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『ガールズ&パンツァー:劇場版』感想(後編)

 大洗女子8両+黒森峰4両+サンダース3両+プラウダ4両+聖グロ3両+アンツィオ1両+継続1両+知波単6両、計30両の混成大洗女子学園チームが結成され、大洗女子学園の廃校回避を賭けて今、島田愛里寿率いる大学強化チームとの殲滅戦が始まる!
 の前に、各校主要メンバーが一堂に会してのブリーフィングが行われ、大隊長みほは部隊を、
 〔たんぽぽ/中隊長:みほ 副隊長:ダージリン
 〔あさがお/中隊長:ケイ 副隊長:西〕
 〔ひまわり/中隊長:まほ 副隊長:カチューシャ〕
 の3つに編成。
 「作戦はどうする?」
 英「行進間射撃しかないんじゃないかしら。常に動き続けて、打ち続けるのよ」
 独「楔を打ち込み浸透突破で行くべきよ!」
 米「優勢火力ドクトリンじゃない? 1両に対して10両で攻撃ね」
 ちょっと待てアメリカ。
 ソ「二重包囲がいいわ! それで冬まで待って冬将軍を味方につけましょ! 殲滅戦は制限時間ないんだし!」
 ちょっと待てソ連
 日「わたくし様々な可能性を鑑みましたが、ここは突撃するしかないかと」
 伊「とりあえずパスタを茹でてから考えていいか?」
 おいイタリア。
 それぞれのお国柄もとい校風を出したミリタリー版エスニックジョークで、詳しくはわからないなりに、「冬将軍」は面白かったです。うん、強いですよね、冬将軍……。
 ところで、他キャラとの差別化もあるのでしょうが、OVAに比べてドゥーチェの知力が下がっている気がするのですが、これは部下の面倒を見る事から解放された、素に近いドゥーチェという事なのでしょうか。
 作戦は結局、みほの提案した3方向からの連携重視の攻勢展開という事に。
 英「で、ここからが肝心なんだけど……作戦名はどうする?」
 伊「3方向から攻めるのだから、3種のチーズピザ作戦!」
 ソ「ビーフストロガノフ作戦がいいわ! タマネギと牛肉とサワークリームの取り合わせは最高よ!」
 英「フィッシュ&チップス&ビネガー作戦と名付けましょう?」
 独「グリューワインとアイスワイン作戦!」
 米「フライドチキンステーキwithグレービーソース作戦!」
 「あんこうほしいも$☆+%◇作戦」
 「会長までノらないで下さい!」
 日「間をとって、スキヤキ作戦はどうですか?」
 「好きな食べ物と作戦は関係ないだろう」
 いい加減、お姉ちゃんぶったぎる。
 「じゃあ、何がいいのよ?」
 「……ニュルンベルグマイスタージンガー作戦はどうだ。これは三幕からなるオペラで……」
 「長い!」
 割と天然な事を言い出すお姉ちゃんでも怒鳴りつけられる生徒会広報、信仰対象が一直線な分、時に強い。
 「大隊長、決めてくれ」
 「……じゃあ、こっつん作戦で」
 そして大隊長のネーミングセンスは、相変わらずであった。
 「何それ、迫力ないわね」
 「それで行こう」
 「え?」
 お姉ちゃんがみほに賛同し、ショックを受けるエリカ(笑) 直後の陣幕内部を映すカットでも、一人だけ俯いて黄昏れていて、ちょっぴり可哀想な扱いです。
 「こっつん作戦、開始します。パンツァー・フォー!」
 何はともあれ、全軍を3つに分けた作戦がスタートし、左翼の独ソ(よく考えると凄い組み合わせ)もといひまわり部隊は罠や孤立の危険を冒しても高地を取りに行くかどうかの選択を迫られる。
 「あなた、なんだかんだいって妹のこと信じてないのね。ノンナなんてどれだけ私のこと信じてるか! 私が雪を黒いと言えば、ノンナも黒いって言うくらいよ。ね!」
 「はい」
 「信じるのと崇拝するのは違う」
 煽られても動じないまほだったが、長期戦を嫌い、結局は高地へ進軍する事に。
 「さあ行くわよ! 203高地よ!」
 「おお、203高地ですか!」
 「プラウダはどんな戦いか知っているのか……?」
 「負ける気か?」
 カリスマ性とはともかく作戦能力に若干不安の付きまとうカチューシャですが、1人でどんどん話を面白くしてくれるので、貴重な戦力ですね。
 一方、大学チームも愛里寿を大隊長に3人の部隊長が軍団を率いており、その最前線が右翼を進む知波単、中央の聖グロと接触ダージリンさんは砲弾が飛んできたら戦車内に体を引っ込める事が判明し、西住流はもしかして、睡眠学習装置で幼少期から砲弾に対する恐怖心を取り除いているのではないかという気がしてきましたが、滅多に当たらないので大丈夫です!
