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『ウルトラマンジード』感想・第19話

◆第19話「奪われた星雲荘」◆ (監督:伊藤良一 脚本:勝冶京子)

ずっと昔、ぼくには静かな世界があった。
でも、ある日、街が炎に包まれた。
すべてを失ったぼくは、暗闇の中で気がついた。

レムが作ったという小説の朗読を聞きながら、印税生活に夢を膨らませるリクとペガだが、そこへ突然乗り込んでくる伏井出ケイ!
平穏な日常に衝撃の闖入者という開幕だったのですが、赤い警告灯と鳴り響くサイレン、エレベーターが開くといきなり姿を見せるK先生、という図が微妙にコントっぽくなってしまい、緩急がうまく切り替わらず。
よろめきながらも向かってくるK先生にライハが切りかかり、ここしばらく割と戦闘の見せ場があるライハですが、むしろ初期にもっとアクション面で目立たせておいた方が良かったような。リクとのバランスの問題もあったのでしょうが、前半、怪獣が出てくると働きようがないのでオペレーター(別に分析が得意なわけではない)、という位置づけにしてしまったのは、キャラクターの変遷を描くにあたって上手くなかったような気がします。
怪獣を斬って斬って斬りまくりたい! → K先生との対決を経て復讐から解き放たれる → 積極的にリクのサポートもするように
と見せた方が、ライハの成長曲線としてもわかりやすかったかな、と。
そういう意味では、ライハはリクと違って、最初から自分をわかりすぎているキャラクターなのでしょうが、今回の反応を見ても、第9話でキング粒子に諭された時点でK先生への復讐については整理がついてしまったようですが……うーん……まあもう、下手な地雷は踏まない方マシか(^^;
どうにもライハ、太極刀を振り回し怪獣を斬ろうとする少女、というコンセプトと、アクションで魅せられる女優さん、という組み合わせのキャッチーさに胡座を欠いてしまった感があり、キャラクターとしての造形の雑さ(都合の良さ)が残念。今回のエピソードを見ても「呪縛」から解き放たれる、というのが今作の主要なテーマの一つだけに、ライハのそれが丁寧さを欠く形で処理されてしまったのは可哀想なところです(この先で再浮上する可能性はありますが)。
ユートムを操るK先生のビーム攻撃を刀で弾くライハだが、レムは3人を基地から緊急避難させ、どこかの山の上へと放り出す。
「余計な事をしてくれたな……」
レムを睨み付けるも、苦しみ藻掻くK先生。
「……あいつはいつも私が大事にしているものを滅茶苦茶にする。私が全てを与えてやったというのに!!」
室内に散乱するドンシャイングッズがお気に召さないK先生……取りようによっては、お父さんからの誕生日プレゼントとして匿名で送った『ドンシャイン』のDVDがきちんと整理整頓されていない事に怒っているようにも聞こえますが、本当は新刊を出す度にサイン本をこっそり本棚に転送していたのに気付いてもらえなかった事に怒っています!
怒れる実験室の父はレムのプロテクトを強制解除するとそのデータを消去し、マイベッドを呼び出してその体を横たえる。
「これでようやく、体を癒やせる……」
前回の頬の傷は皮膚が剥落しているような描写であり、抜き打ち家庭訪問にアリエさんとはどうなったのだろうと思ったら、どうやらマイベッド&マイ枕でないと快眠できないタチだった模様。
その頃、山中に放り出されたリク達3人は、草原に倒れていた女性を発見。……ベッドに横たわるK先生からシーン切り替わったら、画面手前に倒れている女性、奥から走ってくる3人、というカットで、
こんな所にどうして女の人が?!
という驚きが全くなく、今回どうもここまで、カットの繋ぎがやたら雑(^^;
リクよりもむしろイケメン仕草に慣れたライハが女性を抱き起こすと、その女性は驚くべき事を口にする。
「レムです。伏井出ケイに消去されそうになり、緊急避難しました」
「え?! でも、その体……」
「この姿は、私の音声を元に、地球人的肉体を形成し、プログラムを移植したものです」
えええ?!
