(※サブタイトルは存在しない為、筆者が勝手につけています。あしからずご了承下さい)
◆第44話「世界中の洗濯物を」◆ (監督:石田秀範 脚本:井上敏樹)
ファイズの呼びかけに我に返った勇治はホースに戻って共闘し、バットは撤退。
そして前回ラストが繰り返され、啓太郎が結花をがばっと抱きしめた所でOPに入り、入り方のせいでなんだか事案発生みたいな事に。
「駄目……」
「駄目じゃない……」
おまわりさーーーーーん(おぃ)
「俺の夢知ってるよね。俺本気で思うんだ。人間もオルフェノクも、みんなが幸せになればいいって。だから、かければいいじゃない、迷惑ぐらい。かけてよ、迷惑」
二人は抱きしめあい、とうとう小娘にまで正面から敗北した挙げ句いちゃいちゃシーンまで見せつけられた冴子さんは、さすがに鋼のメンタルに限界が来つつあった。
「このままで済むと思うな……」
女は打たれる度に強くなる、が、小娘に打たれても屈辱なだけ……!
一方、勇治は巧に戦闘中の迷いについて吐露。
「人間を助ける為に戦うのが、ちょっと嫌になって……」
「本気かおまえ?! 本気でそんな」
「わからない俺には! 何が正しいのか?! 俺はこれからどうすればいいのか?!」
結花が見せた恐怖の表情から、人間に対する不信感を強めていく勇治。
「なに言ってんだよ?! おまえの理想はどうしたんだよ?! オルフェノクと人間の共存が……おまえの夢だろうが」
……だっけ?(え)
いやなんか、勇治がそれを理想として巧に語った記憶が無いのですが、会話の流れで出てきた話題を巧が大きく捉えすぎているのか、単に私が勇治の口にする「思っている」とか「信じている」を話半分だと考えているので、適当に聞き流していたのか。
「君に俺の気持ちは……! ……わからないのかもしれない」
「……どういうこったよ」
「君は、オルフェノクである事を自覚し、ずっと普通の人間として生きてきた。でも俺は、オルフェノクである事を受け入れて生きてきたんだ! ……だから感じ方が違うのかもしれない」
ここまでの積み重ねを元に、勇治が人を害するオルフェノクと戦うのは、人と共存できる“正しいオルフェノク”である為で、巧が人を害するオルフェノクと戦うのは、人間を守れる“正しい人間”である為、という二人の決定的な立場の違いが明示される、というのは非常に巧妙。
巧があくまで人間の倫理の中で生きようとしているのに対して、勇治はオルフェノクが生きていく為の倫理を見つけだそうとしており、だから勇治の中には、この問いかけが潜んでいる――“正しいオルフェノク”とは何か?
勇治は巧から預かっていたファイズギアを、まだ完全に踏ん切りのついていない巧に、真理経由であっさり返しているのですが、つまり勇治にとってファイズギアとは、真理達の前でも忌憚なく力を振るえる便利なツールではあるが、それ以上の意味を持たない。
澤田リタイアエピソードの際、それにしても何の劇的な場面もなく実にあっさり返却したなぁと少し引っかかっていたのですが、巧がファイズギアに見ている意味ほど勇治にとってファイズギアは重要ではないので、そもそも劇的になり得ない、というのはお見事。
じわじわと広がる齟齬が亀裂をはらむ中、結花が菊池家へ戻ったという連絡が入り、いい雰囲気になった啓太郎と結花を微笑ましく見つめる真理。帰ってきた2人は急にやたらとラブラブになっており、これはこれで凄く狂気で怖い。
その頃、沢村は「あんたが借りてきたオルフェノクに撃たれて怪我したから危険手当を要求する!」と南に食ってかかるも、
「相手はオルフェノクだからな。そういう事もあるだろう」
とあっさり流され、階級社会の厳しい現実を味わっていた。
啓太郎は巧に、結花がオルフェノクである事を知り、それでも結花が好きである事を告げる。
「大丈夫って……本気かおまえ」
「だって、たっくんはたっくんだし、結花さんは結花さんだし」
「啓太郎…………おまえすっげぇなぁ!!」
たっくん、喜びの抱擁……というかヘッドロックからコーナーポスト、じゃなかった、公園の樹に啓太郎の頭を打ちつけにいくのは、友情なのか、嫉妬による殺意なのか、司法の判断が待たれます。
結花は南の言った「人間に戻れる」という言葉を信じて勇治と海堂に警察への再出頭について相談するが、勇治は否定的な反応を見せ、海堂は結花の様子の変化に気付く。
「おめぇ……もしかして恋とかしてんじゃねぇの、普通の人間に」
「もしそうなら止めた方がいい。俺たちと普通の人間の間には、やっぱり深い溝があると思う。その溝を埋められるかどうかわからないし」
