◆#30「ふたりは旅行中」◆ (監督:杉原輝昭 脚本:香村純子)
圭一郎が有給休暇を使って遅い夏休みを取る事になるが、つかさ・咲也・ヒルトップも含め、あまりにも不自然な態度に疑いを抱いたノエルの差し金により、旅先の温泉街でバッタリ出会った魁利に強引に同行を迫られる事に。
「じゃ一緒に回ろうよ?! 偶然会ったの運命だって!」
勿論ノエルの読み通り、圭一郎の行動はノエルにも秘密(むしろノエルにこそ秘密)の任務だったのだが……冒頭、警察戦隊のメンバーの誤魔化し方が下手すぎるのは引っかかり(むしろノエルを誤誘導する作戦の一環ではレベル)、警察戦隊は平然と誤魔化すが、ちょっとした違和感から疑念を抱くノエル、といった双方の知力が上がる展開の方が好みではありますが、今作の置かれたあまり芳しからざる状況を考えると、わかりやすい楽しさ優先、という判断だったのでしょうか。
快盗が多少トリッキーな手段も使う分、警察は正直者、という描写を求められる、というのもあったりしたのかもですが、実際、白い歯を強調しながら「ふーん……」という平板な視線を向けるノエルのリアクションは、面白かったです(笑)
魁利の同行をしぶしぶ認めた圭一郎は、二人で昼食を堪能し、大人げなく射的を荒らし、なんだかんだと温泉街を満喫する道中、正義のお巡りさんセンサーで迷子の少女を感知。声をかけるも見るからに不審者の為に怖がられてしまうが、苦笑した魁利の助けで少女と打ち解ける事に成功し、交番へと連れて行く。
少女が迷子になったのは、落としてしまった髪飾りを探していた為、と知った圭一郎は温泉街をひた走ると地面に目を懲らして泥臭く髪飾りを探し回り、一方、行きずりの少女の為に懸命になる魁利の背に兄の姿を思い出した魁利は、お土産屋へ。
「やっぱあった」
要領良く、少女が失くした物と同じ髪飾りを手に入れた魁利は交番に戻るが、ちょうど両親と再会できた少女に歩み寄ろうとしたその時――
「あったぞー!」
「ん?」
「見つけた! 君の宝物!」
本物の“落とした髪飾り”を手に走ってきた圭一郎がその横を駆け抜けていき、すれ違う二人・髪飾りを握りしめて隠す魁利・うまくやったという笑顔から一点、陰りのある表情で視線を落とす魁利、と「要領の良さが愚直な誠意に負ける瞬間」がくっきりと切り抜かれて、実にきつい。
これを書けるのが香村さんの切れ味ですが、杉原監督もよく汲み取って、印象的なシーンにしてくれました。杉原監督に関しては、ギャグのブレーキが停止線を踏み越え気味、などマイナスイメージが未だ拭いきれないのですが、静と動のシーン切り替えのメリハリも付いてきましたし、“遊び”の余裕がありすぎない脚本を撮ると、悪くないな、と。
「どうした? 急に静かになったな」
「別に。圭ちゃんは清く正しい人間だなぁと思って」
「本当にどうした」
重ねての問いに溜息を一つついた魁利は、幼いある日、兄・勝利と遊園地に遊びに行く筈が、兄が途中で見つけた迷子を優先して面倒を見てあげた時の思い出を語る。
「それ見て俺……俺の兄ちゃんなのに、って思っちゃったんだよね。女の子助けてあげようって言えなかった。……冷たいよな。兄貴と違って。俺どんだけ最低なのって……」
「そんな事ないだろ」
「え?」
「さっきは俺に、助け船を出してくれたじゃないか」
圭一郎の力強い言葉に、あの日の兄とのやり取りを思い起こす魁利。
「もうやだ……俺、格好悪い」
「そんな事ない。魁利は偉いよ。我慢して、待っててくれたじゃないか」
魁利の鼻つまみが兄伝来であった事が示される回想で驚いたのは、魁利の抱える負の念が、自分を蔑ろにした兄に対する悲しみや憤り、少女に対する妬みよりも、そんな感情を抱いてしまった自分自身が許せない、という想いであった事で、その心持ちに、恐らくは兄を模範とした、誰かの為に行動できる人間になりたい、という少年魁利の核が見えてきます。
