◆「これが本当のアンツィオ戦です!」◆
TV本編終了から約1年半後にリリースされた、第7話でスキップされた戦車道大会2回戦を描くOVA。
「きっと奴らは言っている。ノリと勢いだけはある。調子に乗ると手強い」
大洗女子学園で西住みほが自分の戦車道を見つけつつある頃、アンツィオ高校のキャプテンは意外と冷静に現実を分析していた。
「つまりこういう事だ。ノリと勢い以外は何もない。調子が出なけりゃ総崩れ」
「なんだと〜」「なめやがって」「言わせといていいんスか」「戦車でカチコミ行きましょう!」
そしてアンツィオの戦車兵達は、なんだかレディースノリだった。
「ノリと勢いは何も悪い意味だけじゃない。このノリと勢いを2回戦に持っていくぞ」
コツコツ倹約して購入した秘密兵器をキャプテンでが堂々お披露目しようとした所で昼休み開始の鐘が鳴り、勝手に解散していく部下達。
「……ま、自分の気持ちに素直な子が多いのが、この学校のいい所なんだけどなぁ」
こちらはこちらで、色々大変そうだった……から、あくまで幻のTV版エピソードという体裁なのか、TVと同じOPに。……まあ新OP作る分を倹約したのかもですが。
大洗ではあんこうチームと生徒会が対策会議中で、秋山優花里、潜入作戦再び。毎日がお祭りムードのアンツィオ高校に忍び込んだ優花里は、首尾良くアンツィオが新たに購入した重戦車の情報を入手する。
「P40をそりゃもう気も遠くなるくらい昔から貯金しまくって、あたしらの代でようやく買えたんだ!」
……そうまでして入手した秘密兵器が、試合前にスパイに筒抜け、てなんだかとても辛いですね……。
みほは歴女チームの下宿を訪れてP40のスペックデータを手に入れ、しばらく練習シーン。P40対策として歴女戦車の最大有効射程ギリギリの位置で的になりながら、平然とハッチから顔を出して弾丸の行方を見つめている西住隊長、怖い。
まあ西住流的には、1.5km先の戦車の砲塔の角度などから、あーこれは当たらないなぁ……と見切れるのでしょうが。
この他、イタリアのCV33が花器みたいで好きという華、風紀委員3人が生徒会長によって強制徴収される、自動車部がレストアした戦車に乗ることを約束、継続高校の前振り、猫耳さんがみほに話しかけようとするも失敗、など、今後の展開の後付け穴埋め色々。
……春先には、友達が居なくてひとりぼっちだったみほも、今では級友と語らいながら楽しげに廊下を歩くようになり、かつての自分と似たオーラの持ち主である猫耳さんの存在に気付きもしない、というのは人生は色々残酷。
試合前夜には、これもTV本編では公開されなかった武部さんちに突撃隣の晩ご飯となり、部屋の中にフィットネス的なマシーンがあって涙を禁じ得ません。
……なんか今回、辛い出来事が多くないですか?!
しかしそれでも朝は来る、パンツァー・フォー! という事で試合当日、試合前の挨拶にやってくるイタリアもといアンツィオ高校のキャプテンと副長。
「たのもーーー!」
「おお、ちょび子」
「ちょび子と呼ぶな、アンチョビ」
「で、なにしに来た、安西」
「アンチョビ!」
歴女のカエサルさん(たかちゃん)も小学校からの幼なじみであったアンツィオの副長(ひなちゃん)と再会シーンが描かれ、本名ネタが次々と突っ込まれてくるのですが、キャラクターは基本的に日本人、という設定に関するセルフお遊びみたいなものでしょうか。
試合が始まり、アンツィオは書き割りの戦車を置いて大洗を十字路に釘付け、機動力を活かして後方から強襲するマカロニ作戦を実行するが、知力に難のある戦車兵達が多すぎるデコイを置いてしまった事から作戦失敗。あんこう&生徒会vsP40&直衛、歴女vsアンツィオ副長、バレー部vs豆戦車、一年生vs豆戦車、という4局面の戦いがスピーディに同時進行。
アンツィオの主力戦車はバレー部戦車の火力でも倒せるが、小型で車体が軽い為に衝撃が緩和され、吹き飛んだと見えても乗員2人で立て直して戦線復帰してくる、という面白戦車。見ていてスケール感に困惑するほど小さい2人乗り戦車なのですが……えーとあれか……AT(『装甲騎兵ボトムズ』)みたいなものだと理解すればいいのか?
