(※サブタイトルは存在しない為、筆者が勝手につけています。あしからずご了承下さい)
本編と全く関係ない余談ですが、Youtubeで配信を見ようとすると、ほぼ確実にNTTドコモの広告が流れるのは、澤田なの?! 澤田繋がりなの?!
◆第35話「僕らはどこへ行くのだろう」◆ (監督:石田秀範 脚本:井上敏樹)
今作について脚本の井上敏樹はしばしば「ベルトの物語である」と語っていますが、では今作における「ベルト」ってなんだろう? と考えると、それは人間と怪物の間を繋ぐ物であるというのが前回でストンと腑に落ちたのですが、同時に、琢磨がインテリ詩人から色物眼鏡に転落してしまったのは、ファイズギア使用の後遺症ではないか、という疑惑が私の中で急浮上。
ファイズギアはオルフェノクを駄目にし、デルタギアは人間を駄目にする。
つまり、みんなが駄目な世界の誕生である。
……なんて事するんだ父さん!!
そういえば草加がしれっとファイズに変身していましたが、改めてファイズ変身可能な条件について推測してみると、単なる奸計というだけではなく、物凄く重要な伏線だったのでは……。巧の正体が判明する事で今度は草加の矛盾が浮き上がるという構造になっているのですが、果たして同窓会の日に何があったのかは、綺麗に収まるのか。
「嘘だろ?! なんで? なんでたっくんが?!」
啓太郎の悲痛な叫びを切り裂き、荒ぶる巧オルフェノクは、強靱な跳躍力で河童と海老を翻弄。
これまで幾度も命の窮地に追い込まれながらも決してオルフェノクになろうとしていなかった巧はつまり、オルフェノクとして生き延びるよるも、人間として死のうとしていたわけで、その巧がここでオルフェノクへと変身する意味が非常に重く、棒立ちで見ている勇治の後頭部をウォーハンマーでがつんがつんと殴り続けていく勢いです。
「…………おまえは俺が倒す。真理を救う為にな!!」
不利を悟った海老は姿を隠し、残された河童は一方的に蹴り飛ばされて川落ち。狼オルフェノクは河童が落とした車輪武器を拾うと、呆然とする皆を置き去りに、その場を去って行く。
「奴には何かあると思っていたが……まさか……こういう事だったとはな」
利用できるものは利用しよう、という点では懐の深い草加は、事実は事実として受け入れて巧を後で問い質すと決めるが、一度は変身した三原がデルタギアを返却しようとする。
「ごめん……やっぱ、俺には無理だよ。俺は君のようにはなれない。関わりたくないんだよ俺」
「いつまで逃げていれば気が済むんだ。言った筈だ。俺たちに帰る場所は無い。帰る場所を探したければ――戦う以外に道はない」
草加は三原を叱咤してベルトを突きつけ、これを奥で耳にしている勇治に覚悟を問う展開が続きますが、気がつけば残りおよそ1クール、いったいぜんたい、勇治の転機はいつ訪れるのか。このままふわっとしていると、琢磨辺りと一緒にシュレッダーにかけられて、再生紙にされてしまうぞ!
草加はそんな勇治を、巧の正体を知っていながら嘘をついてたばかっていたのでは、と殴りつけ、勇治も草加への不信を正面から爆発させる。
「嘘が多すぎるんだよ、君には」
「……まあいい。本当の事はいずれわかる。おまえと乾が俺にとって、敵なのか味方なのか」
草加はむしろ自分から敵を作っていると思うのですが、どうやらこれでも、巧の正体に動揺している模様です。
河童の車輪を証拠品として持ち込み、ラッキークローバー入りを求める巧だがそこに冴子が訪れ、そもそも村上くんにそんな権限は無いし乾巧は信用できないと当然の言及。適当な口約束に両方向からお叱りを受けた社長は、折衷案として、前金扱いで真理を蘇生させ、それを巧の枷にする事に。
「ご心配には及びませんよ。彼は、優秀なオルフェノクとして、スマートブレインの為に働いてくれるでしょう。……必ずね」
これまでの実績から確実にわかっている事は、社長の目は節穴です。
草加といい社長といい、もっと冷静に自己分析をしましょう発言が続くのですが、割とその場の勢いで策を弄して困ると暴力(権力)に訴えるこの二人、実は根っこの所で似ているのでは。
(頑張れよ、真理……頑張って、戻ってこい……!)
