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『獣拳戦隊ゲキレンジャー』感想・第46話

(※忘れない内に追記メモ:今頃になって気付きましたが、前回ジャン突然の「ピキーン!」はもしかして、サメ師匠の「シャキーン!」のアレンジだったのか……?)
◆修行その46「ギャワギャワの記憶」◆ (監督:竹本昇 脚本:荒川稔久
「グッドイブニング諸君。バナナのお裾分けだぞ。……いやー、この間出した本が、ベストセラーになってしまってね。スティーブがお祝いに、犬を二匹くれたんだが、即座に名前をつけてしまったよ。ベスとセラーってね。HAHAHAHAHA…………あー……あ……OK、また出直すとしよう。バナナを食べて、検討してくれたまえ。バイバイ」
久々の登場早々、小粋なアメリカンジョークを黙殺されたゴリー、すごすごと帰ろうとした所をゴウに突き飛ばされ、踏んだり蹴ったり。
緊迫した状況で空気を読まないジョークを飛ばして全員から白い目で見られる、というのは構わないと思うのですが、直後に部屋に入ってきてぶつかる形になったゴウが、軽く頭を下げる程度の事もせずに完全無視、というのは純粋に感じが悪く、どうして今作は、ちょっとした好感度の上下に配慮のない演出が続くのか。
誰の脚本・演出でも関係なく配慮が見えない、というのが辛い。
破壊神に感じたギャワギャワの気配を嗅ぎ取ったジャンが、以前に猫が見つけた龍の鱗に反応し、見覚えがあると口にした事からゴリラの催眠獣拳でジャンの過去の記憶を探る事に。
さも今思いついたように「ジャンの頭の中を見るとするか」と言っていますが、明らかにこの為にゴリラが呼ばれているので、激獣拳のいつものやり口です!
「もう少し頭を使った方がいいぜ。結局、この世は頭がいいヤツが勝つ事になってるんだ」
見た目そのまま、催眠術にかかって少年期のつもりで過去を再現する、とまたもジャン役の鈴木さんが難しいボールを投げつけられ、明らかになったのはジャンの故郷の村が金色の巨大な怪物に滅ぼされた事……そしてその正体は、幻獣コンサルタントのロン! 理央にまつわる策謀の一環として、ダンにまつわる全てを消そうとしたロンだったが、母ナミが咄嗟に丸太に乗せてジャンを逃し、濁流に呑み込まれたジャンは一命を取り留めるも名前以外のほとんどの記憶を失っていたのだった……。
「母ちゃん……。ロン……あいつ、絶対ゆるさねぇ」
激獣拳の非道な催眠実験により、最大級のトラウマを再現された事により過去の記憶を取り戻したジャンは、今までにないドスの利いた声で怒りを露わにし……えーなんか、残り数話の段階で、主人公が憎しみに目覚めたのですが、大丈夫……?(笑)
ジャンが思い出した“金色の巨大な怪物”の存在に悪い予感を覚えた猫師匠は、かつて理央と出会った山の中へと向かう。そこは、少年時代の理央が、“謎の怪物”に襲われて家族を失った運命の場所であり、一行はその地で、愛の逃避行を続けていた理央&メレ、そして二人を護衛していたピクシー拳士と遭遇。
金色の謎の怪物による惨劇の犠牲者、という共通点で繋がったジャンと理央は、遂にロンという黒幕の存在に行き当たるが、そこでいきなり高笑いを始めたピクシーの正体は……ロン(笑)
「貴様なぜ……!」
「あなたの執着を探りに来たのです」
大願成就の為なら女装もいとわない幻獣コンサルタントは、人の心を捨てきれず破壊神になりきれない理央を、世界に繋ぎ止めている物が何かを探りに来たと堂々と明かし、世界と繋がる事で誰かの想いを力に変えられるようになったジャンと、世界と繋がる事で破壊神にならずに踏みとどまった理央の対比が成立しているのは、巧い交錯。
「貴様の目的はなんだ」
「貴方を破壊神にして、此の世の全てを破壊し尽くす事」
永遠の刻を生きていると自称するロンは、無間地獄のような生の中で、面白い刺激を求めたゆえの策謀であったとダンの闇討ちをはじめ数々の暗躍の真相を明かし、何千年に一人の逸材である理央の家族を皆殺しにする事で、理央に強さへの執着を植え付けた、と堂々の黒幕宣言。
主人公サイドが何をやっても悪役に「全て私の思うがまま」と言わせてしまう作劇は、悪に魅力がある内は面白くてもいずれそれが受け手のストレスに変換されてしまうので、引き際(切り替えのタイミング)が難しいのですが、善玉(ゲキレンジャー)と悪玉(理央メレ)の力関係が少しずつ入れ替わっていき、それが完全に逆転した所で「思うがまま」にされていたのは悪玉サイドの主人公、と明かす事で黒幕の格と知謀を保ったまま受け手のストレスを低減する、というのは考えた手法。
ただ実際問題としては、序盤のゲキレンジャーの弱さ・中盤で完敗後に良い所がないまま明らかにロンに誑かされている理央メレ、とストレスが前半と中盤に分散した形になってしまっているのは、年間構成の難しさを感じさせられます。
……そしてどうにも、理央とロンは前作の真墨とヤイバ先輩をグレードアップしたような関係に思えてしまって困ります(笑)