これにより「兄に振り向いて貰いたかった」のではなく「より良き(規範である兄のような)自分を兄に見せたかった」という過去魁利の方向性が補強されるのですが、とすれば己を「兄に見せる」事に耐えられなくなった時に、他の誰とも正面から向き合えなくなってしまったのが夜野魁利なのかなと。
そして今、魁利の前に、魁利よりもよほど兄のように生きている男・朝加圭一郎が現れてしまう。
「……俺だって」
スマホに怪しげな連絡を受けた圭一郎は慌てた様子で走り去り、取り残された魁利は手の中の髪飾りを見つめる。それは“本当に大切な物”から目を逸らし、その場の方便で、要領よく、うまくやれたといい気になっていた、薄っぺらな己の証明。
「……俺だって、そんな事ないって思いたかったよ」
連絡相手の元に向かった圭一郎は、そこで怪しげな男達からVSビークルを購入しようとするが、「悪いが、金も命もいただく」とチンピラ達に取り囲まれ、しかし生身であっさりと制圧。
派手なアクションというよりも、意表をつく鞄投げ、武器攻撃を逆に利用、複数の敵をつぶし合わせる、という鮮やかな立ち回りから醸し出される、悪いがこんな三下じゃ相手にならん、という空気が秀逸で、プロフェッショナルとしての場慣れと実力を非常に格好良く見せつけました。
最後は首謀者を片手で押さえつけて逮捕し、急な夏休みは、裏オークション事件の関係者から手に入れた情報に基づく、囮捜査であった事が判明。
「ノエルにも気をつけないとな」
……思った以上に、エネミー認定だ!
本物であった消防車ビークルと、犯人グループを確保する圭一郎だが、それを見つめる赤い影。
(成る程ね……ついでにノエルに隠れてコレクション手に入れるつもりだったわけだ。でも――)
「出し抜く方なら負けないぜ」
キャットウォークで様子を窺っていた魁利は、快盗カードで弾き飛ばした消防車をロープアクションで空中キャッチし、警察(圭一郎)のターンから快盗(魁利)のターンへの切り替えも、ダイナミックな格好良さ。
「ルパンコレクションいただき」
「快盗?! なぜここに!」
「快盗の情報網……甘く見んなよ」
ほぼ、密告者を自白(笑)
そのまま逃走を図る魁利だが圭一郎が追いすがって二人で変身し、前方に撃ち出した変身シンボルに突撃する形でチェンジする1号、それをかわしながら横にシンボルを撃ち出し、くるりと回って回避動作の過程でチェンジするルパンレッド、と両者の差異を活かしながら流れの中に変身を取り込む格好いいアクション。
快盗の銃撃を左手でガードしながら猛然と突っ込んでくる1号、その蹴りをひらりとかわすレッド、という防御重視と回避重視というシンプルな差別化も、大変巧く機能しているのが、タイマンバトルで改めて光ります。
熾烈な戦いを繰り広げる両レッドだが、不意にルパンレッドの動きが悪くなり、銃撃が鈍る。
「どうした? おまえにしては甘い戦い方だな」
「……さっさと帰りたいんだよ。お宝は貰ったからな」
銃を構えて動きが鈍った場面で、微妙に、VSチェンジャーを握る右手が震えているようにも見えるのですが……以前、第8話でゴーシュの双眼鏡により「見えるわよ……あなたの全て。いい所も悪い所も全て」と解析された際、サーモグラフィ的な画面で右手首の辺りが他と違う色(確か青色)だったような感じがあって気になっていたのですが、バスケを辞めたのは敗戦のショックだけではなく怪我の影響があったりしたのか、諸々私の考えすぎか。
もし伏線だった場合、遡れば第8話、でさすがにちょっと遠いですが(そういえばこの第8話は、囮捜査のエピソードでもあり)。
一方、街のあちこに姿を見せては何もせずに姿を消す、という不審な活動をしていたスカンクギャングと交戦中のパトレン2号と3号は、何故か銃撃が暴発して苦戦していたが、そこに快盗が参戦。
不在のレッドに代わり、思い切り真ん中に立って「快盗戦隊・ルパンレンジャー!」の音頭を取るルパンX、日本支部はもうこいつ、出入り禁止にしていいのでは(笑)
あっさりとコレクションを奪い取る快盗だが……途端に周囲に立ちこめる黄色い靄、そして、強烈な臭気!
