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『スパイダーマン:ホームカミング』感想


「ウェブシューターのモードは、576種類あります」
「スタークさん凝り過ぎ……」

スーパーマンバットマンと並ぶ、アメリカンコミック界の大スターが、遂にMCUに本格参戦。『キャプテン・アメリカ:シビル・ウォー』にアイアンマンチームとして登場した新生スパイダーマン初の、単独映画。
アベンジャーズ』『シビル・ウォー』を筆頭に、現行マーベル映画シリーズの主要作品を抑えているのは当然の前提、その世界観に誰もが知っているあのヒーローがやってきた!という作りの為にスパイダーマンの出自に関する説明はほぼ無し、という割り切った構成なので見る人を選ぶところはありますが、
いやぁぁぁ、面白かった!!
学校では冴えない少年が手に入れたヒーローとしての力、憧れの人に認められたいが認めてもらえないもどかしさ、口もノリも軽い親友、大切な家族、思春期のロマンス、空回りする正義感と自尊心、力を振るう責任と覚悟を知らぬまま抑えられない熱情とそれによる過ち、挫折、彷徨、克己、そして……と半人前のヒーロー候補生の成長物語を、定番の要素をこれでもかと詰め込んだ上でハイクオリティで仕立て上げ、これまでMCU世界が積み重ねてきた世界の上にこそ描ける、新たな誕生の物語。
今作で一つ特徴的なのは、主人公ピーター・パーカーのティーンエイジャーとしての日常の端々で、アベンジャーズのヒーロー達が時にギャグのネタになり、時に恋人にするならという題材にされ、時に口汚く非難を浴び、世間の中に当たり前に溶け込んでいる様子が描かれる事。
スパイダーマンという超有名ヒーローを、これまで多くの時間をかけて形成してきた『アベンジャーズ』世界に登場させるにあたって、15歳の主人公ならではの視点と切り口を用いて、“スーパーヒーローの居る日常”を当たり前の世界として改めてそこに存在させる、というコンセプトが実にお見事。
ある意味では、これまでのMCU全てを踏み台にしたとも言える大胆な作りなのですが、いわばMCUを足下から見る事でパラダイムシフトを確定させる、そんな作品であり、そこに誕生する新たなヒーローが“あなたの親愛なる隣人”という距離感が、凄まじく良く出来ています。
物語は『シビル・ウォー』後の時制なのでキャップは行方知れず、アベンジャーズは分断の真っ最中ですし、これから『アベンジャーズ』としての主筋も展開していくのを承知の上で敢えて、『アイアンマン』から約10年、ここまでのMCUの、一つの到達点といえる作品。
今作は、スーパーヒーロー達の居る日常に誕生した“親愛なる隣人”の物語であり、このスパイダーマンの登場と誕生をもってして、MCUという世界観が一つの日常として確立した、それを企図して成し遂げた、物凄いヒーロー映画でした。
物語としては『シビルウォー』と繋がっていますが、おニューのクモスーツを着て有頂天なYoutuberノリの15歳が主人公という事で全体的に雰囲気は陽性で、随所にコミカルな要素を挟みながらテンポ良く展開。いかにもなコメディリリーフのピーターの親友、ぽっちゃり君は期待通りの活躍を見せてくれ、豊富な笑いどころは楽しかったです。
「座ってる人だーーー」
そして、キャップの更生プログラム。
「クールを気取るのはよせ。65年も氷浸けでクールな思いをした僕の意見。本当にクールなのは、ルールに従う事」
シビルウォー』後の世界で、キャップがツッコミ待ちのギャグ要素として登場するのが凄い。
また上述したように、他のアベンジャーズのヒーロー達も名前がふんだんに出てきてネタに使われ、それが面白いポイントであると同時に、“ヒーローの居る日常”の表現になって世界観を組み立てているのが、非常に鮮やか。シリーズ作品を見ているのが大前提ではありますが、とにかく、積み重ねてきた要素と新たなヒーローの視点の融合が素晴らしく良く出来ており、これまでのMCUの到達点であると同時に、世界そのものを次のステージへ運んでいく作品。
ここまで超大物(スパイダーマン)抜きでやってきたMCUに超大物を出すにあたって、どうすればそれにふさわしい映画になるのか、を考え抜いた末なのでしょうが、これまで積み重ねてきた世界観の全てを捧げる、とさえいえる思い切りが、非常に良い形で噛み合ったと思います。
以下、中盤以降の内容に触れる感想。