巧が一心に祈る中、蘇生手術を受ける真理は、浮き上がっていく意識の中で、同窓会の夜の記憶をフラッシュバックさせていた……そこに居たのは、巧オルフェノク?!
その頃、お花畑に向けて川を流れていた河童も、なんとかこちら側の岸に根性で上陸。
「死んでたまるか。俺は、死なない……」
そして、啓太郎@茫然自失と草加@平然は、男二人で寂しく差し向かいで食事していたが、そこへ巧から電話がかかってくる。
「……たっくん、帰ってくるって。……真理、ちゃんと、一緒に……」
「真理と一緒に……?」
その電話の通り、朗らかに帰還する真理。死亡は医者の診断ミスだった、という事になったらしく明るく笑顔を浮かべる真理だったが、時折どこか、虚無的な陰りが視線に漂うように。
巧も普段通りに振る舞うが、ぎこちない店の空気は重苦しく、明暗を極端につけた映像と不安定なカット割りの連続で、ひたすら不穏な気配が澱んで溜まっていきます。
三原と里奈の元にはデルタギア回収の為に鎧武者オルフェノクが洗われ、追い詰められた三原はデルタへと変身すると円錐キックで鎧武者を焼却。
「やってみるさ……俺に、何が出来るかわからないけど」
平穏を求め、力に怯えながらも、何かを守り手に入れる為に戦う事を選ぶ、という、ここに来て物凄く正統派のヒロイックな描写をされる三原は、果たして物語にどんな波紋を投げかけるのか。ベルトがベルトだけに、来週には駄目人間になってしまいそうで不安ですが、敢えて終盤に入れてきたのであろう要素がどう繋がるのか楽しみです。
前回に続き、今回もオルフェノクの襲撃を生き延びた里奈は、いずれ琢磨と二人でベルトに落書きしながらふーふー社長の頭髪について言及して、どちらが真のサバイバーか頂上決戦を期待したい。
巧は草加に、真理の蘇生をスマートブレインに頼んだ事情を説明。
「…………真理を助けてくれた事には、俺も素直に感謝する。だがこれからどうするつもりだ。君がオルフェノクとわかった以上、今まで通りの生活ができるのかな。もし、真理が君の正体を知ったら」
「俺にもわからない。どうしたらいいのか。おまえ達で決めてくれ。おまえと、啓太郎と…………真理と」
果たして自分は、人間の世界で生きていいのか? 巧はその答を草加達に委ね、4人はひとまず、真理の復帰祝いの名目でピクニックへ。
「ふん、啓太郎の奴は、君がオルフェノクだった事を忘れようとしている。悲しい現実逃避だが……いつまで保つかな」
啓太郎は痛々しいほど明るく巧に接し、どうにかこうに表面張力で保っている瓶の水が溢れる寸前の引き続き深刻なシーンなのですが、小声で会話する為に巧と草加が二人で焚き火を組んでいる姿が、妙に面白い感じに(笑)
草加は廃倉庫で寝泊まりしていたりするし、巧も放浪慣れしていそうですし、アウトドアなら任せとけ!(こんな所で男らしさをアピール)
川辺でもそもそと食事する4人だが、真理は無言になりがち、啓太郎は空回り気味、とどうにも落ち着かない中、招かれざる闖入者が楽しそうに来訪する。
「お迎えにあがりましたよ。乾さん、あなたは今、スマートブレインに所属している筈だ」
「そうね。前金として、その子の命を救ってあげたんですもの」
間違いなく、特に用は無いのに、嫌がらせだ!!