思わず全員がマスク越しにも関わらず鼻をつまんで藻掻き苦しむその匂い、それこそがスカンクの固有能力であり、コレクションの効果によりこれまでは無臭にされていたのだった!
「おい快盗! それを金庫に戻せ!」
新しい(笑)
あまりの匂いにまともな戦闘にならず、5人がかりで攻撃するも大苦戦の快盗と警察。場合によってこの勢いで殲滅可能なのでは、と思われたが……
「見てるだけでくせぇな」
「おいゴーシュ、もうさっさと手を貸してやれ!」
「ええ?! …………そうね」
上層部も、観戦に耐えられなくなっていた(笑)
スカンクは決め台詞を省略したゴーシュによって強制巨大化され、あくまで「跡目争い」の為に活動し、快盗や警察の撃破にはこだわらないギャングラーという事でスムーズに成立しました。以前にライオンがザミーゴを取り込もうとしていましたが、ギャングラー、二人ぐらいが手を組めば能力の相性によっては簡単に快盗と警察を倒せてしまえそうなのですが、基本的には全員が後継者レースのライバルなので協力関係が発生しえない、というのも巧い設定になっています(そしてそれは、快盗戦隊と警察戦隊の鏡写しでもある)。
シリアスな温泉バトルとは裏腹に、ギャグ怪人に翻弄されるW戦隊かと思われたが、この巨大化が予想外の惨劇の引き金であった。
「人間界・火の海作戦、決行だー!」
スカンクが火花を散らすと街の各所で爆発が発生――スカンクは人間界の制圧の為に、コレクションの効果により無臭にした可燃性ガスを街中にばらまいていたのだった!
この大規模な火災を止めるのに有効なのは、両レッドが奪い合いの真っ最中である消防車のVSビークル……戦闘が膠着状態に陥る中、3号から連絡を受けた1号は、激しい葛藤の末に苦渋の決断を下し、声を振り絞って快盗へと呼びかける。
「ルパンレッド!! モリハラ地区で、ギャングラーによる大規模火災が発生した! そのVSビークルが必要だ! ここからなら、俺のパトカーよりおまえの飛行機の方が早い!」
「……なに言ってんだよ!」
隠れていた物陰から飛び出し、銃を突きつけるルパンレッドに対し、聞こえてきそうな効果音こそ「ふしゅるるる……」なものの、銃を下ろしたまま、真っ直ぐに向き合うパトレン1号。
「俺に渡せ」と言われれば反発できるのに、「名も知らぬ誰かの為に行動してくれ」と言われた魁利はその時、いつかの、格好良くなかった自分を取り戻すチャンスを与えられてしまう。
自分は「変わった」のか、「変わっていない」のか、まだ「変われる」のか、もう「変われない」のか――不安と混乱と苛立ちに銃口を揺らすルパンレッドに対し、パトレン1号が持ち上げたのは……銃を持たない左の指先。
「もうやだ……俺、格好悪い」
「そんな事ない。魁利は偉いよ。我慢して、待っててくれたじゃないか」
−−−
「そんな事ないだろ」
「え?」
「さっきは俺に、助け船を出してくれたじゃないか」
−−−
「……俺だって、そんな事ないって思いたかったよ」
「…………行けぇぇぇぇぇぇぇ!!」
「…………!」
それでもまだ躊躇うルパンレッドだったが、何かを振り払うかのように反転するとジェットを召喚して現場へと飛び、共闘合体VSXを踏まえた上で、ギャングラーによる被害の拡大を防ぐために警察が快盗に助力を要請する、という形の上では共闘なのですが、精神の上では決闘になっているという構成がお見事。
一発の銃弾を撃つ事もないまま、見応えのある対決シーンでした。
圭一郎からすれば、そもそも消防車を横取りさせずに守り切っていれば、快盗の手を借りず法を曲げる事もなく職務を達成できたわけなので既に敗北しているといえるのですが、その敗北を認める事により、己のプライドではなく人々の安全と平和を守るという道を選択する事で「敗北の先の勝利」を掴んだのに対し、首尾良くVSビークルを入手して目的に近付くという勝利を手にした魁利はしかし、“なりたなかった存在になれていない自分”を突きつけられる事で「完膚なきまでに敗北」する、というのが5−6話よりも更に深く掘り下げられた両者の激突として、良い決着でした。
