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テーマ別『特捜ロボ ジャンパーソン』の軌跡・2

『特捜ロボ ジャンパーソン』は、盛り込んだテーマを各脚本が丁寧に(時に偶発的に?)拾っていって、年間通した ドッジボールキャッチボールに複数成功している、というのが一つ長所なのですが、その流れをテーマごとに追いかけてみようという企画です。エピソードによっては複数のテーマを内包しているものも当然ありますので、その場合は複数回登場する事もあります。
多分に思いつきによる実験の趣が強いので、全くまとまらずにぐだぐだのまま終わる場合もあるかもしれません(^^;
○第2回:「ロボット刑務所」編
お久しぶりの第2回にして、いきなりテーマというより「ギミック」ですが、今週の公式配信が、とうとう確信犯的問題作、第42話「殴り込み大脱獄」なので、その記念という事で。出来れば第42話を先に見ていただいた方が面白いかと思います。
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◆第2話「俺が正義だ!!」◆ (監督:小西通雄 脚本:宮下隼一)
今作において初めてロボット刑務所という名称が登場するのは、第2話ラストのナレーション。
ジャンパーソンによる<ギルド>へのジャスティス執行後、本部からの命令がなくなり機能を停止したギルドのロボット達は「回収され、ロボット刑務所に収監」された、と言及されます。
非常にさらっと語られるのですが、これにより、本来は逮捕され、しかるべき刑罰を受ける筈だったロボット達を主人公が私的に抹殺していたという事実が生まれてしまうのが、今作の狂った所。このジャンパーソンの「法を無視してロボットは殺っていい」という“ロボット差別主義”は、以後、今作の重要な背骨となります。
結果的にジャンパーソンの思想背景を強調する事になったものの、正直、主人公のヒーローとしての体面に致命的問題を生じさせかねないロボット刑務所という設定を、どうして持ち込んだのかには疑問があるのですが、実はこの名称自体は、前作『特捜エクシードラフト』第21話「わたしはサイコ1(監督:簑輪雅夫 脚本:宮下隼一/細野辰興)において登場しています。
ここで描かれたロボット刑務所は、演出上は精神病棟を思わせ、故障したロボットなどから情報を引き出す為の施設、といった扱いではありましたが、見た目が人間と区別がつかない高度なヒューマノイドロボットがかなり一般化している世界、という共通項もあり、世界観が繋がっているわけではないけれど、メタ的に後続作品である事のサインとして、象徴的に持ち込まれた要素なのかもしれません。勿論、主人公をロボットにするにあたって、この設定が何らかの形で使えるのではないか、という意図はあったのかと思いますが。
ただ、その意図以上に、ジャンパーソンに決定的な狂気を与えてしまった感(笑)
自警団型ヒーローというコンセプトにしても、どう考えてもやり過ぎです。
◆第5話「飛べ俺の胸に!」◆ (監督:三ツ村鐵治 脚本:宮下隼一)
ジャンパーソンの能力を測る為に、<ネオギルド>がロボット刑務所を襲撃して囚人ロボット達を脱獄させるというエピソード。
ロボット刑務所については「犯罪を行ったロボットや、壊れて犯罪行為に走ったロボットを収容している」との事。感想の方に詳しく書いていなかったので詳細は不明ですが、「描写的にも『エクシードラフト』を引きずっており」とあるので、壊れたロボット=精神病患者、のような描き方になっていた模様。


ナレーション「ジャンパーソンはいずれ、ロボット刑務所そのものを調べる必要があると考えていた」
◆第15話「翼をすてた天使」◆ (監督:簑輪雅夫 脚本:扇澤延男)

「生まれ変わっても、私の犯した罪は消えません。これから、自首します」
ロボット刑務所という単語そのものは出てきませんが、ジャンパーソンに倒されたロボットが警察に自首をするというオチで、“破壊からの再生”と、“刑に服する事による更生”が、ロボット刑務所というギミックを軸に掛けられています。
また、“死と再生”という要素は、続く誕生編を経てJPさんの大きな思想的バックボーンの一つになり、この辺り、劇中のギミックと物語の思想性を繋げ、一つのエピソードの着地点として合わせた上で、先の展開への広がりも持たせる、というのは扇澤延男のテクニックの冴える所。
◆第21話「挑戦!最強ロボ」◆ (監督:簑輪雅夫 脚本:宮下隼一)
◆第22話「激突JP(ジャンパーソン)対GG(ガンギブソン」◆ (監督:簑輪雅夫 脚本:宮下隼一)