 本日も軽快に突撃した知波単2両が最初の犠牲者となり、右翼を破られる大洗連合軍。敵の攻勢に耐えながら高地からの支援砲撃を待つが、有利な位置を取った筈の左翼ひまわり部隊に、突如、高空から謎の超巨大砲弾が突き刺さる!
 これにより黒森峰2両が戦線を離脱し、正体不明の砲撃と前方からの敵部隊に囲まれたひまわり部隊は、強引に前進して、敵の追撃を受けながら中央たんぽぽとの合流を目指す撤退戦に。経験と技量に優れる大学チームは的確な追撃でプラウダ重戦車を追い詰め、カチューシャを守る為に殿に踏みとどまったクラーラ、あえなくリタイア。
 「プラウダのために!」
 雨の中の撤退戦に字幕が重なっていると凄く戦争映画っぽいのですが、それがやりたかったの?!
 「街道上の怪物をなめんなよー!」
 続けてキワモノ戦車もカチューシャの盾になる事を選択し、更にノンナ機もそれに加わる。
 「まずい。カチューシャ、逃げて下さい」
 「逃げるなんて隊長じゃないわ!」
 「お願いです」
 「来ちゃダメよ。ノンナまで失うわけにはいかないわ!」
 「あなたはこの試合に必要な方です。あなたはウラル山脈より高い理想と、バイカル湖のように深い思慮を秘めている。ですから早く、撤退を!」
 敵2両を撃破するもノンナ機も撃破され、ノンナさん、強キャラすぎて早めリタイア(それもあってエキシビションでの活躍か)。
 「……撤退……するわよ!」
 屈辱と涙を呑んでカチューシャは後退し、プラウダ勢は緒戦にしてカチューシャ機を残して壊滅してしまう。大学右翼はそれ以上の追撃をせず、大洗右翼では体制を立て直し中のサンダース勢が、謎の砲撃の正体に気付いていた。
 「恐らく……アレです」
 「アレ? まさか!」
 「なんでわかるの?」「また盗聴?」「アリサさんて彼氏の事も盗聴しそうだよね」「束縛しすぎ?」「それでタカシにフられたんだー」
 「告白もしてないのにフられるわけないじゃない! ていうか、なんで知ってるのよ」 
 「アリサさん、元気、出して下さいね!」「独りは楽しいですよ!」「ファイト!」「ドンマイ!」「戦車が恋人でいいじゃないですかー」
 TV版のインチキまがいを掘り返された上に恋愛の傷に塩水をかけられるアリサですが、絡むのが1年生チームだと必要以上に厭味にならないのがまた計算されています。
 中央のたんぽぽ部隊でも謎の巨大砲弾の発射音と着弾音などから優花里がその正体に推測をめぐらし…………戦車兵的に普通のスキルなのか、秋山さんが特殊なのか解釈に悩む所です(^^;
 「どんぐり小隊、全速前進ー!」
 みほはその確認の為に、生徒会、バレー部、アンチョビ、継続、の足の速い戦車部隊を臨時編成し、豆戦車軍団は敵正面部隊の陽動と見せかけて敵陣を回り込むと――全高約5m、全長約11mの偉容を誇る、カール自走臼砲を発見。その主砲、イタリア豆戦車の8ミリ機銃の75倍にあたる、600ミリ。
 露骨にレイドボスというか怪獣が出てきて盛り上がります(笑)
 敵は巨大自走砲と護衛の3両。火力に心ともないどんぐり小隊だが、バレー部がこの劣勢を覆す殺人レシーブ作戦を発案。
 「継続ちゃーん、聞いてたー? ちょっと手伝ってほしいんだけど」
 「この作戦に意味があるとは思えない」
 「じゃあ、従わないの?」
 「しかし彼女たちの判断を信じよう」
 カンテラつま弾く音色とともに、眠れるムーミンの牙が今光る!
