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『ウルトラマンジード』感想・第17話

◆第17話「キングの奇跡!変えるぜ!運命!!」◆ (監督:坂本浩一 脚本:安達寛高
「ごめんなさい! 今日も……ちょっと、帰れないかも」
ベリアルに取り込まれたジード――朝倉リクの存在の消失が危ぶまれる中、ゼロに憑依された地球人――伊賀栗レイトの家庭の消失もまた、危ぶまれていた。
まあ娘のマユはリトルスターを通して思いっきり関わっていますし、出来た妻である所のルミナさんが色々と心得ていて最終的に丸く収まるのが予想されてそれはそれで一つのお約束で良いのですが……妻子ある一般人男性にもっと配慮を!
ベリアル出現という緊迫した状況下でネギの入った袋を押しつけられて娘と一緒に取り残されたルミナさんの、私の怒りが今爆発! という展開もそれはそれで見たいですけど。
Gメン先輩は取り押さえたゴドラ星人をぼっしゅーとし、星雲荘に戻ってきたライハは、脳裏に響く謎の声についてゼロに相談。
「その声は恐らく……ウルトラマンキングだ」
崩壊しかけた宇宙を繋ぎ止め、癒やす奇跡の存在……リクを救う一縷の望みを賭けてキングと交信を試みようとするライハは、ゼロに教えられたこの宇宙で最もキングの存在が色濃く残る場所――クライシスインパクトの爆心地へと自転車を走らせる。
一方、ベリアルの胎内イメージシーンでは、ベリアルがリクを抱きしめ、己の内側に引きずり込もうとしていた。
「孤独だっただろう……戻ってこい。父のところに。俺はおまえを一人にしない」
「僕を、受け入れてくれるの?」
「もちろんだ。俺たちは家族じゃないか」
初めは抵抗しながらも、父を名乗るベリアルの甘い囁きに、リクは少しずつ、自分の居場所を見失っていく。
ベリアルさんは、力を振るえればそれでいい! みたいなイメージだったのですが、名前に悪魔を冠しているのは伊達ではなく、割と囁き戦術。
「心の奥底では求めていた筈だ。本当の家族を。さあ、身を委ね、楽になれ」
星雲荘ではジードが徐々に融合していく経過がモニターされており、
「リクが、減っていくよー!」
が凄い台詞(笑)
20時間が経過し、嫌がらせの為に月へと飛んだゼロだが、ジードとの融合が進み力を増したベリアルの前に苦戦。赤黒い空に包まれたイメージ空間では、真紅の瞳のイビルジードから、「ちょっと声が宮野真守だからってスカして調子に乗ってんじゃねーよ!」と日頃の鬱憤をぶつけられる。
その頃、爆心地である病院に辿り着いたライハは、宇宙に遍在状態にあるキングの意志との接触に成功していた。実はその病院はライハが生まれた場所であり、かつて難産だったライハが母親の胎内で死の危機に瀕していた際、両親の祈りを受け取ったキングはライハの誕生を助けていた。その時からライハはキングと交感する素養を宿していたのである。
つまり鳥羽ライハとは、高次存在にアクセスする為のパスを持った、いわば“キングの巫女”であった事が明かされるのですが、正直唐突。
ライハが、初のリトルスター発症者であるとか、ウルトラカプセル開発の経緯やK先生の暗躍など、諸々の流れを文字情報で読むと何となく納得できる設定なのでしょうが、連続TVシリーズとしてすんなり腑に落ちるには、もっと明確な布石が必要であったように思います。
その上で最も拍子抜けだったのは、肝心のキングとの交信が、病院に入った途端に成立してしまう事。
クライマックスに合わせた方が格好いいという判断だったのでしょうが、ライハの剣舞は、リトルスター譲渡よりも、キングとの交信に用いた方が効果的だったのでは、と思います。
そうする事で、ライハにとってキングとの接触が<試練>になりえますし、ライハの武術家としての鍛錬――それによって育まれた集中力――が、巫女としての役割を果たす時に意味を持つ、という形で説得力の補強もできたので。
その<試練>の要素が抜けている(弱い)為に、お気に入りの女の子に頼まれたのでキングがサービスしたように見てしまい、この後の展開の劇的さを弱めてしまいました。
勿論、キングは元よりアンチベリアルな存在でしょうから、リク側に手を貸す理由はあるのでしょうが、それならばこそ、これまで手を貸せない状況にあったキングが手を貸すに至るくだりは、劇的な<試練>としての意味づけが必要であったように思えます。
ここが今回の扇の要で、それゆえに残念だった部分。
キングに助けを求めたライハは、キングの力によってジードの精神世界へと飛び込み、その名を呼ぶ。
「リク駄目! ベリアルに惑わされないで! あなたはリク、朝倉リク。思い出して!」
ライハを消し去ろうと放たれたベリアルの攻撃を防ぐ、キングの光。
「忘れないで! 仲間の事を! 地球の事を! あなたの夢を! あなたは……みんなのヒーローなんだから!」
そして朝倉リクは思い出す……幼い日のリクが握手会の片隅で泣いていた時、ドンシャインが声をかけてくれた事を。
「君の笑顔を取り戻す。Here we go」
自分の中のヒーローの原点を掴み直したリクは、自分が、何になりたかったのかを取り戻す。
――「具体的にはわかんないけど、誰かを元気にさせたり、楽しい気分にさせたり、そういう人になれたらいいのかな」
「リク……行きなさい! 運命をひっくり返すの!」
ジーッとしてても、ドーにもならねぇ!」
幼年期の孤独から、ヒーローという夢へ――かつての自分と同じ誰かを、元気づけ、笑顔にする為に、自ら動き出す事を決めた自分はもう道具ではないから、今、ウルトラマンジードは父の呪縛を打ち破る!