海堂は勇治の言葉にも首をひねり、久々に元芸術家らしい感性の鋭さを見せるのですが、なんだか色々と今更……。
「木場おまえ、なんか変わったな。昔のお前なら絶対そんな事言わなかったぞ」
「俺は……! ……俺たちを守りたいだけだ」
2人と別れ、何ものにもなれないままの自分に苛立つ海堂。
「変わっちまったな……木場も、結花も。ちゅうか変わってないのは俺だけかよ! どうすりゃいいんだよ俺は!」
蹴り飛ばした空き缶が道ばたに立っていた強面の男の後頭部を直撃し、一発殴られた海堂は路地裏で体育座り。ただの可哀想な人になっていますが、ここ数話の態度の悪さへの代償を、肉体的ダメージで支払った感じです(^^;
啓太郎からデートの誘いを受けるも勇治の言葉を思い出して悩む結花だが、真理の後押しでデートの約束をする事に。
一方、巧は草加に、人間とオルフェノクの共存は可能ではないかと、生ける実例として啓太郎を引き合いに出すが、どう考えてもあれは特例中の特例だろう、と否定されていた。
実際、啓太郎は希望の象徴というより、特例中の特例にしか見えないので、草加に反論しにくいのが困ったところ(^^;
この辺り、『555』は割と狭いサークルの話というか、「社会」と向き合う前に、自分の内面、そして社会の最小単位としての「家族」と向き合おう、という作りになっていて、巧達の形成する疑似家族がそのまま、外の社会のミクロなメタファーであるといえます。
その観点で見ると、“受け入れる者”の象徴である啓太郎と“弾き出そうとする者”の象徴である草加が対比関係にあり、割と強引に草加が同居している事になっている理由が、窺えます。
そしてここに来て、様々な理由があった末に、疑似家族の形成の失敗に直面するのが木場勇治(達)、であると。
こう考えると、4クール目に入って巧達が「人類」vs「オルフェノク」という渦に巻き込まれるのがやや性急に見えるのは、ここまでの『555』は従来作的な意味での“仮面ライダーになる前”の物語で、これから“仮面ライダーになった後”の物語をあと1年やれる構造なのだろうな、と。
「自分」を受け入れ「家族」を手に入れる事によって「社会」と向き合う基盤を作るまでが1年目で、“仮面ライダー”として社会に向かっていく中で人間とオルフェノクを巡る様々な外の問題にぶつかっていくのが2年目、みたいな。
「実際君だって今までオルフェノクと戦ってきた筈だ……人間としてな。矛盾してるんだよ、君は」
草加は無言になる巧の背後にぴたっとくっついて耳元で囁き……これは2017年現在言う所の、“闇の仕草”というやつか……ッ!(笑)
「早く君も現実を直視した方がいい。たぶん今頃、木場勇治は現実の厳しさを感じている筈だ。自分の甘さを後悔しながらな!」
「やめろ!」
発言内容と関係なく、純粋にその行為が嫌だ。
「……奴は、そんな弱い男じゃない」
「ふっ。まあいい、好きにするさ。俺と君もいずれ戦う時が来るだろう。その前に、俺は俺でやらなければならない事がある。俺自身の仇を取るために」
草加は児童園で働く三原の元を訪れると、北崎との決着に誘う。
「俺の……俺たちの仇を取る為に」
それとは別に鈴木少年の様子を窺っていた海堂は、児童園を飛び出した鈴木少年を目にして手を伸ばし、本日2件目の事案発生。
「行くか、俺と一緒に」
居場所を探す2人は手を繋いで歩き出す……が、不意に鈴木少年の影が伸び、怪しげな光が宿る。と、これまで露骨な伏線が張られてきた鈴木少年がいよいよ不穏に。
巧は1人で警察を訪れ、南から改めて話し合いの場を持ちたい、とかきくどかれる。
「信用してください。私は、あなたがたを、人間だと思っている。人間同士で、争う必要は無いのですから」
その言葉を勇治と結花に伝えるが、不信感を消せない勇治。
「もう一度、信じてみてもいいんじゃないのか? おまえの理想の為に。変わってほしくないんだよ、俺はおまえに」
巧の言葉に勇治が固い視線を向けるのですが、それは距離感なのか、巧が向けてる期待に対する違和感なのか。
ところがそこで3人は不穏な気配を感じ、南が用意したとおぼしき特殊部隊(SAT……?)の包囲攻撃を受ける事に。勇治と結花はオルフェノクになるも二丁拳銃のバットオルフェノクまで参戦。バットは馬と鶴を撃ったかと思いきや、振り返るとあっさりと特殊部隊を皆殺しにし、拳銃を捨てる余裕を見せるとファイズを加えた3対1で渡り合う。
バットオルフェノク、二丁拳銃アクションも、コウモリの意匠をテンガロンハットに見立てるデザインも格好いいし、どう見てもラッキークローバーよりも強いのですが……特上?