 「行くぞ」
 そのスピードを活かして敵陣まっしぐらに切り込んだ継続タンクは、奇襲攻撃で瞬く間に1両を撃破すると、他2両を引きつける事に成功し、その間に線路上を走って(エンジンがついていて一応自走できるものの現実的な数字ではないので、基本的に鉄道で運ぶものだそうで)カール自走臼砲に肉薄する残り3両。
 「しまった!」
 「大丈夫! 木っ葉微塵にしてやるわ!」
 「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ! こっち見てるぞーーー!!」
 バレー部戦車の後部に乗っかったイタリア豆戦車に600ミリの砲塔が向けられ、至近距離からの水平射撃であやうくグッチャグチャのミンチになりかけるドゥーチェ一行(今回の死ぬ寸前案件その4)、なんとか回避。
 大学チームの人達も、さすがにちょっとテンション上がりすぎたと思います!
 「これは人生にとって必要な戦いなの?」
 「恐らくね」
 継続戦車は小回りの差で護衛戦車を更に1両リタイアに追い込むも、敵の体当たりをうけて履帯破損で行動不能、敢えなくリタイア……と思われたが、ステアリングを差し込んで、掟破りの走行再開。
 「なに? 履帯無しなのに?!」
 「天下のクリスティー式、なめんなよーーー!!」
 劇場版の感想をまとめるに辺り、結局色々とネットで調べてしまっているのですが、装軌と装輪と二つの走行システムを持っており、履帯を外しても操縦桿をステアリングハンドルを取り付ける事で高速走行できるそうで、格好良くハンドルを差し込むシーンにも意味があったのだな、と成る程納得。戦車道通信にプラウダがこの戦車に抗議、みたいな見出しがあったのは、この戦車(BT−42。厳密なカテゴリ的には自走砲突撃砲)だそうで)がもともと、鹵獲したソ連の戦車をベースにしている事からのネタのようですが、いや細かい細かい。……この辺り、ネットを軽く読みかじっただけなので浅いのは承知の上ですが、後々の自分のフックになる可能性も含めて、メモ的に。
 そういえば、「イタリア豆戦車」は見た目から適当に呼んでいたのですが、実際「豆戦車」というカテゴリだそうで、ちょっとビックリ(笑)
 橋の上ではバレー部戦車が急制動をかけ、車体後ろに乗せていた豆戦車をカール目がけて投げ飛ばす(中の人……)が、豆戦車の8ミリ機銃はまるで通用せず、おまけに戦車はカールの遙か手前で裏返しに落下してしまう(中の人……)大ピンチ。
 「みんな! おいらに力をくれー!」
 「ドゥーチェ! ドゥーチェ!」
 「キタキタキター! みんなの応援が、おいらのパワーになったぜ! ありがとよ。おまえらまとめてやってやらぁ!」
 ノリと勢いとパスタがあれば、ドゥーチェは不死身だ!(多分)
 最後はひっくり返った豆戦車をカタパルト代わりにして生徒会チームが大ジャンプし、至近距離からの一撃必殺でカールを撃破するという、戦車飛び交う空中戦の末の大金星。下では継続戦車が片輪走行というアクロバットから護衛最後の1両を沈めるも、行動不能となって遂にリタイア。
 「皆さんの健闘を祈ります」
 如何にも影の実力者ポジションな継続高校の如何にもな見せ場でしたが、冒頭から強調されてきたスナフキンもといミカの演奏に合わせ、非力などんぐり小隊が敵の巨大兵器に立ち向かう、というシチュエーションがスピーディに展開し、vs大学チーム前半の山場として、見事に機能。
 中心となる見せ場をたっぷり与えた上で、継続高校をここで潔く退場させたという判断も良かったと思います。
 かくして大学チームの巨大兵器を撃破する大洗連合だが、プラウダ3両、黒森峰2両、知波単2両、継続1両、の計8両を失い、残る戦力は22両vs24両、とここで一旦、彼我の状況を整理。
 「定石通りやりすぎたな。らしくもない。みほの戦いをすればいいんだ」
 「ここからの作戦は、大隊長?」
 「局地戦に持ち込んで、個々の特徴を生かして、チームワークで戦いましょう」
 「急増チームでチームワーク〜?」
 「急増でもチームはチームだ」
 またいらぬ混ぜっ返しを入れてお姉ちゃんにバッサリやられるエリカさんですが、これ全部、この後の布石になっているので、頑張れエリカ。
 状況そして編成を立て直した大洗連合は、平野部から大きく後退し、知波単学園はレベルがあがった! 知波単学園は「てんしん」を覚えた!
