◆第33話「猫だましの恩返し」◆ (監督:柴崎貴行 脚本:下山健人)
周囲を大相撲時空に変えてしまい、相撲で負けた相手は延々と相撲の稽古をする羽目になるという奇妙な能力を持った宇宙の相撲取り怪人が出現。セラ、タスク、サワオ、大和が次々と勝負に敗れて、ひたすら柱に向けて鉄砲稽古を続けるマシーンと化してしまい、逆転の手段を求めたレオとアムは知り合いになった大学の相撲部の練習に混ぜてもらう事に……。
やたらめったら相撲の解説と描写が続いて困惑していたら、合間にいきなり「かわいがり」とか「八百長ではなくて星の回し合い」が飛び込んできて相撲界の闇まで抉られ、好きでネタにしているのか風刺ネタなのか(風刺ネタにしては古いし)首をひねりますが、部下を強化する為にわざわざ地面に転がされにくるアザルドは相変わらずまめな上司です。
で、もしかしたら下山さんの中ではこの、延々と相撲の話が続くという展開だけですっごく面白い事をやっているつもりなのかもしれませんが、それはあくまで掴みと表層のギミックであって、その中身を詰めないと面白くならないのですが(ごくたまに、掴みのネタだけで一話まるまる面白いエピソードがあるのは否定しませんが)、肝心の中身の方はがったがた(^^;
4人の敗北を知ったレオは相撲取り怪人に勝つために頭をひねり
相撲は素人→小兵でも勝てる奇策として相撲部に猫だましを習いに→やはり正々堂々と戦うべきと猫だましを否定→真っ当に練習する→自信をつけて勝負に挑む→何故かいきなり猫騙し(失敗)→猫だましと関係なく勝利
と、この流れだけで、ここまでの『ジュウオウジャー』史上に刻まれる破綻ぶり。
後が無いから勝つ為に手段を選べないというのならば最初から猫だましを真摯に学べば良いのに(仲間と地球の為である事を考えればそこはレオとして特別おかしくはない)、「正々堂々ぶつかって勝つ事を目指した方がいい」と力強く言い切り、猫騙しの練習など一切していない筈にも関わらず、本番でいきなり猫だましを使うレオの心理が、物凄く意味不明な事に。
恐らく、「ネコ科コンビで猫だまし」という言葉遊びが先にありきだったのかと思うのですが、馬鹿で楽天的で自信家のレオがやってもいない相撲で「素人だから」と弱気になるのも、怪人の姿を見ていないレオが“小柄な力士が勝つ手段”に頼ろうとするのも違和感がありますし、とにかく猫だまし先にありきで、そこへ話を繋げる為の説得力が全く組めていません(^^;
挙げ句、アザルドに勝つ事で横綱に昇進して強化された怪人に対して、腕を怪我したライオンに代わってタイガーが立ち向かい、小悪魔タッチで隙をついて撃破するという、相撲一切関係なくここまで15分がほぼ無意味になる、実につまらない決着(作っている側は、これが本当の猫だまし(笑)と、悦に入っていたかもしれませんが)。
戦い終わって、大和達の間では相撲ブームが起こり、レオとアムは世話になった相撲部員達と再会。
「教えられたのはこっちの方だよ」
「なにが?」
「正々堂々、ぶつかる事が大事だって事」
「……おぅ、それが、いいと思うな。ははは」
実際は猫だましを使っていたレオは動揺しながらも二人を見送り、勝利を祈るアムがぎゅっと目をつぶっているのを確認して猫だましを使ったのだが、アムは実はその瞬間をばっちり見ており、ルールの中なら何をしてもいいじゃない、とのたまった後、「案外大人になってきたね、レオくんも」とレオをからかう……というオチなのですが、例えば、仲間の為に信念を曲げて奇策に走るレオの心理に焦点を合わせて格好良く描いていたなら話は違いますが、全くそういうわけではないので、ただただレオがその場で適当な事を言っているだけになった、という酷い扱い。
何故なら、レオが信念を持って猫だましを使ったのならば、相撲部員相手に動揺する必要がないわけです。ゆえにこの展開も描写も、最低。
善良な相撲部員は、レオの上っ面の正々堂々に感化されました、というのも、他者との交流を重要視する今作としては、実に酷い着地。そしてストレートに受け止めると今回のメッセージは、勝利の為にルールの中であらゆる手段を駆使しつつ上辺だけ取り繕うのが正しい大人、という事になるわけですが、それでいいのか。
今作が描いてきたのは、片方に「アムの方法論」があれば、片方に「レオの方法論」があり、そのどちらも絶対の正解でもなければ絶対の誤りでもない、という事であり、アムの方法論はアムの方法論として構わないのですが、劇中でその対比とすべきレオの方法論が全く筋を通して描かれていない為に、極めてバランスが悪く、全体としては溶けたスライムのような話になりました。
せっかく前回良かったのに、掴みのギミックを入れただけで満足・ネタありきでキャラクターの積み重ねを簡単に崩す・コアになる部分を見つけられないまま表面だけ掘って明後日に着地、と下山さんの悪い部分が濃縮されたようなエピソード(^^;
次回、どうやらバングレイ本気。