過去作を並べてみると、“なりたい自分”というのは宇都宮Pの意識が強いテーゼなのかな、とも思えますが、そう見ると「“なりたい自分”を物心両面で見失っている」のが魁利で、「“なりたい自分”であり続ける事の難しさ」を体現しているのが圭一郎なのかな、と思えてきます。
お仕事戦隊である事を重視しているパトレンジャーサイドのリーダーが持つイメージとしては大変示唆的ですが、“なりたい自分”になる事がゴールではない、とするならば……という要素が物語の今後に影響を与えるのかどうか、ちょっと気にしておきたい。
快盗ジェットでモリハラ地区に辿り着いたルパンレッドは快盗合体ムし、ルパンカイザースプラッシュマジックは、もはやルパンカイザーに全く見えませんが、陸上ビークルであるスプラッシュのフェイスパーツは、あくまで警察ぽいという事なのか。
スプラッシュがさっそく魔法の水で火災を鎮火し、ミニチュアの中での消火シーンだけではなく、煙がくすぶる実物ビル街の中に立つロボ、というシーンを広い画角で1枚入れた事により、極めて大規模の火災とその消火活動であった、というリアリティが増したのは今回の白眉。
「このスプラッシュの旦那、昔、アルセーヌが惚れた女にプレゼントしちまって、行方不明だったんだぜー。どこで手に入れたんだー?」
以前、シザースの時もナンパに使った疑惑がありましたが、グッティから、明言されてしまいました(笑)
「…………貰ったんだよ。警察に」
どこかぼんやりしたレッドの呟きに青黄とグッティがそれぞれ驚きを示す中、
「トレビアーン、レッドくん」
貰おうがどうしようが我々の勝ちだよね☆みたいなノリで褒めにくるノエル――ここで褒めたのは、スプラッシュによる消火活動という可能性が高そうですが――タイミングが最低だぞ(笑)
巨大スカンクは、スプラッシュマジックでさくっと爆殺し、抵抗不能の魔術空間に閉じ込めて握り潰す、というマジックが殺意高い。
温泉街から帰還した圭一郎はヒルトップに頭を下げるが、むしろ被害を最小限に収める良い判断だった、とヒルトップは評価。
「でも快盗、よく圭一郎さんのお願い、聞いてくれましたね」
「なんとなくだが……そこは信じられる気がしたんだ」
今回判明した悲しい事実:警察戦隊におけるノエルの信用度は、ルパンレッド以下(さもありなん)。
一方ジュレでは、
「シザー&ブレイドといい、アルセーヌさんは、大事なコレクションを人にあげすぎじゃない?」
駄目男に厳しい初美花のツッコミ!
「……わざと手放したのかも知れないね。全てのコレクションが揃った時に生まれる力を、悪用されないために」
雇用主の先祖をフォローしつつ、ノエルがさらっと不穏な情報を織り込み……あれ、もしかして……全部集めると、開いちゃう、新世界への扉?
そして魁利は、3人に背を向けたまま、ジュレの片隅でじっと、右手に握った髪飾りを見つめていた。
「……似てんじゃねぇよ。めんどくせぇ……」
実に第5話以来となる、赤vs赤の本格的な直接対決を経て、端々の描写で匂わされてきた“魁利兄と圭一郎は似ている(と魁利が認識している)”事が魁利の口からハッキリと語られたのに加えて、今回の出来事を通して、魁利にとっての朝加圭一郎とは、「大切な人を思い起こさせる存在」である以上に、「なりたかったのになれなかった幻影」であるというのが見えてくる事に。
それを自覚せざるを得なくなった魁利は、こうなると好意が増すというよりも、排除したいという心理が働くように思えるのですが、ジュレではお茶を濁してやり過ごせるとしても、快盗の仮面を被った時にそのひずみがどちらへ向かうのか、今後のW戦隊の関係性に波乱の一石も投じそうで、今後の描き方が楽しみです。
両戦隊の活躍のバランスも良く、満足度の高いエピソードでした。
次回――面白そうな要素と危なそうな映像が混在していて、果たしてどちらに転ぶのか(笑)