 そして、みほが選んだ決戦の地は――廃棄された遊園地。


 今から5年前、東京湾埋め立て地に作られたテーマ・パーク。開園から2年で経営不振に陥り閉鎖を余儀なくされてね……その跡地は、全国の遊園地で廃棄された遊具を集めた、ゴミ処理施設になっちまった……今じゃこう呼ばれているよ……東京ドリームセメタリー(夢の墓場)ってね!
 「俺たちにふさわしい場所だと思わないか? J」
 「俺たちに似合うのは地獄だけだぜ。リック」
 ここはドリームセメタリー。すべての夢が朽ち果てる場所。足下に転がるのは昨日の子供達が捨てた夢の骸。二度と動かない観覧車を吹き抜ける風は、泣き声に似ているという。ここはドリームセメタリー。今はただ冷たい雨が降りしきる……
(『JESUS』(原作:七月鏡一/作画:藤原芳秀))
 「面白い戦いになりそうね」
 「お言葉ですが、データの上では、厳しい戦いになりそうです」
 「覚悟の上じゃないですか」
 「運命は浮気者。不利な方が負けるとは限らないわ。ね、隊長?」
 「はい。私たちは、私たちにできる戦いをしましょう」
 部下を失い落ち込むカチューシャに声をかけたり、ダージリンはいちいちおいしい役が回ってきますが、この映画の35%は、ダージリンとお姉ちゃんの為に出来ている感じ(笑)
 かくしてドリームセメタリーに立てこもった大洗連合は、イタリア豆戦車がジェットコースターのレールの上に乗って高所から偵察役を務め、迫り来る大学強化チームを相手に迎撃態勢を整える。だが一枚上手の大学チームは煙幕を用いた陽動で戦力を分散させ足止めすると、回り込んだ東通用門に本命のT−28重戦車を突入させ、砲撃をものともせずに直進するT−28を戦闘に、東通用門を突破して園内へと侵入。
 敵陽動部隊は、お姉ちゃんに仕事を任されて一瞬でゲージがMAXになったエリカが先陣を切って撃破し、ウラル山脈バイカル湖なカチューシャも仕事をして、殲滅。もう一つの門では、ボートの下などに隠れ潜んで水中で待機していた知波単学園が、不意打ちで1両の撃破に成功。
 知波単学園はレベルがあがった! 知波単学園は「こうたいてきぜんしん!」を覚えた!
