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『探偵ガリレオ』&『予知夢』感想

探偵ガリレオ (文春文庫)

探偵ガリレオ (文春文庫)

予知夢 (文春文庫)

予知夢 (文春文庫)

東野圭吾による、連作短編集。
基本的な物語構造は、
刑事(ワトソン役)、難事件に困る→湯川助教授(ホームズ役)に相談する→湯川、科学知識を動員して謎を解く→明かされる事件の真相
というもの。
特徴的なのは、話のキーとなるアイデアやトリックに科学的な専門知識がふんだんに使われている事。謎の人体発火や金属版に浮かんだデスマスクなど、いっけん不可能犯罪かオカルトかに思えるものが、専門知識の持ち主(&飛び抜けて頭脳明晰)によって鮮やかに解きほぐされていくと、思いもしなかった事件の真相が浮かび上がる、というのが基本的な構図。
こういう話は整合性とかは割とどうでも良くて(当然、警察が殺人事件の全容を一民間人に説明した上に事件現場にも同行させてしまう辺りのTV的展開に突っ込むのは野暮というもの)、中心となるワンアイデアが面白くて(真相が解けた時に唸らされて)、短編として話がいかに洒脱か(或いは情感的か)、というのが全てかと思うのですが、評価としては、どちら共にもう一歩。
まあ短編集なので質の上下や好みは当然出るわけで、私としては、『探偵ガリレオ』の人体発火の話とか、『予知夢』のポルターガイストの話あたりは、割と好きで及第点。まあ後は、作者のテイストと、自分の好みが合うかの問題も出ますが、作劇としての巧さ、という観点で見た場合は、あまり短編型の作家ではないのかな、というのが正直な評価。長編はまだ読んだ事が無いので、どのぐらいの物なのかはわかりませんが。これだけ作品を出している作家だと、人によっては作品によって書き方を変える人も居ますしね。
ちょっと気になるのは、『予知夢』辺りになると、(突っ込むのは野暮とはいえ)あまりにも警察の捜査が怠慢な事(笑) 刑事が一人バカなのは有りですが、ある程度組織だった捜査をしている筈なのに、「いくら何でもだれもその可能性を思いつかないわけはないだろう」とか「警察にも科学捜査班ぐらいあるだろう」と思わざるを得ない所があるのは、やや厳しい。そんな事考えずに楽しめるほど、話が面白いかというと、それほどでも無し。
こういう話は、「組織」がしっかりやったという前提が有れば有るほど、「個人」による真実の解明の鮮やかさが映えるわけで、その辺で、前提条件の張り方がちょっと足りない感があります。「組織」がアイデアを出し尽くした後で、「個人」が誰も指摘しえなかった(しなかった、ではなく、しえなかったのが重要)糸口をいかに見つけだすのか、が面白いわけで。『探偵ガリレオ』の方では、その辺りへの不満はそんなに目立たなかったので、この辺りはシリーズ連作の辛い所というのもありますが。
まあそれでも、湯川が真相に辿り着くと、事件の構造そのものが最初に見えていた物からひっくり返る、という物語のパターンそのものはよく出来ていて、その点は面白かったです。
後まあ、こういうワンアイデア系の短編に関しては、SF読みは評価が辛くなる傾向があるので、その辺は考慮・御了承下さい。なにぶん、その領域はSFの真骨頂ですので。
うーん、あれですよ、早川か創元は、80年代後半以降の国産ミステリを愛読しているような層に向けた、「ミステリ読みに勧めたいSF*1」みたいなムック本を是非出すべきだ(笑)
ロバート・シェクリイとか結構受け入れられそうな気が。

*1:SFミステリではなく