天涯孤独となった理央を事件現場で拾い、激獣拳を学ばせた猫は、猫なりに修行を通して理央を正道に導こうとしていたのかもしれませんが、結果的には理央の強さへの渇望を加速させ、それを実現する力を与えただけの事に。
ロンが定期的に枕元で囁いて例の悪夢を見せ、理央の精神に悪影響を与え続けていたとも語られるのですが、理央の件で反省した(?)後の筈のジャンの扱いを見ても、心に深い傷を負った少年に社会的なケアをしていたとはとても思えない、安定と信頼の拳聖クオリティ。
更にロンは、かつてはマクを破壊神に仕立て上げようとしたが猫達に封印されて失敗した事も語るやりたい放題で、マクとの因縁も回収。
「マクまでも?! マクが臨獣拳を立ち上げたのも、貴様の差し金だったというのか」
「ええ。あの男は頑固で手がかかりましたが……理央は素直で実にやりやすかった」
そ、そうですね……!
「何もかも……初めから仕組まれていたのか」
「そう。この私が、あなたの歩む道を全て決めてきたのです」
愉しげに理央に顔を近付けるロンですが、その背後で、ジャンが、理央様より凄い顔になっている(笑)
「人間というのは本当に面倒な生き物です。戦う本能を植え付けても、更に強くするために誰かと交わらせれば、余計な感情を芽生えさせる。だから私はその都度人間の感情を捨てさせ、戦う為の人形になるよう仕掛け続けてきたのです」
気持ち良くこれまでの活動を公表して悪の快感にひたるロンですが、人の強さは他者との交わりから生まれ、交わった人間同士には感情の繋がりが生まれる、というのを悪の側が認め、それ故にこそ放置せずに繰り返し手を加えて道を整えていた、という内容が極めて凶悪。
あまりにも都合良く黒幕すぎる部分はあったロンですが、それを徹底する事によりここでネガ導師とでもいうべき存在へと化け、今作ならではの悪としての意味を得てくれました。
「……俺自身の……もっと強くなりたいという想い……それすら貴様が植え付けたものだったというのか!」
人生のほとんどを思うがままにされていた、というあまりにも重い真実に理央はガックリと膝を付いて崩れ落ち、獣拳勢も唖然。
「そんな、途方もなく時間のかかる事までして、一人の人間の人生を、弄ぶなんて」
「全部おまえが面白がる為なのか」
「――その通りです」
人倫を踏みにじる、人外の超越者の素顔を見せるロンの冷笑が大変素敵でしたが、そのロンに対して、完全に抗争中の敵対組織の事務所にカチコミ5秒前になっているジャンの表情が怖すぎて笑えてきます。
「その為に……俺の父ちゃんと母ちゃんも殺したのか」
「ええ。皆さんとてもいいリアクションをしてくれました。面白かったですよ」
「……ふざけるな。ふざけるなぁ!」
いよいよ仁義なき頂上決戦が火ぶたを切る寸前、本物のピクシー拳士が乱入してロンと理央以外をその場から引き離し、打ちひしがれる理央の髪を掴んでその執着をあばこうとするロン。一方、ピクシーに攻撃を仕掛けるも吹き飛ばされるフェニックスメレだが、そこにゲキレンジャーが参戦。
「ロン様のお望みこそが全てよ」
理央様のヒロイン度がメキメキと上昇する荒川マジック?!に戦慄する中、強力な範囲攻撃でゲキレンジャーをまとめて蹴散らしたピクシーを、背後から殴り飛ばすフェニックスメレ。
「あんた達が相手しなさい、格下ーズ」
……凄いぞメレ様、この状況で、一応元部下にして、言動から自らの鏡写しとおぼしきピクシーの相手を、ゲキレンジャーに放り投げたぞ(笑)
愛の戦士は理央の元に駆け戻ると、もはや戦う気力も失った理央を守り、ドラゴンロンに怒りの一蹴り。
「奴は……私が倒します」
ロンに挑みかかるメレだが、初の本格戦闘を見せるドラゴンはフェニックスを軽くあしらう余裕の強さを見せつける。
「あなたを操作するのも面白かったですよ、メレ。しかし、もう用済みなんです。邪魔な爬虫類女は、土に還りなさい!」
その一撃により、変身解除に追い込まれるメレだが、ケナケナの女の魂の火はまだ消えない。
「黙れ。私に命令できるのは、理央様だけよ」
「その理央は、私の手の平で踊っているだけの男ですよ」
「違う! 理央様は私を甦らせてくださった。強き者なら誰でも良かった筈なのに、理央様は私を選んで下さった。私に手を差し伸べてくれたのは――おまえじゃない。紛れもなく理央様よ。理央様を侮辱する者は、許さない」


「深い悲しみ……黒い憎悪……暗闇の中で生きとし生ける者を憎むおまえの心、その悲しみを解決するのに必要なのは、強さだ」
「どうして私の心が、震えるの?」
「俺はおまえの心に共鳴する。おまえは、強さを求める俺を助けるがいい」
それは、運命だったのか、気まぐれだったのか、ただの偶然だったのか……あの日、死の匂いが立ちこめる薄明の世界で、理央が選んだのはメレの闇、メレが見たのは理央の光――灯火を胸に宿したラブ・ウォリアーは、愛の為に生き、愛の為に戦う!