 以後、知波単部隊は擬装用の巨大なアヒルの風船をかぶったまま戦場を駆け巡る事になり、突撃あるのみから自分たちに出来る戦い方を身につけていくまでの成長が凝縮されつつ、コメディリリーフとしての立場は堅持。
 園内に侵入した大学チームに対して、分断を避けつつ後退して合流を目指す大洗連合だったが、それを見切った愛里寿は的確な指示で逆に包囲網を完成させてしまう。絶体絶命のその時、主力からはぐれて園内を彷徨っていた1年生チームが巨大観覧車の支柱を破壊する事を思いつき、豪快に坂道を転がり落ちる観覧車。
 狙い通りに巨大観覧車は敵包囲網を問答無用の物理で切り裂き、皆揃って、今回の死ぬ寸前案件その5。
 遊園地もののある種定番を持ち込むと共に良い感じに緩急の緩となり、あくまで戦車を引き金にしながら天変地異クラスの力をもって盤面を盛大にひっくり返してリセットしつつ、的確に砲弾を直撃させて観覧車の方向を変えるアメリカのヒットマン・ナオミの見せ場まで盛り込んでいるのが秀逸。そして絵的に、アヒル戦車がおいしい。
 観覧車先輩、獅子奮迅の大車輪により流れが変わり、イタリア豆戦車をGPS役に各エリアに散らばって、ここから個別の攻勢ターンが開始。直接戦闘には参加しないながら、俯瞰で戦場を見渡して欠かせない役割、というアンツィオはおいしいポジションです。
 それぞれ成り行きで小隊を組む事になるのですが、カチューシャと自動車部・猫耳チームが絡むのは、自動車部の一人の声がカチューシャ役の金元寿子猫耳チームの一人の声がノンナ役の上坂すみれ、という複雑な中の人ネタなのか。余談ですが今作のEDクレジット、複数の役を演じている声優も、省略されずにキャラごとに名前が出ているのは良いなと思いました。
 隠れ身作戦、西部劇演出、迷路での戦闘、と様々な趣向を持ち込んで遊園地という舞台設定を活かしたアトラクション的展開が挟まり、基本、後半1時間ずっとドンパチしているという凄い構成なのですが、手を変え品を変え飽きさせないですし、TV版の資産を生かしつつ、戦車バトルの魅力とキャラクターの魅力を接続しているのは実にお見事。
 また、国際色を表現したBGMの良さも花を添えています(ある意味で、劇場版の初見時に一番驚いたのは、音楽の出来の良さ)。
 それにしても、前半は防衛ラインを統制し、ここでは性格に難のあるカチューシャを上手く転がしつつ、物凄いターンから砲撃を決める自動車部、やたらめったら有能。猫耳チームも筋肉の力で大学1両を撃破し、やはり、筋肉は真理に近づく手段です。
 その頃……
 「あっちのチームはあんたね。どれだけボコボコになっても立ち向かってくる。決して強くはないのに諦めない」
 島田愛里寿はボコのぬいぐるみに語りかけ、大学チームの部隊長3人は、思い通りにならない戦況に焦りを見せていた。
 「まさかここまで高校生がやるとは」
 「こざかしいったらありゃしない!」
 「どうする?」
 「ここで隊長に泣きつくなんて」
 「でも、自分たちのメンツばかり言ってたら――」
 『やってやる やってやる やーってやるぜ』
 「「「?!」」」
 その時、通信越しに響いてくる歌声とともに、外で待機していた愛里寿搭乗のセンチュリオンが進軍を開始。
 「隊長が歌い出した」
 「という事は」
 「中隊前進!」
 いーやなあいつをボコボコにー 喧嘩は売るもの 堂々とー
 てってれーてー てってれーてー てってれーてーてれててー
 とうとう、「ボコのテーマ」=「ワルキューレの騎行になってしまい、士気上がるのか後方からの恐怖に駆り立てられているのか島田流人掌握術の全貌が気になる所ですが、T−28重戦車が装甲の一部をパージして狭い門を強行突破。得意の隠密戦術で2両を沈めていた歴女チームは偽装を見破られて撃破され、多彩な攪乱戦術で大健闘していたバレー部&知波単のアヒル小隊も、Zガンダムもとい愛里寿のセンチュリオンの前に無慈悲に壊滅。
 ……その一方、
 「データによりますと、ウィークポイントはここです」
 「優雅な勝ち方には、ほど遠いですね」
 「今回はみほさんを助けに来たのよ。私たちの勝利じゃない。17ポンド砲さん、準備はどう?」