一応、総集編回ラストの呟きが伏線なのでしょうが、伏線があれば良いというものではないというか、そんなに簡単に作れていいのか、地球人的肉体(なお演じているのは、レムの声優を務める三森すずこ本人)。
まあそこは宇宙的科学で何とかなるという事でもいいのですが、最大の問題は、高度な人工頭脳的存在が人間の姿になるというシチュエーションは、偶発的に(望まず)手に入れてしまった肉体に戸惑うというのがポイントなのであって、実はこっそりボディ作っていましたというこのガッカリ感!
とまあ、伝わりにくい私の性癖はさておき、第1話以来の住所不定になってしまったリク達は、レムから管理権限を奪い取ったK先生の操るユートムから身を隠し、星雲荘を取り戻す事を固く誓うのだった――!
一方その頃、石狩アリエは商品の取材と称して、伊賀栗レイトの職場を訪れていた。
壁に貼られたポスターや、そういえば以前にスペインとビジネスメールのやり取りをしていた事を考え合わせると、どうやらレイトさんの会社は、海外の化粧品や洗剤などを輸入販売している模様。……まあ、あの頃と同じ会社に居るのか、解雇されて再就職したのかはわかりませんが(笑) 取材を受けるのでおめかししたのかもしれませんが、背広の色がいつもと違うのが気になります。
アリエがレイトをおだてて取り入っている頃、市街地を目指すリク一行では、レムが方向感覚の欠如や肉体の制御に難渋していた。
「今の私では、皆さんの役に立てませんね……」
「いいんだよ」
「え?」
「だって、レムは僕たちの仲間でしょ」
仲間として役に立てない事を気に病んでいるレムに、仲間なら役立たずでも構わないと励ますリクは何か間違っている気がするのですが、この辺りにリクの男としての限界を見る気がします(笑)
リクはもっと、名付けの父と交流の時間を増やして、レベルを上げよう、それも早急に。
なんとか4人は銀河マーケットに辿り着き、リクと連絡が付かずに店長に相談していたモア、またもリクの身近に増殖した妙齢の女性の姿に殺意の波動を昂ぶらせる。そして店長は、レムにアピールを開始。
「ずっと、ここに居ればいいのに! ね?」
「……この男は、なぜ私の事を監視しているのでしょうか」
苦笑するだけで一切フォローを入れないリクとライハ、割と酷い(笑)
その頃、K先生はマイベッドとマイ枕で完全回復して立ち上がり、その背に輝く妖しい光。
「力が…………あ・ふ・れ・るぅぅ! あっはっはっはーはっは!!」
高笑いするK先生はユートムを操り、銀河マーケットでカップラーメンをすすっているレムを発見。
「うまく逃げたものだな。……だが所詮、私の駒に、すぎない。あっはっはっは」
K先生の操作でユートムが何かの信号を打ち込むと、苦しんだレムは立ち上がり、追ってきたリクに対して態度を豹変させる。
ウルトラマンジード、おまえを消去する」
「ゲームはこれからだ」
更にK先生は、メカゴモラを召喚。
「エンドマークを打ってこい!!」
地球で作家生活をすること○○年、長年悩まされてきた腰痛と肩こりと偏頭痛が一遍に快復したK先生は、テンション高く、決め台詞もアレンジ。召喚されたメカゴモラは、黒のカラーリングと、獰猛な目つきが格好いい。
「リク……助けて……」
「レム!」
K先生のプログラムに抵抗するレムだったが、抗しきれずにリクの手を振り払い、その視線が冷たい機械の殺意を宿す。
ジーッしててもドーにもならない……でしょ?」
ここの言い方と表情は、凄く良かったです。
「最強の器に最高の頭脳! これが史上最強のメカゴモラだぁ!!」
レムはメカゴモラに吸収されてそのパイロットとなり、ついでに鼻炎と巻き爪も治ったのか、いつになくテンション高いK先生。
「レム! やめろ!」
「ひゃはははは! 自分の世界が壊れていくのはどんな気分だ?」
意趣返しで盛り上がるK先生は哄笑し、迫り来るメカゴモラを前にリクはやむをえずジードへ変身する。
「それでいいんだ。おまえも、おまえの大事なものも――全て消してやる。それがおまえの運命だ! アハハハハハハハ……」
ここでK先生が、リクに新たな運命を突きつける、あくまでリクを運命で縛ろうとする、というのは報復攻撃に物語のテーマと繋げた意味を乗せて、秀逸。
なお作戦としてはついでに、そこに転がっているドンシャインの円盤を全部割っておき、グッズには事細かに落書きしておくと、致命的な精神ダメージを与えられると思います!
