し。改めて迷宮の探索に必要な食糧品や日用品を揃える為の資金稼ぎをしていては、とてもでないが間に合わない。かくなる上は、現状の装備で出来る限り速やかに迷宮に潜ってドラゴンを倒す手段はただ一つ――すなわち、迷宮内での自給自足。
「え、それってつまり魔物を食べるってこと?」
「魔物も食べる。とにかく食えそうなものはなんでも食う。今までの冒険を思いかえしてみろ。なんか結構うまそうなのがいたはずだ」
果たしてライオス達は、ドラゴンを倒してファリンを甦らせる事が出来るのか、というか、ドラゴンの所まで無事に辿り着けるのか?!
いやこれは、面白い。
“魔物を料理して食べる”という軸のアイデアのみでは、結局、現実の食物になぞらえる事になる(○○みたい)部分も含め、インパクト頼りで単調になりそうな所を、階層ごとにいっそ思い切ってゲーム的に様相の変化する魔法のダンジョンを舞台とする事で、登場する魔物(食材)の変化と、ダンジョンを潜っていく事による物語の進行を映像的にわかりやすく繋げ、冒険物としての面白さをミックスしたのが、まずお見事。
そこにダンジョンの中なのにやたら生活感の溢れる調理シーンと、食材の生態などのディテールを絡める事で、「モンスター図鑑に、味・調理方法、という項目があったら……」という冒険ファンタジー世界を見事に創出しています。
個人的に、食事後に食器を片付ける姿などが描かれているのが好きなのですが、そういった生活感もギャップ狙いのギャグというばかりではなく、何年も探索されているダンジョンなので1階部分は初心者や商人などで賑わっているとか、浅い階層には共用の休憩スペースがあるといった要素と繋がり、「生きる」という大きな枠の中で、「冒険」と「食事」を融合させる描写が丁寧で良く出来ています。
特に面白かったのが第5話で、それまではあくまで魔物グルメマンガだったのが、ダンジョンの罠を料理に活用するという展開で冒険と食事の融合を更に押し進め、まさしくダンジョンで食う、ダンジョンを食う、という『ダンジョン飯』となり、1巻時点でアイデアストーリーの1歩先へステップアップしているのが素晴らしい。
更に続くエピソードでは、“生態のわかっている魔物を食べる”から、“食べようとする事で魔物の新たな生態がわかる”という逆転が発生。これもまた、冒険と食事の融合として実に巧い。
巧いといえば物語の発端となる導入が巧みで、最初にレッドドラゴンと戦わせる事で、一見ぼんくら揃いだけど主人公達が割と高レベルパーティーである事、死んでも(しかるべき処置をすれば)生き返る事、がするりと描かれており、以後の物語の基盤になっています。
主人公達の動機付けになっているこの「死んでも生き返る」は、割とカジュアルに人が死ぬドライさと、折に触れ自分が死んだ経験を思い返す奇妙にライトな死生観に繋がり、ダンジョンの持つ本質的な危険性を孕みつつも重くなりすぎない、という今作の雰囲気作りに大きな役割を果たしていて、秀逸。
ネタ重視のギャグ物かと思いきや、アイデアを物語に活かす為の世界観の構築と見せ方が巧く、マンガとしても要所の細かい描写が丁寧、とかなり出来の良いファンタジー作品。
戦士として魔物と戦っている内に魔物の生態に強く興味を持つ魔物マニアとなり、遂には味も知りたくなってしまった人間の剣士ライオス、比較的ツッコミポジションのエルフの魔法使いマルシル、職人気質で割と順応性が高いハーフフット(グラスランナー的種族)の鍵師チルチャック、魔物食の研究家としてライオス達に同行するドワーフの戦士センシ(ドワーフ語で「探求者」)、という主人公パーティのキャラクターも、各自がいい味を出しております。
ライオスとか、魔物マニアすぎて、思考が解剖学を学んだ職業暗殺者みたいになっているのが面白い。
また、紅一点であるマルシルが、ちゃんと可愛く描かれているのもいい所。2巻の表紙の絵だとあまり可愛くないですが、中の絵の方が可愛いです。
2巻では各キャラクターを少しずつ掘り下げつつ、ダンジョンそのものの謎という要素も盛り込まれてきていますが、個人的には、何故か魔物の味(ツインテールはエビの味、みたいな)などについて書かれているけれど反応を見る限りセンシの著書では無い様子の、ライオスの愛読書『迷宮グルメガイド』の正体が凄く気になります(笑) いったい、誰が書いたのか。
続きが楽しみ。