 「とっくに出来てる。行くぞ」
 「どうぞ」
 車体を斜めにして橋下に潜んだダージリン機が、ナオミ機との連携により、崩れた橋の下からT−28の無防備な土手っ腹に零距離射撃を行う事で、敵軍の楔として猛威を振るう重戦車を撃破。
 「成功ね。アッサムのデータ主義も、たまにはいいものね」
 「ですがデータによりますと、この後の生還率が……」
 「みほさん頑張って……戦いは、最後の5分間にあるのよ」
 が、身動き取れない所を両側から攻撃を受け、ダージリン機リタイア。
 『ガールズ&パンツァー』という作品は、TV版において、部活(スポーツ)ものの普遍的な命題である“勝ち負けと楽しさのどちらが大事か”について、「勝利偏重主義」に耐えられずに背を向けたみほが大洗で「楽しさ」を見つけ、しかし負ける事のできない「守るための戦い」を経て、チーム全体が「勝利よりも大切なものの為に勝利する」という所に至る、というテーマをしっかり描いています。その為、この劇場版はその命題は避けて“絶対に負けられない戦いがある”というシチュエーション優先の作りになっているのですが、そこで映画全体としては“前座”として置かれたのが、勝ち負けに決定的な意味はないけれど、誇りと技量をかけて勝利を目指す舞台であるエキシビションマッチであった事が、意味を持って機能。
 その上で、どちらかといえば勝利を手に勝ち誇るのが好きに見えるカチューシャ(なぜコンビがプラウダだったかに、対比が鮮やかという要素もあったのかなと)に対して、TV版では準決勝敗退に関して「勝敗は兵家の常」、劇場版ではエキシビションの勝利について「勝負は時の運」、と少なくとも表向きはこだわりの薄さを見せて描かれていたのがダージリンであり、そのモットーは「如何なる時も優雅。それが聖グロリアーナの戦車道よ」というものになります。
 いうなればダージリンは今作においてこれまで、(表向きは)「勝利よりも美学」という立ち位置のキャラクターだったのですが、そのダージリンが「美学」(優雅さ)を捨てて、「勝利」の為の捨て石になる事を選ぶ。
 ――何故ならば「今回はみほさんを助けに来たのよ。私たちの勝利じゃない」からであり、つまりそれこそがダージリン(聖グロリアーナ)にとっての、「勝利よりも大切なものの為に勝利する」事である、と美しく集約。
 自らを「西住流そのもの」と評するまほもまた、今回の戦いでは“西住みほの剣”である事に徹しており、この戦いに力を貸す人々は大なり小なり「勝利よりも大切なものの為の勝利」を目指して集ったといえ、それはすなわち、みほが戦車道を通して勝利以外に手に入れたもの、広がった世界そのものであり、敗者の元に勝者が集うという物語的都合と、今シリーズのキーワードである「道」という言葉もまた、美しく接続。
 つまり……
 「おまえ達の旅は無駄ではなかった。」
 というのがTV版の優勝をふいにした文科省へ叩きつけられ、今作における「戦車道」「勝利の意味」を結実。
 かくしてこの一撃は人気キャラが大物を撃破する見せ場、という以上の意味を持った一つの象徴、後半戦の大きな区切りとなり、ここから戦いは残り15分、クライマックスフェーズへ移行。
 大学3連星はセンチュリオンとの合流を目指して集合し、ジェットストリームアタックで瞬く間にサンダース3両を撃破。
 身の丈にあった戦い方を探していた1年生チームは、敵に発見されてレール上を逃げ回っていたアンチョビ機を長距離射撃で救うが、黙示録の使者センチュリオンの一撃でリタイア。
 続けて生徒会と猫耳チームも、地獄の番犬センチュリオンによってさくっとリタイア。
 若干忘れられていたローズヒップ機は、リミッター解除の高速ダッシュから横っ飛びの砲撃で敵1両撃破もそのまま壁に突っ込んで行動不能となり、芸風を確立してリタイア。
 ジェットコースターから降りたイタリア豆戦車は、石切り(水切り)の要領で水面を跳ねるというまたまたトンデモアクションを見せ、風紀委員チームとの連携で敵1両を撃破するも、連邦の白い悪魔センチュリオンによって撃破され、風紀委員チームも当然瞬殺。