バットの攻撃で大ダメージを受けた鶴は促されて一人逃亡し、馬が殴られている間にブラスターを拾ってきたファイズは、ブラスターフォームを発動。背中から当てた照明によりオーラを放つかのように薄い光を纏ったファイズが無言で歩いていく姿が格好いいのですが、ブラスターフォームの登場もかれこれ4話ぶりで、10年遡ると近作とは全く作劇が変わるなぁと思わされます。
一方、北崎をバーで待ち受けて戦いを挑む草加と三原だが、二対一なら、北崎さんはまだ強かった。
「わかった? 無駄なんだよ。僕は世界一強いんだから」
傷ついた結花は啓太郎とのデートの待ち合わせ場所へ必死に向かうが、最悪のタイミングでそこに冴子が現れる。
「馬鹿な女。死になさい。今ここで」
更に悪い事に、警察の実験が効果を発揮したのか、結花はオルフェノクに変身できず……
場面は転じて、木に寄りかかりながら、結花は啓太郎へと最後のメールを打つ。
[私、幸せでした。啓太郎さんに出会えて。どうか、啓太郎さんの夢がかないますように。世界中の、洗濯物を真っ白にして、そして、世界中のみんなが、幸せに、なりますように]
果たしてそのメールは届いたのか届かなかったのか、大量の真っ白な羽が風に飛ばされて消え――……つづく。
全力で死にそうなオーラを放っていた結花の最期はもっと憎悪と錯誤がこんがらがって大量の禍根をばらまくような酷い事になるのかと思ったのですが、概ね実行犯はオルフェノクという、思ったよりもスッキリとした結末。……いや充分禍根になりそうですし特に啓太郎は非常に酷い事になっていますが。
実験の影響なのか(戦闘中にも変身が一時的に解除されたような描写あり)、それはあくまでイメージで単純なダメージの問題なのかは明確ではありませんが、呪いであったオルフェノクの力を失った為にエビに殺される事になったというのは皮肉ではあるものの、思えば事故死した結花はオルフェノクになる事で生きながらえていたわけでなので、その力を失う――失ってもいいと思った時、死を迎えるのは必定であったのか。
直接の描写が無い事と、すぐに灰になっていなかった事は演出であろうとは思いますが、実際にはエビが直接手を下していない、という解釈も成り立つ範囲かなとは思います。
基本的に冴子は、むっとしたから殺すレベルの残酷さの持ち主と捉えるべきでしょうが、結花に向けた「馬鹿な女」という言葉には、仮に結花が“人間として”生きていこうとした時、いずれ自分が犯した罪に耐えられなくなるであろう事に対する、1%ぐらいの憐憫は見てもいいのかな、と。
次回――社長ビックリ、草加危うし、そしていよいよ派手に散るのか南?! 死への秒読み段階かと思われた沢村が奇跡のマルセイユターン回避を見せましたが、このまま生き延びる事はできるのか?! 一息ついて油断した所で勇治あたりにざっくり殺されるとおいしいと思うんだよ沢村!!(おぃ)