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『コンドールマン』感想6

◆第9話「恐怖の吐かせ屋!」◆ (監督:奥中惇夫 脚本:山崎晴哉)
サブタイトルが既に凄い……と思うのも束の間、第三の化身・ゴールデンコンドルと空中で衝突し、
レッドバットン、瞬殺。
長々頑張ってきたのに、タイトルコールから5秒で撃墜(笑)
どうやら当座の指揮官クラスの賞味期限は4話程度に設定されているようですが、あまりにも呆気ない最期。
だが妹レッドバットンの死に反応して藻掻き苦しむ姉秘書が、妹の恨みと魔力を吸収し、鬼女そのものの本性を見せる。
「おのれコンドールマン、貴様を殺さずにおくものかぁー。だが、ただ殺しはしないよ! 貴様の正体を暴き、痛めに痛めてなぶり殺しにしてくれる。妹の恨み、晴らさずにおくものかぁぁぁ!」
雷鳴轟くゴシックホラー演出に、物凄い迫力の化粧で、子供が泣きそうなレベルでかなり怖い。
堅介とカメラ助手を無事に助け出すコンドールマンであったが、黒井大臣の会見により、食糧輸送船を狙う悪のシンボルとして名指しされ、現実問題として怪しい全身タイツの男として、立場が悪くなっていく事に。
三矢家の茶の間でこの会見を見ていた一心は、大臣に何か異常なものを感じておもむろにコンドールアイを使ってみるが、ムー帝国の超能力は現代家電と相性が悪かったのか、TVが映らなくなってしまう。
ナレーション「コンドールマンは、コンドールアイを使ってみたが、画面が乱れただけで、相手がモンスターかどうかは、わからなかった」
実はこの時、会見場では大臣が急に苦しみだして会見を打ち切ると部屋を退出した所でその正体を曝しており、現場では割と混乱があったし、舞台裏では実際に本性を見せる所まで追い詰めているのだけど、しかし画像が乱れてしまったのでコンドールマン視点では何もわからなかった、という、情報の限定や一方通行がかなり意識的に織り込まれているのは、今作の面白い所。
これ、下手すると00年代以降でも、いつの間にか重要な情報が共通認識にすり替わっていたり、視聴者視点と劇中人物視点の情報を無造作に共有させてしまいがちなのですが、今作は一心−コンドールマンと周辺の人々の関係から始まって、簡単に情報が共有されずに個々人の認識にすれ違いがある、というのが随所に意識されているのを感じます。
(※ちなみによく書きますが、特撮ジャンルにおいて、この「情報のギャップによる錯誤」を用いるのが抜群に巧いのが、全盛期の井上敏樹
日本に近づいていた第二輸送船団は新たなモンスター・ブタ磁石によってまたも沈められてしまい、これまたコンドールマンにその罪がなすりつけられてしまう。号外配りが腰につけた鈴を鳴らして耳目を集めているのは、当時の風俗でしょうか。
首尾良く襲撃を成し遂げたブタ磁石――ケニアの吐かせ屋コインマーはアジトを訪れ、本部へ出張中のゴードンに変わって姉バットの指揮下に入る事に。
「おまえにかかったら、どんなに強い信念の持ち主でも、参らない者は無いそうだね?」
「アフリカの大物はみんな締め上げました。ところで、私のいたぶるコンドールマンって、逞しい? それとも痩せ? 私痩せ嫌いなのよ」
チョビ髭の小男というコインマー人間体がしなをつくって鞄を開くと、その中に詰まっているのは怪しげな道具の数々。
「いろんな責め道具を持っているんだね。さすがだね」
……え。「締め上げた」って、そういう事なの?!(^^;
今、コンドールマンに、空前絶後の危機が迫る!!