 大学3連星とセンチュリオンとの合流を阻もうと生き残りの集まったカチューシャ小隊4両がサイドから突撃をするが、これも回避され、すれ違いざまに1両がリタイア。……この1両がどこの誰だかわからず、リタイア車輌を確認していったら、どうやら聖グロの名も無き戦車のようなのですが、巻き戻って集結シーンを確認したら、確かに聖グロから3両来ていました。EDの絵などを見るに、バレー部の時間差攻撃の被害者の人か。クレジットにそれらしい名前もありました。
 「エンジン規定はあるけど、モーターはないもんねー!」
 引きはがされそうになった残り3両だが、禁断のターボスイッチを入れた自動車部の後方にピタリとくっつくスリップストリーム走法(ここで、エリカがスリップストリームを知らず、カチューシャが知っているのがちょっと面白い)で大学3連星に肉薄すると、体当たり気味の攻撃でエリカ機が1両を撃破。一矢を報いるもカチューシャ機と共に撃破され、自動車部もエンジンバーストでリタイア。
 この辺りになると、尺その他色々限界があったのか、一見では誰がいつどこでやられたのか把握しきれないスピードで進み、大学3連星も誰が脱落したのかさえわからないという物凄い畳みかけ(この後のシーンでわかりますが)となりますが、獅子奮迅の健闘をしてきた大洗勢を機械のような正確さで次々と仕留めていく愛里寿センチュリオンの脅威が淡々とした描写ゆえに引き立ち、TV版では若干うまく行かなかったラスボスの存在感を出す事に成功しています。
 約5分の間に、両軍合計18両(多分)が脱落するという、聖戦士ダンバイン』最終回ばりの壮絶な皆殺しアワーを経て、残るは西住姉妹vsセンチュリオン&大学部隊長2人。
 5両の戦車は富士山のオブジェと遊具の散らばる広場に集い、ここからは敢えてほぼ無言、効果音重視のタンクバトルに突入。姉妹コンビはブランクを感じさせない華麗な連携でまずは部隊長機1両を仕留め、黒森峰時代については暗い記憶としてあまり語られませんが、なんだかんだ西住流のキルマシーンしていた事が窺えます(厳密にはみほの手足として、麻子・華・優花里・沙織が順調にキルマシーン化しているというべきなのでしょうが)。
 4台の戦車が遊具の間を縫うように走りながら主砲が轟き、まほ機はあえてアトラクションの一つに砲弾を直撃させると、その威力により振り子のように動き出し、破城槌のように眼前に迫り来る巨大な船を寸前で回避(今回の死ぬ寸前案件その6)。後方を追撃してきた大学部隊長の戦車は土煙を割って飛び出してきたその直撃を受け(今回の死ぬ寸前案件その7)、動きが止まった所に砲弾を受けてリタイア。
 かくして夢の墓場に生き残ったのは、4号戦車、ティーガー1、センチュリオン
 戦車操縦技術の粋を究めた壮絶な戦いが展開し、一瞬の隙を突いたセンチュリオン強襲で必殺の瞬間、熊の遊具に気を取られた愛里寿の砲撃指示が遅れ、窮地を脱するあんこうチーム。最後は富士山オブジェの斜面を駆け下りるみほ機に、まほ機が背後から空砲を撃ち込む事で掟破りのブーストアタックを仕掛け、愛里寿の思考と反応速度を上回る突貫と至近距離からの一撃により、みほ機と愛里寿機が同時リタイア。まほ機の生存により、大洗女子学園の勝利となるのであった。
 最終決戦では姉妹タッグが大活躍し、TV版ではどうも損な役回りだったお姉ちゃんが、面目躍如。
 難を言えばフォーカスが西住姉妹vs島田愛里寿に集まりすぎて、あんこうメンバーが実質オミットされてしまった事ですが、戦車内が映されるシーンが一回あったので意識はあったのでしょうし、TV版で描き切れなかった(人気)キャラクターを補完するというのが劇場版の目的の一つであったろう事を考えると、致し方ない所ではあったでしょうか。
 総じて武部さん辺りにややしわ寄せが行っていた気がしますが、この、TV版の補完要素を持った劇場版で新たに生じてしまった不足部分を補完する、という要素が現在公開中の最終章に部分的にあるのかなとは想像されるところ。
 そういう点では同様に、センチュリオンクルー(相当な凄腕の筈)の存在がオミットされているのも勿体なく感じた所ですが、部隊長3人とセンチュリオンクルーのどちらかを取り上げるとしたら前者の方が物語としてわかりやすいという判断だったのでしょうし、これも致し方ない所でしょうか。