「遅いぞ……ウルトラマンジード」
「主役は遅れてくる。前にそう言ってましたよね?」
ヒーローとして一つ階段を上ったリクが、ヒーロー強度の高いゼロにやり返すというのは鮮やかに決まり、ベリアルドラゴンと取っ組み合ったジードは。必殺光線の反動で、ベリアルごと地球へ(笑)
ここから、怒濤のフォームチェンジ攻勢に今作では初となるボーカル曲を重ねた戦闘シーンとなり、逃げ惑っていた人々がいつしかジードの勇姿に足を止め、やがて声援が起こる、というのは坂本演出と安達脚本がようやく噛み合った感じで、素直に格好良かったです。
「リク……みんなの声が聞こえる?」
人々の祈りを受け、これまでで最高にキレのある戦いを見せるジードは、ベリアル光線をものともせず、ヒゲスラッガーへとチェンジ。
ウルトラの父か。ケンには恨みがある。容赦せん」
本名ネタが挟まれ、向かってきたベリアルドラゴンに対していきなりヤクザキックを入れる辺り、父さんの方でも何やら思うところがある模様。そしてライハの剣舞に合わせて、キングの力がジードへと託され、ベリアル×キングというトンデモな組み合わせで、フュージョンライズ。
「変えるぜ運命!」
その名を――ロイヤルメガマスター。
ジードは、マントをたなびかせて杖を掲げ、凄いモミアゲの新フォームとなり、ギャラリーからの「かっこいー」発言に言わされている感が漂いますが、これもキングの奇跡か。
「その姿は……馬鹿な。貴様、認められたというのか、キングに!」
モミアゲマスターは杖をひっくり返して剣として振るい、前作主人公が意図的っぽいものも含めて剣に振り回されている感じだったのに対して、鮮やかにキングの剣を使用。
ベリアルの強力な攻撃に対して、ウルトラ6兄弟カプセルを装填して6人まとめて召喚し、何に使うのかと思ったら……
盾だ。
視聴者がウルトラ縦社会の殺伐とした現実に戦慄している間に、戦闘は空中へ。
「俺をどれほど否定しようと、おまえはベリアルの息子。生きているかぎり、俺の名前からは逃れられん」
「逃げるつもりはない! この体が、あなたから作られたものでも、この魂は、僕のものだ!」
リクは凄く盛り上がっているのですが、こう持ってくるなら劇中でもっと、“魔王ベリアルの恐怖”を煽っておいた方が良かったような。今作序盤における、地球人類のベリアルと怪獣に関する曖昧な記憶、というのが、今作の謎の中心が、「世界」にあるのか「リク」にあるのかを不透明にしてフックのかけ違いを生んでいたのですが、ベリアルはもっとオープンに恐れられている存在、としておいた方が効果的な流れだった気がします。
この辺り第1話アバンの不出来などを考えると、当初やりたかった仕掛けがパイロット段階で不評で、急遽修正を迫られた、などあったのかもしれませんが。「リク」絡みの要素が中盤以降に巧く噛み合ってきたのに対して、「ベリアルと世界」という要素は今もってちぐはぐなまま前半に中途半端に謎解きしてそれで片付いた、みたいな事になっているので、どうも邪推してしまいます(^^;
まあ更にここから、片付いたと見せかけてもう一ひねり入れてくる予定なのかもしれませんが、とすると、あまりに作品の面白さと連動していない要素を延々と引っ張っている、という誉められない事になってしまいますし。
諸々、最初から明確にベリアルの恐怖とジードを結びつける演出をしていた方がスッキリしたかな、と(ベリアルに関する前提知識の有無で印象変わる所ではありましょうが、ほぼゼロの人間から見た感想です)。
「変えられるものか。運命を!」
「変えてみせる! 僕の運命は、僕が決める!」
激闘の末、モミアゲマスターの必殺光線ロイヤルエンドによりベリアルドラゴンは大爆発し、金色の粒子になって消滅。また3人の子供達のリトルスター(ジャック・エース・タロウ)が回収され、AIBは、ウルトラマンへの祈りがリトルスター譲渡の条件である事を把握する。
モミアゲマスターが圧倒的奇跡の暴力でベリアルを完封し、構造的には<試練>を乗り越えて賢者から<呪具の贈与>を受けて勝利を得る、という形なのですが、その<試練>の焦点がリクに合っていなかった為に、
「認められたというのか、キングに!」
というベリアルの言葉(これはつまり、「認められるだけの事をした」という事である)がしっくり来ず、このクライマックスバトルに、個人的にはあまりノれませんでした。