一番好きなキャラ(?)は、“スーツのお姉さん”(笑) あーいう、人格めいたものを感じさせるAIと成長途上のヒーローとの関係性、みたいなものが好きなので、かなりツボでした。何かと瞬殺モードを起動したがるのも面白かったですし。それだけに展開の都合上、出番が途中で終了してしまったのが残念でしたが、スーツを取り上げられないと後半の展開に繋がらないし、「座ってる人だーーー!」(割と忙しい)も出来ないので、致し方なしか。
ピーターの親友ぽっちゃりは、学校ではピーターと劣等感を分かち合う“いけてない組”だけど頭脳は明晰、ヒーローの力に対して無責任に無邪気でノリが軽すぎる所もあるけど要所ではしっかりピーターの意志を汲んでくれる、といかにもおいしい役どころなのですが、最初にスパイダーマン=ピーターと正体を知った際に、口止めされるも「俺絶対言っちゃう」と即答する掴みが素晴らしかったです(笑)
しかしその上で、ピーターの保護者であるメイおばさんが心配するから絶対秘密だ(詳細は語られないのですが過去に何かあったらしく、メイおばさんはピーターの事を非常に心配している)と言われると我慢する姿が描かれ、困った奴だけどきちっと人情を解すいい奴である、という事が示されるというのも鮮やか(結局こういう細かい巧さの積み重ねが全体の完成度を引き上げるわけで)。
8年前、劇中現在時点より更に性格の悪かった頃の傲慢な振る舞いが、今回の悪役バルチャーを生み出す遠因となったトニーは、実父へのコンプレックスとキャップの幻影に追われながらも若きヒーローの導き手たらんとするもなかなか上手く行かないのですが、『シビルウォー』にろ今作にしろ、そろそろ“大人”として社会に対する責任を取ろうとするトニー・スタークが、かつての自分の蒔いた種を敵とする(今作では最後まで自覚はないのですが)、というのは、MCUにおける、ヒーローと悪の本質的な関係のイメージでもあるのかもしれません。
「スーツ無しじゃ駄目なら、スーツを着る資格はない」
色々あってやや過保護気味のトニー、最終的にはピーターの有り余る若さからの破滅をギリギリで引き留め、正道に引き戻す事にも成功するのですが、そこで自分好みの派手なセレモニーを準備していると、いや僕そーいうのいいんで、と子供に乗り越えられてしまう、というのは良いバランスでした。
最後に出てきた女性は、誰かと思ったらペッパーとよりを戻したようでホッとしましたが、それ絶対、『シビル・ウォー』の最後でキャップから届いた手紙の時候の挨拶が<嫁さんに逃げられて一人で寂しい自宅に居ないで本部に居て安心したよ!>(悪気は全く無い)だったのが頭に来たので、「その完璧な歯にパンチ食らわせてやるよこの野郎!!」と意地になって復縁したんですよね?!(結果的にキャップがとてもいい事をした)
面白かった部分をあげているとキリが無いので割愛しますが、コミカルな要素を多分に盛り込みつつ、後半、スーツを没収されて失意のピーターが徐々に平凡な高校生としての日常を取り戻していき、その過程で意中の彼女と思いがけずいい感じとなり、もうスパイダーマンなんて卒業だ! となりかけた所で、彼女の父親こそバルチャーであった事が判明して一気に深刻さが増す、というのは強烈でした。前半のパーティのシーンで、あれこのヒロイン、随分金持ち? というのが伏線だったのもお見事。
そして一度はヒーローとして悪に屈しながら、パーティ会場のドア越しに、自分が何者であるのか? を見つめた時、初めは小さなつまづきとちょっとした誘惑だったとしても、やがて「家族のため」「娘のため」と理屈をつけて人殺しも辞さなくなってしまった歪んだ“父親”を、ピーター・パーカーは止めなくてはならない。
だから「行かなきゃ」とピーターは走り出す。
そしてそれこそ、はからずもバルチャーが娘の眼鏡にかなった男としてピーターを認める事になる、ピーター・パーカーの魂の炎であり、その炎ゆえにピーターはバルチャーを食い止め救い、“親愛なる隣人”としてのスパイダーマンに至る……というのが、“あの神様たち”とは少し違うヒーロー誕生の物語として絶妙であり、そしてその立ち位置ゆえに新生スパイダーマンは『アベンジャーズ』世界に登場する意味を持った、というのが素晴らしかったです。
一つ不満点を言うと、ひたすらいい子だったヒロインが最終的なフォローが薄くて可哀想でしたが(ラストに、街を離れる際に事故に巻き込まれたヒロインをおニューのスーツで救うイベントぐらいあるかと期待していたら、正体バレオチが優先された)、なんだか真実を知ったら、ヴィランになって戻ってきそうな勢い。
最後に明かされた名前ネタからすると、真ヒロインは何かとおいしい感じだったあのキャラという事なのかもですが、完全に青春の通過儀礼で踏み台なのか!
オリジンから新生スパイダーマンを描くのではなく、『アベンジャーズ』世界に“あなたの親愛なる隣人”を誕生させる、という作劇は好みの分かれる所かと思いますが、個人的にはその思い切りが素晴らしいと感じ、満足の一作でした。