 ……こういう隙間が、上手い具合にファンの好奇心や想像力を刺激する部分もあるのかなと思ってみたり。
 一方で、ライバル校主要キャラクター勢揃いをしながらも、それによって既存の大洗メンバーが蔑ろにされるという事はなく、もちろん出番は分散されながらも、それぞれ相応の見せ場を与えられ(た上でセンチュリオンの踏み台として食われ)る、というバランス感覚はかなり絶妙であったと思います。
 見せたい物を見せる、やりたい事をやる、というのがかなりハイレベルな所でまとまった作品。
 試合は終わり、(文科省役人は抜け殻となり、)それぞれが勝利を喜び合う姿が描かれる中で、クラーラがミネラルウォーター的なものを画面に向けて突き出すのが、何かのタイアップめいた演出なのは何故(笑)
 愛里寿は以前にみほが譲ったレアボコぬいぐるみを「私からの勲章よ」とみほに差し出し、観戦席では母2人がほっと息をつく。
 「次からはわだかまりのない試合をさせていただきたいですね」
 「まったく……」
 そして風の向くまま気の向くまま、川に浮かべた船に戦車を乗せて、一足早く自分たちの道を流されていく継続高校……
 「戦車道には本当に、人生の大切なことが詰まってるね」
 「だろう?」
 で一度フェードアウトでしてからEDテーマが流れ出し、まほとみほの無音の会話と握手を挟んで、各校それぞれの帰還を描くエンディング。勝利の後に皆でどうこう(例えば祝勝会シーンなど)ではなく、交わった場所で一つの事を成し遂げた後は、また皆それぞれの戦車道に戻って歩き出す、というのは個人的にかなり好みでした。
 そして島田流家元はなんだかんだ娘に甘かったのか、ボコミュージアムも無事再建されて愛里寿寄贈の熊の遊具も引き取られ、これからは、スポンサー特権で、どんなレアぬいぐるみも思いのままだ!
 まあこれで、ボコミュージアムがドリームセメタリーになるエンドだとあんまりだったので、丸く収まって良かったと思います(笑)
 そして……みほ達大洗女子一行は学園艦に帰還する、で今度こそ大・団・円たぶん大団円だと思うまちょっと覚悟はしておけ?
 というわけで、劇場版(地上波放映カットあり)→TV版→OVA→劇場版(ノーカット)という、やや変則的な見方でしたが、『ガールズ&パンツァー』完走。世評に影響を受けて見た作品でしたが、端々の計算が美しく、面白かったです。
 ミリタリー系には興味が薄いし知識もないので、戦闘はおおむね脳内でロボットアニメに翻訳して見ていましたが十分に楽しめましたし、ディテールや細かいネタの入れ方が、わからなくても気にならないけど、わかるともっと面白いのかも、という案配は秀逸。当然TV版を踏まえつつも、良い意味で王道のわかりやすさを取り込む事で、一本の映画としてのストーリーラインが明確で捉えやすい、という点も良い作品でした。
 TV版はある種のダイジェスト的な構造が見やすさに繋がっていたのですが、その作劇ゆえに取りこぼした部分を拾い、(恐らくは放映中・終了後の人気も反映した上で)キャラクター要素においても、戦車戦においても、ガールズ&パンツァー』としての一つの完成形を作り上げたのは実にお見事。TV版の延長戦を越えた、素晴らしい劇場版でした。
 とにかく、あざとさも捨てない、戦車戦も派手にやる、見せたいものを見せる、描きたいものは描く、キャラクターをおざなりに扱わない……と全体に目配りがよく行き届いていて、TV版第1話から劇場版のエンドに至るまで、非常にバランス感覚の優れた作品だったと思います。
 振り返れば周囲の熱気に煽られて、バンダイチャンネルで第1話(無料配信)を見たのが、日記によると2016年1月。そこから熱意の上下を何度か経て、約2年越しの視聴となりましたが、複数の点で普段興味を持たないジャンルの作品という点も含めて、大変興味深くも面白かったです。何度かお薦めして下さった方々、今回の視聴を後押しして下さった方々、ありがとうございました。
 いきなりこの勢いで最終章を見る、という事は無さそうですが、良いシリーズ、良い映画でした。