アンツィオ高校も比較的貧乏という事で、珍しく戦車のスペックでもそれほど負けない大洗女子は、みほの助言などもあって豆戦車を次々と撃破し、バレー部が大活躍。また、TV本編ではそれほど目立つ所の無かった1年生チームの車長も大活躍。
一方、くしくも装填手同士だった幼なじみ同士が激しい殴り合い(弾丸を装填する時に拳で押し込むのを、そう見せるように意図している感じ)をしている間に、みほは生徒会のフラッグ車を囮に、P40を誘き寄せる。
「いいか、見せつけてやれ。アンツィオは弱くない、じゃなかった、強いという事を! 目指せ、悲願のベスト4、じゃなかった、優勝だぁ!」
ノリと勢いでまんまとその誘いに乗り、生徒会チームを追い詰めたかと思ったドゥーチェだが、ジャーン!!
崖の上に西住流。
歴女チームと副長機は相討ち、応援に駆けつけた1両はバレー部に、もう1両は1年生チームに無惨にトドメを刺され、P40最後の抵抗として放った砲弾も虚しく的を外し、逆にあんこうチームの無慈悲な一撃で沈められて勝負あり。
…………あれ? 今回のルール、殲滅戦でしたっけ?
ラスト、崖の上からP40を無感情に見下ろして撃破する西住隊長が物凄く鬼畜ですが、まあみほ、質量共に戦力に劣る大洗女子だから攪乱と分断に頼ってフラッグ車撃破で一発逆転狙いの戦術になるだけで、敵に優る戦力があったら確実かつ堅実かつ冷酷にして、敵が奇策を練ってくる可能性を全て考慮した上でその策を封じる形で粘着質に圧殺をはかり、両手両足をもいで磨り潰した上で安心して最後に頭を撃つタイプだと思われるので、弱小校に居ないみほ@覚醒バージョンは恐らく、ラスボスよりも邪悪な策士ポジション。
ラスボス(お姉ちゃん)からきっと、「みほ……ちょっと、その、やりすぎじゃないか?」とか引かれる。
まあ考えてみると、各自が大活躍の末に図らずもこれだけ完勝してしまったから、次のプラウダ戦で前のめりになってしまったというわけで、穴埋めとしては必然的なアンツィオ殲滅であったのか。
試合終了後、アンツィオの流儀として、敵味方、選手も裏方もない食事会が開催。
「凄い物量と、機動力……」
「我が校は食事の為なら、どんな労も惜しまない。……この、この子達のやる気がもう少し試合に活かせるといいんだけどなぁ」
ノせられると戦車の上でポーズとか取ってしまいますが、アンチョビさん、意外と苦労人キャラ。なるほど今作のライバル高校のキャラクターが、個々では短い出番ながらそれぞれ特徴付けられた上で好感を持ちやすい造形になっているのは、特にキャプテンに関していうと、その学校なりのキャプテンシーが描かれているからなのだな、と今更ながら納得。
そう思うとTV版において、「私らをここまで連れてきてくれて、ありがとね」「だからみんな、西住殿について行けるんです。そして私たちは、ここまで来れたんです!」という点が強調されていたのも、また一つ納得ができます。
「ま、それはおいおいやるとして、せーの!」
「「「いただきまーす!!」」」
和気藹々と食事会が行われ、お互いの健闘を称えるたかちゃんとひなちゃん。
「来年もやろう、たかちゃん」
「うん。――たかちゃんじゃないよ」
「え?」
「私はカエサルだ!」
「……そうね。じゃ、私はカルパッチョで」
戦車道は、人の心の中の変なスイッチを入れるなぁ……!
映像がアンツィ高校バージョンのEDテーマの後、おまけのエピローグにて、TV本編の決勝戦でアンツィオ高校が激励に登場しなかったのは、満を持しての前日入りから宴会に突入して眠りこけ、決勝戦を丸ごと見逃していた為、と真相が明かされてFINE(笑)
TV本編のミッシングリンクを後付けで埋めるという性質もあり、そこまで面白くもなかったのですが、タイミング的には劇場版の前振りという位置づけであったのでしょうか。この辺り、後からDVDレンタルで一気見をしているので、リアルタイム当時のファンの温度差とは、どうしても感覚が違うとは思いますが。本編ラストで集約されるテーマを入れるわけにもいかないので、プロセスとしての2回戦突破にならざるを得ない事を考えると、ボーナストラックとしては行き届いた内容でした。オチはフォローとしても納得で好き。
次は劇場版。