「よく聞けブリキども、このロボット刑務所から脱獄しようと考えるだけ無駄だ」
「俺たちの存在価値は、戦闘モードがあるかないか、って事じゃない。戦う意志があるかないか、って事だ。俺が気にいらねえヤツはかかってきな。相手になるぜ! この弱虫野郎!」
「まさか……まさかガンギブソンのヤツがこんな事までしでかすとは!」
正体を偽り危険な刑務所に潜入する主人公、横暴な看守、癖のある囚人ロボ、そして隠された秘密……といわゆる刑務所編の王道に、ライバルキャラ登場を合わせた前後編で、ロボット刑務所の詳細が明らかに。
なんか<ネオギルド>に関係しているっぽい、とハッキングを繰り返していたJPさんによると、ロボット刑務所とは
〔犯罪を犯して逮捕されたロボットの戦闘モードを消去し、安全な作業用ロボットに更正させて社会へ送り返す施設〕
との事。
入所したロボット達はまずは戦闘モードを消去され、安全回路をインプットされた後でそれぞれの能力に見合った職業訓練を行って娑婆へ戻る事も解説され、第15話を補強する形で、今作の世界観においては、ロボットに一定の市民権が存在し、人格を認められ、更生の権利が与えられている事が判明。そもそも戦闘モード入れるなという気もしますが、つまりここでは“犯罪を犯したロボット”よりも“ロボットに犯罪を犯させる人間”の方が悪いという思想が伺え、人間と共存するロボットの市民権への配慮が窺えます。
割と勢いで設定されたのではという気がする「ロボット刑務所」を通して、人間とロボットの共存する社会として、かなり進んだモデルが描かれているのは、今作の興味深い所。
そして共存社会の摂理を根こそぎ破壊する、ジャンパーソン・フォー・ジャスティス!
主人公がそれでいいのか、という点についてはこの後、第29話・第30話で踏み込まれる事になり、詳しくは〔テーマ別『特捜ロボ ジャンパーソン』の軌跡・第1回:「モンスター」編〕をご参照ください(お、繋がった)。
なお<ネオ・ギルド>がロボット刑務所で密かに行っていたのは、通称、ネオギルド回路を出所前のロボットにインプットし、 出所後も<ネオ・ギルド>の完全コントロール化に置く、というロボット・スリーパー作戦で、社会構造へのテロ行為になっているのは、今作らしい所。
また続く第23話「正義の為に死す」(監督:三ツ村鐵治 脚本:宮下隼一)では、ガンギブソンによる辻撃ち行為が「私たち人間と、生活をともにしていた様々なロボット達が次々と破壊され……」とニュースになっており、今作における共存社会の姿が補強されています。
レスキューポリス》シリーズから今作における、人間とロボットの共存する社会、というのは、適当、と言ってしまえばそれまでですが、丁寧に辿ってみるとまた、見えてくる物もあるかもしれません。
◆第31話「新型JP(ニュータイプジャンパーソン)誕生?!」◆ (監督:小西通雄 脚本:宮下隼一)
第21話におけるロボット刑務所潜入の協力者である、かおるの先輩でロボット刑務所の主任研究員だった鳴海が再登場し、ロボット刑務所が再建中である事に言及。
基本、ビルゴルディを生み出す時実博士の前振りなのですが、わざわざ名前を出す事に意外とこの設定へのこだわりが見え、宮下さんが気に入っていたのか。
◆第42話「殴り込み大脱獄」◆ (監督:三ツ村鐵治 脚本:扇澤延男)

