◆『GO!プリンセスプリキュア』#35◆
見所は、復活カナタ様の、半裸バイオリン。
似顔絵を手にカナタを探し回っていたはるか達(なんだか制服姿も久しぶりのような、そうでもないような)だが、なかなか収穫を得られずに行き詰まりかけていた所、以前に登場したみなみ様のコネクション――バイオリン職人の老人と遭遇。そもそも似顔絵の衣装(王子カチューシャと謎のびらびら)が悪いのでは……と思っていたら、これがまさかのどんぴしゃり。
急いで老人の家に向かうはるかとトワだったが……
「君たちは誰。僕の事を知っているの?」
「彼は……記憶を失っているようなんだ」
海辺で倒れていた王子コスチュームの青年を拾い(恐らく、演劇関係の人だと思った)、怪我の手当をした老人だが、青年=カナタは、自分に関する記憶を失っていたのである。
「僕が……王子?」
突然現れた自称妹の次は、喋る動物達に囲まれ、なんだか人生の大ピンチ。
「ごめんちょっと……そんな話、すぐには信じられなくて」
頭痛をこらえる表情になったカナタの前で、はるかはプリキュアに変身してみせるが、ショック療法も効果なし。トワが奏でる思い出のバイオリンの音色も記憶の扉を開くには至らず、はるか達は最後の手段、カナタが唯一、この世界で覚えているかもしれない場所……はるかとカナタが初めて出会った場所へとカナタを連れて行く。
そこは、幼稚園時代のはるかが、プリンセスになりたいという夢を馬鹿にされて、一人で泣いていた花畑……と、回想シーンでこっそり、カナタ様の踏み台にされる藍原少年であった。
「本当に……すまない」
だがカナタは、はるかとの出会いも思い出す事が出来ず、仕方がないのでとりあえず近所の子供達と遊んでいき、記憶を失っても王子様力を発揮する天然イケメン王子カナタ様。
前回・前々回で省エネした分の作画リソースを用いてか、カナタ様がやたら綺麗に描かれているのは、今回とても良かった所。物凄くヒロイン臭が漂ってきましたが、普段から女子率の高い映像の中で、びしっと二枚目が立つ事で画面が締まりました。
そして普段と違う、カナタ様という軸を中心に展開している為か、メインキャラクターそれぞれがいつもより互いに離れた位置関係で描かれていたのは、演出として興味深かった所。
恐らく、カナタ様への意識の差を盛り込んだ距離感なのかと思われるのですが、結局のところ、みなみ様ときららさんはカナタ個人に対する強い動機付けはなくてあくまで善意であり、一方でカナタ個人に対して強い動機付けを持つはるかとトワの間にも、微妙な距離があるというのは、面白い。
子供達と遊ぶカナタの姿をまぶしそうに見つめるはるかに対し、涙をこぼすトワ。
「やっとお兄様に、ごめんなさいとありがとうを言えると思ったのに」
はるかはそんなトワを気遣いながらも、記憶を取り戻させようとする事がカナタに辛い思いをさせているのではないかと考えるが、その時、花畑にストップとフリーズが姿を見せ、子供達の一人の「プリンセスになりたい」という夢から、お姫様ゼツボーグを誕生させる。
夢ヶ浜を中心に撒かれていたような描写だった絶望の種が、はるかの実家近くで誕生した絶望でも生長しているのは、随分遠くても育つ……というよりは、敵の行動指針と合わせて、ご都合に見えてしまって勿体ない(^^; 実際には日本各地に撒かれているのかもしれませんが、仕方ない部分とはいえ、もう一工夫欲しかった所です。
「指輪でパンチなんて」
「品がないわ」
お姫様ゼツボーグのチャンプナックルを回避し、一斉に跳び蹴りを決めるプリンセスの皆さん。
「あれが、プリンセスプリキュアですロマ」
そう、それは、花まとう修羅! ……というかアロマは、どうしてそのタイミングで強調するのか。お陰で、カナタ様がちょっと引いているように見えます(笑)
「プリキュア……」
(な、なんかリリカルな魔法とかで戦うんじゃないんだ……!)
メ○オテール!