あーその頃、ピクシーの攻撃を見切ったゲキレンジャーは根性ボールからスーパーアタック、更に一斉必殺技の大盤振る舞いで見た目は派手に葬り去り、巨大化したピクシーはゲキビースト大行進で撃破しました(前々回のvs犬拳士ばりに、完全におまけの流れ)。
「偉大なるロン様に、永遠の幸あれーーーーぇ!」
というキャラ付けにより、存在感を出したのは他の幻獣拳士と比べて良かったですが。
一方、ドラゴンロンに圧倒されるも立ち上がり続けるメレだったが、駆けつけた格下ーズはなんの援護にもならないまま指先一つでダウン。
「お遊びは終わりです。愛する者の前で消えなさい」
圧倒的な力の差を見せつけるロンのトドメが迫ったその時――咄嗟にメレをかばったのは、なんと理央。
「ははーん、成る程。そういう事でしたか」
衝撃波により理央を叩き伏せたロンは、メレ様を気絶させると肩に担ぎ上げ、遂にメレ様、名実ともにヒロイン完全体に。
「ふふふふふ、私とした事が、盲点でしたよ。理央、あなたを繋ぎ止めたのはこの女、メレです。臨獣殿で待っていますよ。今度こそちゃんと破壊神にしてあげます。楽しみにしていなさい。ふははははは」
ロンはメレをさらって姿を消し、その後を追おうとするも倒れ込む理央、その姿になんかみんなビックリ……で、つづく。
…………というか、にいさーーーーーん!(涙)
前回今回で、ジャンが「世界と繋がる」道を選んだのに対し、理央に残った最後の「世界との繋がり」が浮かび上がるという納得の構造なのですが、幾らスタッフの強烈な愛があるといっても、年長者向けにニヤニヤしてもらう位置づけだと思っていた理央×メレの関係に思い切って踏み込み、メレ様が文句なしのヒロインポジションに位置する事になったのは、さすがに驚き。
まあ考えてみると塚田P&荒川稔久といえば、『デカレンジャー』の時も相当ドギー×スワンを押していたので、むしろやりたかった仕掛けだったりするのかもしれませんが……果たしてこれは、塚田Pの野望なのか、荒川稔久のマジックなのか、とにもかくにもメレ様が完全無欠のヒロインの座についた一方、我々は「ライバル」にも「宿命」にも「世界との絆」にもなれなかった、一人の男の事を決して忘れない…………にいさーーーん!!(涙)
……しつこくてすみません。
いやホント前回の、ゴウ兄さんの回想における理央様との、互いに向けるプラスの感情に、絶望的な断絶があるというのが強烈で、残り話数で、多少は救済あるんですかね、ゴウ兄さん……10年余りの時間を失っている内に、同期には娘が生まれ、可愛かった弟は立派なナルシストになり、友は悪の総帥として人間玉座にふんぞり返り、後輩の小娘には顎で使われ、誰の何者にもなれないまま時代に取り残されてしまった男、という割と純粋に可哀想な状況なのですが。
前々回の感想で書いたように、40話台に入ってからの今作に対し、全体的に歯車が噛み合わない物足りなさを感じていたのですが、そんなゴウの回想シーンを起爆剤として、前回今回はかなり楽しめました。……結局、理央メレに焦点が当たると盛り上がってきてしまうのですが、ここまでやるとは思っていなかったので、こうなったからにはもう、思い切って突き抜けてほしいです。
久々復活のおまけコーナーはゴリラの早口言葉で、割とどうでも良い内容。
次回――戦いはいよいよ臨獣殿へ。ジャンは、理央は、運命を弄ぶ怪物に立ち向かう事が出来るのか。そして、セイセイでドウドウでケナケナの女は、いかなる道を選ぶのか。
「理央様の心の雨を、いつか止ませる事が出来るなら……私は何にでもなります」