……まあ逆に、新たなフォームに目覚める危険性もありますが。
メカゴモラジードが激突し、意味はよくわからないけどぶつかり合う度に手前で爆発が起きるのが盛り上がっている頃、美人ジャーナリスト×商品の取材、に舞い上がっていたレイトはゼロに呼びかけられる。
(おい。おいレイト! 行くぞ)
「今大事なところなんです!」
(怪獣が出たんだよ。そっちの方が大事だろ!)
「生活がかかってるんです! 僕には妻も子供もいるん――」
(このやろ!)
抵抗空しく強引に眼鏡を外されてしまうレイトだが……
「悪いが行かせてもらうぜ」
「素敵な眼鏡ですね」
「あん?」
キーアイテムの存在を知るアリエによって、ゼロ、強制再封印(笑)
「取材、まだ終わってませんよ?」
「……あ、……は、はぁ」
(はぁじゃないだろ! レイトぉ!!)
怪獣災害より仕事を優先し、美人ジャーナリストに若干鼻の下が伸び気味(劇中世界におけるアリエの一般的立ち位置として、このレイトさんのリアクションは重要)……というのは今作におけるヒーロー像としては問題ありですが、最近みんなレイトさんの家庭&社会生活に対してあまりに扱いが軽かったので、半クール分の反抗としてこれぐらいは許されると思います!
「おまえの戦いを全て見てきた頭脳が相手だ!!」
孤立無援(というかゼロが飛んできて話を聞かずに舎弟スペシャルでメカゴを完全破壊されてもそれはそれで大変困る)ジードは仲居スマッシャーとなり、仲居神拳を駆使してメカゴの動きを止めようとするも苦戦。
「そうだそうだそうだこの圧倒的な力こそ、私の希望……」
先生、それ、フラグ……。
「レム、一緒に星雲荘に帰ろう!」
リクの呼びかけにより再び懸命にKのプログラムに反抗するレムは、レムの中のレムと向かい合う……。
「あなたは……」
「私はレム」
「違う。私がレムよ」
「ふ、うふふふ」
「何がおかしいの」
「あなたもリクもただのコピー。代わりなんて幾らでも居るのに」
「リクは私のマスター」
「マスターはケイよ。……あなたの小説の続き、聞かせてあげましょうか」
「もうやめて」
ぼくは、暗闇の中で気がついた。自分の力で運命が変えられない事を。そして、闇の支配者に全てを委ねた。
「それは……私の」
「あなたが書いた小説だと思った? 全てはマスターから与えられたものよ、レム」
「名前で呼ばないで。それはリクがくれたもの」
「レム。ストルム語で呪縛。それがあなたよ」
レムはレムから絶望を突きつけられ、名前・与えられたもの・運命というリクが背負う重要なテーゼを、レムの物語に上手く変換して集約。またここで、レムの自立した個性の表現が、小説、という形を取っているのも今作らしいところです。
「何をしている? 命令どおり早くジードを消去しろ!」
「レム!」
外部ではカラータイマーを点滅させがらもジードが必死に食い下がり、レムもまた、自分の中で戦い続ける――。
「そろそろエンドマークにしない?」
「あの小説の続きは違う……ぼくは、暗闇の中で気がついた。独りじゃない事に。ぼくには仲間がいたから。そしてわかった。運命は変えられる――自分の力で。
リクの成長を、その仲間達の姿を見守り続けてきたレムが辿り着いた答、それは、人間の意志は、与えられた運命を、作られた宿命を、乗り越え塗り替えられるという事。自由なる意志さえあれば、誰もが、虚ろな人形である事から飛び立てる。
「ここは私たちの家。あなたのいるべき場所ではない」
自らの存在を自らに宿った意志で勝ち取り、星雲荘のコントールを取り戻したレムは、K先生に退去通告。ユートムの攻撃をスタイリッシュバリアで防ぐK先生の強制排出に成功する。
「リク、星雲荘を取り戻しました」
レムの無事を知り、メカゴの弱点を教えられたリクは、ロイヤルメガマスターにフュージョンライズ。カラータイマーが点滅している事を全く気にしない流派爺王不敗の圧倒的な力でメカゴを完封し、トドメはマン先輩の必殺剣で成敗…………エースは……?