「しかしおまえは生まれ変わったんだ。今のおまえは、俺たちとともに戦う正義の戦士なんだ」
「もがけ、苦しめガンギブソン! 国家権力が法の力で作り上げた完全なる密室。その分厚い壁を突き破る事は誰にも出来んっ。たとえジャンパーソンにもだ! その完全密室で、底無しの地獄を味わえ、 ガンギブソン
「それが法治国家という日本の法に、拳を振り上げる事になっても?」
「俺たちが守るべきは法律じゃない。命と愛だ!」
「なんというヤツだ……国家権力を敵に回して平気なのかジャンパーソン……! 信じられん……ぬぅ!! なんというヤツだ、 ジャンパーソン……」
ジョージ真壁の姑息な策謀により、逮捕されてしまうガンギブソン。いつの間にやら再建されていたロボット刑務所はまたも<ネオギルド>に占拠されており、ガンギブソンに迫る危機。果たして、守るべきは命か法か?! 今、ジャンパーソンのジャスティスが試される!
……というか、法律なんて守った記憶がない。
そもそも現実では得られないカタルシスをフィクションで得るという構造ゆえに、当然ヒーローというのは超法規的存在になりがちであり、そこには深く踏み込まない、というのが一つのお約束として許されているわけですが、第1話から法律破りまくりのヒーローに敢えてその問題を真っ向から突きつけた上で、高らかな宣言と共に法の壁をぶち破らせる、という確信犯的なエピソード。
「国家権力が法の力で作り上げた完全なる密室」「その分厚い壁」「日本の法に、拳を振り上げる」と比喩的な台詞で丹念に前振りした上で、

「ブレイクナックル!」
「馬鹿な! 国家権力の壁をぶちやぶるとは!」

と、物理的に刑務所の壁を破壊するのが、もう最高(笑)
ガンギブソン(元暗殺ロボット)よりもジョージ真壁(悪の組織の大首領)よりも、誰よりもジャンパーソン(一応、正義のヒーロー、の筈)が日本の法律を1ミリも気にしていないという姿は今作を貫く狂気を力強く体現し、今更法律を持ち出すという作品全体のバランスを崩しかねない要素を、むしろ正面から意識的に突破させる事で、正義の狂気を確信犯として描いています。
そして、劇中における「壁の突破」と、本来、物語的な足枷になる要素を逆にヒーローの存在をより深く確立するのに用いるという「構造的なブレイクスルー」が掛かっている、扇澤延男の超絶技巧(ここに、物理的に壁を壊す、という映像が重なる演出も素晴らしい)。
そもそもヒーローとは、その存在こそが、法治に対する正義からの挑戦状ではないのか? という問題提起に対し、建前を取っ払って力強く「そうだ!」と断言するヒーローがここに仁王立ちするのでありました。
これはまたラスボスに一貫する「お前達人間の、守るべき価値を見せてみろ」という姿勢と繋がっており、ジャンパーソンは法の正義ではなく、自ら愛を証明したものを助くのであります(但しロボットはダメだ)。
ジャンパーソンの前身は警視庁の開発した究極正義執行ロボMX−A1(実験不備により廃棄)であり、JPさんは、法の側に生まれその法に捨てられたもの、という一面を持っているのですが、そのジャンパーソンが再び国家の法と向き合う時に、第2話から言及されていたロボット刑務所の存在がその違法性の強調に一役買い、また壁をぶち破られる「国家権力の象徴」として機能する、というのはお見事。
実に今作らしい、テーマのドッジボールになっています。
まあ内容は宮下さんが普通に野球のボール投げていたら、扇澤さんがいきなりボウリング玉投げてきた感じになってますが!
また、ジャンパーソンにないがしろにされるロボット刑務所は、言ってみれば「ロボットを守る施設」であり、それをラスボスが粉砕していくのは、ある意味で、あらゆるロボットに対して「貴様らを守る法など俺には存在しない!」と宣言しているようなもので、JPさんの暗黒面が凄まじい勢いで噴き出しているともいえます。
この辺り、ジャンパーソンに追われるロボット主観の物語、というのも見たかったかもしれません(笑) まあそこまでやると、さすがにヒーロー物としてちょっとまずくなる気がしますが。
ちなみに、法とヒーローの関係というと、後に『仮面ライダーダブル』(2009)がこのテーマに真っ正面から取り組んで、今作とは真逆の“法治を尊重するヒーロー”を描いて一定の成功をしており、今作と比較して考えてみるのも興味深い所かもしれません。
というわけで、最初は<ギルド>/<ネオギルド>関連を思わせぶりにするギミックだったぽいのが、ジャンパーソンの狂気の初動を決定づけ、最終的に国家権力の象徴としてぶち破られる事になるロボット刑務所についてでした。
気がつくと、法とヒーロー、という大きなテーマに集約されている上に、それが第2話から示唆されていたと考えられなくもない、というのが今作の恐ろしい所です。
「俺たちが守るべきは法律じゃない。命と愛だ!」