正面から喧嘩すると勝てないので、精神的にいたぶって優越感を楽しむ琢磨&冴子の言葉を聞き、真理に詰め寄られた巧は口を開く事ができない。
草加はカイザに変身し、啓太郎と真理の言葉を受けて巧も変身する、が……
「抵抗するなら、もう一度彼女の命を貰いますよ」
ムカデの言葉に戦いを続ける事が出来ず、鞭の一撃を受けて変身解除。ムカデは真理へとダッシュで迫り、もはや真理を失う事に耐えられない巧は、その命を守ろうと再びオルフェノクへと変身する。
かつてはオルフェノクとして生き延びるよりも人間として死のうとしていた巧が、人間としての繋がりを守る為に怪物の力を振るわざるを得なくなるという構造が、実に凶悪。
以前の巧なら恐らく、自身がオルフェノクに変身しない事で真理や啓太郎が死んでしまっても、それは諦めのついてしまう事だったのですが、今の巧にはそれを割り切る事ができず、けれど、それこそが人間である、人間だからこそ巧は生身を引き裂くような選択を迫られて決断する。
前回の感想で触れましたが、異形と改造人間テーゼとしての仮面ライダーが「人間」から「怪物」への「中間的存在」として意味づけられているのと比べる時、ファイズとは、オルフェノクから人間に一歩近づいた存在であります。
オルフェノク : ファイズ : 人間
巧にとってファイズギアとは、怪物と人間の境界の橋渡しであると同時に怪物の力を人間として振るえるツールであり、故に巧は実は「人間である為に戦い続けていた」ともいえます(だからこそ、真理を守れず自分に人間である資格が無いと感じた時に、ファイズギアを手放す他なかった)。
これはヒーローテーマにおける「何かを守る為に人間でなくなっても戦う」というテーゼのまさに裏返しであり、今作は「仮面ライダー同士が戦う」「悪の仮面ライダーが居る」という地点を越えて、仮面ライダーの持つ記号的意味そのものをひっくり返した物語であった事が明かされたのですが、その直後に巧に、「何かを守る為に人間でなくなっても戦えるか?」というテーゼが突きつけられる。
では果たして「人間」とは――ファイズという境界線のどちら側に居るのか?
“怪人を人間として描く”という点を大きな作品コンセプトとして進んできた今作ですが、主人公も実は怪人だった、というのが明らかになった時、両者は渾然として一体となり、そこから物語としての普遍的なテーマが引きずり出されてくる、というのはさすがお見事。
「巧が……」
真理を守ってムカデを攻撃するウルフオルフェノクだが、真理はその姿に怯えておののく。
部分的にフラッシュバックする同窓会の記憶の中で、塾生達を皆殺しにしたオルフェノク……それこそ、ウルフオルフェノクだったのだ! と更なる爆弾が炸裂。
真理は愕然と後ずさり、無言で立ち尽くす啓太郎。
今回、ヒーローとヒロインの関係性だけでなく、随所に、目をそらせない現実に硬直する啓太郎のカットが挟まるのが非常に効いています。ほだし系善人ポジションにしては啓太郎はナチュラルに最低すぎないかと思っていたのですが、ここに来て、当初のキチガイ路線から多少の修正が入っていき、啓太郎はあくまで俗人である、という位置づけに集約されつつあるのが物語上で大きな意味を持ってきていて、これも実にお見事。
設定とかは脇に置いておいて、菊池啓太郎が「ファイズになれない」事そのものに意味があるのだな、と。
俗人で凡人で物語の片隅で日々の生活を営みヒーローになれない男は、それでも誰かを救う事が出来るのか?
救いたいと思い続けられるのか。
そして、月光の下で入り乱れながら戦う4人の姿は真理の中に眠る同窓会の記憶を呼び起こしていく。
「真理! 俺は……」
「……嫌、嫌! 嫌ぁぁぁ!!
巧の姿に恐怖を刺激された真理は森の中へと逃げ込んでいき、真理、啓太郎、そしてベルト、世界との繋がりを失いつつある巧の行く先は……! で、つづく。
今回も高カロリーでしたが、面白かったです。