変態怪人というのもある種の伝統ですが、作風が作風だけに胸の動悸が収まりません。
姉バットとブタはゼニクレージーと今後の作戦を検討する為に議事堂へ向かうが、議事堂の前に張り付いて道行く車にコンドールアイをかけまくっていた不審者もとい三矢一心に運転手の魔神コンバットが正体を見抜かれ、咄嗟に座席に伏せて回避。その事を銭大臣にも伝える。
「注意といえば、この辺をコンドールマンがうろついているんだ。十分気をつけておくれ」
「なにコンドールマンが?」
「そんなに慌てる事はないんだよ。まさかここまでは入ってこれないからねぇ」
それ、某JPさんなら法の壁をぶち破って突入してくるフラグですし、金満商事の会議室に乱入した前科のあるコンドールマンもやりかねないと思ったのですが、ここは自重。
3人は、食糧輸送船の襲撃により引き続きコンドールマンを悪者に仕立て上げて社会的に追い詰め、焦って行動に出た所を罠にかける、という方針を確認。
「なるほど。そして捕まえた後は、このケニアの吐かせ屋の出番。ほほほほほほほほほ、さて……どうやっていたぶってやろうかしら。ほほほほほほほ」
妹バットが、コンドールマンが浴びるヒーローとしての賞賛を我が物にしようとしていたのに対し、姉バットはコンドールマンというヒーローの名声を地に墜とそうとする、と、日本飢餓作戦の継続以外にも、キャラクターの行動が関連付けられているのは面白い所。
70年代作品なので今見ると雑な部分は勿論多いのですが、根っこの所での物語の構造が非常に巧く出来ています。
この場面の会話を聞いている限りではバット秘書の方が組織の階級では高位のようなのですが、そんな上官にも作戦協力の見返りとして平然と札束を要求するゼニクレイジー(笑) 履かせ屋ブタ磁石の方は、バット秘書が取り出した小銭の山を左手の磁石にくっつけると口に運んでご満悦。
「しかしコインマー。どうしておまえはそう、小銭ばかり好きなんだろうね」
モンスターの性癖に、顔をしかめるお姉さん、本当に、大変そうな職場です。
なお、今日もパンツに札束を突っ込んでいた銭大臣が、コインの山に対しては、何それつまんねー、みたいな表情なのもおいしい(笑)
げに個人の性癖というものは、深く暗いクレバスのごとし。
吐かせ屋はさっそく街で大衆を扇動し、それに反論したまことと石松、袋だたきに。
最初に火を付けたのはコインマーの取り巻き(正体は魔神コンバット)なのですが、一度ある方向に流れてしまうと小学生相手でも容赦なく暴力を振るう一般大衆の姿が、群衆心理というものを容赦なくえぐりだします。
なお、真っ先にまことに殴りかかった取り巻き役は大葉健二で、小学生女子に殴りかかる大葉健二が見られるのは、たぶん『コンドールマン』だけ!!
あと、同じく取り巻きの一員で登場の高橋利道さんは、どの時代で見ても、もみあげてですぐわかるなぁ(笑)
そこに駆けつけた一心は、まことと石松を助け出し、身代わりに袋だたきに。暴徒と化した一般市民が、鬱憤をぶちまける為にもはや誰が相手でも構わなくなっているしそれが見えなくなっている、というのも実に恐ろしい映像です。
ナレーション「飢えに苦しむ人々の深い憤りを知るコンドールマンは、甘んじて殴られた。それは、まだモンスターを倒す事のできない自分に対する人々の怒りでもあるのだと、自らに言い聞かせるのだった」
そこへ通りすがったさゆりが更に一心をかばうも、袋だたき続行(^^;
ボロボロになった一心はアパートに運び込まれてさゆりの看病を受け、見舞いに来るカメラ助手。
「一心くん! お安くないわね」
「そんなんじゃないよ!」
ここだけ一心の反応が普通の人間のようで、おかしいといえばおかしいのですが、変に面白い事に。
カメラ助手はさゆりとは既知のようなのですが、一体全体、この状況をどう捉えているのか(^^; さすがに本物の一心の死去を知らない事はないと思うのですが、C一心をどう紹介されてどう思っているのかは、凄く謎。これだけ一心に生き写しの男が出てきたら、さゆりが気にするのは当然、ぐらいの考えなのかもですが。
その頃、釣りに出て海を漂流していた父子が、輸送船団の生き残りの船が魔界島に運び込まれるのを目撃。モンスター一族は輸送船団全てを沈めず、輸入されてきた食糧を掠め取った上で秘密基地に一時保管し他国に売りさばく事で、飢餓作戦・コンドールマンの社会的抹殺・金儲け、の一石三鳥をもくろんでいたのである。
コンドールジュニアの一員であった子供は岸辺に辿り着くとまことに連絡を取るが、父親ともどもブタ磁石に捕まってしまう。まことから一心に連絡が繋がり、父子のピンチに駆けつけるコンドールマン
定番の主題歌バトルなのですが、民衆に袋だたきにされた直後なので、どこの どこの どこの誰から頼まれた♪という歌詞が、いつも以上に深く沁みます。
それでも一人の青年の恩義に応える為に、命を懸けるコンドールマンは、父子を救ってブタ&コンバットと激突。引き続きスピーディな戦闘シーンなのですが、前回あたりから、コンドールマンの打撃音が「びよーん」「びよーん」と、スプリングのような軽い音になってしまったのが気になります(^^; しゅ、修行の作用なの……?!