ライハに改めて重要な役割を与えるとともに、リクを支える仲間の力があってこそ<試練>を乗り越える事が出来たと強調したい意図だったのでしょうが、それならばリクの代わりに<試練>を請け負わせるべきライハが、なんの障害もなくキングと接触してしまう為、<呪具の贈与>をされる劇的な説得力が弱まってしまいました。構造的には、ライハになんらかの「選択」をさせるという<試練>を与えなくてはならなかったのですが、K先生絡みで複雑骨折した鳥羽ライハというキャラクターの背骨の脆さが出てしまった感。
この辺り、ライハへの好感度でも印象の変わる所でしょうが、恐らくモアのキャラクター強度なら<呪具の贈与>に説得力を持ち得る<試練>を与えてもそれを突破できただろうと思われ、今回も、これまで話の都合に振り回されがちだったライハに、更に都合のよい設定が付加された、という形になってしまったのは残念。
ライハというキャラクターを雑に扱おうとしているわけではないだけに、かえって歪つになってしまっているのが、とても苦しい。
なので正直、リクに正気を取り戻させるライハの言葉も、ライハならではの言葉になっておらず、悪い意味でのベタになってしまっています。
序盤からあちこちに埋めていた地雷が、終盤戦へ向けてのスプリングボードとなるエピソードで立て続けに爆発した感ですが、最終章手前とか、最終話そのもので爆発するよりはマシか(^^;
あと私が期待しすぎていた所もあるのでしょうが、満を持してのベリアル登場だっただけに、前回の登場といい今回の退場といい、もう一つハッタリが弱くて呆気なく感じてしまい、
ベリアルを倒す為にキングの力を得る
というよりも
キングの力を得る為にベリアルを出す
という前後編に見えてしまったのは物足りなかった部分。
リクの追い詰め方にしろ、敵の脅威と迫力にしろ、11−12話がよく出来すぎていた感はありますし、K先生という引き要素があるので一時退場だろうとはいえ、前作でいうならサンダーブレスター並のインパクトはベリアルに欲しかった所です。
何はともあれこのベリアルへの勝利により世論は大きくジード歓迎に偏り、星雲荘へと帰還したリクを囲んで催されるささやかな祝勝パーティ。その途中、ジードの名前の由来に食らいついてきたモアに対し、「ジーッとしててもドーにもならない」ではない、と慌てて否定するリク。
「違う違う。遺伝子のジーンと、運命のディスティニーの、組み合わせだから」
「綴りが一致しません」
レムの冷静な突っ込みに対し、リクは「GEED」+「DESTINY」のDEをEDにひっくり返したと主張。
「運命をひっくり返す、て事だよ。な、ライハ?」
「好きにすれば」
二人の間に甘酸っぱい気配が漂い出し、ジェラシーを燃やしたモアが割って入るのですが、まあむしろ、面と向かうと照れて誤魔化すというのはモアの得点です。
……というかこれ、由来をねじ曲げてでも本気でライハをナンパしていたとしたら、リク、凄く最低だぞ(笑)
ジード』のダブル(+アルファ)ヒロイン構造は、視聴者のお楽しみ要素として劇中では曖昧にしたまま終わっても特に構わないのですが、スポット回での押しが個別ルートばりに強いので、これ以上やると、ただ単にリク最っ低になりそうなのは、少々不安です(^^;
妻子持ち会社員男性からの心証が、ちょっと悪化した!
さて今回、古典的な英雄物語の構造においては、
〔胎内回帰 → 父との対決 → 死と復活 → 父(王)殺し→ 変貌した世界への帰還〕
までを詰め込んでおり、虐げられた幼年時代を過ごしてきた人間英雄が、暴君と化した半人半獣のかつての英雄を打ち破る事で、物語世界においては、リクの求めていた“公のヒーロー”としてのウルトラマンジードが成立しています。
途中のバトル演出も含め、神話の最終章とでもいうべき展開なのですが(ベリアルを倒した事で世界を再生産するエネルギーが解放され、宇宙が癒えてキングが復活していたら完全に最終回)、これをこのタイミングに持ってくる事で、この後どう調理してくるのか、というのは楽しみ。
ジードが“公のヒーロー”として認められたのは、持ち上げて落とす前振りにしか見えませんし!(笑)
モミアゲマスター発現のくだりに不満はあるものの、ヒーロー作品として好みの展開を坂本監督らしく正面から見せてくれたのは良かったですし、残り8話あまり、ある意味でやる事をやった『ジード』の、“この先”に改めて期待です。
そして、その重要な鍵を握るであろうK先生は今週もゴミ捨て場でひくひくしていたが、その背に宿る怪しげな光の正体は?! で、つづく。
次回――記憶を失ったK先生に近づく三面怪人ダダ(女性)って、何そのどう転んでも私が得しそうな展開?!