魔女っ子とは種属の違う打撃系プリンセス達の血湧き肉躍り骨軋む戦いを見つめるカナタだが、マーメイド、トゥインクル、スカーレットが蠢く金髪縦ロールに捕まって投げ飛ばされてしまう。フローラは次々と襲い来る縦ロールの攻撃を捌きながら、カナタへの想いを胸に猛然と拳を振り上げて走り出す。
「カナタ! 私もここで守ってもらった。カナタに夢を支えてもらった! カナタ……あなたがいたから、私はプリンセスを目指せる。あの子の夢も守れる! ありがとう、カナタ。あなたが居てくれて良かった」
一度傷ついて、その傷を乗り越えて生まれたヒーローだからこそ、誰かに傷ついてほしくなくて戦う、というキュアフローラの信念の形を、ヒーロー叫びに集約してクライマックスでまとめ上げるのは、如何にも香村さんのセンス。
その叫びの勢いでまとめすぎてしまう為、「カナタの記憶が戻らないのは悲しいけど、今の私があるのは過去のカナタのお陰だから、過去のカナタの存在にも価値があったよ!」ぐらいまではるかが振り切れすぎて見えるのは、良し悪しありますが。
勿論、失われた過去も現在に繋がっている、という意味でカナタの今を認める為の過去肯定ではあるのですが、現在の問題は「笑おう」で乗り越えていくのがフローライズムなので、合わせて考えると、最悪の場合「昔は昔、今は今、笑おうよ」で片付けてしまいそうで、ちょっと怖い。
縦ロールドリルアタックという3段階目の攻撃を繰り出すお姫様ゼツボーグだが、マーメイド達が復帰して、防御から反撃。4人揃ったプリキュアはコバックを炸裂させ、お姫様ゼツボーグはどりーみん。はるかとトワは、目覚めた少女に、自分たちも同じ夢を持っている事を告げて励ます。
「実は私たちの夢も、プリンセスになる事なんだよ」
「ホント?」
「一緒に頑張ろ」
「うん。じゃあ私たち、今日から ライバル お友達だね」
一瞬、ドッキリしましたが、少女からのドライな発言はありませんでした(笑)
ゼツボーグを退けたプリキュア達の戦いを目の当たりにしたカナタだが、それでも記憶は戻らずじまい。しかしそんなカナタに、はるかは驚愕の一言をかける。
「いいよ……今は、思い出さなくても」
「「「「え?」」」」
「で、でも……」
「はるか! なにを言い出すの」
「ごめんね。トワちゃんには、辛い思いさせちゃうかもしれないけど。でも、なにも覚えてなくても……カナタは、カナタだもん。まずは、今の私たちを見て貰おう。少しずつ仲良くなって……そしたら、いつか、きっと……。多分、ね」
無理に記憶にこだわってカナタを苦しめるのではなく、今のカナタとの関係を大切にしよう、と決断するはるか。
一見明快なヒーローの「前向きさ」に見えるのですが、ここまでの物語を見ている限り、はるか/フローラの「笑おう」イズムは、絶望を良しとしない底抜けの前向きさ、というよりも、絶望の存在を認めた上でそれをより強い力で打ち砕く主義に見えるので、記憶を失ったカナタ、という存在を認めた上で、そんなカナタと新しい関係を構築して前より幸せになれればいいじゃないと聞こえて怖い。
……本当に前向きだったら、最後に「多分」てつけませんし(^^;
つまり、はるか/キュアフローラというのは、「どんな絶望にもくじけずにそれを打ち消す」のではなく、「どんな絶望も上書きするヒーロー」であり、はるかに絶望は上書きすることが出来る、と教えてくれたのがカナタなのであろうな、と。
以前に藍原少年が怪我で現実逃避した時のフローラの叱咤が「てめーは、ぬるいんだよ」(意訳)だったのも、今更ながら深く納得です。
この世には確かに絶望がある――だがそれは、上書きする事が出来る。
そしてそのエネルギーこそが夢である……という所まではまだ語られていませんが、今作の芯の構造が見えてきたような気はします(気のせいかもしれませんが)。とすると、物語としては未来志向が強いのに対し、過去の幸いにこだわる傾向のあるトワが、如何にして本当の意味で未来へ向けた夢を手に入れるのか、というのは一つ今後の鍵になりそうな所でしょうか。……いや、さすがにカナタ様はいずれ記憶を取り戻すとは思いますが、その辺りの持って行き方は楽しみです。
「せめて! せめてお兄様と呼び続けてもいいですか?!」
「……ああ。いいよ、トワ」
そんなはるかに一瞬置き去りにされかけた肉親としてのトワの感情の置き所はカナタ様がイケメン力で受け止め、
「じゃあ、改めて……私たち、今日からお友達ね」
「ありがとう、はるか」
もう一度、最初から始めるはるかとカナタは握手をかわす。
その光景を、二人が向き合う初期OPの絵と重ね、綺麗にまとめたのですが……はるかは段々、「絶望を知らない」のではなく、「絶望……? そんなものは、あの地獄の底で、腐るほど見てきたぜ」みたいな人になってきました(笑)
というわけで記憶を失っても安定のイケメン力を見せたカナタ様の為に作画も頑張った再会編でしたが、荒ぶるフローラの姿を見てカナタ様の王家の血に潜むバーサーカー魂が目覚めて記憶を取り戻すとかいう展開でなくてホッとしました(笑) いや、てっとり早いといえばこれ以上なくてっとり早いのですが、さすがにそこまで打撃で片付けるのはどうかと思うので。
今回、OPが秋の劇場版宣伝バージョンになり、3種類の違う画風の映像が入り交じってカオスな事に(^^;
謎のロープアクションを披露しているマーメイドは、例の夏休みの体験以来、真夜中にテンション上がる悪い病気にでもかかってしまったのでしょうか。――次回、そんなみなみ様の家族勢揃いで、はたしてみなみ様の家族ネタはどこに着地するのか。