コンバットを蹴散らすコンドールマンだが、ブタの投げつける爆弾攻撃を受けた所で、つづく。
――果たして次回、コンドールマン大人のアイテムの餌食になってしまうのか?!


◆第10話「海の罠・魔界島」◆ (監督:奥中惇夫 脚本:山崎晴哉)
……あ、そうか、コインマーの顔がどうして豚モチーフなのか首をひねっていたのですが、貯金箱か!
コンドールマンはベルトから放つ「コンドルミサイル!」で爆弾攻撃を防ぎ、ブタ磁石は一時退却。コンドールマンは凄く普通に海上を走るマッハコンドル(超能力ではなくホバークラフトの原理との事)で魔界島へと向かうが、それはモンスター一族の罠であった!
その頃、ニューヨークにはモンスター一族の重役達が集い、世界各地における征服計画の進捗について話し合っていた。
モンスター一族、皆で報告に拍手を送り合う素晴らしい社風(笑)
「諸君頼むぞ。我らモンスター一族の名誉に賭けて、世界制覇の為に頑張るのだ」
「「「「「「ハールマゲドン」」」」」」
まことの家には、「一心くんと魔界島へ向かう。明日の昼には食糧を取り戻す予定」というコンドールマンからの手紙が届き、コンドールマンにC一心の不在についてフォローする意識があったのにビックリです(笑) この後、魔界島へ上陸した時点では何故か一心に化身しているので、車で移動中に一心に→まことへの手紙を書く→海鳥を操って手紙を届けさせる→上陸、みたいな成り行きでしょうか。
島の各所に仕掛けられた地雷の罠に気付いた一心は、再びコンドールマンに化身して立ちふさがるコンバット部隊を蹴散らすと、逃げたコインマーを追って洞窟の中へ。その奥で山と積まれた食糧を遂に発見するが、その洞窟は、潮が満ちてくると中に海水が流れ込んでしまうのだった!
敵の声の誘導とは知りながらも、人々が待ち望む食料品を守る為に、鍵のかからない扉を閉めて自らの力で海水の圧力からそれを支えるコンドールマン
「これが我々の本当の罠だ。コンドールマンをとうとう捕まえたぞ。ふはははははは……」
コンドールマンの動きを封じる為に、その正義と善意を利用するという、凄い罠。いってみれば食糧を人質に取っているわけですが、ここまで10話、如何に人々が食べ物を求めているかを丹念に描いてきた事でその重要性が強く伝わり、その上でコンドールマンが抗うのは膨大な海水(自然の力)というのが、コンドールマンのヒーロー性をますます引き立てます。
「それにしても、コンドールマンって予想以上に逞しいのね。私、逞しいのだーいすき。ふふひひひひひ」
姉バットの詰めるアジトに映像が中継される中、拷問道具を物色した豚は背後からモーニングスターコンドールマンを殴りつけ、紅く染まっていくコンドルマンの白い装束……!
