◆第8話「お願い!! 魔法石」◆ (監督:石田秀範 脚本:浅香晶)
初めに書いておきますと、大事故。
宮下・扇澤・鷺山が状態異常から回復しつつある中、最も不安のある浅香晶が思いっきりやらかしてくれました。また、会話のノリが前作を引きずりまくっているのも非常に困ります。
「ナイスキャッチ!」
「ナイスパス、ジースタッグ! 後は頼んだぞ!」
これはどちらかというと監督の責任ですが、リュックを投げて回すいじめっ子を描いた次の回に、怪人の力の源である宝石を投げて回すヒーローチーム、を描く事に疑問は感じなかったのか。
おまけに怪人と戦闘員を目の前にしながら、アーマー姿で緊張感皆無な頭の悪い台詞の応酬が続き、早くも頭が痛い。
「おのれぇ、みすみす行かせるかぁ!」
「うわぁ!」
「ブルービート!」「ブルービート!」
「やったぞ!」
宝石を持って離脱しようとした青を怪人が背後から攻撃するのですが、怪人をおちょくったり無駄なエールを仲間に送っている内に背後から光線を食らうブルービートは実に間抜けだし、怪人の目的は“宝石を取り返す事”なのに、吹き飛ばした時点で満足してしまうという、更に頭の悪い展開。
歩道橋から落下した青は、たまたま通りすがったトラックの荷台に落ちて気絶。そのまま運ばれてしまった事で行方不明になるが、トラック運転手の母親と、その息子トオルの母子家庭に拾われて手当を受ける。
宝石の正体は、生命力を吸い取る代わりに念動力を放つというものだったのが、荷台に転がる宝石を拾っていた少年は、それを“何でも願いをかなえてくれる石”と勘違い。意識を取り戻した拓也と、合流した大作・麗の会話を聞いて宝石が壊されると思った少年は家を飛び出し、「いつも母ちゃんと一緒に居たいんだ!」と叫ぶと、反応した石が力を放ち、仕事に向かった母親のトラックを引き戻すが、少年は急速に衰弱してしまう。
工場地帯で少年を発見する拓也達だったが怪人も現れて宝石を取り返されてしまい、怪人は念動力チェーンでBFを拘束。少年の元へ迫り来るトラックがこのままコンビナートに突っ込めばビーファイターも始末できるとほくそ笑む。
今回の大きな問題の一つが、宝石は通常は使用者の生命力を吸い取るが、この怪人は普通に扱えるという事。そういう特異体質だからといえばそれまでで、だからこそ宝石の力で無類の強さを誇ってきたわけですが、それにより“奇跡の力に頼っている”というよりも“この怪人の特殊能力”というニュアンスが強くなってしまい(ヘルメット?の下にすぽっと収めるし)、この後の拓也の台詞に一切説得力が無くなってしまいました。
外付けマジックアイテムに頼るにしても、その使用に特異体質を必要条件とするならば、それはもはや特殊能力(怪人の個性)と代わりが無いわけです。
このままでは全員消し炭になってしまう、と力を振り絞り、溢れるマッスルで念動チェーンを破壊するブルービート。
「どこにまだそんな力が?!」
「俺達は他の力に頼ったりしない。自分自身の 筋肉 力を信じて戦うんだ!」
「そうだ!」
「そうよ!」
鍛え上げた筋肉は裏切らない!
We Love マッスル!!!
「地球は、みんなの夢は、この 筋肉 手で守ってみせる!」
固い筋肉の絆で結ばれたビーファイターは大胸筋パワーで拘束を断ち切り、ビートマシンを召喚。
そこへいよいよ母のトラックが近づき、怪人を緑と赤に任せた青は、おもむろにトラックのドアに飛びつく。
……え?
てっきり運転席の母親を先に助け出すのかと思えば全くそんな事は無く、迫り来るトラックのドアに無駄に張り付きながら、遠隔操縦でカブトマシンに指示を出してトラックを止めようとする、という意味不明な行動。
トラックの進行方向には衰弱しきって動けない少年が転がっており、どう考えてもブルービートのすべき行動はいざという時の為に少年をかばう事なのですが、ブルービートなりに何をしたかったのかすらわかりません(^^; 習性か、習性なのか。
カブトマシンのウインチで何とかトラックは停止し、青は怪人との戦いに合流。強力無比の念動力を破るべく、スキャン機能を発動した青は昆虫魂に閃く。
「そうか! 群れだ! 昆虫は強力な敵には群れで向かうんだ!」
それはこの世界的にいうと、最初の1匹が撃ち落とされている間に次の1匹が刺す! それが駄目でも3匹目が回り込んで刺す!的なあれか。
実際には、スピードで攪乱して念動力の狙いを絞らせない、という作戦に出るのですが、3人で一斉に怪人の周囲をぐるぐる走りだすなど、映像的には面白くならないまま、宝石を破壊し、スティンガーウェポンコンボで撃破。
なおガオーム様と3幹部は麻雀が白熱していたので、ゾーンも要塞突入もありませんでした!
「バルダスは、この宝石の力に頼りすぎて、負けたんだな」
上述したように、宝石うんぬんが怪人の特殊能力にしか見えないので、自分の力で戦うんだ、という拓也の諸々の言動には説得力ゼロ(^^; そしておもむろに、宝石を海に投擲する拓也。
えーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー?!
半官半民のビーファイターとしては、半分壊れていても研究所に持ち帰らないといけなかったと思うのですが。そして、自然を愛するビーファイターとしては、海へ廃棄は御法度ではないのかと、ダブルにまずい。
で、ここまではまだ、「面白くない」エピソードの範疇で済むのですが、今回一番の問題は、拓也が少年に対して「夢は自分の力でかなえるもの」みたいな言葉をかけて一見綺麗にまとめてしまう事。
少年の願い(それも、子供らしい即物的な欲求を押しのけるほどの)「いつも母ちゃんと一緒に居たいんだ!」は、劇中描写を見る限り経済的な必然性に起因しており、どう考えても現状の少年では年齢的にかなえる事は不可能と思われます。
とすると、拓也の発言は、「今は無理だからお母さんの為に我慢するんだ」と受け止めざるをえないのですが、今回のエピソードにおいて少年は、仕事で数日戻ってこない母親を笑顔で見送る、母親に託された怪しい行き倒れの面倒を真面目に見る、など極めて現状を受け入れて抑制的な“いい子”として生きており、その“いい子”が奇跡の力を手に入れた時に、どうしても我慢できなかった心の叫びが「いつも母ちゃんと一緒に居たいんだ!」なわけです。
にも関わらす、それを慮るわけでも何かの変化を与えるわけでもなく「以前に戻れ」と言ってしまう拓也は、ヒーローとしてはあまりに無神経と言わざるを得ません。
ここでヒーローがもたらすべきは、希望を持ったささやかな変化と幸せ、或いはせめて少年の心に寄り添う事だと思うのですが、全体の構造に神経を張り巡らさずに表向きだけ綺麗にまとめた事で、非常に大きな穴を掘ってしまいました。
このフォローとして母親が「次の休みに遊園地に行こう」と発言するのですが、これもトラックに異変が起きる前に運転席で口にしており、つまり、今回の事件と全く関係なく、母親は息子の為に次の休みには何かしてあげようと思っていたわけです。よって、この母子に対して今回の事件が全く劇的な意味性を持っていません。
少年はただ、石を拾って念動力を使ってしまう筋立ての道具にしかなっておらず、そこでその道具に如何なる意味を与えるか、という所にこそ物語の意味というものがあるのですが、それが出来ないまま終わってしまっています。
非常に残念エピソード。