今回も出たら完封のモミアゲマスターでしたが、「倒す」のではなく「抑える」為に、まずは“柔”のフォームである仲居スマッシャーを用いるというのは説得力がありましたし、ただの前座ではないという使い方は良かったです。他のフォームに比べると、もう一つ見せ場の印象が薄かった仲居スマッシャーの良い救済にもなりました。
星雲荘の占拠にもジードの抹殺にも失敗し、山の中に放り出されたK先生は、しかし何故か余裕の笑みを浮かべて立ち上がる。
「本当の悪夢は……これからだ」
そうとは知らず星雲荘に帰還したリク達は、まずは部屋の片付けを開始。リクに貰ったと思った名前も、実はケイによる刷り込み、運命の呪縛に過ぎないのか? と名前の由来を気にするレムに問われたリクは、ペガが楽しそうに笑う中、照れくさそうにお宝雑誌のページを広げてみせる。それは『ドンシャイン』のグラビア記事であり、特集されていたのは……
「ヒロインのレム」
予想の斜め上で酷かった!!!!
「駄目かな?」
駄目だよ!!!!!!!!
「……ヒロイン。悪くないですね」
予想外の好感触。
…………えー、秘密基地のマザーコンピューターに自分のバイブル的作品に登場するヒロインの名前を付けるって、前作の主人公並の重症だと思うのですが、第19話にして、リクが、遠い事象地平の彼方へ飛び立ってしまいました。
レムはずっと、真ヒロインは真ヒロインでも、不在の母的ポジションだと思っていたのですが、まさかの、
ドリーム彼女。
お父さん達は早急に3人で集まって緊急会議を開くべき。
ライハとモアも今すぐルミナさんに今後の事を相談すべき。
まずはゆっくり、転地療養から始めないと駄目なのではないか。
今年も押し迫ってから某ランキングに衝撃の大変動が起きたのはさておき、データベースのプロテクトが解除された事で、K先生が星雲荘でマイベッドとマイ枕を使ってストルム器官を修復していた事が判明。それはストルム星人が体内に持つ、エネルギーの位相を反転する器官であり、背中の光の正体、敵の攻撃エネルギーを無効化するスタイリッシュバリアの秘密、以前にベリアルが命じていたウルトラカプセルへの干渉の理屈、ともろもろの理由を説明。
どうしてそんな大事なマイベッドとマイ枕が星雲荘にしか無いのかは、簡単に製造できない×ここまでの事態に陥ると思っていなかった×星雲荘の基盤はストルム星人の円盤?の合わせ技といった辺りでしょうか。
「ストルム器官……」
そして絶好調になったK先生は、アリエと接触、密やかな微笑みを交わす。……遠雷の音が響く中、
「この時、誰も知らない所で、本当の悪夢は、静かに始まっていたんだ」
というリクのモノローグが今回は綺麗に決まって、つづく。
前半は演出面での引っかかりと、レムが肉体を得る経緯に不満があったのですが、リクの背負うテーマをレムを通して描いた後半は良かったですし、第1話の頃から言っていた、「真ヒロインは多分レム」が、確定したので満足です(笑)
ジード』は本当に、今作としてこのテーマを描きます、という芯が強く、それを明確に打ち出した第11−12話以降は、安定して好み。
まあその分、レムが肉体を求めた感情的部分の掘り下げは完全にオミットされており、各話の監督・脚本としては自由度がやや低いのかもしれませんが、『ジード』としてのテーマを自分なりにどう描くか、という点がハッキリしているという作りやすさはあるのかと思われ、後半入ってからのアベレージの高さに繋がっているのかなという気がします。
前作『オーブ』が一話完結性が強く、各話によってそれぞれのテーマ性が出たバラエティ重視のエピソード群を、“ガイとジャグラーの関係”という要素で統一感を持たせていたのとは、対照的な作り。
『オーブ』は結局、『ウルトラマンオーブ』として何を描きたいのか、という全体を貫くテーマ部分の弱さが短所のまま最終回を迎えてしまい(『オーブ』には『オーブ』の形式の長所もあるのですが、例えるならば、ある状況に対するリアクションが作品として最後まで一定できなかったのが『オーブ』)、そこが個人的には不満な着地へ繋がってしまったのですが、今作には是非このまま、できうればここから更に跳ねて、決着を迎えてほしいです。
……という所で次回は、オマージュ色の強い単発エピソード?