ちなみに、コンドールマンが扉を支えるのを止めると、多分、豚も一緒に海水に飲み込まれますが、いやまあ、秘密の逃げ道ぐらい用意していると信じたい(笑)
(全身が粉々に砕けそうだ。だがここで負けては、飢えに苦しむ人々を救えない。耐えていれば、このモンスターのボスも、そのうち必ず出てくるだろう。それを突き止めるまでは)
「本当にしぶといやつね。ますます気に入ったわ〜。次はなんでいじめてやろうかしら。これかな〜、それとも、これかな〜」
コインマーは用途不明の大人の玩具を次々と手にし、拷問の様子を見つめながら酒をあおる姉バット。
コンドールマンの正体を知るならば覆面を剥いでしまえばいいのでは、と思う所ですが、コインマーは嗜虐心を満たしたい、姉バットは妹の恨みを晴らす為に徹底的に痛めつけたい、と拷問を長引かせる動機がそれぞれあるので矛盾はしません。また、コンドールマンが化身である事を考えると、そもそも覆面が剥がせるのか、という疑問はあり、視聴者からは覆面に見えますが、あの世界では“ああいう顔”として認識されているのかもしれません。
「本当はね、この扉はスイッチ一つで自動的に閉まる仕組みになってるの。おまえの返事次第だよ」
「私は負けないっ」
コンドールマンをバーナーであぶるコインマー、肉体的な拷問ばかりではなく精神的に揺さぶりをかけてくる姿が、吐かせ屋の造形として秀逸です。
その頃街ではコンドールジュニア達が、明日の昼にはコンドールマンが食糧を届けてくれると広報に勤しみ、帰還のハードルを上げていた。
しかし世間の風は冷たく、ここで、食糧を奪う悪のシンボルにされたコンドールマンを、正義のシンボルの座に戻そうとするジュニア達の取る行動が、コンドールマンは食糧を配ってくれる人、という形で図らずも義賊・紅コウモリの行動とかぶる、というのは、大衆から見た正義と悪の移ろいやすさを示しているようで、何とも皮肉。
魔界島では拷問に疲れた豚が船を漕ぐ中、必死に扉を支え続けるコンドールマンにもいよいよ限界が迫っていた。
一心の帰りを待ち続けるさゆりと、コンドールマンを信じ続けるまことの姿がそこに重なり、全身の力を振り絞るコンドールマン
(そうだ……こんな所で死んでたまるものか。敵をここまで追い詰めたのに、死んでなるものか。たとえ片腕一本になろうとも、この身が粉々になろうとも、子供達との約束を守ってみせる。ここを支え通してみせる。モンスターの正体を突き止めずにおくものか)
まことの家に届いた手紙がタイミング的に不自然すぎて、モンスター一族の罠の可能性も疑っていたのですが、そうか、わざわざ手紙を投函したのは、自分で自分のハードルを上げる為だったのか!
かなり無理はありましたが、子供達との約束を力に変えるコンドールマンコンドールマンから貰った勇気と希望を街の人々にも伝えようとするジュニア達、という構図も繋がり、お見事。
同時に、(演出的にはともかく)さゆりとまことの声がコンドールマンに届いている、というわけでは恐らくないので、あくまでも具体的な「約束(を守ろうとする信義の心)」が土壇場でコンドールマンに限界を超える力を引き出させているのであり、決して突然奇跡の力が発動しているわけではない、というのも良いバランスです。
コンドールマンは一心不乱に呪文(ニュアンス的には念仏か)を唱えて集中力を高めると扉を支え続け、その姿に重なる、帰りを待つ二人の姿。打ち寄せる波に抗い続ける正義のシンボル! 果たして黄金の翼は、再び輝く事ができるのか?! 次回へ続く!
いやぁ……凄かった。
怪人クラスとの戦闘は冒頭のみで、Bパートは戦闘員を軽く蹴散らした後はコンドールマンはほぼずっと拷問されているだけ、というヒーロー物の定型からはかなり外れた構成なのですが、にも関わらず、コンドールマンとは如何なるヒーローであるのか、がこの上なく鮮やかに描き出され、ただただ扉を押さえているだけなのに気高いヒーローの姿にカタルシスまで発生してしまうという、強烈な展開。
参りました。